「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第十章

夏虫~新選組異聞~ 第十章第九話 戦の庭へ、再び・其の壹

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 志乃が手を引いて部屋に呼び込んだのは、土方の元許嫁・琴だった。沖田と小夜は勿論、部屋の中に入ってきた琴も沖田の顔を見て驚きの表情を浮かべる。

「そ、総司さん?何であなたがこんなところに?音五郎さんの話では千駄ヶ谷にいるって・・・・・・」

「ええ、実はその千駄ヶ谷から訳ありで出てきたんですけど、新宿に泊まろうとしたらこの有様でしょ?だから作間さんのところでお茶でも飲んで、そこから改めて考えようかと」

 沖田は苦笑いを浮かべつつ、自分達の事情を説明した。それを聞いて琴は納得の表情を浮かべる。

「なるほどね。ここなら官軍も迂闊に手出しをしてこないでしょうし、暫く潜伏するのにいいかもね」

「手出しをしてこない・・・・・・って?」

「練兵館の繋がりさ」

 琴と沖田の会話に作間が割って入ってきた。

「昇さんを始め、官軍の幹部になっている者が練兵館の出身者には多くてね。それゆえ多少のお目こぼしはしてもらっている。何せうちの門弟には幕府軍に身を投じているものも少なくないからな。だけど流石に宗次郎は身元を隠してもらわないと」

 冗談半分の作間の言葉に笑いが起きる。

「ところで何故お琴さんはこちらに?」

 道場主の妻と三味線屋の娘、どこをどう考えても繋がりが判らない。土方のように俳句の連にでも入っていればとんでもない繋がりがあったりするものだが、そういった関係だろうか――――――不思議そうに志乃と琴を見比べている沖田に、琴が事情を説明し始めた。

「お志乃さんとは長唄のお師匠さんが一緒なの。そこからのご縁から三味線糸の仕入れをお志乃さんにお願いしているのよ」

 三味線を売るには、その道具の使い勝手が判らなければ意味が無いと、以前から琴は長唄の師匠のもとに通っていた。そこへ志乃がやってきたというのである。

「で、お志乃さんが入門した頃と前後して、『官軍がやってくる』からって問屋が江戸から逃げちゃって、仕入れができなくなったの。だからお志乃さんのつてで、横浜の問屋からこっちに分けてもらっているのよね」

「確かに流通に関しては滅茶苦茶ですよね。魚売りの行商も数日に一度来るか来ないかでしたし」

 沖田の言葉に全員が黙りこくった。

「ところで宗次郎。京都へは急ぐ旅なのか?」

「特に急ぐってわけじゃないんですが、江戸がこんな状況じゃないですか。流石に安全面で少々・・・・・・」

「だったら暫くここで様子を見たほうが良いだろう。官軍兵達もここへ来て高ぶりすぎているのか、上層部の命令を聞かず逸脱した行動をするものが出てきているらしい。江戸ならまだしも地方だと厄介だ」

 作間のその言葉に沖田は厳しい表情を浮かべ、深く頷いた。

「実は千駄ヶ谷から逃げ出してきたのは、私を襲ってきた官軍兵を殺めてしまったからなんです。もしかしたら、そういう兵の一人だったのかもしれません」

 沖田の告白に、作間と志乃、そして琴の顔色が青ざめる。だが流石に作間はすぐに我に返り、沖田にこれからの事を提案した。

「だったら尚更官軍の動向を気にかけるべきだ。実は三日後に昇さんがここに来る。そこで状況を確認してからでも、出発は遅くないんじゃないか?」

「部屋は沢山あるし、暫くゆっくりすればいいわ。稽古の時、怒鳴り声が煩いかもしれないけど」

 志乃も沖田達の暫くの滞在を勧める。ここまで言われては断瑠璃遊もない。

「ではお言葉に甘えて、昇さんが来るまで暫くお世話になります」

 作間夫婦のありがたい申し出に、沖田と小夜は深々と頭を下げた。




 その後、暫く歓談したあと志乃と琴、そして何故かその二人に捕まった小夜は別室へと下がってしまった。

「男には聞かれたくない、女同士ならではの話もあるんだろう」

 心配顔の沖田に対し、作間は自ら酒を勧めながら呟く。

「しかしこういう時は普通母親が子供を預かるもんだとばかり思っていたが・・・・・・珍しいな」

 作間は沖田の膝の上に抱かれている佳世を覗き込みながら不思議そうな表情を浮かべる。

(やはり――――――駿次郎さんも違和感を覚えるのか)

 自分達にとっては普通になってしまった事でも、他人から見たら違和感があるのだろう。この事をどう話すべきかと頭の中で考えつつ、沖田は軽口を叩く。

「お志乃ちゃんに頼まず、酒肴を全部自分で用意する駿次郎さんに言われたくありません。今まで道場でしか会ったことがなかったので解りませんでしたが、まめですよね」

「ああ。何せ半分寝たきりの母親の面倒も看ているからな。それに道場運営なんてまめじゃなけりゃやっていけないさ」

 喋りたくなければ無理に喋ることはない――――――作間の鷹揚な態度に沖田の気持ちが固まった。ひとしきり笑ったあと、沖田はポツリと作間に告げる。

「実はこの子は・・・・・・私の胤じゃないんです」

「なん、だって?」

 先程『官軍の兵士を殺した』と沖田が告げた時以上に、作間は驚きを露わにする。そして自分が思っていた以上に大声になってしまったのを憚るように、口元を自らの手で押さえた。

「実は小夜は、私の内縁の妻だったんですが、一時期藤堂さん・・・・・・平助さんに囲われてまして、佳世はその時に出来た子なんです」

 沖田はかいつまんで事情を説明する。

「幕臣に取り立てられる際、近藤先生の命令で私達は別れを余儀なくされました。そこを高台寺党として分離する予定だった藤堂さんに・・・・・・」

「そうか。悪いことを聞いてしまったな」

「いいえ、過ぎたことです。それに佳世は誰の胤であろうとも私の娘です」

 膝の上の佳世を見つめる沖田の目はどこまでも慈愛に満ちている。だが、その優しさは却って小夜を傷つけてしまうだろうとも、作間は感じた。

「ま、子供をかわいがるのはいいが、女房に焼きもちを焼かれない程度にしておけよ」

「駿次郎さんにだけは言われたくありません」

 どちらも道場内では『女嫌い』で通っていた二人である。互いに冗談を言い合いながら、それぞれの近況を語り続けた。



 その頃別室では――――――。

「なるほどね。好きでもない男の子供って・・・・・・そりゃあ幾ら自分がお腹を痛めて産んだ子でも、よそよそしくなりますって」

 ぽろぽろと涙を流す小夜に、志乃が慰めの言葉をかける。作間が感じていた違和感は、勿論女達二人も感じていた。そして沖田や作間がいる場所ではその理由を話せないだろうということも――――――それゆえ、志乃と琴は目で合図をして小夜を別室に連れ込み、小夜に尋ねたのである。決して強い口調では無かったが、よっぽど辛い思いが溜まっていたのだろう。まるで堰を切ったように小夜の口から事情が語られたのである。

「確かに平助さんは『こう』と思ったらとことん突っ走る性格だったけど、まさか総司さんと恋仲だった相手を寝とるような真似をするなんて」

 琴も眉間に皺を寄せつつ唇を噛みしめた。琴にとってはどちらも土方の可愛い後輩である。その後輩たちの間にどろどろとした男女の関係があったとは――――――運命のいたずらに、琴は沈痛な面持ちになる。

「うちが・・・・・・うちが悪いんどす。総司はんと別れた直後やったいうても甘い口車に乗せられてしもうて」

「仕方ないわよ・・・・・・でも話してくれてありがとう。辛かったでしょう」

 琴は泣きじゃくる小夜をそっと抱きしめた。



UP DATE 2016.7.30

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連載が進むに連れてどんどん遅刻がひどくなってしまい申し訳ございません(>_<)今回も辛うじて書き上げたって感じですorz

だいぶ馴染んできたとはいえ、沖田と小夜、そして佳世の三人の違和感は2ヶ月位では拭い去れないようです(´・ω・`)勿論小夜も佳世を愛しておりますし、沖田はそれ以上に猫可愛がりに『自分の娘』を溺愛しているんです。でもそれゆえに小夜の罪悪感は拭えないんでしょう。『もしこれが総司自身の子供であったなら』って思ってしまうんでしょうねぇ・・・。
そんな違和感を、初めて出会った三人も感じてしまったようです。作間の方は男性ということもあり、『踏み込んではいけない距離』を保ちつつ、沖田に尋ねておりましたが、若ババァ、もとい江戸のおせっかいお姉さま方はそうでは無かったようです。でも『赤の他人だから』気兼ねなき喋れることもあるということで・・・ここで小夜は鬱屈していた思いを全て吐き出したようです。

次回夏虫は8/6、渡邊昇が作間のもとにやってくるのですが、そこで沖田にとって衝撃の知らせが舞い込むことになりそうです(>_<)
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