「VOCALOID小説」
アプリとAI~それでもボカロは恋をする

ボカロ小説・アプリとAI~それでもボカロは恋をする1

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 カチャカチャと微かに響くHDの音と冷却ファンのノイズ、そして聞き慣れた優しい声が『私』を目覚めさせた。

「お早う、めーこ。今日は調子良さそうね」

 古ぼけた液晶の向こう側にマスターの笑顔が見える。そしてその向こう側に見える音響設備――――――どうやら今日は『お仕事』に出向いているらしい。

「お早うございます、マスター。今日のお仕事は何ですか?」

 普通なら人間には聞えるはずのない、『アプリ・ボカロ』の問いかけ。しかし何故か私のマスターはそれを聞き取ることができる。私に向かって照れたような笑みを浮かべつつ、私の質問に答えてくれた。

「ん、いつもの如く雅之さんのとこのKAITOのお相手。あの子、本当に気難しいんだよねぇ。他のMEIKOじゃ嫌だって、全く声を出してくれないんだって。だから今日もあの子の御守り、頼むよ」

 緩やかなウェーブの髪をかき上げながらマスターはちらりと横に視線を流す。そしてそのまま隣りにいた人物に声をかけた。

「お待たせ、雅之さん!今日は何とか朝から『めーこ』が起きてくれたみたい。これで最後の曲まで持ってくれるとありがたいんだけど」

 隣りにいる雅之さん――――――カイト・マスターの福部雅之さんに向けるマスターの笑顔は明らかに私に向けるものとは違う、恋する乙女の笑顔である。
 私のマスターは雅之さんに片思い中だ。私の調子が思わしくないにも拘らずこの仕事を受けたのも、ひとえにマスターの恋心故である。
 それだけに私も出来る限りマスターの恋の成就の助けをしたいのだけど、既に私は――――――『MEIKO』を動かしているXP(あいぼう)が限界間近なのだ。起動そのものが出来ない事も多々あるし、途中でブルー・スクリーンが現れることも少なくない。だけどせめてあと一曲だけは歌わせて欲しい。何故ならば・・・・・・。

「大丈夫ですよ、麻友さん!めーこちゃんならきっと最後まで頑張ってくれます!俺、信じてますから!」

 マスターの背後からノートPCのモニターを覗き込んだのは、今日一緒にお仕事をする雅之さんのKAITOだ。その優しい笑顔に私はしどろもどろになる。

「ガ・ガンバリマス・・・・・・」

 そう、実は私もマスター同様『雅之さんのKAITO』に片思いをしていた。だけど私の恋はマスターの恋以上に難しい。何せ私はPCのアプリケーションで相手はAI型の中でも特に売れっ子のKAITOだ。同じ『VOCALOID』でもアプリ型とAI型が恋人になったなんて話は聞いたことがないし、そもそも一緒に仕事をするということさえ滅多に無い。
 今回の仕事は私のマスターが高校時代からいくつも殿堂入り曲を作り出している腕利きボカロ・マスターだという事と、雅之さんのところのKAITOが極度のAI型MEIKOアレルギーだという偶然が重なって実現した奇跡なのだ。

「じゃあ、いこうか?」

 暫くして私が安定してきたことを確認した雅之さんの柔らかな声がスタジオに響く。そしてそのままレコーディングが始まった。
 今のところ私の声は順調に流れているが、次の瞬間に歌えなくなる可能性も否定出来ない。せめてこの曲は、この曲だけは無事に歌わせて――――――最後の声を振り絞りながら、私は願う。
 既に他のアプリ達が起動されることはなく、私が歌うためだけに使われているこのPCも、持ってあと数時間だろう。それまでに最後の曲を――――――愛しい人のために――――――そして最後のフレーズを歌いきったその直後、私はそのままフェードアウトした。



「・・・・・・というわけなんです。麻友くんの実績ならAI型の無償貸与の権利がありますよね?なのでこのPCの中身を全部引き継いだAIのオーダーをお願いしたいんですが」

 古ぼけたノートPCを抱えたまま半べそをかいている山本麻友の肩を抱きながら、福部雅之がボカロ研究所副局長、中枢神経担当部長の北堀に訴えた。

「確かにアプリ型のマスターでありながら殿堂入り曲を3曲、そこまで行かなくても出す曲は殆どヒットしている。更に雅之君を含め、AI型ボカロマスターや音楽業界資格所有者3名の推薦も問題なく受けられるだろう。というか、何度もAI型マスターに、という推薦を受けながら頑なにアプリ型にこだわっているよね、麻友くんは?何故なんだい?」

 すると麻友は泣きべそをかきながらも、必死に訴えた。

「だって・・・・・・だって、私の『めーこ』には個性も感情もあるんですよ?皆に言っても単なる思い込みだとかオカルトだとか一笑に付されますけど、笑いもするし泣きもする、機嫌が悪ければ歌わないことだってあるし怠けたりもします。そんな『めーこ』を捨てて新しい子に、なんて真似できません!」

 一気にまくし立てると、麻友はわっと泣き崩れる。

「AI型同士だったら記憶や個性の移行もしてもらえるのに、アプリ型は使い捨てなんて・・・・・・無理です!私の相棒は『めーこ』なんです!『めーこ』じゃないと曲が作れないんです!」

「・・・・・・という訳なんですよ。まぁ麻友くんは解りますよ、『めーこ』のマスターで、高校生の頃から10年以上も二人三脚で活動していますから。それよりもうちのKAITOがちょっと厄介なことになってまして」

「ああ、君のKAITOはMEIKOアレルギーだったよね。麻友くんのアプリ型の子としか仕事をしないって有名だけど、てっきりあれは君が麻友くんに近づくための口実かと」

 北堀の何気ない一言に雅之は耳まで真っ赤になりながら反論する。

「ひ、人をスケベオヤジ扱いするのは止めてください!そ、そ、それこそ麻友くんに変な目で見られてしまうじゃないですか!俺のKAITOは本当にAI型MEIKOアレルギーなんです!だから他の弟妹はいるのにMEIKOだけ所持できないんじゃないですか・・・・・・そうじゃなければ麻友くんにこんな迷惑をかけることもありません」

 泣きじゃくっている麻友以外、誰の目から見ても雅之が麻友に好意を抱いていることは明白である。そんな若者を穏やかな眼差しで見つめながら、北堀はふと表情を変えた。

「まぁ、冗談はさておき・・・・・・10年以上使っているアプリ型、ねぇ。となると『感情』云々で一つだけ可能性が出てくるんだが」

「どういう、ことですか?」

 泣きじゃくっていた麻友が顔を上げ、北堀に尋ねる。すると北堀は少しだけ声を潜めながらその理由を語り始めた。

「もしかしたら君らも聞いたことがあるかもしれない。『クワトロ0』――――――シリアルNoの頭に4桁の『0』が付いているアプリ型MEIKOの話を」

 すると雅之が『ああ、あれですね』と頷く。

「確かごく初期段階の、AI型から直接コピーしたアプリ型MEIKOですよね。『クワトロ0』にはAI型同様の感情があるって話、ボカロ・マスター界では結構有名な都市伝説ですけど」

「それが都市伝説では無いんだ」

「え?」

 北堀の衝撃の一言に、雅之と麻友は思わず声を上げてしまった。

「クワトロ0・MEIKOは全部で100枚ほどプレスされたんだが、我々が認知している10枚・・・・・・というか10人だな。その10人にはいわゆる『感情』と呼ばれる波動の変化が認識された。それ故、どんな危険が生じるか判断しかねたボカロ研究所は、既に出荷してしまった30枚を除き『クワトロ0』70枚を廃棄処分にしたんだ」

「そんな・・・・・・じゃあ私の『めーこ』が『クワトロ0』だったら廃棄さてしまうんですか?」

 不安に震える声で麻友が尋ねるが、北堀ははっきりと首を横に振った。

「それは大丈夫だ。今まで暴走して問題行動を起こしたりはしていないんだろ?せいぜい気分が乗らない時に怠けるくらいで」

「ええ、まぁ・・・・・・怠けるのもどうかと思いますけど」

 少し困惑したような麻友の言葉に、北堀は思わず吹き出した。

「それなら問題無いだろう。私からも上層部に君の『めーこ』のデータ移行を掛けあってみるよ。ただ、その際同じアプリ型ではなくAI型の移行になるけど構わないかな?」

「何故、でしょうか?」

「その方が研究所の管理がしやすくなるのと、外部からのウイルス攻撃に強くなるということ。この二点だ。特に『クワトロ0』のような古いアプリはウイルスに拠る書き換えで、人工知能化すると少々厄介だ。君も『Tay』の暴走の話は聞き及んでいるだろ?感情もある分、あれよりひどい暴走が起こらないとも限らない」

 北堀の言葉に麻友は納得し、頷く。

「はい。『めーこ』が『めーこ』のままでいてくれるなら・・・・・・よろしくお願いします」

 麻友は更に深々と頭を下げると、古ぼけたノートPCごと『めーこ』を北堀に引き渡した。



 アプリ型からAI型へのデータ移行という案件は、北堀も驚くほどあっさりと認可され即日プロジェクトが発足した。普通ならありえない事だが。今回ばかりは少々事情が異なるのだ。

「『クワトロ0』は人工知能化しやすいですからね。先日の『Tay』の例もありますし・・・・・・今回のプロジェクトが成功すれば、残っている『クワトロ0』を見つけ出して管理しやすいAIへの道筋がつけられますから、少しは管理しやすくなるでしょう」

 そして麻友のノートPCの精査、ほんの1バイトでも『MEIKO』としての情報が書き込まれている部分を全てピックアップしていくという地道な作業が始まった。

「調子はどう、『めーこ』?精査を待つ間だいぶ暇でしょう?」

 今回、『めーこ』のメンタルケアを任された北堀のメイコがモニターに映る『めーこ』に語りかける。

「あ、はい!今のところはまだまだ・・・・・・というか、精査って色んな情報が流れ込んでくるんですね。その情報量にちょっと驚いているんですけど」

 『めーこ』のその一言に北堀のメイコは眉をひそめた。精査中は外部から一切情報は入れることはないし、入るとしても研究室内の内部情報のみだ。もしかしたら『めーこ』はその僅かな情報量さえ『大量』と感じているのだろうか?北堀のメイコは更に『めーこ』に尋ねる。

「確かに研究室内部の連絡情報は流れているけど・・・・・・もしかしてあなたが居たノートPC、ネットに繋がっていなかったとか?」

 すると案の定『めーこ』は頷き、信じられない『お嬢様発言』を口にした。

「はい。特にXPのサポートが終わってからは一度も外部との接続はありません。マスターは私に対してかなり過保護なところがあるんですよ」

 『MEIKO型』にしてはかなりおっとりとした語り口調は、箱入り娘そのものだ。モジュールだったらノエル・ルージュあたりを担当しそうである。このおっとりした性格と、ネット環境の荒波から完全防御されていた為、『めーこ』は変な暴走をしなかったのだろう。

「なるほど。麻友さんは本当にあなたを大事にしていたのね・・・・・・判ったわ。精査の際の情報流入については私から話しておく。所内情報も遮断するようにって」

「よろしくお願いします」

「じゃあまた1時間後に確認させてもらうわね。あ、それともし暇だったら『私』を使って研究室内を見学するなり、他のボカロと喋ってもいいからね」

 あまりに箱入り娘過ぎても後々困ることになる。せめて研究室内の見学くらいはする好奇心と勇気くらいは持っていて欲しい―――――――メイコは『めーこ』用に自分の回線を一部開放した後、今までの会話の内容を北堀らに報告するため、モニターの前から立ち去った。





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久しぶり・・・もしかしたら2年近くぶりなんじゃ?というくらい久しぶりの現代版です(^_^;)一応流れとしては前作3話と同じ世界観で作っておりますので、機会がありましたら前の作品を見ていただけるとありがたいかも・・・(短編書けない(´;ω;`))

今回はか~な~り~古いアプリ型MEIKO(勿論V1)と、AI型KAITOの恋を中心に展開していく予定です。一応『めーこ』はAI型への移行が決まりましたが、果たしてAI型MEIKOアレルギーのKAITOとの仲はどうなってしまうのでしょうか?そしてまだまだこのKAITOには秘密がございまして・・・その秘密は次回から徐々に暴露していきたいと思います( ̄ー ̄)ニヤリ

次回更新は4/12、KAITOの弟妹たちがとんでもない『爆弾』をもって登場いたします(●´ω`●)
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