「短編小説」
横浜芸妓とヒモ男

横浜芸妓とヒモ男・其の肆~花見弁当と大商人

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 ふわり、ふわりと桜の花びらが風にのって飛んでゆく。春のうららかな日差しの中、お鉄と仙吉は野毛山をのんびり登っていた。そこにはある豪商の妾となっているお鉄の先輩芸者・おちょうが住んでいる寮がある。今日は二人しておちょうに呼ばれ、花見をするのだ。

「それにしても大丈夫なのかい?お鉄だけならまだしも、男の俺が飛ぶ鳥を落とす勢いの野沢屋惣兵衛の寮に入り込んで」

「大丈夫大丈夫。野沢屋ほどの御大尽、そんなチンケなことは言わないさ。それにおちょう姐さんはあんたの花見弁当を楽しみにしているんだからそれを裏切っちゃあいけないよ」

 お鉄の一言に仙吉は苦笑いを浮かべた。去年、お鉄に花見弁当を持たせ一人姉分の所に送ったのだが、それがえらくお気に召したらしい。五人分の弁当と仙吉の来訪を求められたのである。

「おちょう姐さんはあたしの不器用さを知っているからね。一体どんな奴があんな繊細な包丁使いをするのか、顔が見てみたいんだろ」

「そんなもんかねぇ。まぁ、俺はお鉄の昔のことをおちょうさんに聞けるかも知れないから楽しみだけどさ・・・・・・でも五人分は多すぎやしないかい?」

「もしかしたら夜の分も、ってことじゃないかね。野沢屋の旦那とおちょう姐さんの夜の分で五人前、それでちょうどいいじゃないか」

 そうこうしているうちに二人はおちょうの寮に到着した。すると先客がいるらしく、中から談笑が聞こえてきたのだ。

「どうやらその弁当は先に来ていらっしゃる方の分も、てことのようだね。あっちらを仕出し屋代わりにして、あとでしっかり御代でもいただかないと」

「まぁまぁ、良いじゃないか。場所は提供してもらうんだから」

 お鉄をなだめつつ、仙吉は中に声をかける。すると中から一人の男が出てきた。

「おう、お鉄か。久し振りだね。隣りにいるのが噂の仙吉さんかね?」

「「の、野沢屋の旦那?!」」

 出てきた男の顔を見るなり、お鉄と仙吉は大声を上げてしまう。

「ま、まさか旦那自らお出迎えとは・・・・・・」

「気にするな。ここは俺の寮だ。女達がおしゃべりに忙しいんでな・・・・・・そうそう、今日は女房のお春も来ているからかなり賑やかだぞ」

 そう言いながら野沢屋の旦那――――――茂木惣兵衛は二人を促し、女達の声が響く部屋へと案内した。するとそこにはおちょうとお春、そしておちょうが昨年産んだ赤子がいた。本妻と妾が仲良く席を同じにしている事は他所では滅多に見ることは出来ないが、本妻のお春も遊女上がりということもあり、この二人は仲が良いらしい。その旨はおちょうを通してお鉄も聞いていたが、まさか今日来るとは思わなかった。

「こんにちは、お待たせしました」

 お鉄と仙吉は女達に挨拶をする。そして早速弁当を広げた。

「わぁ、素敵ねぇ」

 まるで娘のような歓声を上げたのはお春である。そしてその声に同調するようにおちょうや茂木が弁当の中身を覗き込んだ。
 仙吉の作った花見弁当の中身は決して高価なものではないけど季節の彩りに満ちた豪勢なものである。蛸のさくら煮に唐の芋、蒸鰈、田螺の味噌和え、木の芽和え、玉づきごぼうに木耳の旨煮、更には嫁菜や土筆のお浸しに焼きむすびと、どれも女性の口に合わせた小ささに作られており、仙吉の気遣いが随所に感じられた。

「おお、田螺か!子供の頃はよく食べたんだが、料亭は勿論、うちの料理人も出してくれなくてね」

 茂木は真っ先に箸を伸ばし、田螺の味噌和えを口に運ぶ。どうやら田螺が好物らしい。

「桜鯛やわたかまぼこには飽きた、って言って残すのに。そんな贅沢な舌の人が真っ先に田螺に食らいつきますか」

 おちょうの愚痴をお春がつなぐ。

「そうそう。子供の頃に食べた素朴なものが食べたい、っていつも駄々をこねて・・・・・・でも横浜は田圃が殆ど無いでしょ?料理人も仕入れが面倒なものは嫌がって」

 どうやら茂木の食の好みには二人共散々悩まされているらしい。仙吉は頷きながらも口を開く。

「確かにそうかもしれませんね。でも田螺なら仕入れの百姓に一言言えば持ってきてくれますよ?」

「それは本当か?」

 田螺を全て平らげてしまった茂木が身を乗り出して仙吉に尋ねる。

「ええ。田螺なんて田圃に幾らでもいますからね。うちは花見の時にしか食べないんで、野菜のおまけで付けてくれるので事足りちゃってますけど」

「そうか。ならば聞いてみるかな」

 事業を大成功させ、横浜で一、二を争う大商人であるにも拘らず、その気さくで穏やかな人柄で多くの人に好かれている茂木である。その理由は昔を忘れない、こんな食の好みからも来ているのかもしれない。
 花見弁当を中心に歓談が続く春の日の午後、仙吉は茂木の懐の深さを感じずにはいられなかった。



UP DATE 2015.3.30 

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今回の『横浜芸者とヒモ男』、では新たなキャラクターに登場していただきました(`・ω・´)ゞ
今回登場いたしました茂木惣兵衛は原善三郎と並ぶ横浜の大商人なのですが、かなり『いい人』だったらしく、多くの人々に助けられて大成したそうです。更に言えば本妻=遊女、妾=芸者というのも史実でして・・・遊ぶ機会が多かったとは思うのですが、ある意味出会いがそこしか無かったのか(^_^;)それとも見合いなどで押し付けられるよりも、自分で人となりを確認してから妻や妾にしたのか・・・一代で事業を大きくした人なので、もしかしたら『商売人の妻として使える人を』という感じで選んだのかもしれません(*^_^*)

閑話休題、そんな茂木の所に弁当持参でやってきたお鉄と仙吉(〃∇〃)きっと仙吉の弁当が茂木好みだと思ったおちょうが気を利かせたのでしょうね。そしてもしかしたら本妻のお春も同じような味覚の持ち主なのかも・・・料亭の味は料亭の味で美味しいと思いますが、悲しいかな昔の関東人は家庭の味=かつおだし一筋、醤油命!ですからたまにはそういう『家庭の素朴な味』を欲したのでしょう。上手ではあるけど、料亭の味とは違う家庭料理――――そんな仙吉の料理を堪能していただければと思います(*^_^*)

次回拍手文は4/27、今度は
仙吉の裁縫の腕が発揮される『衣替え』の話となります(#^^#)
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