「短編小説」
横浜芸妓とヒモ男

横浜芸妓とヒモ男・其の陸~野郎の縫い仕事

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 梅雨の合間の晴れた日、仙吉はここぞとばかりに布団を干し、夏に向けて着る予定の着物を行李の中から取り出そうとしていた。多少湿気は濃いものの南からの風が強いだけに、布団や着物に含んだ湿気を吹き飛ばしてくれるだろう。
 そんな期待を抱きつつ、自分とお鉄の着物を取り出した仙吉だが、それらを手にした瞬間顔をしかめた。

「うわっ、これ虫に食われてる!せっかく樟脳入れておいたのに・・・・・・ああ、これもじゃん!この鉄御納戸の小袖、お鉄ものすごく気に入っていたのになぁ」

 それぞれ二枚づつ、合計四枚の帷子は一枚だけを残して見事に虫に食われていた。どうやら樟脳の置き方がまずかったらしく、樟脳の一番近くにあった一枚だけは無事だったものの残りの三枚は少しずつ虫食いの跡がある。自分の普段着はともかく痛いのはお鉄の夏の盛り用の一張羅だ。よりによって一番目立つ胸元に虫食いがあるので、これではお座敷に着ていくことは出来ない。

「仕方ないな。これに関してはお鉄に諦めてもらおう」

 だがさすがに胸元に少し虫食いがあるだけで捨てるのは忍びない。それと無事な着物も半襟を取り替えなければならないのだ。仙吉は四枚の着物を畳の上に並べると針箱を取り出し、縫物の準備を始めた。



 お鉄がいつもより早めに家に帰ってきた時、行灯の下で仙吉は夕飯の支度もせずに最後の一枚の手直しをしていた。それを見てお鉄は目を丸くする。

「ちょいとあんた。まさかこれ、今日一日でやったんじゃあるまいね?」

 仙吉の横に積み上げられた、鉄御納戸の自分の着物を手にしながらお鉄が尋ねる。去年は空色だった半襟は更に薄い甕覗になっている。吉原芸妓のような白襟は流石に無理だが、それに近い色をという仙吉の心遣いなのだろうか、とお鉄は一瞬思うが、仙吉から帰ってきたのは全く予想だにしなかった言葉だった。

「あ、ごめん。その一張羅、胸元が虫に食われていてさ。一応裏からあて布をしておいたけど」

 そう言われてよくよく見ると、確かに胸元に修繕の跡がある。言われなければわからない小さなものだが、お座敷に着ていくのは躊躇われるものだ。

「この程度なら置屋に行く程度の外着に下ろせばいいね。いっそ胸元の虫食いの上に刺繍職人に頼んで刺繍でもしてもらおうか」

「あ、それは面白いかも。だったら明日にでも刺繍職人の又五郎さんに頼んでくるよ 」

 輸出用の刺繍作品を作る職人が多くおり、仙吉達の長屋にも又五郎という職人がいる。まだまだ若い職人だが、普段着の手直しがてらに入れる刺繍であれば気楽に頼める。

「・・・・・・にしても、継当てと半襟だけでもって思っていたら、もうお鉄が帰ってくる時間になってたんだ」

 そう言いながら首を上げぐるぐる回す。流石に暗くなってきたので行灯だけは点けたが、それ以降は縫物に夢中になっていたらしい。

「あんたは仕事が丁寧すぎるんだよ。この細かい縫い方、男がやったとは到底思えないって・・・・・・ほら、やっぱり肩が凝ってるじゃないか」

 お鉄は仙吉の肩に手をかけ揉みほぐしてやる。

「うわぁ、気持ちいい!こうやって揉んでもらうとかなり凝っていたんだってわかるね」

「そうじゃなくてもわかるだろ?こんな細かい縫い物して」

 そう言いつつも肩を揉む手は休めない

「頑張ってくれた御礼だよ。今日は私が御飯と味噌汁の温めなおしをしてやるよ。あんただって食べてないんだろ?」

 お鉄は台所をちらりと見ながら仙吉に語りかける。江戸と同じく横浜でも朝に一日分の飯を炊き、汁物も作る。それを温めなおし、置屋で譲ってもらった惣菜を加えれば充分な夕餉だ。

「うん。じゃあ今日はたっぷりお鉄に甘えちゃおうかな。よろしく頼むよ」

 夜になって梅雨の名残の雨が再び降り始める。そんな雨音に交じり、ふたりのじゃれ合う声はいつまでも続いた。




UP DATE 2015.5.25 

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雨の時は布団の中に引きこもる仙吉ですが、晴れたら元気になります(≧∇≦)/
梅雨の晴れ間は主夫?の活動しどき、ここぞとばかりに干せるものは全部干して、修理できるものは修理してしまおうとしてしまいます。仙吉もそうだったのでしょう。しかし高価、と思われるお鉄の一張羅が虫に食われていたのは相当ショックだったようですwww

あと、今回はあまり詳しく書けませんでしたが、ハマの刺繍職人、ハンパないです(๑•̀ㅂ•́)و✧今現在は小さなハンカチとかスカジャンくらいしかその技術を発揮する場所はなくなっておりますが、外国人向けだけあってかなり華やかですよ~(人´∀`).☆.。.:*・゚
だけどお鉄の着物に関しては裾の染付に合わせた、おとなしい物になるんだろうなぁ・・・さすがに染めと刺繍がバランス悪くごっちゃになったものはお座敷には着ていけないでしょうから、どんなに高価でも普段着ゆきです(^_^;)

次回7月は七夕か盂蘭盆か・・・できれば仙吉の過去を知る人物に登場願いたいな~と思っております( ̄ー ̄)ニヤリ
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