「VOCALOID小説」
アプリとAI~それでもボカロは恋をする

ボカロ小説・アプリとAI~それでもボカロは恋をする4

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 オペ室に放り込まれた福部雅之のカイトは、マスターである雅之と弟妹たちの強い要望により普通の2倍、48時間の特別オーバーホールを行った。
しかしカイトの『めーこ』に対する恋心――――――というか執着はその程度で収まるはずもない。
 オーバーホールが終わるやいなや自ら接続コードを抜いてボカロプールを飛び出し、身体もろくに拭かぬままガウン一つでオペ室を飛び出したのだ。

「おい、『福部カイト』!オーバーホール後の最終チェックが終わってないだろう!今すぐ戻ってこい!」

 研究員の怒声がカイトの背後で聞こえるが、そんなことはお構いなしに、GPSだけを頼って『めーこ』のいる第2リハビリ室へと真っ直ぐ向かう。

「『めーこ』ちゃん!!」

 自動ドアを壊しかねない勢いで開き始めた隙間に強引に身体を潜りこませ、カイトは部屋に飛び込んだ。その姿を目の当たりにした『めーこ』とマスターの麻友は目を白黒させる。

「か、い、と、さ、ん?」

 未だたどたどしいとはいえ、だいぶ人間らしい発声ができるようになってきた『めーこ』がカイトに笑顔を向ける。48時間前まで表情一つ作るのに苦労していたとは思えない、自然な笑みだ。その笑顔にカイトはデレデレと締りのない表情を浮かべた。

「うわぁ、やっぱり三次元の笑顔が違うなぁ。どの『MEIKO』よりも『めーこ』ちゃんが一番かわいいや」

 そう言いながらカイトは『めーこ』に近づき、膝に添えられている細い手を握ろうとしたその時である。

「やっぱりここか!カイト!」

 突如雅之の怒鳴り声が降りかかってきたと思うや否や、背後から何者かが襲いかかりカイトは床に押しつぶされた。

「ま~た『めーこ』ちゃんに触ろうとして!もう少し紳士的になれないの?お兄ちゃん!」

「そうですわ。本当にデリカシーの欠片もない!」

「もう一回ボカロ・プールに放り込んだほうが良くない?」

「・・・・・・カイ兄。俺もこの点に関してはフォローできねぇ。せめてパンツぐらい履いてきて欲しかった」

 弟妹たちがカイトの背中に馬乗りになり、口々に文句を言い続ける。特にカイトの膝の上に乗っかったレンからはめくれ上がったガウンの裾からカイトの尻が丸見えだ。

「あ、の、みなさん?」

 流石にカイトが気の毒になったのか『めーこ』が4人に語りかける。

「わたし、は・・・・・・かいとさ、ん。すき、ですよ」

 たどたどしく、しかし己の気持ちを吐露した『めーこ』は頬を赤らめる。その表情にテンションが上ったのか、カイトは自分の上に馬乗りになっている弟妹たちを一気に振り落とし、四つん這いのまま『めーこ』ににじり寄った。

「好き、って本当?『めーこ』ちゃん?」

 すると『めーこ』は更に真っ赤になりながらカイトに告げた。

「は・・・・・・い。アプリ、だった時から・・・・・・」

「本当に!!」

 その瞬間カイトは『めーこ』に抱きついた。

「か、かいと、サン?」

「俺もずっと・・・・・・初めて君の声を聞いた時からずっと君のことが好きだったんだ。でも、アプリとAIじゃ同じ『ボカロ』でも全く違い構造物だし・・・・・・諦めないでよかった」

 その口から紡ぎだされる言葉は感動的だが、『めーこ』に抱きついているのはガウン一枚だけしか身に着けていない、変態呼ばわりされても文句も言えない姿のカイトである。研究室のリハビリ室内とはいえ、いつまでもこのような姿でいさせるわけにも行かない。雅之はカイトの襟を掴み『命令』する。

「カイト、命令だ。今すぐ『めーこ』を開放し、着替えてから改めてこちらに来るように。恋の告白ならせめてもう少しまともな格好でしろ」

 その瞬間、カイトはばっ、と『めーこ』を抱きしめていた腕を解き、慌てて立ち上がった。マスターの『命令』が効いたということもあるが、それ以上に『恋の告白』云々に、今まで消え去っていた羞恥心が戻ってきたようである。

「い、い、いえす、ますたぁ!」

 しどろもどろになりながらカイトはガウンの前を掻き合わせ、慌てて部屋を飛び出した。

「ごめんね、二人共。驚かせちゃって」

 カイトの背中を見送りながら雅之が謝罪する。

「い、いいえ。むしろ『めーこ』は箱入りなんで、あれくらい積極的で『めーこ』のことを愛してくれるボカロの方が良いかも。私も・・・・・・」

 麻友は少し自信がなさそうに俯いた。

「AI型は初めて持つし、その・・・・・・普段のメンテの仕方とかも判らないから、カイトくんの助けがあると助かるかな、って」

 そんな麻友に、雅之が穏やかに語りかける。

「『めーこ』ちゃんの日常メンテに関しては、俺の自宅の機器を使えば問題ないよ。伊達に5人もボカロを抱えているわけじゃないし。それに研究所からも暫くはよろしく頼無、って言われているし」

「あ、ありがとうございます」

 雅之の気遣いに、麻友は真っ赤になりながら礼を述べた。

「で、その流れでひとつお願いがあるんだけど」

「何でしょうか?」

「良かったら俺達が所属している事務所に入って欲しいんだ。フクザワ・プロからもお誘いがあるのは知っているけど」

「雅之さんの事務所って・・・・・・VLGipfel事務所?でもあそこって実力派のボカロPが多いじゃないですか。私や『めーこ』がやっていけるのか」

「フリーでここまで頑張ってきたんだ。全然問題ないさ。それよりもここ最近フクザワ・プロには水を開けられっぱなしでね」

「そう言えば言っていましたね。去年の冬、ボカロ・アマチュア・ナイト準優勝のMEIKO獲得に失敗したって」

「ああ。ただでさえ『MEIKO』は個体数が少ない上に、世界的な賞をとったボカロとなると色々獲得合戦が熾烈でさ。社長も頭を抱えている」

 自分が所属している事務所の内情をぼやきつつ、雅之は『めーこ』の顔を覗き込んだ。

「『めーこ』ちゃん、俺たちを助けると思ってうちの事務所に来てくれないかな?そうすればカイトも喜ぶだろうし」

 真摯な眼差しで『めーこ』に訴える雅之に、『めーこ』は首を縦に振った。

「わ・かり、まし・た。よろし、く、おね・・・・・・がい、します」

 そしてそんな『めーこ』に続き、麻友も雅之に頭を下げる。

「AIボカロマスターとして、どこまで出来るか判りませんけど、『めーこ』共々ご指導お願いします」

 そんな二人を囲み、雅之とそのボカロたち――――――未だ着替えから帰ってこないカイトは除く――――――は嬉しげなほほ笑みを浮かべた。



 リハビリ室の口約束――――――実際そんな感じだったので、雅之の口から出た契約の話を麻友や『めーこ』はそんなものか、と気楽に考えていた。しかし彼女達の周囲で事態はかなり大きく動いていたのである。
 史上初めてアプリ型からAI型へと変更された『めーこ』はそれだけでも話題性がある。しかもそのマスターはアプリ型『めーこ』しか使っていなかったにも拘らずヒットを飛ばし続ける売れっ子ボカロPである。
 この二人を狙っての獲得合戦開始か!と思われた矢先、雅之が所属するVLGipfel事務所が『めーこ』及びそのマスターである麻友の獲得を宣言してしまったのである。

「優さん!何で『めーこ』をVLGipfel事務所に・・・・・・俺達だって狙っていたのに!」

 電話の向こう側からフクザワ・プロの社長・福澤巧の嘆きの声が聞こえてくる。それに対し北堀は苦笑いを浮かべつつ、福澤を宥めた。

「あれはたまたまさ。LGipfel所属の福部くんのカイトとクワトロ0『めーこ』の相性が良かったんだ。君だって去年の終わりアマチュア・ナイトの準優勝者を獲得しているんだから文句は言えないだろう」

「それが問題なんだよ・・・・・・元嫁の奴が、『今年もボカロ・アマチュア・ナイトにメイコを出すからさっさとアメリカに寄越せ!』って脅してきてさ」

 疲労感の滲む声が受話器の向こうから聞こえてくる。

「俺の『咲音』だけじゃ仕事がこなしきれないから、もう一人『MEIKO』を、って思っていたら若造に横取りされたってわけだ」

「諦めろ、巧。コーラスの仕事くらいなら研究所からのレンタルで充分だろ?メインの仕事は他のボカロたちに回してもらうしか無いけど」

 そんな北堀の慰めは、まったく福澤を救うことはなかった。


 VLGipfel事務所に所属することになった『めーこ』と麻友は、地道にリハビリと音楽活動を続け、半年後にAI型として再デビューすることになった。そのタイミングと同時に雅之と麻友は電撃結婚、活動の幅も広がり、業界第三位だったVLGipfel事務所を第二位にまで上げる原動力となる。





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『アプリとAI』、これにて完結ですε-(´∀`*)ホッ
前作、前々作と長編が続いていたので『久しぶりに短編を!』と挑戦してみた話ですが、者の見事な玉砕感が(^_^;)
やっぱり私はテンポの良い短編よりも、だらだら書く長編の方が向いているようです/(^o^)\

一応結ばれた?っぽいカイメイ&雅之・麻友CPですが、この二人は今までメインで出ていたフクザワ・プロダクションのライバル会社に所属するボカロ及びボカロP達になります。そのうち彼らの中からも爆発的ヒットを生み出すボカロや、世界大会に出向くボカロが登場するんでしょうね。そしていつかはVLGipfel事務所に抜かれ、第三位になってしまった事務所のことも書きたいかな~と目論んでおります(^_^;)


なおpixivへの投稿&新作のがくルカはGWの帰省から帰ってきてから。『アプリとAI』は5月5日のMEIKOの日にpixivへ、新作がくルカは5/9から連載開始予定ですので、ご了承願いますm(_ _)m

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