「VOCALOID小説」
見返り美人

見返り美人外伝・櫻花の背徳4

 ←烏のおぼえ書き~其の百三十九・御用絵師 →水引を、添えて持ち込む花ごころ・其の参~天保八年三月の祝言(★)
 海斗達の寝室から抜けだしたリンは、足音を忍ばせ風呂場へと向かった。既に火を落としてしまった風呂はかなりぬるくなっていたが、二人の情事にあてられ火照った身体にはむしろ心地よい。
 バシャバシャと乱暴にかけ湯をした後、リンは石鹸に手を伸ばす。普段は洗った後の突っ張った感じが嫌で避けているものである。だが今日ばかりはその不快感よりも石鹸の洗浄力に頼りたい気持ちのほうが強かった。

「ううっ、気持ち悪い。早く洗おう」

 リンは芽衣子が使っていたのを思い出しつつ石鹸を泡立てると、自らの脚の間に手を伸ばす。そこは今まで経験したことがないほどぬめり、痒みに似ているむずむずとした感覚が纏わりついていた。
 今まで経験したことがないむずむす感とぬめりを追い払おうと、リンは徹底的に股間を洗う。そしてこれでもかとしつこいくらい洗った後、リンはようやく風呂から上がった。洗い過ぎたのか敏感な場所が少しひりひりするが、今のリンにとってそれを気にするどころではない。これから向かう場所――――――レンがいるはずの、自分達の寝室に向かうために、リンは覚悟を決めた。



 石油ランプの下、レンは真新しい教科書を捲っていた。辛うじて試験には受かったものの、自分の学力はまだまだ劣る。せめて入学までには同級生達と肩を並べるくらいにまで学力を上げておきたいと勉強に励むが、しかしその内容は全く入ってこなかった。何故なら今、レンの頭の中を支配しているのはリンことだからである。

(チクショウ・・・・・・何で俺達は姉弟なんだよ!)

 リンは物心ついた頃から一番近くにいた相手であり、いつも一緒に行動していた仲の良い姉弟である。それだからこそ弱い物同士肩を寄せあい、そのまま夫婦になるものだとレンは信じていた。それが貧民街で生き残る術だからだ。
 そして母親の友人でもあり、母親が死んでからは自分達姉弟の面倒を見てくれた芽衣子もレンの気持ちを尊重してくれていた。鮫ヶ橋に流れ着いた直後こそ芽衣子は驚いていたたが、生活事情を知ると共にレンの気持ちを理解してくれるようになっていった。あのまま鮫ヶ橋で生活していれば芽衣子の同意の許、既にリンと夫婦になっていただろう。

 だが、その運命を変えたのは去年末のあの火事だった。海斗に引き取られ、人並み以上の生活を保証されたのと引き換えに、世間一般の常識を――――――リンを諦めることを受け入れなければならなくなったのだ。
 確かにレンにとっては苦しい選択だが、リンにとってはその方が幸せだろう。この三ヶ月で痩せこけていた身体はようやく年頃の少女のような丸みを帯び始め、肌も髪も艶やかさを増している。口さえ開かなけれなまるでビスクドールのような美しさだ、

(姉弟の贔屓目を差し引いてもリンは可愛いから・・・・・・きっと貴族の誰かが嫁に、って言ってくるだろうし、そのほうがリンにとって幸せだ。絶対に俺なんかと一緒になっちゃダメなんだ!)

 だが、そう思えば思うほどリンへの思いは募ってゆく。とうとう勉強を諦め教科書を閉じたその時である。重々しい扉が開き、その向こうから今一番顔を合わせたくない相手――――――リンが現れたのだ。何故このタイミングで・・・・・・レンは動揺を露わにする。

「レン?」

 レンの動揺の表情を怪訝そうに見ながら、リンは一歩部屋の中へ入る。その瞬間、レンは思わず大声を上げてしまった。

「来るな、リン!」

 このまま近づかれては、自分はリンに対して何をしでかすか判らない。それを回避しようと、レンはリンを牽制する。

「寝るんならそのまま隣の部屋の寝台に行け!俺は・・・・・・他の部屋で寝るから!」

 レンは乱暴に言い捨てると椅子から立ち上がる。そしてそのままリンの横を一気にすり抜け、部屋から飛び出そうとしたその瞬間、リンに腕を掴まれた。

「レン、逃げないで」

 その声はいつもとは違った甘さを含んだもの――――――初めて聞く、『女』としてのリンの声だった。その声にレンの動きは硬直する。

「逃げないでよ、レン。そんなにあたしのこと、キライ?」

 悲しげな声で尋ねるリンの声に、レンの決意はあっけなく崩れ去った。部屋を飛び出そうとした脚は止まり、小さな声で呟く。

「・・・・・・そんな訳、ねぇだろ。俺達姉弟なんだしよ」

 自分に言い聞かせるように、敢えて『姉弟』という言葉に力を込めながらレンは改めてリンを見る。そこにはレンを見上げる、今にも泣き出しそうなリンの顔があった。
 涙を滲ませたような潤んだ瞳、ほんのりと上気した桜色の頬、そして何かを言いたげな半開きの濡れた唇――――――そのどれもが、レンの中の『男』を刺激する。

(リンって・・・・・・こんなに小柄だったっけ)

 今まで同じ視線で言葉を交わしていた筈だった。だけどいつのまにレンの身長は伸び、ほんの少しだけリンを見下ろすようになっていた。これからこの身長差はどんどん大きくなってゆくのだろう。
 このまま抱きしめ、今すぐにでも我がものにしてしまいたい衝動と、大事なひとを傷つけては行けないという理性がレンの中でせめぎあう。そんなレンの揺らぎを見透かしたように、リンは口を開いた。

「ううん・・・・・・姉弟じゃなく、男と女としてあたしのこと、好き?」

 思いもしなかったリンの一言に、レンは目を見開く。

「なっ・・・・・・おい、リン!てめっ、自分で何言ってるか解ってるのか?」

「解ってるよ。だって・・・・・・あたし、レンのことが好きだもの。女として」

 そう言うなり、リンはレンの腕を掴んだまま背伸びをし、自らの唇をレンの唇に重ねた。その甘く、柔らかな感触を感じた瞬間、レンは混乱に陥る。

「リ、リン・・・・・・」

 リンの唇が離れた瞬間、レンは思わずリンの名を口にする。だが、そんな混乱に陥っているレンとは対照的に、リンは意外なほど落ち着いた口調で己の気持ちを口にした。

「・・・・・・でもね、レンにはレンの人生がある。これから進学して、警察官や軍人さんになったら、あたしは邪魔になるだけだもん。姉弟で結婚なんてできないし、だから」

 目に涙を浮かべつつ、リンは切なげに訴える。

「今夜だけでいいから・・・・・・抱いて。愛してくれなんて言わないから」

 その瞬間、レンは強くリンを抱きしめた。その強さにリンの息は止まりそうになる。

「れ、レン!苦しいってば!」

 じたばたとレンの腕のなかで暴れるリンだが、そんなことはお構いなしにレンはリンを抱きしめたままその耳許で囁いた。

「お前がいけないんだぞ、リン。俺は・・・・・・お前を傷つけないようにって我慢していたのに」

 レンは呻くように呟くと、リンの顔を覗き込み、その柔らかい唇を貪り始めた。



 西洋ランプの灯りが揺らめく静寂の部屋に、拙い息遣いと子犬が水を飲むような、不器用な濡音が響く。それは懸命ながら不器用なレンの接吻を、リンが必死に受け止めている音だった。

「・・・・・・リン、良いんだな?」

 長い接吻を終えた後、レンはリンの瞳を覗き込みながら念を押す。

「うん。でなきゃ抱いて、なんて言わないよ」

 屈託なく笑うその唇は、先程の接吻によって濡れていた。その唇を軽くぺろり、と舐めるとレンはリンの腰に手を回す。

「じゃあ行こうか」

 リンの気持ちが変わらないうちに、という焦りも少しあるのだろうか。寝台の方を指し示しながらレンはリンを急かし、寝台に腰掛けた。そして再び唇を重ねるが、その接吻は相変わらず下手だ。

「・・・・・・接吻ってこんなに難しかったんだな」

 苦笑交じりのレンの言葉に、リンも深く頷く。

「海斗やめーちゃんはすっごく簡単そうにするのにね。挨拶代わりのも、すっごくいやらしいのも」

「・・・・・・お前、どこで見たんだよ。すっごくいやらしいの、って」

 疑惑混じりの伏目でレンはリンを睨むが、リンはあっけらかんとその答を言ってしまう。

「ん?さっき。あたしが寝ていた横で二人がいちゃいちゃし始めちゃって、その時に見ちゃった」

「寝ていた横って、お前どこで寝てたんだ?」

 極めて嫌な予感に襲われたレンは、低い声でリンを問い詰める。だがそんなレンの声音に動じるリンではない。

「二人の寝台の隅っこ。レンと喧嘩した勢いでめーちゃんに泣き付きにいったらそのまま寝ちゃって」

 悪びれもせずにとんでもないことを言ってのけるリンに、レンは頭痛を覚えた。

「・・・・・・海斗も気の毒だよな。新婚初夜に空気読まねぇ奴に初夜の床にまで押しかけられてよ。尤もあの二人は同居当日から散々いちゃついているけど」

 さすがに寝台にまで押しかけるといったことはないが、レンも二人の情事を興味半分で覗き見ることはある。それは鮫ヶ橋で見慣れたどの情交よりも激しく、濃密なものだ。特に海斗の芽衣子に対する執着は病的なものまで感じさせが、実の姉であるリンを想う自分もまた海斗と同類なのかもしれないとレンは思う。

「リン、本当に良いんだな?嫌だって言っても止めないぞ」

 最後通告とばかりに生真面目た表情を浮かべるレンの、その鼻先にリンは自らの鼻先をチョコンとくっつける。

「もちろん。レン・・・・・・好きだよ」

 そう言うと、リンの方からレンに唇を重ねてきた。





Back   Next


にほんブログ村 小説ブログへ
INランキング参加中v
こちらはブログ村の小説ランキングにリンクしております。



こちらは画像表示型ランキングですv




・・・まずはレンの名誉のために言っておきます。レンの覗き見は深夜に及ぶ勉強の途中、たまたまトイレに行った際に聞こえてきた『あの声』に、思わず鍵穴を覗き込んでしまったというささやかなものだったと思われます。あと拙宅カイメイは設定などんなものであれ、思いが通じ合ったらところかまわずいちゃつくと思われますのでチューくらいは日常的に見せつけられているんじゃないかと(^_^;)
でもまだまだレン君のキスは下手なようです/(^o^)\

許されない関係とはいえ互いの想いが通じあった二人、ここから二人の背徳の関係が始まります。それが苦悩をもたらすのか至福をもたらすのか・・・もしかしたらその両方かもしれません。金色の天使が共に堕天する様、次回をお街くださいませm(_ _)m
関連記事
スポンサーサイト

 関連もくじ一覧 ▼ 
総もくじ 3kaku_s_L.png vague~道場主・作間駿次郎顛末記
総もくじ 3kaku_s_L.png 夏虫~新選組異聞~
総もくじ 3kaku_s_L.png 紅柊(R-15~大人向け)
総もくじ 3kaku_s_L.png 葵と杏葉
総もくじ 3kaku_s_L.png 横浜慕情(大人向け)
総もくじ 3kaku_s_L.png 短編小説
総もくじ 3kaku_s_L.png VOCALOID小説
総もくじ 3kaku_s_L.png 雑  記
総もくじ  3kaku_s_L.png vague~道場主・作間駿次郎顛末記
総もくじ  3kaku_s_L.png 夏虫~新選組異聞~
総もくじ  3kaku_s_L.png 紅柊(R-15~大人向け)
総もくじ  3kaku_s_L.png 葵と杏葉
総もくじ  3kaku_s_L.png 横浜慕情(大人向け)
総もくじ  3kaku_s_L.png 短編小説
総もくじ  3kaku_s_L.png VOCALOID小説
総もくじ  3kaku_s_L.png 雑  記
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
【烏のおぼえ書き~其の百三十九・御用絵師】へ  【水引を、添えて持ち込む花ごころ・其の参~天保八年三月の祝言(★)】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【烏のおぼえ書き~其の百三十九・御用絵師】へ
  • 【水引を、添えて持ち込む花ごころ・其の参~天保八年三月の祝言(★)】へ