「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第十章

夏虫~新選組異聞~ 第十章第八話 上野戦争・其の肆

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 出来るだけ日暮れまでにはこの場所を後にしたい――――――その思いで沖田と小夜は亡骸の偽装工作を続けた。喉の傷を縫い終えた薩摩兵の亡骸に沖田の寝巻きを着せ、縁側に転がす。その瞬間、幸か不幸か喉元の乾ききらなかった血によって沖田の寝間着も『労咳病み』の如く汚れてくれて、喉元の傷口もうまい具合に血で隠れてくれた。

「・・・・・・で、これを抱えていてくれれば『剣士・沖田総司』っぽく見えるでしょう」

 そう言いつつ沖田は薩摩兵が持っていた自分の大刀を亡骸に抱え込ませる。それによって更に喉元の傷が隠れる。奉行所、または官軍のの検死がいつ来るか判らないが、日が暮れた後に来てくれれば死後硬直も重なり、通り一遍等の簡単な検死であればうまく誤魔化せるだろう。
 
「尤も、彰義隊の残党狩りで忙しくって病人の検死になんか来やしないでしょうけどねぇ」

 実際、自分達が京都に居た頃も不逞浪士との闘争や幕府の仕事で忙しく、少々怪しげな変死体くらいだったらそのまま荼毘に付してしまうこともしばしばあった。この亡骸もよっぽどのことがない限りこのまま葬り去られるであろう。
 それでも甚五郎に迷惑をかけることには変わりない。沖田は事後の後始末――――――この亡骸を『沖田総司』として届け、沖田家の墓に葬ってくれと書き残し、木々が生い茂る甚五郎宅の裏口から外に出た。どんよりとした雲に覆われた空からは刻限は判然としなかったが、先程昼八ツ半の鐘が鳴っている。日が暮れるまでは今少しの余裕が有るだろう。

「取り敢えず一番近い新宿に行きましょうか。あんまり品が良くないんで、小夜や佳世を泊めるのは気がひけるんですけど」

 宿場とはいえ実際は遊郭のような新宿である。更に言ってしまえば沖田も上洛前には何度か仲間と出向いて遊んでいる場所でもある。付き合い上仕方なかったとはいえ、そういう場所に小夜を連れて行くのは少々後ろめたさを感じるのは否めない。だが赤子を連れて他の宿場に向かうには時間的に無理だ。

「そうやね。ひにん宿やと総司はんを泊めてくれへんそうやし」

 小夜も困惑顔だ。ここは数少ない平宿が空いてくれていることを願うしか無い。佳世を抱えた、旅姿の沖田と小夜は寄り添うように新宿へと向かった。



 程なくして新宿に辿り着いた三人だったが、宿場を見渡した瞬間、沖田はがっくりと肩を落とし大きな溜息を吐いた。

「そっか・・・・・・ここも官軍が占拠してるんだった」

 庶民からの反感を鑑みてか、官軍の部隊の多くは品川、新宿、板橋の三宿に分散して駐屯していた。それは沖田も噂でも聞いていたし高札にもその旨が書かれているのを見かけている。しかもこの三日間は彰義隊の残党殲滅の為警備が強化されているはずだ。

「空いている宿なんて、無いだろうなぁ」

 半分諦め気味で沖田と小夜は宿を探してゆくが、どの宿のも官軍兵が入っていて庶民の入り込める場所は皆無だった。更に男だと官軍兵の厳しい審査があり、変装して江戸から脱出しようとしていた彰義隊の残党が取り押さえられている。

「流石に子連れ夫婦は見逃してもらってますけど、ねぇ」

 まだ十代と思しき少年が官軍に取り押さえられているのを遠目に見つめながら、沖田は小さく呟く。実際、新選組一番隊組長だった男が敵の陣中のまん真ん中を宿を探して行ったり来たりしているのに、誰一人声をかけてこようとはしてこなかった。ありがたいといえばありがたいが拍子抜けも否めない。それ以上にいい加減宿を探し続けて体がだるくなってきていた。小夜にも疲れの色が見え始めており、せめて茶の一服でもしたいところである。

「小夜。渡辺さんに教えてもらった知人の道場に行きましょう。挨拶がてらお茶の一杯でもいただければ・・・・・・あわよくば泊めてもらえればありがたいんですけどねぇ」

「せやけど、先様にご迷惑が」

「それは大丈夫ですよ。作間さんは結構面倒見のいい人ですから。道場の隅っこくらいならきっと貸してくれるでしょう」

 そんな会話をしながら二人は宿場から離れ、四谷大木戸まで歩いてゆく。するとそれらしき門構えの道場がすぐに見つかった。門には看板はかかっていなかったが、場所からするとほぼ渡辺から教えてもらった道場に間違いないだろう。

「予想より大きな道場ですね。試衛館よりも大きいかも・・・・・・頑張ったなぁ、作間さん」

 沖田は感心しながら門を叩く。

「たのもぉ~う!作間駿次郎先生はいらっしゃいますか!渡辺昇先生からの紹介で参りました!」

 流石に自分の名前を大声で叫ぶことは憚られたので、紹介者の渡辺の名前を口にする。すると内側から閂が抜かれる気配がして、中から沖田とほぼ同じくらい背の高い男が現れた。

「ご無沙汰してます、駿次郎さん」

 沖田はその背の高い男――――――作間駿次郎に対して深々と頭を下げる。すると作間は相好を崩して沖田の肩を軽く叩いた。

「おお、宗次郎か!久しぶりだな!」

 そして周囲を見回しながら不意に声を潜める。

「宗次郎、新選組は江戸から脱したんじゃなかったのか?」

「ええ、本隊は・・・・・・その話は立ち話では何なので」

「そうだな。まぁ二人共中に入ってくれ」

 作間は沖田と小夜を促し、道場の敷地内に入れると、再び閂をかけた。

「やはり最近は物騒なんですか?」

 やけに念入りに戸締まりをする作間に、沖田が尋ねる。

「まなぁ。特に上野の戦争が終わってからは残党狩りが激しくって。昨日もたまたま門を開け放していたら、うちの敷地内に彰義隊のガキと官軍の田舎もんが入り込んできて・・・・・・全く勘弁してもらいたいよ」

 作間はぼやきつつ二人を家に上げると、客間へと通した。

「取り敢えずこっちでくつろいでいてくれ。お~い、志乃!お客人に茶を淹れてくれ!」

 作間は二人を客間に案内すると、奥にいるらしい妻に茶を淹れるよう告げる。

「そう言えば駿次郎さん、所帯を持ったんですってね。昇さんに教えてもらいました。女嫌いで通っていた駿次郎さんが宗旨替えですか?」

 沖田は興味深そうに作間の顔を覗き込む。すると作間は柄にもなく耳まで朱に染め、照れくさそうに事情を語り始めた。

「ああ。横浜の港崎遊郭の花魁だったのを身請してな・・・・・・そうそう、志乃の父親は試衛館の門弟だったっていうから、もしかしたらお前も知っているんじゃないか?」

 その時、襖が開き作間の妻が茶を運んできた。伏し目がちの顔の半分には火傷の痕があったが、横浜で花魁をしていただけあって火傷を負っていない部分はなかなかの美人である。

「粗茶ですが・・・・・・」

 作間の妻はそう言って沖田に茶を勧めようと顔を上げた。その瞬間、二人は『あっ!』と声を上げる。

「そ、宗ちゃん?もしかして宗次郎ちゃんなの?」

「お志乃ちゃん?何でお志乃ちゃんが駿次郎さんのご新造さんに?」

 沖田と作間の妻・志乃はお互いの顔を見合わせ唖然とする。

「何だ、やっぱり知っているんじゃないか」

 そもそも志乃の父親は試衛館の門弟だったのだから、知らないほうがおかしいと作間は納得するが、『そうじゃない』と沖田と志乃は否定する。

「知っているというか何というか・・・・・・父方の再従妹なんですよ、お志乃ちゃんは。そもそも試衛館の稽古はかなり乱暴だから、子供を、特に女の子を連れてくる門弟は皆無ですから」

「ええ。私も何度も父に『道場に連れて行ってくれ』とねだったんですけど、それだけは駄目って・・・・・・私の父の葬儀以来だからもう十年近く?本当に久しぶり」

「それにしてもどうしたの、その火傷?またお転婆をやらかしてお湯か油でも被ったとか?」

 子供の頃、相当志乃はじゃじゃ馬だったらしい。『また』という部分を強調して尋ねる沖田に志乃は不満気に頬を膨らませた。

「失礼ね!港崎で火事に出くわしたのよ!」

 志乃のその一言に、沖田は『ああ』と頷いた。

「おじさんが亡くなった後に『金がないなら自分を売ればいいだろ!』って親戚一同に啖呵を切って、自ら港崎に行ったんだっけ・・・・・・それにしても何故堅物の駿次郎さんが港崎くんだりに?」

「伊織の仕事の手伝いさ。その際に志乃と会って・・・・・・」

 その時である、勝手口の方から女の声がした。どうやら志乃を呼んでいるらしい。

「今度は私のお客さんね。というか、今日は試衛館ゆかりの人がよくいらっしゃるわね」

「試衛館ゆかりの?」

「ええ。尤も今度のお客様は試衛館に直接ご縁が、というよりは試衛館門弟の一人と恋仲だった、って言う方が正しいかも」

 意味深な一言を言い残し、志乃は部屋を一旦出る。そしてすぐに部屋に戻ってきた。

「お志乃ちゃん、流石に上がり込むのは・・・・・・?」

「大丈夫だって。こんな時だからこそお互い元気な顔を見たほうが良いんじゃない?」

 どうやら渋る相手を志乃が強引に引き入れているらしい。

「ほら、お琴さん!こっちに来て!三味線の件は後でいいでしょ」

 志乃のその一言に、沖田と小夜はこれ以上はないくらい大きく目を見開いた。




UP DATE 2016.7.23

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スミマセン、時間的に遅くなった上に色々クロスオーバーな話になってしまいました(^_^;)しかも一方の話はまだブログにUPしていないTwitter小説コンテストの話という/(^o^)\
簡単に整理しますと以下の様な関係性に・・・
沖田と作間→近藤(試衛館道場主)と渡辺(練兵館塾頭)が仲が良かったため、そのお供として互いを知っている。
沖田と志乃→父方のはとこ。志乃の父親は試衛館の門弟。

ただ、志乃の良人である作間は沖田と志乃が親戚だったということを今回初めて知りました。地縁だとか道場の関係とかで多摩の繋がりは色々あるんじゃないかということでこんな設定に(^_^;)
『夏虫』では展開上あっさりスルーさせていただきますが、これからUPする『鹿鳴草楼夢』ではこの辺をもう少し詳しく書くことになると思います。

そして最後の最後に出てきたお琴さん!これは次回少し書かせていただきますが、三味線繋がりで横浜遊郭⇔志乃⇔お琴のラインがあるんです・・・この時期、官軍のせいで物流も滞りがちなので、このラインでお琴さんが三味線関連の仕入れをしているとの設定で(#^^#)本編にも出来るだけ書いてゆきますが、書ききれなかったらスミマセン(>_<)

次回『夏虫』は7/30、お琴さんとの再会、そして渡辺昇経由で入ってくる諸々の情報について書いていくこととなります(その中には原田左之助のことも・・・(T_T))
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