「VOCALOID小説」
見返り美人

見返り美人外伝・櫻花の背徳1

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 それは海斗と芽衣子、二人の運命的な再会から一ヶ月後の事だった――――――。


 彼岸桜が咲き誇る3月下旬、親族とごく親しい友人だけのささやかな披露宴が海斗の屋敷で行われた。大蔵次官の息子とはいえ海斗は庶子であるということ、そして一時的にとは言え最下層の貧民街にまで身を落としていた芽衣子だということが大きな理由だ。
 しかし、出席者を絞っただに二人の結婚を心の底から祝ってくれる者ばかりが集まり、小さいながら素晴らしい宴になっていた。

「でも良かったぁ。お兄ちゃんがなかなか結婚してくれないから、後がつかえてて困ってたんだよねぇ」

 薔薇色のシャンパンを口にしながらミクは嬉しげにはしゃぐ。自分に遠慮をしてなかなか結婚をしなかった兄を心の底から心配していたのだろう。芽衣子という生涯の伴侶を得た海斗を心から祝福する。

「そうですわね。ミクさんにも縁談のお話は来ていますものね」

 口を挟んできたのはルカだった。そんなルカも葡萄酒の酔いで頬を桜色に染めている。

「お姉さまも無事に嫁いで・・・・・・この美しいお姿、紅葉伯母様に見ていただきたかったですわ」

 既に鬼籍に入った芽衣子の母親の名を口にし、ルカは涙ぐむ。そんなルカの肩を隣りにいたがくぽがそっと抱き寄せた。

「そうね・・・・・・そういえば18歳の頃からお墓参りも行ってないな」

 騙されて遊女屋に売られ、生きるか死ぬかギリギリの日々を暮らしていた芽衣子に両親の墓参りに行くという余裕があろうはずもない。ぽつりと呟いた芽衣子の一言に、今まで一緒に暮らしてきたリンとレンが同意するように頷いた。そんな三人の姿に、海斗が一つの提案を出す。

「じゃあ明日にでもめーちゃんの両親へのご挨拶に行こうか。丁度お彼岸だし」

 だが、その提案に真っ先に異を唱えたのは何と芽衣子だった。

「ちょっと海斗、あんた仕事は?今日だってズル休みしたでしょ?」

「やだなぁ、ずる休みなんて人聞きの悪い。今日、明日はちゃ~んと休みを取ってあるよ。そもそも新婚初夜の翌日に出勤してもまともに仕事なんてできないしさ。上司も理解をしてくれたよ」

 生真面目を売りにする警察官とは思えぬ一言を、海斗はけろりと言ってのける。そんな良人に芽衣子は軽い目眩を覚えた。

「大丈夫なの・・・・・・日本の警察って」

 それに同調したのか、その場に居た女性陣も疑わしげに海斗を見つめる。その刺さるような視線など気にする風もなく、海斗はヘラヘラと言葉を続けた。

「大丈夫大丈夫。普段はまじめに働いているからさ。でもそれを信じてくれているのは俺の手伝いをしてくれているレンくらいかな。あ、でも進学での下宿先に行ったら俺との差がばれちゃうな。先輩、仕事人間だし・・・・・・」

 海斗がレンに語りかけたその瞬間である。パリン、と硝子が砕け散る激しい音と共に橙色の飛沫が皆に弾け飛ぶ。リンが手にしていたグラスを落とし、中に入っていた蜜柑の果汁が飛び散ったのだ。

「リン?大丈夫?」

 自らのドレスの汚れを気にすること無く、芽衣子はリンに近寄り抱きしめる。だがリンは抱きしめてくれる芽衣子の肩越しに厳しい視線を海斗と、そしてレンに向けた。

「ねぇ、海斗。レンが下宿って・・・・・・それ本当のこと?あたし、レンから何も聞いてないよ!」

 その瞬間、海斗はしまったとばかりに気まずそうな表情を露わにし、レンと視線を交わす。

「ごめん、リン。まだレンから何も聞いていなかったんだね?実は尋常中学校の編入試験にレンが受かってさ。この春から通うことになったんだ。俺の先輩の家で下宿しながら・・・・・・」

「うそ!」

 海斗の説明を遮り、リンが悲鳴にも似た叫びを上げる。だが、そんなヒステリックなリンを嗜めたのは、その元凶でもあるレンだった。

「リン・・・・・・男がいつまでも甘ったれた夢を見ているわけにゃいかないんだよ。俺みたいな貧民街育ちが中学校に行けるなんて機会、本来ならありえないんだから」

 小学校でさえろくに行っていなかった姉弟である。幸い芽衣子から読み書きを習うことが出来たために小学校卒業程度の知識を得ていたが、それでも中学校に進学できる機会は絶対無いものだと諦めていた。それが海斗と知り合い、その口利きによって未来が開けたのだ。
 レンにとってまたとない機会であり、それを逃すわけには行かないとレンはリンを説得するが、リンはただ首を横に振るだけだった。

「そんなの知らない!レンの馬鹿!」

 リンは大声で叫ぶと、芽衣子の腕を振り切り、部屋を飛び出す。

「リン!」

 慌てて芽衣子が追いかけようとするが、それを止めたのは義理の妹になったばかりのミクだった。

「芽衣子さんはここにいて!私が追いかけるから」

 双子の姉弟とミクはまるで実の姉弟のように仲が良い。この場は自分が行くほうが丸く収まるからと言い残すと、ミクはリンを追いかけ部屋を出て行った。

「・・・・・・ごめん、レン。てっきりもう言っているものとばかり思ってた」

 ミクが部屋を出て行った後、海斗がレンに謝る。

「いいや。俺が今までリンに言わなかったのもいけなかったし――――――と言うか、ぎりぎりまで言わないで、思いきって別れた方が・・・・・・未練が残らないかな、って」

 未練、という言葉に苦さを含んだレンに対し、芽衣子は悲しげな目をして頷く。

「あなたがそう決めたのなら・・・・・・後悔はしないわね、レン?」

 芽衣子は何かを知っているのだろうか。神妙な面持ちでレンに念を押す。

「・・・・・・ああ。俺達は姉弟なんだから、いつかは・・・・・・別れなきゃならないんだ」

 自分に言い聞かせるように決意を口にするレンだったが、その声はまるで失恋をした少年のように苦しげだった。



 結局海斗と芽衣子の披露宴は、その騒動がきっかけでお開きとなった。元々ごく身近な家族だけの披露宴だったので、『こんなこともあるよね』と皆理解してくれたのだが、問題はその後――――――新婚初夜の寝床で起こっていたのである。

「・・・・・・ねぇ、リンちゃん。他にも部屋はいっぱいあるんだけどなぁ」

 恨めしそうに海斗が呟く。その視線の先には寝間着の芽衣子の背中と、泣きじゃくりながらも芽衣子にベッタリくっつき離れようとしないリンがいた。

「だって・・・・・・ひっく、ひとりじゃ・・・・・・こわいっ、えぐっ」

 鼻水をすすりながらリンは海斗の訴えを却下し、更に芽衣子にしがみつく。どうやら今夜はこのまま過ごす気でいるらしい――――――海斗は諦観の溜息を吐いた。
 普段は一緒に寝起きしているリンとレンだが、さすがにあのような騒動の直後ではバツが悪いのだろう。二人が部屋に入る直前になってリンが芽衣子に――――――というか、新婚初夜の二人の褥に押しかけてきたのである。どうやらその少し前では別部屋を用意されかねないと、リンなりに考えた結果だろう。

「・・・・・・ごめんね、海斗。よりによってこんな日に」

 リンの背中を撫でさすりつつ、芽衣子が海斗に振り向いて謝る。

「いや、今夜は仕方ないよ・・・・・・一応新婚初夜ではあるけど」

 一ヶ月前から夫婦同然の生活を送っているとはいえ、やはり初夜は別物だ。その特別な夜をリンに邪魔されてしまっているというのである。

「そう言えば、初めてめーちゃんを買った時もいいところでリンに邪魔されたっけ」

 今夜のことは諦めたのか、海斗は芽衣子の肩越しにそっとリンを覗き込む。当のリンは芽衣子の豊かな胸に顔を埋め、まだ泣いているようだ。その姿はまるで乳飲み子のようである。

「そう言えばそうだったわね。正直あの時は助かった、と思ったけど」

「助かったって・・・・・・それ、どういう意味?」

「ん?あのまま事に及んでたら絶対に海斗に溺れちゃうだろうな、って感じたから」

「へぇ。なかなか落ちてくれなかった娼妓‥椿がそんな風に思ってくれていたとはね。俺も結構やるじゃん」

「あっちこっちの花街で遊び倒してなければあの手管はありえなわよね。その件については後々聞かないといけないかしら」

「あ、いや、その・・・・・・」

 ひそひそとではあるが、ろくでもない大人のやりとりが続く。だがそんな他愛もない会話でもリンにとっては安らぎになったのだろう。いつの間にかリンは眠ってしまったらしく、静かな寝息を立て始めていた。

「やっと落ち着いたみたいね。リンはレンに拒絶されることに慣れていないというか・・・・・・たぶん初めてだったからびっくりしちゃったんでしょう」

 海斗の方に身体の向きを変えながら芽衣子は語る。そんな芽衣子の言葉に海斗も素直に頷いた。

「確かに仲がいいからね、二人は。レンと離れてくらすのも不安なのかもしれないし。だけど不思議なのはレンの下宿なんだよね。ここからでも中学校は通えるのに、レンから『一分一秒が惜しいから、学校の目の前に下宿させてくれ』って言われてさ」

 すると、不意に芽衣子の目が伏し目がちになり、今まで聞いたことのないほど低い声がその唇から零れた。

「レンが下宿を希望した・・・・・・その本当の理由、知りたいの?海斗」

「めぇ・・・・・・ちゃん?」

 明らかに芽衣子は海斗が知らない『何か』を知っている。だが、それを問いただしていいものなのか否か、海斗は一瞬躊躇した。だが、海斗が迷ったその瞬間にも、芽衣子の唇からは衝撃の事実が告げられ続ける。

「レンは、ただ進学の為だけに下宿するわけじゃないわ。リンを・・・・・・傷つけ、汚さないようにするために距離を置こうとしているの」

 芽衣子は上体を起こし、海斗の顔を覗き込む。そして今まで見たことが無いほど妖艶な笑みを浮かべ、海斗に囁きかけてきた。

「ねぇ、知りたい?鮫ヶ橋で生きてきた者達の、本当の闇を・・・・・・」

 芽衣子の手がするりと海斗の頬に滑り込み、魂が吸い込まれそうなほど妖艶な笑みが海斗の目の前に迫る。

「実の弟が、姉を『女』として見ている、獣にも劣る浅ましい欲望・・・・・・それが私達の忌まわしい本性なの」

 その一言に海斗の目が驚きに見開かれる。

「なっ・・・・・・!!」

 だが、海斗の言葉は上から覆いかぶさってきた芽衣子の唇によって奪われてしまった。





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見返り美人本編が終わり、今度はレンリン主役の『櫻花の背徳』を始めさせていただきました(●´ω`●)まぁ今回はあくまでも導入ということで・・・(^_^;)
リンに内緒で下宿を決めてしまったレンですが、どうやら彼なりに悩んだ結果の決断だったようです。その本当の意味を知っているのは芽衣子だけのようですが・・・ラストの部分でちらりと言っている言葉が言ってしまえば要約そのものですね(#^.^#)
レンがリンに抱いている、浅ましい感情とは・・・次回にめーちゃんから海斗により詳しい説明がなされます。寝ているリンの隣でやらかすエッチと共に(おいっ)そういった意味での背徳プレーもお楽しみ下さいませ/(^o^)\
(苦手な方はスルーしちゃってくださいませね。それ程下品にならないように気をつけます^^;)
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