「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第十章

夏虫~新選組異聞~ 第十章第四話 小さな鼓動・其の肆

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 若葉の色もすっかり濃くなった閏四月、土方は戦場ではなく会津・東山温泉の旅館『瀧の湯』にいた。藩の座敷役場を兼ねているだけに、その居心地はかなりよい。ただしせっかく合流した新選組本隊が白河城下へ向かってしまい自分と世話役だけが取り残されているのを除けば、である。
 土方は今、足に負った怪我の療養で本隊からの離脱を余儀なくされていた。暇潰しにと借りた西洋戦術や砲術指南書もあらかた読み終えてしまったし、ひとり戦場からはじき出されてしまった状態で句作をする気も起きない。室内で素振りをするのも限度があるし、何より自ら動きまわることが好きな男が謹慎の如き療養生活を強いられているだけで鬱憤が溜まっていくのだ。

「っつたく暇だよなぁ。いつまでおとなしく・・・・・・いててっ!」

 厠に行こうと立ち上がった瞬間、怪我をしている足に激痛が走り土方が呻く。その瞬間、隣の部屋で雑務をこなしていた鉄之助がぱんっ!と勢い良く襖を開き、上司であるはずの土方を怒鳴りつけた。

「土方副長!何度言うたら判るんですか!厠に行くんやったら杖を使うか、わてに一声かけてください、って!」

 小姓というよりはむしろ口うるさい母親のような鉄之助の物言いに、土方はぷいっ、とそっぽを向く。

「るっせぇな。厠ぐらい一人で行かせろってんだ」

「そんな我儘言うてはるから未だに足の傷が治らんのです!ほんまに治す気ぃあるんですか?良ちゃん、もとい玉置のほうがまだ聞き分けありますえ?」

 変声途中特有のかすれた小姓の声には、怒気を超えて殺意さえ含まれているように土方には聞こえた。



 土方が脚を負傷したのは一ヶ月前、宇都宮の戦いでの事だった。一旦は官軍から宇都宮城を奪い取った幕府軍だったが、すぐさま形成は劣勢に変わり、撤退の際大砲の破片が足に当たり大怪我を負ったのである。否、まだ洋装の軍服で革靴を履いていたからこの程度の怪我で済んだが、これが草履だったら足首から先が無くなっていてもおかしくなかっただろう。
 それほどの大怪我を負った土方は幕府軍本隊から離脱し、先に会津に送られた。そこで新選組本隊と合流するも、即座に治療を兼ねて東山温泉にやってきたのである。
 流石に慣れない役職――――――幕府軍参謀としての戦いの疲れもあり、最初の五日ほどは土方もおとなしく横になっていた。しかしそれが過ぎると事あるごとに動き出そうとし、足の怪我が開いてしまうという悪循環を繰り返していたのだ。
 確かに怪我を治すにはおとなしく寝ているのが一番だろう。だが寝込んでいればその分足の力は衰える。五日間寝ていただけで自分の脚が細くなり、踏ん張りが効かなくなっていることに土方は内心『歩けなくなるのでは?』と恐怖さえ覚えたのだ。
 それ故事あるごとに歩いて足の筋力を維持しようとするが、その度に傷が開き一ヶ月がすぎる。医者の見立てでは一ヶ月もすれば完治するだろうと言われていたのだが、土方の傷は未だ治らない。下手をすれば完治は更に一、二ヶ月先になるかもしれない。

「・・・・・・わてより飯盛のお姉さん方にお世話してもらうほうがええんでしたら、頼母はんあたりに頼んでそうしてもらいますけど」

「そいつは非常に興味はあるが、今以上に怪我が悪化することだけは確実だな。怪我が治ったらお相手願おうとだけ飯盛に伝えておいてくれ」

 怪我の治りが遅くなることを除けばやぶさかではないと口にする土方に、鉄之助は大仰に溜息を吐いた。

「ほんまに副長はおなごの選り好み、ありまへんね。あの斎藤はんかて『会津のおんなはめごくない!』って・・・・・・・」

「ほぉ、俺が居ねぇ間にあいつがおめぇらにそんな事を口走ったのか?面白そうだな、その話」

 土方以上に女性を選り好みしそうにない、というか興味が有るのかないのかさえ理解できない斎藤が会津の女性に対してそんなことを口走るとは意外である。土方は面白そうな話だとばかりに身を乗り出すが、鉄之助は別に大した話ではないと前置きをする。

「天寧寺にうちらが入った際、お世話をしてくれはった高木さんの妹はんと斎藤はんが口喧嘩をしたんどす。わてもすぐ近くにいたわけやないんで詳細はわかりまへんが」

 どうやら鳥羽・伏見の戦いや甲州・勝沼の戦いでの敗戦のことをちくりと指摘されたらしい。その事が発端で世にも珍しい『斎藤の口喧嘩』を目の当たりにしたというのである。それを聞いた土方は腹を抱えて笑い出す。

「どうして大した話じゃねぇか!。あの無口な男が口喧嘩なんざ天地がひっくり返ってもありえねぇと思ってたが・・・・・・でもあちらさんが一方的に怒鳴り散らしていたんじゃねぇのか?」

「いいえ。斎藤はんもかなり言い返してはりましたよ。尤も流山からの敗走直後やったから斎藤はんも苛立ってたのかもしれまへんが」

「・・・・・・そうだな」

 何せ局長の近藤を差し出して逃げてきたようなものなのだ。塞がっていない心の傷をえぐられ、斎藤も激高したのだろう。二人の間に思い沈黙が流れた。

「ま、いつまでも過去の失敗をくよくよ悩んでいても始まらねぇ。ここから巻き返して近藤さんを助けなけりゃいけねぇんだからよ」

「そうですね。そうなるとまずその足の傷をとっとと治してもらわないとあきまへんね」

 鉄之助の指摘に土方はや藪蛇だったと顔をしかめる。結局土方の足の怪我が完治するにはまだまだ時間がかかり、その間鉄之助にチクチクと文句を言われ続けることになる。



 新選組ら旧幕府軍本隊が去ることで江戸総攻撃が回避され、表面上は官軍の支配下に置かれた江戸だったが、未だ戦禍を予感させる小さな鼓動は関東のあちらこちらで聞こえていた。その最たるものは上野寛永寺にこもっている彰義隊である。
 徳川慶喜が水戸へ向かい渋沢らが隊から離れると、彰義隊では天野らの強硬派が台頭してきた。更に原田左之助など幕府軍に与する有志らを加えて徳川家菩提寺である上野の寛永寺に集結、寛永寺貫主を兼ね同寺に在住する日光輪王寺門跡公現入道親王を擁立したのである。
 そんな彼らを懐柔しようと、勝海舟ら旧幕府の恭順派は彰義隊を公認して江戸市内の警護を命じたが彼らの官軍への敵対姿勢が改まらず、官軍兵士への集団暴行殺害が繰り返されていた。その衝突は日を追うことに増えている。

「畜生!せっかく江戸総攻撃を回避したっていうのに、これじゃあ意味ねぇじゃねぇか!!」

 事態の沈静化を願った勝海舟ら旧幕府首脳は、彰義隊と同じく徳川慶喜の警護役をしていた幕臣・山岡鉄舟を輪王寺宮の側近・覚王院義観と会談させ彰義隊への解散勧告を行う。しかし覚王院義観は彼を裏切り者と呼び説得に応じなかったのである。これにより彰義隊懐柔は失敗に終わり、官軍の意思も固まってしまった。

「これで決まりですな、勝殿。朝廷も関東における騒乱の大きな原因のひとつは彰義隊だと認識しております。これ以上庇い立てすると貴殿の身も保証できかねます」

 そう勝に告げたのは西郷隆盛に代わる統率者、軍務局判事兼江戸府判事として京都からやってきた長州藩の大村益次郎だった。この強硬派の大物の着任により西郷は勿論、勝の職務上の権限も剥奪され、事態は急激に緊張の度合いを増してゆく。
 五月一日、官軍は彰義隊の江戸市中取締の任を解くことを通告、官軍自身が彰義隊の武装解除に当たる旨を布告した。これにより彰義隊との衝突事件が上野近辺で頻発し始めた。

「ここは一気に彰義隊を潰すべきだ!でなければ旧幕府軍の巻き返しを許すことになりかねん!」

 大村は慎重派を制して武力殲滅を主張し、上野を封鎖するため上野を包囲する形で三方に兵を配備した。さらに彰義隊の退路を限定する為に神田川や隅田川、中山道や日光街道などの交通を分断、根岸方面に敵の退路を残して逃走予定路とし、五月十四日に彰義隊討伐の布告が出されたのである。

「沖田さん、大変ですよ!高札に彰義隊討伐のお触れが・・・・・・」

 奥の離れに転がり込んできた甚五郎の一声に、沖田は思わず目を見開く。

「なん・・・・・・ですって?」

 厳しい沖田の声に、小夜に抱かれていた佳世が大声で泣き出した。そんな佳世を小夜はギュッと抱きしめた。

「総司はん。原田はんは上野の御山に・・・・・・」

「取り敢えず高札を確認してきます。原田さんのことだ、何かあってもきっと生き残ってくれるはずです!もしかしたら、上野の方もちょっと見に行くかもしれませんが、夜には絶対に帰ってきます!」

 沖田は小夜にそう告げると、脇差だけを腰に差し離れを飛び出した。



UP DATE 2016.6.18

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今回は『主役』をちょっと離れて会津&官軍の動きについて書かせていただきました(*^_^*)この辺は書こうと思うとどこまでも長くなってしまうので、まとめるのに苦労したのですが、まとめたらまとめたで短くなりすぎてしまった感が(^_^;)

会津の方では皆肉体的にというよりも精神的に参っているようです(´・ω・`)歳は歳で足の怪我で身動き取れませんし、斎藤は斎藤で新選組を率いて行動しなければなりませんし・・・普段だったら聞き流すであろう女性の嫌味に思わず食って掛かってしまったのもそんな苛立ちがあったからかもしれません(なお今回出てきた高木さんの妹→幕末歳時記の話へと展開するんですが、まだまだ先の話です^^;)

そして江戸ではとうとう彰義隊への攻撃が始まることに・・・高札を見に行く沖田ですが、果たして原田との再会はできるのでしょうか?そして助けだすことは・・・次回からは上野戦争に突入いたします(๑•̀ㅂ•́)و✧
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