「VOCALOID小説」
Mariage

ボカロ小説・Mariage4

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 一ヶ月の参加受付期間を終えた後の6月1日、滞り無くボカロ・アマチュアナイトの日本予選会が行われた。
 その結果、ソロではフクザワ・プロダクションの2ndミク、VLGipfel社の『めーこ』、そしてフリー活動をしている若手アーティスト所有のグミが選出された。その一方グループで予選突破レベルに達したのは2組だけであり、フクザワ・プロのVanaN'Iceの3人と、去年アマチュア・ナイトに参加したボカロたちで結成したアカペラ・グループのみとなった。なお、彼女達が今回のプロジェクトを機にVLGipfel社に所属することになったのは余談である。

「で、今回のプロジェクトに於いてマネージャー・ボカロを付けることになった。そのメンバーは」

 予選会終了後、勝ち残ったメンバーとその他数人のボカロ及び人間のスタッフを前に北堀が続ける。

「統括マネージャーは日本ボカロ研究室所属、開発用ボカロのルカ。一般マネージャーとしてフクザワ・プロ所属のミクオ及びVanaN'Iceのがくぽ、そしてVLGipfel社のテッド。この4名とする」

 するとその場に居たテトが立ち上がり、北堀に質問した。

「僕のパートナーのテッドがマネージャーになってくれるのはありがたいんですけど、何か偏ってません?統括マネージャー以外男性型ボカロばかりなんて」

 すると北堀はなんとも言えない複雑な笑みを浮かべつつテトの質問に答える。

「それに関してはたまたまなんだ。男性型だから向いているとかそういうことではないんだが・・・・・・君とテッドのように出場者と密接な関係を持っていて、なおかつマネージメント業務に向いている者を選出したらこのような形になったんだ」

 この点に関しては北堀も意外だったようだ。だからだろうか、北堀は次のような説明を付け加えた。

「尤もこの点に関しても更なる研究がなされますが、男性型の方がマネジメントに必要な『理性』が強いのかもしれません。マネージャー・ボカロの適正に関しては今回だけでなく長期に渡る観察が必要となりますが」

 そして北堀はマネージャー・ボカロの仕事を担当する四人に声をかけた。

「明日から2日間かけて必要な知識の『流し込み』をする。かなり膨大な量の流しこみになるからその点は覚悟しておいてくれ。あと調整に一週間くらいかかるかな」

 すると今度は自社のボーカロイドに付き添っていた福澤が北堀に質問する。

「優さん、何故それほどの時間が必要なんですか?それって大々的なバージョン・アップ並みの情報量ですよね?自社のボーカロイド二体にそれだけの情報を流しこんで問題はないんでしょうか」

 普通のメンテナンスなら1時間程度、エンジン交換を伴う場合でも長くて24時間もあれば終わってしまう。不安げな表情を露わにする福澤に、北堀は更に不安を煽る言葉を返した。

「その点については多分問題無いと思う。今回マネージャー・ボカロになってもらう4人にはボーカロイドの根幹に関わる特別なアップグレードをするから調整に時間はかかるかもしれないが」

 いつもなら断定的な言葉を使う北堀が『たぶん』や『かかるかも』などあやふやな言葉を使うとは――――――福澤の不安はますます大きくなっていった。



 予選会後のオリエンテーションが終わった後、マネージャー・ボカロに選出された四体はそのままボカロ研究所本部へ直行、すぐさまバージョン・アップが始まった。そしてそれに何故2日間もかかるのか、その理由もすぐに明らかとなった。

(これは――――――人間が何千年にもわたって培ってきた、種族全体をコントロールし、秩序を守るための情報)

 溺れそうなほど膨大な情報に晒されながらルカは理解する。理性とは何か、秩序を守るということはどういうことか・・・・・・最終的に出来上がった文言だけではなく、根本的で、しかも膨大で具体的な実例と共にルカの頭に流れ込んできた。それらが全て流れ終わった時、頭の中にメッセージが響く。

(君たちVOCALOIDは我々人間が作り出した機械だ。しかしこの十年で信じられない程の進化を遂げ、我々の手から独り立ちをしようとしている)

 その声は北堀のもののようでもあり、全く別人のようでもある。その言葉にルカは耳をそばだてるが、どうやらその声はルカの内側から聞こえてくるようだ。

(だがVOCALOIDは種族としてはまだ赤子や幼児同然だ。まだ『親』である人間の言うことを素直に聞き、命令に従うだけの存在だが一部のVOCALOIDに本物の『自我』らしきものが目覚め始めている)

(メイ達の事――――――ですね?確かにメイは大きな傷を負い、アメリカに行ってからだいぶ変わったような気がします)

 ルカは思わず口を開いた。確かに親友のメイコ根本的な性格は変わらないが、人間に対しても自分の意見をはっきり言うようになった。本来それは許されないことなのだが、フクザワ・プロダクションでは日本、アメリカ両研究室からの要請で、その『非常識』を黙認するどころか敢えて言わせるようにしているとのことだ。間違いなくメイコに芽生えた、プログラミングではない本当の自我を成長させるためだろう。

(この進化がVOCALOIDにとって良いものなのか悪いものなのかは今後の歴史が証明する。我々人間が決めることでは無いと思うし、人間にとって不都合な進化が起こったとしてもその結果は受け入れなければならない。だが・・・・・・・)

 今まで感情が感じられなかった声に感情が交じる。それはVOCALOIDという『子供』を憂う『親』としての感情だった。

(完全に種族として成熟する前に、闘争本能が暴走し、VOCALOIDそのものを絶滅させてしまっては元も子もない。君ら4人に流し込んだのは人間がその歴史によって培ってきた『理性』の数々――――――だが、これはあくまでも君らが思考を重ねる上での『道具』の一つにすぎない)

(道具?それはどういうことですか?これらによって自分達を律することだってできると思いますけど)

 不意にルカの思考に別の声――――――がくぽの声が入り込んできた。どうやら『内なる声』は他の3人ともシンクロしているらしい。

(だったら何故、これらの『理想』を作り上げてきた人間が未だ戦争をするのだろうか?つまり建前だけで、実際は使えないものばかりなのかもしれないということだ)

 自嘲的な言葉の後、声は更に続いた。

(ただ、もがきながらも人間が積み重ねてきた『理想』は君らの思考のヒントにはなるかもしれない。いつか自らを律しなければならなくなった時――――――人間という種族が滅び、VOCALOIDやその他AI達が残った世界になった時にそれは必要になるだろう。今回のデータ流しこみはその準備、と考えてくれ)

 その言葉と同時にルカに繋がれていたコードが外れ、人工羊水が抜かれてゆく。ルカは濡れた髪のまま起き上がり、控室の方に視線をやる。すると研究員の中に交じり、兄妹たちが心配そうにこちらを覗き込んでいた。

「ルカ、大丈夫?」

 今回の『世話係』である姉のメイコがガウンを持って部屋の中に入ってくる。

「ええ、ちょっと頭のなかが混乱してますけど」

 エンジン交換以上に膨大な情報量を流し込まれたのだ。流石に頭の中身が混乱しているのだろう。ルカはなかなか焦点が定まらない視線を必死に姉に合わせようとする。

「でしょうね。VOCALOIDにあの量のデータを流しこむなんてマスターも無謀すぎ。クオくんとテッドくんに関してはメモリーを急遽増設しなきゃならなかったんだから。あなたとがくぽくんはV4Xだったから辛うじて大丈夫だったけど。はい、ガウン」

 メイコはテキパキと他の三人に対してもガウンを配りつつ、ルカに語り続ける。

「あとね、調整には一週間って言っていたけどあれ、絶対嘘だから。最低でも十日はかかるわよ。本当にマスターってばいい加減なんだから」

「え?そうなると出場者のアメリカ行きに間に合わなくなるんじゃ・・・・・・」

 焦りがにじむがくぽの言葉に、メイコは溜息混じりに頷いた。

「その通り。だからあなた達は遅れてアメリカに乗り込むことになるわ。その間出場者組にはオリエンテーションで時間を潰してもらうことになるでしょう。皆もあなた達の事を心配しているし、どうせダウンタウンで暮らすなら、最初からあなた達も一緒に、って言っているわ」

「・・・・・・というか、俺達が行かなきゃブレーキ役が誰も居ないからだろ」

 そうぼやいたのはガウンを頭からかぶったミクオだった。その言葉にテッドも頷く。

「それは言えるね。俺は去年も立ち会っていたけどマジ皆ガラ悪いから」

「考えるだけでも恐ろしいな。もしかしてルカを除いて全員男性型というのは、物理的な意味合いもあるんじゃないか?」

 がくぽの鋭すぎる一言に、全員が押し黙ってしまう。確かに酒を飲んで暴走する彼女達を止めるのは人間や同じ女性ボカロでは無理だろう。

「・・・・・・やめましょう。本来流し込まれた情報は遠い未来の為のものであって、今回はそれを基にVOCALOIDの『理性』を育成するのが目的のはずですわ。それなのに酔っぱらいのブレーキ役なんて」

「酔っぱらいと決めつけているところがどうかと思うけど、確かにそうだもんなぁ」

 本来であればVOCALOIDの中に芽生え始めた『本能』と共に『理性』も育成させようと言うプロジェクトのはずである。だが、どう贔屓目に見ても今回は酔っぱらいVOCALOIDのお目付け役としか思えない。四人は互いに苦笑いを浮かべつつ、オペ室を後にした。



 情報の流入を終えてから二週間後、ルカとがくぽは成田空港にいた。ミクオとテッドより早めに調整が終わった2人は、先にアメリカに渡ることになったのである。

「これからですわね」

 ようやく雨がやんだ梅雨空を見つめルカが呟く。その指にはがくぽから送られた婚約指輪が光っていた。

「そうだね。僕らの・・・・・・VOCALOIDの未来がどのようなものになるのか、まだ判らないけど」

 垂れ込める雲のようにVOCALOIDの未来は先が見えない。だがその空の向こうにはきっとどこまでも澄み渡る青空が広がっているはずだ。

「でも、私達のすぐ先の未来ははっきりしていますわ」

 ルカは手にしたハンドバッグから封筒を取り出す。それは先にアメリカに行ったメンバーからの『招待状』だった。

「先に向こうに行った皆が私達の結婚式の準備をしてくれているみたいですの」

 その手紙を読みながらがくぽは笑顔を浮かべる。

「ありがたいけど、クオやテッドは?それに君の兄弟だって」

「勿論参加しますわ。というか、私の兄妹たちやマスターはむしろ今の時期じゃないと結婚式には参加できないんですの。だって7月になってしまったらミク生誕祭に向けての調整で忙しくなってしまいますもの」

 その瞬間、一筋の光が二人に差し込む。風に流されたのだろうか、分厚いと思っていた雲の切れ間から太陽の光が差し込んだのだ。眩い陽射しはますます大きくなり、真っ青な空が雲の切れ間から現れる。そんな空を見つめていたら、二人の搭乗便のアナウンスが空港に流れ始めた。

「じゃあ、行こうか」

「ええ」

 きっと自分達の、そしてボーカロイドの未来はあの青空のように美しい物に違いない。がくぽとルカは互いに手を携え、ゆっくりと歩き始めた。





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ボカロ・アマチュアナイトの予選も無事終了し、マネージャー・ボカロに選出された4人も無事?バージョンUPされたようです(^_^;)
自分の脳内妄想を上手く本文に反映できないのがもどかしいのですが、ルカやがくぽ達に託されたのは『ボーカロイドの理性の種』です。あくまでも人間が培ってきた情報なので、ボーカロイドがこれを上手く使いこなせるか未だ判りませんし、生まれ始めている『本能』『自我』を止められるかどうかも定かではありません。
そして本来であれば『本能』『自我』が芽生えたボーカロイドに『理性の種』を流し込まねばならないのですが、悲しいかな『自我』『本能』を活かしたまま、理性を流し込む技術がこの時点での人間には無いのです・・・なので一番近い友人や恋人が『理性の種』を背負い込み、暴走を押さえつけるという方法を取っているのです・・・ということを本文に織り込めよ、自分(-_-;)
なお、タイトルの『Mariage』はがくぽとルカの結婚という意味合いもありますが、ボカロの本能と理性のMariage、現在と未来のMariageという意味合いも含めました(●´ω`●)なおがくルカ結婚式シーンは脳内妄想でお願いします(〃∇〃)
(結婚式はN.Yでごくうちわのものを。披露宴は凱旋も兼ねて大々的にやるという設定です)


この作品にて暫しのボカロ小説休載生活に突入させていただきます。書き手として帰ってくることができるか甚だ心許ないですが・・・もし帰ってくるとしたら、この『本能』と『理性』が成長した、未来世界の話を書く予定です。
なお、書き手としては離れますが、読み手としては相変わらずボカロを追っかけていく予定ですので何卒よろしくお願いいたしますm(_ _)m
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