「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第九章

夏虫~新選組異聞~ 第九章 第二十三話・それぞれの進む道・其の参

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 沖田と別れた土方は、島田ら江戸で諜報に当たっていた島田ら複数の隊士と今戸八幡にて合流、小梅村へ向かった。そこには幕府伝習隊第二大体が駐屯していると勝海舟から聞かされている。そして伝習隊を頼って多くの幕府軍の兵士が合流している場所でもあった。

「大鳥さんはまだ江戸城からこちらに戻って来ていないようです。どうやら帰還は今夜になるとか」

 伝習隊への使者として遣わした中島登が渋い表情を浮かべながら土方に報告する。だが、土方は特に気にした風もない。

「じゃあ、今夜面会できるよう手配してくれ。どうせ勝さんからの紹介状を渡すだけだ。大した話をするわけじゃねぇし」

 取り敢えず勝からの紹介状を渡しておけば、旧幕府軍の集団から弾き出されることはないだろう。その程度にしか思っていなかった土方だが、この面会が土方の運命を大きく変えることとなる。



 その日の夜、大鳥が伝習隊屯所に帰ってきた。土方は大鳥と面会し、直接勝からの紹介状を大鳥に手渡した。その紹介状に目を通したあと、大鳥はニッコリと土方に微笑みかける。

「なるほどね。要は『たらいまわし』って奴だね。勝さんは面倒な事をすぐに人に押し付けるからなぁ」

 幕府陸軍最高幹部の一人である歩兵奉行とは思えぬ、妙に人当たりのよいおっとりした口調に土方は一瞬不安を覚える。

「大方勝さんは『伝習隊の兵を使って、てめぇで近藤を取り返してこい!』って言ったんでしょう?僕が勝さんの知遇を得ていた時からそんな感じの人だったから」

「あ、あんた勝海舟の家臣だったのか?」

 思いがけない大鳥の告白に対し腰を浮かす土方に、大鳥は首を横に降って否定した。

「いや、違いますよ。僕は元々武士じゃなく、医者の息子ですから。というか、僕も一応医者の端くれなんですけどね・・・・・・でも一時期、西洋兵法を学んでいた時、勝さんから知行を得ていたんです」

 どうやらこのおっとりした、聞きようによっては人を喰ったような大鳥の話し方は『医者』という出自のせいらしい。そんな大鳥が、更に不可思議なことを口にする――――――その状況に、土方は更に混乱する。

「何の因果か今は歩兵奉行なんて地位に就いていますけど、元々僕は幕臣じゃない。新選組と同じく、にっちもさっちもいかない状況で幕臣に取り立てられた口です。だから自らをそんなに卑下することはないですよ、土方くん」

「・・・・・・なるほどね。どうやらあんたも俺達同様厄介事を押し付けられやすい質のようだ」

「そう理解してくれて構いません。ところで近藤くんの奪還の件だけど・・・・・・」

 大鳥は一瞬間をおいた後に己の考えを口にする。

「取り敢えず、宇都宮を手に入れ足場を固めてからでいいかな?」

 その瞬間、土方の眉間に皺が深く刻まれる。

「今すぐじゃまずいのか?」

「そもそもどこに拘束されれているか判らないでしょう?当てでもあるんですか?」

 大鳥の指摘に、土方はぐうの音も出ない。確かに今近藤がどこに囚われているのか、確たることは全く判らない。

「そこへ無闇矢鱈と兵を送り込んでも疲弊するだけです。情報収集は僕の部下にやってもらうから、分かり次第近藤くんの奪還に向かえばいい。こちらにとって兵力的にはともかく、『近藤勇』という駒が向こうにあるのはいただけないしね」

「その心は?」

「新選組局長の処断――――――朝廷の後ろ盾を得た薩長のちからを誇示するのに、これほど判りやすく効果的な方法はないでしょう?五歳の子供でもその意味を・・・・・・幕府の凋落と、薩長の勢いを思い知らされてしまう。幕府陸軍としてはそれを絶対に阻止したいところだけど」

「なるほど。俺達とあんたらの利害は一致する、ということか」

 頷く土方に、大鳥は更に言葉を重ねてゆく。

「利害の一致はまだありますよ。宇都宮を奪還する際、戦う相手は香川敬三率いる東山道軍の一部・・・・・・君らを包囲した相手だ。そして一番近藤くんの居場所を知っていると思われる相手でもある。何せ捕縛した張本人だからね。何なら君自身の手で捕縛して近藤くんの居場所を聞き出せば一番手っ取り早いんじゃないかな。少なくとも気分屋の勝さんに助命嘆願を頼むよりは遥かにマシです」

 大鳥の理論的な推測に土方は納得する。

(この男の下に付いていればもしかした近藤さんを助けることができるかもしれない)

 しかも助命嘆願を待つのではなく、自ら攻め入って、である。近藤救出にようやく一筋の光を見出した土方は、その口の端に微かな笑みを浮かべた。



 翌日、市川・大林院にて旧幕府軍の評議が行われた。そして土方は大鳥圭介の推薦により第一大隊参謀に抜擢される。周囲は勿論のことだが、一番驚いたのは土方本人である。だが大鳥は相も変わらずおっとりした口調でその理由を述べた。

「先鋒隊はいきなり敵に出くわす危険が一番大きい。その際、瞬時の判断がモノを言うだろう?新撰組副長として実戦を一番多く経験している土方くんが、この中で最も危険を回避したり対応できる能力が高いと思うんだが」

 劣勢の中、身分云々で話を進めている余裕はないと、大鳥はのんびりした口調で言い切り、その言葉に全員が納得した。そんな評議の後、仲間の元に帰ってきた土方を待ち受けていたのは意外な人物たちの話であった。

「土方副長!実は先程永倉さん達を見かけたんですけど・・・・・・」

 土方の顔を見るなり、島田が勢い込んで喋り始める。。

「原田さんの姿がどこにも見当たらないんです!おかしくないですか?」

 だが、土方は敢えておどけた口調で、口角泡を飛ばす島田を宥める。

「アイツの事だ。変なもん食い散らかして腹でも壊しているんだろうよ。厠にこもりっきりで他の隊士に迷惑をかけたとか、京都でもたまにあっただろうが」

「それがどうも違うようでして」

 島田の援護をするように、次に口を開いたのは畠山芳次郎であった。

「永倉さんに聞いたら、ここ最近靖共隊の皆とは別行動を取ることが多いらしいんです。どうも肌が合わないらしくって・・・・・・何となく判るような気はするんですけどね」

「どういうことだ?おめぇの感じたまま喋ってみろ」

 この場にいる者達は江戸で諜報活動を行ってきた者達である。新選組の中でも特に勘の鋭いものが集まっている。それだけに彼らが『感じたもの』は貴重な情報源でもあるのだ。そんな土方の促しに、畠山は慎重に答えた。

「永倉さんは松前藩江戸定府取次役の息子だし、他の幹部連中も旗本だったり諸藩の重職の息子だったりするんですよね。平の隊士でも生まれつきの幕臣がほとんどですし・・・・・・その中だと原田さんは少々息苦しさを感じてしまうんじゃないかと。ほんの少しだけ、当り障りのない会話をしただけでも『おや?』って思わせるところがありましたしね」

「新選組の時は、本当に身分も出自も全く関係なく、実力だけでしたからね」

 島田の呟きに皆が頷いたその時である。土方の目の端に原田らしき人影が掠めたのである。

「おい、左之助!!」

 土方は思わず走りだし、原田の腕を掴んだ。

「ひ、土方さん?あんたもここにきたのか!てぇことは新選組の皆もここに?」

 無邪気な子供のような、嬉しげな笑みを浮かべ原田が尋ねる。

「いいや、皆は先に会津に向かわせた。俺は・・・・・・近藤さんの助命嘆願のために江戸に残って、その流れでここにいる」

「近藤さんの、助命嘆願・・・・・・?どういうことだよ、土方さん!」

「おめぇたちと袂を分かった後、流山で敵軍に包囲された。そこで皆を逃がす時間を作るためと、近藤さんが切腹するのを防ぐために投降させたんだ」

「なっ・・・・・・で、近藤さんはどこに!」

「はっきりしたことは判らねぇ。一応江戸に残っている総司に探索を頼んじゃいるが」

「冗談じゃねぇ!幾ら総司が近藤さんの一番弟子だからって、あの身体で探索に耐えられるはずがねぇじゃねぇか!俺が江戸に戻って、近藤さんを見つけ出す!」

「おい、待てイノシシ野郎!!靖共隊の連中はどうするんだ!」

「・・・・・・それ、なんだよなぁ」

 何とも複雑な表情を浮かべ、原田は項垂れる。

「どうもあいつらとはソリが合わねぇ、っていうか・・・・・・京都は楽しかったよな。昔の身分も何も関係なく、不逞浪士をやっつけてりゃそれで済んでたのに」

 何かを思い出すような、遠い視線を浮かべつつ、原田は頭を上げた。その目には薄っすらと涙が滲んでいる。

「おまさや茂、元気でやっているかなぁ・・・・・・すまねぇ、なんか里心がついちまったみてぇだ」

 原田は乱暴に拳で目をこすると、改めて土方に笑顔を向けた。

「・・・・・・てめぇの道はてめぇで決めるから、変な心配はしねぇでくれよ!」

 心配そうに自分を見つめる土方にそう告げると、原田はくるりと踵を返す。

「じゃあ、土方さん。皆によろしく伝えておいてくれよ!」

 振り向きもせぬまま土方に言い残すと、原田はそのまま土方の目の前から立ち去った。


 土方とのこの会話が原田に何かを決心させたのだろうか――――――この二日後、原田左之助は山崎宿にて靖共隊と袂を分かち、江戸へと引き返す事となる。



UP DATE 2016.4.2

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旧幕府軍と合流した土方達ですが、大鳥によって思わぬ大抜擢を受けてしまいました/(^o^)\たぶん一番驚いていたのは本人じゃないかと思うのですが、ある意味それだけ切羽詰まっていたのでしょうねぇ(^_^;)
そしてこれ以後、土方は新選組だけではなく、旧幕府軍全体を見ていかなくてはならなくなります。というか新選組が土方の手から離れていかざるを得なくなるというか・・・こればかりは仕方ありません(´・ω・`)

その一方、新選組と袂を分かった永倉&原田が更に別れようとしています。本来土方と靖共隊は入れ違いだったらしいのですが、話の展開上一瞬だけ同じ場所にいたことにしてしまいました(^_^;)
何故原田が江戸に戻ってしまったのか・・・その理由は未だ解りません。家族が恋しければそのまま京都に戻ることも出来たでしょう。それなのにわざわざ江戸に戻るとは・・・いろいろな説がありますが、拙作では局長奪還に左之助にも動いてもらうことにしてもらいました。

次回更新は4/9、左之助の江戸行き&彰義隊入隊を書かせていただきます(*^_^*)
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