「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第十章

夏虫~新選組異聞~ 第十章・序

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 智香子の作った昼餉を食べ終えた後、三人はほうじ茶を飲みながら談笑をしていた。沖田の顔色も昨日に比べてだいぶ良いようだ。

「それにしても佳世さんが生まれた時はよく間に合いましたね」

 ほうじ茶を半分ほど飲みおえた中越が、感心しきりに沖田老人に尋ねる。すると沖田老人は湯呑みから口を離して中越の問いかけに答えた。

「ええ、初産は特に時間がかかると姉の時に経験していましたから、2時間位は何とかなるだろうとは思っていたんですが・・・・・・麹町に小夜の知人がいて助かりました」

「そうそう、山田トキさんっていうと、あの山田浅右衛門の娘さんでしょうか?」

 以前読んだ篠田鉱造のルポタァジュを思い出しつつ、中越は己の想像を口にする。

「その通りです。諸事情で三女であるおトキさんが屋敷を切り盛りしておりましてね。その縁で弾左衛門側と懇意にしていたようです。そのおかげで無事小夜でも診てもらえる産婆さんを呼ぶことが出来ました」
当時を思い出しているのか、遠くを見つめるように沖田老人は目を細めた。

「全く知らない土地で、小夜のような身分の者が無事出産できるなんて本当に奇跡でした。だけど・・・・・・佳世が生まれた直後、私は小夜を愛おしいと思えるか不安でした」

「・・・・・・ですよね。何せ恋敵の子供ですし。僕だったら、ちょっと育てるのは無理かもしれません」

 中越は複雑な表情を浮かべる。恋敵の子供を愛しい人が産み、その子供を育てなければならない状況は男として屈辱的だと中越は思う。もし智香子が他の男の子供を宿し、その子供を育てなければならない状況に陥ったら、自分はその子供を愛せないだろう。そんな中越の心中を読んだのか、沖田老人も当時の複雑な心の中を語り続けた。

「ええ、私もそう思いました。生まれてくる子を育てられないんじゃないかと・・・・・・しかし私以上に小夜の方がその不安を感じていたんですよ。それだけじゃない。あれは私に対する罪悪感も感じておりましてね」

「そんな・・・・・・でも、そうですよね」

 智香子も悲しげな表情のまま絶句する。上場が状況だったとはいえ、生まれてきた子は愛しい相手の子ではないのだ。当時の小夜の複雑な思い、そして罪悪感を思わずにはいられない。

「私が小夜のそんな気持ちに気がついたのは佳世のお七夜の時でした。産後ということでかなり不安になっていたんでしょう。涙ながらに訴えられてしまいましてね。私は佳世を抱いたままオロオロしてしまいました」

「沖田さんが佳世さんを?じゃあ沖田さんは沖田さんは・・・・・・」

「佳世に一目惚れ、ですよ。あんなかわいい赤子はそういませんからね。女の子で藤堂さんの面影を殆ど受け継いでいないということもあったのでしょう」

 相好を崩したその顔は親馬鹿そのものだ

「意味は違いますけど『案ずるより産むが易し』といったところでしょうかねぇ。佳世の顔を一目見た途端、もう私はメロメロで。産後で動けなかった小夜に代わって襁褓の取り換えや湯浴み、寝かしつけなどは全部私がやっておりました。しかしそんな親馬鹿ぶりが小夜には私の『気遣い』に思えてしまったのでしょう・・・・・・実は人に佳世を預けて会津に向かおうと言い出したのは小夜なんです」

「え、そうなのですか?」

 中越と智香子は同時に驚きの声を上げた。

「ええ。それを聞いた時私は本当に驚きましてね。思わず佳世を強く抱きしめて『佳世と離れたくない!』って叫んじゃいましたよ」

 沖田老人は苦笑いを浮かべながら頬を人差し指で掻いた。

「思えば私も佳世も実の父親とは縁が薄いですからねぇ。そういう所に共感したというのもあるのでしょう。尤もこれは後付の理由ですが・・・・・・目の前に可愛い赤子を差し出されれば、大部分の人間は自然と情が湧くものですよ」

 だが、次の瞬間沖田老人の表情が曇った。

「しかし私への罪悪感に囚われていた小夜はそうではありませんでした。その罪悪感を解消するには、やはり暫くの間――――――結局10年近くになってしまいましたが――――――小夜と佳世を離す必要がありました。幸い佳世を預かってくれる、信頼できるお人がおりましたのでそれが出来ましたが」

「先程から気になっているのですが・・・・・・佳世さんを預かってくださった人って、どなたなんでしょうか?沖田さんのお話ぶりからすると、目上の方のような感じがするのですが?」

 中越はもやもやしていた疑問を沖田老人に投げかける。すると沖田老人は意味深な笑みを浮かべ、首を横に振った。

「ここでお話してしまっては面白みが半減してしまいます。私達にとって本当に運命的な出会いでしたのでね、それは順を追って――――――私達家族の、微妙な関係をきちんとご説明してからの方がいいでしょう」

 沖田老人は智香子に淹れて貰った茶を飲み干すと、盆の上に空になった湯呑みを置く、

「では、中越さんもしびれを切らしているようですので、そろそろ続きを始めましょうか。あ、智香子さん。お茶のおかわりを予めお願いできますでしょうか?」

「そうですわね。途中で席を立つ必要がないよう準備させていただきます」

 智香子は花の笑みを浮かべつつ、三人の空になった湯呑みを盆に載せ一旦部屋を出る。そして今度は緑茶と小鉢に入った焼き菓子を持って部屋に戻ってくる。

「お口にあうか判りませんけど、滋養を付けるには宜しいかと」

「ありがたい『兵糧』ですね。こんな美味しそうな兵糧でしたら大歓迎ですが、昔の兵糧は本当にまずくてまずくて」

 沖田老人の声が不意に若々しくなる。

「・・・・・・私が京都を去ってから半年、状況は一変しました。公も、そして私事も。私が戦場に戻る直前のおよそ二ヶ月は、世間のそんな空気から遮断され穏やかな生活をしておりました。そんな生活が壊されたのは、あの忌まわしい上野戦争直後の残党狩りでした」

 窓の外から一陣の風が吹く。横浜の潮風であるにも拘らずあまり磯の香りが感じられない。むしろ東京――――――江戸の夏場に吹く南風に近い。沖田老人の話はそんな自然環境まで幕末の空気に染めてしまうのだろうか?そんな事を取り留めもなく思いながらも、中越と智香子は沖田老人の話に引き込まれていった。




UP DATE 2016.5.21

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とうとう大台の第十章に突入しました(≧∇≦)/ムダに長いだけが取り柄のこの話、みなさん本当についてきてくださってありがとうございますm(_ _)m

総司の体調不良、そして小夜の出産と二人揃って動き回れる状況では無いはずなのですが、佳世が生まれた二ヶ月後、運命の歯車が無情にも動き出し、二人は会津へと向かうことになります。その際生まれたばかりの佳世は人に預けることになるのですが、その人物は既にこの話に登場している人物でもあります( ̄ー ̄)ニヤリかなり信頼できる人なので、10年近くも佳世を預かってもらうことになるのですが、それは本編にて(*^_^*)
この第十章ではそんな二人の心の葛藤から始まり、上野戦争、そして会津へという道のりになってゆきます。できれば会津戦争の終わりまで盛り込めたら良いんですけどねぇ・・・そればかりは話の展開によります(^_^;)

ではでは来週から本編開始となります第十章もご贔屓によろしくお願いしますm(_ _)m
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