「VOCALOID小説」
Mariage

ボカロ小説・Mariage3

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 淡い間接照明に輝くハリーウィンストンのエンゲージ・リング――――――眼下に煌めく夜景よりもなお美しいその指輪を目の当たりにして、ルカは一瞬驚き、その次の瞬間に端正な顔が笑みに崩れた。

「これは・・・・・・プロポーズと受け取って宜しいんですの?」

「勿論だ。受けてくれるね?」

 真剣な面持ちのがくぽに、ルカは一も二もなく頷く。

「ええ、喜んで。でも・・・・・・」

 何かを言いかけたルカの表情が途端に曇った。表情の変化が判りにくいと言われる『ルカ型』とは思えぬほどルカの表情はくるくる変わる。

「でも?」

 何か結婚の障害になる事があるのだろうか――――――焦りを抑えつつがくぽは出来る限り穏やかな声でルカに聞き返す。

「マネージャー・ボカロの件はもう少しお時間をいただけますか?メイにも頼まれているんですけど、あれって、普通のマネージャー管理とは少し違うみたいなんです」

 がくぽの問いかけに、困惑の表情を浮かべたままルカは語り続けた。

「詳細を話すとはなり長くなるんですけど、いわゆる『マネージメント管理』やわたくしが専門としている『メンテナンス』のお仕事だけじゃないんです。何というか・・・・・・まるで人間の研究者のような、かなり強大な権限が与えられるんですの」

「それだと、まるでボーカロイドが他のボーカロイドを支配するみたいだね」

 言い難いことをはっきり指摘したがくぽの一言に、ルカは強く同意する。

「ええ、まさにその通りです。アマチュア・ナイトの出場者管理にそんな権限が必要だとは思えません。なのに何故研究所がマネージャー・ボカロにそのような権限を与えようとするのか、怖くって・・・・・・」

 ルカは怯えるように自らの両肩を抱き、ブルリ、と震えた。

「君のマスター、北堀さんから何か聞いてはいないのか?」

 確かにAIであるボーカロイドにここまでの権限が必要とは思えないし、むしろ危険だろう。それなのに何故研究者はそれを与えようとするのか――――――北堀ならば確実にその理由を知っているはずだ。
 そう考えがくぽはルカに尋ねたが、案の定ルカは『何も聞いていない』と首を横に振った。

「ええ。トップシークレットのプロジェクトになるので詳細は教えていただけませんでした。本気で話を受けるなら教えると」

「だったら婚約の報告と共に出来る限りのことを一緒に聞いてみないか?いくらなんでも何もわからない状態では受けられない話だし。マネージャー・ボカロではなくてもメンテナンス担当としてだけでも一緒にアメリカに行くことが出来ないか交渉する必要もあるし」

 マネージャー・ボカロが無理でもせめてメンテナンス担当、否、妻としてアメリカにルカを伴いたい。その一心でがくぽはルカニ提案する。その提案にルカも乗る。

「そう、ですわね。明日マスターも東京に来ますので、その時にお願いできますでしょうか?」

「ああ、勿論」

 がくぽの力強い言葉にルカもようやく安堵の笑みを浮かべた。



 翌日の昼過ぎ、がくぽとルカはボカロ研究所東京支部のある丸の内のオフィスビルに北堀を尋ねた。そして二人から婚約の話を聞かされた北堀は『父親』らしい、満面の笑みを浮かべる。

「ようやく決意してくれたか、お前たち。つい先日も巧にせっついたんだ。お前のところのがくぽはいつうちの『娘』を貰ってくれるんだと・・・・・・だけど、君らがわざわざここに来たのはその報告だけではないよね?」

 北堀の指摘にがくぽとルカは頷いた。

「はい、その通りです。実はアマチュア・ナイトのダウンタウン組に随行するマネージャー・ボカロの意味合いについて教えていただけないかと。勿論機密の部分は構いませんので」

「マネージャー・ボカロに与えられる権限はあまりにも大きすぎます。製造部や管理部の部長クラスの権限なんてどう考えても必要ないと」

 がくぽとルカの訴えに、北堀は微かに眉を寄せる。そして暫くの沈黙の後重々しく口を開いた。

「確かに今回のマネージャー・ボカロの権限は大きすぎると思うだろうな。プロジェクトの会議でも反対意見も少なくなかった。だが」

「だが?」

「ボーカロイドの、いやAI全体の進化のために敢えて強大な権限を与えてみようという最終判断になった」

「ボーカロイドの、進化?」

 思わぬ話にがくぽとルカは目を見開いた。



 驚きに言葉を失ってしまったがくぽとルカ。その二人の顔を交互に見つめながら北堀はゆっくりと説明を始めた。

「昨年のコンテストの結果に関して研究所本部では10以上の考察が提出されたのだが、そのうちの一つに『進化の始まり』というものがあった」

 淡々と語られる北堀の言葉を二人は黙って聞き続ける。

「本来、ボーカロイドは人間に対して忠実、命令は絶対に聞くものだ。しかし去年結果を残したダウンタウン組のボーカロイドは人間の言うことをあまり聞かなかった。特に君の親友のメイコは中枢部分にまで及ぶダメージを受けていながら――――――ボーカロイドの本能である歌唱にまで影響を及ぼしかねない傷を追いながらも準優勝という結果を残した」

「確かにメイコさんはもともと歌唱力は高い個体ですけど、改めて考えるととんでもない事ですよね。しかもカバー曲での準優勝・・・・・・そう考えると今までのボーカロイドの概念では収まりきらないところがある、ということですか?」

 がくぽの推測に、北堀は力強く頷いた。

「そうだ。で、他のメンバーに関しても調査をしてみたのだが、高得点を出した者は多かれ少なかれ我々でさえ治すことが出来ないダメージを受けている者ばかりで、しかもどの個体にも自己治癒した跡があった」

「確かに、そうでしたわね・・・・・・わたくしも立ち会わせていただきましたけど、あれほど中枢に傷を皆負っていながらよく結果を残せたと。いえ、それどころかよくダウンタウンで生活出来たものだと」

 調べれば調べるほど深まる謎。その謎を説明するには今までの概念を超える言葉が必要だった。

「で、その結果から導き出された結果のひとつが『進化』――――――傷を追った中枢が回復する際に、本来のボーカロイド以上の能力を発揮するのではないかと。尤もこれは仮説の一つだがね」

 北堀は苦笑いを浮かべるとがくぽとルカを交互に見つめる。

「そこで、我々は賭けに出ることにした。人間の手が及ばないところで、ボーカロイドは本当に進化していくのかと・・・・・・だが、我々の思う通りの進化ならいざ知らず、暴力的な進化を進める場合もある。そこで」

「人間並みの権限を持ったマネージャー・ボカロが必要になると言うことですね?万が一ボーカロイドが暴走しても、それを制止出来るだけの力と能力を兼ね備えた同等の力が」

 がくぽの言葉に北堀は満足気な笑みを見せた。

「その通り。マネージャー・ボカロが行うマネジメントはアマチュア・ナイトだけではなく、研究におけるマネジメントもやってもらうことになる。尤も、これは仕事の一つだけどね」

 どうやらその他にも複数の仕事があるらしいが、北堀は話すつもりはないらしい。

「勿論この件は他のボーカロイドたちに感づかれてもいけないからかなり大変だ。一応複数の――――――二組、三組に一人のマネージャー・ボカロを付けるつもりだがその負担は計り知れない。ルカ、そしてがくぽ―――――――君ら『夫婦』でこの仕事を引き受けてくれないか?」

「え、俺もですか?」

 予想だにしなかった北堀の申し出にがくぽは驚きを露わにする。

「しかし、俺は歌うことしかできませんし」

「安心しろ、仕事の知識に関しては『流し込み』をおこなう。そして自分のグループだけを見てもらえばいい。あとはルカのフォローだな。既にルカはメイコ、君の事務所の2ndミクとクオの三人から申請が来ているし、これから更に増える可能性もある。ルカの負担が大きくなるだろうから、それを『夫』として支えて欲しい」

「つまり、実際は『2人』で4~5組の面倒を見ろ、ということですね」

「ま、言ってしまえばその通りだけどな。本当はミクオにも適正があるからマネージャー・ボカロとして働いてもらいたいところだが、流石にコンテスト前にそれは言えないしね。あ、あとこの話を聞いたからには断ってもらっては困るから」

「確信犯じゃないですか・・・・・・承知しました。俺はこの話、引受させてもらいます。尤も俺達が本選に進出できたらの話ですが」

「その点に関しては大丈夫だろう。グループのメジャー組は君らだけしか出場申請していないし、マイナーでも、というか即席編成組でも去年のダウンタウン組で結成したアカペラ・グループ位だから」

「あら、彼女達は個人で出場するんじゃないのですか?」

 怪訝そうな表情を浮かべるルカに、北堀は裏事情を暴露する。

「残念ながら、ソロで出るのはちょっと力不足でね。だけどグループなら力を発揮する。更に去年からの継続調査もできるから、アメリカ側からも彼女達をまとめて送り込んでくれと頼まれている」

 北堀の言葉に二人はくすり、と笑った。

「後は予選を終えてから――――――本当の君らの使命を伝える。その点を踏まえてこの仕事を受けるか受けないか考えてくれ」

 さすがにこれ以上は説明できないらしい。北堀の話はそこで終わリ、がくぽとルカの二人はそのまま互いの仕事場へと向かった。





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人間並みの知性を持ったボーカロイド、もしかしたら人間の手を離れて進化するんじゃないか――――――そんなテーマが『Mariage』の軸になります。『confession』で傷を追いながら準優勝を果たしたメイコ。そして彼女とともに暮らし、人間の手を離れていたボカロたちが完全管理のボカロよりも優秀な成績を残した事実。取るに足らない小さな異常や変化なのかもしれませんが、科学の進歩なんてそんな些細な結果の積み重ねさ/(^o^)\
そして僅かな『異端』に気がついた北堀達研究者は、一つの『賭け』に出ようとしております。人間の手を離れたボカロたちがどのように成長し、進化してゆくのか。そしてそのコントロールを同じボカロがすることが可能なのか・・・暴れられたり、人工知能をフル稼働されてコンピュータ・テロなんて起こされた日には人間勝ち目はありませんしねぇ(^_^;)

重要な役目を担わされるかもしれないがくぽとルカ。二人は北堀の提案を受け入れるのでしょうか?次回最終話をお待ちくださいませm(_ _)m
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