「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第九章

夏虫~新選組異聞~ 第九章 第十七話・無血開城とまつろわぬ者達・其の壹

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 永倉たちとの決別が決定的になったとはいえ、近藤や土方に落ち込んでいる暇はない。敵はすぐそこまで――――――江戸目前にまで迫っているのである。江戸城の噂では官軍の総攻撃は十五日、つまり四日後だとあり、一刻の猶予も許されない。武器の調達、布陣の場所、考えることは沢山ある。だがその前に真っ先にやらねばならないことがある。

「戦える奴らはともかく、戦えねぇ奴らはどうしたものか」

 医学所さえ安全とはいえず、江戸にそのまま放置したままにしておけない。どうしたものかと土方が悩んでいるところに、先程土方の前から立ち去ったばかりの斎藤が息を切らせてやってきた。

「土方さん!今しがた会津からの使者がやってきて、船を出すと言ってきました。その船に二十名程の余裕があるとのことですが・・・・・・怪我人と小姓達を先に江戸から離脱させたほうが良いのでは?」

 珍しく上ずった声で報告をする斎藤だったが、そんな斎藤を土方はぎろり、と睨みつける。

「・・・・・・おいおい、昨日の今日どころか四半刻もしてねぇうちに提案することか?つまりまだモノになりそうな隊士を会津に寄越しやがれ、って言っているようなもんじゃねぇか」

 苛立ちも露わに唸る土方だったが、そんな事に怯む斎藤でもない。眉一つ動かさず、現状を告げる。

「そう取っていただいても構いません。ですが、戦場で足手まといになって、全軍全滅よりは一部でも隊士が残ったほうが良いでしょう。少なくとも幕府の上の方は、江戸を戦場にはしたくないらしいので」

 斎藤の指摘に土方も頷かざるを得なかった。江戸決戦を避けるというのは幕府の大勢であり、それを不服とするものは船橋方面へと続々と集まったり、宇都宮・日光方面へ動き出している者もいると聞く。戦の風は既に更に北へと吹いているのだろう。

「・・・・・・だよな。確かに江戸で大砲をぶっ放されちゃ京都以上の大惨事になるだろうし」

 土方は腕を組み、暫くの間考えこんだ後に斎藤に告げる。

「こちら側の怪我人八名と、『手当人』として乗り込めるギリギリの人員を『先遣隊』として乗船させてくれと会津側に伝えろ―――――――俺達も体勢が整ったら会津に向かうから、と」」

「承知」

 斎藤は短くそう告げると、土方の前から立ち去った。



 斎藤とのやり取りの後、土方は近藤が休んでいる部屋に戻って一部隊士達の会津行きの件を報告した。

「いくさ風は会津に向かって吹いている。少なくとも江戸でドンパチやるべきじゃねぇことはあんただって判るだろ?怪我人を含めた二十名ほどの先遣隊を会津に派遣し、俺達は陸路で会津に向かおうかと思う。だけどそれにゃ少々弾薬が足りなくて」

 土方は船橋にも宇都宮にも立ち寄らず、そのまま真っ直ぐ会津へ行くことを提案する。できれば戦力をそのまま温存し、会津へ向かいたいが途中で偶発的な戦闘に出くわすとも限らない。その時のためにもう少し銃弾を手に入れておきたいところだが、生憎新選組にまで回ってくる銃弾は無かった。

「そうだな、鉄砲は支給されたものの、弾薬は底をついてしまったし・・・・・・譲ってもらえるか心許ない」

 その時である。茶を淹れてきた鉄之助が二人の会話に入ってきた。

「あのぉ・・・・・・弾薬作りならそう難しくあらしまへんえ?」

「はぁ?」

 近藤と土方は素っ頓狂な声を上げる。すると、鉄之助は更に言葉を続ける。

「へぇ、鉛球を作る鋳造場と原料の硝酸や硫黄を作るための人間や鶏の糞は必要やけど、材料さえ揃えてもらえば」

「おい、鉄!おめぇは作り方を知っているんだな?」

 土方は鉄之助の肩を掴み、顔を覗き込む。

「へえ、まぁ・・・・・・そりゃあ職人が作ったものには劣りますけど、鉄砲玉としての役割は・・・・・・」

「だったら必要になるものを書き出せ!俺は取り敢えず糞の手配をしてくる。鶏の糞なら川向うにいきゃあ何とかなるだろう!」

 土方は立ち上がり、近藤に告げる。

「落ち込んでいる暇はねぇぞ!確かに昔からの仲間は袂を分かっちまったが、戦いは続くんだ!あいつらに袂を分かったことを後悔させてやろうぜ!」

 まるで浪士組上洛前のような、生き生きした目で土方は近藤に語りかける。それに煽られ近藤の表情も徐々に明るくなる。

「そうだな・・・・・・勝沼ではやっちまったが、俺達はまだまだやり直せる!今度こそ手柄を立てるぞ!」

「そうこなくっちゃ!」

 悩み考えているよりは、行動に移したほうが断然良い。土方はにやりと笑うと、早速弾薬作りと隊士出立の準備を開始した。



 翌日十二日、怪我人八名を含んだ二十数名が会津の船に乗るために江戸を出立した。その直前、近藤は沖田にも会津に行くよう説得したが、、沖田は困ったような表情を浮かべつつ首を横に振る。

「この体では・・・・・・勝沼の戦いにさえ出向けなかった私が会津に行ったところで戦うことなんて出来ないでしょう。でしたら、少しでも近藤先生のお側にいさせてください」

 静かな、しかし決意を滲ませた目でじっと見つめられると近藤もそれ以上言えなくなりそうになる。だが、陸路での移動に沖田が耐えられるとは思えない。

「総司。お前の気持ちはありがたい。しかし・・・・・・」

 その体で陸路の移動は無理だ――――――近藤がそう言いかけた時である。

「近藤さん、総司には江戸でひと仕事してもらうことになるから会津行の人員に入れなくて構わねぇ」

 突如土方が近藤の言葉を遮ったのである。

「江戸でのひと仕事?」

 土方の一言に、近藤と沖田が怪訝そうな表情を浮かべる。

「おうよ、聞いて驚くな?何と銃弾作りのために銭座の工房が借りられる、ってことになったんだ!いや、まさか鳥の糞よりも早く鋳造所の手配が着くとは思わなかったぜ!」

 幕府が殆ど機能しなくなった今、貨幣作りの工房は無用の長物である。そこを使っても良いと担当者に言われたと、まるで子供のようにはしゃぎながら土方は告げたのだ。その報告に、近藤は満面の笑みを浮かべる。

「そうか!それは良かった!ということは総司が・・・・・・」

「ああ、銭座の方をやってもらう。総司、それで構わねぇな?」

 その時、沖田に語りかける土方の意味深な目配せに、沖田はようやく気がついた。

(ああ、そういうことですね。そもそも言い出しっぺは土方さんですし)

 更に詳細な打ち合わせを始めた土方と近藤の横顔を見ながら、沖田は土方の申し出の『本当の意味』を確信した。。



 会津に行きたくない―――――――近藤の言葉に反射的にそう答えてしまった理由は小夜の存在だった。小夜が江戸に来ているかもしれない。そしてもしかしたら会えるかもしれない。そんな僅かな可能性が沖田の脚を鈍らせていた。
 できることなら小夜に会うために浅草弾左衛門の屋敷に出向きたいところだが、甲州勝沼の戦いで双方に確執が出来てしまっている。新選組側としては八割方敵前逃亡をした弾左衛門配下の腰抜け振りを忌々しく思っているし、弾左衛門側としては殆ど丸腰状態で三十倍もの敵と戦わせた近藤の采配を恨んでいる。新選組から送った、書状を携えた飛脚さえ門前払いを食らったというのだ。そんな状況で新選組幹部である沖田が近づけるはずもない。
 となると、小夜がこちらに来てくれるのを待つしか無いのだが、転戦に転戦を重ねている今の状況ではそれもままならないだろう。
 せめて江戸に滞在していれば、状況が落ち着けば会えるかもしれない――――――そんな僅かな望みに沖田はすがっていた。だが、それさえも会津に向かってしまったら叶わなくなる。

(小夜に会うことは出来ないかもしれませんが、せめて一日でも長く江戸に・・・・・・)

 近藤と土方が話し込んでる部屋から退出した沖田は、和泉橋医学所の庭に出た。彼岸桜の季節が終わり、今は染井吉野が満開だ。春らしくない、澄み切った青空に広がる桜の枝の対比はどこまでも鮮やかで、官軍が江戸のすぐ手前にまで迫っていることを忘れさせてくれる。

「きっと・・・・・・私達はまた出会えますよね」

 何度もすれ違ってはまた逢えたのだ。そして小夜が江戸にまで来てくれているという今、何故か沖田は再び小夜に逢えるだろうという確信に満ちていた。

「その為には、絶対に敵の刃に倒れるわけには行きませんけど」

 微かな―――――――仄かに香る桜の花の香よりも微かな、沖田の生への執着がその瞳に灯った瞬間だった。




UP DATE 2016.2.20

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大変遅くなってしまいましたが、ようやくUUすることができましたε-(´∀`*)ホッ
永倉・原田の離脱のショックも癒えぬまま、新選組は次の行動を強いられております(>_<)少なくとも江戸での戦いは許されておりませんので、皆が移動している千葉・船橋に向かうか、それとも宇都宮方面に向かうか・・・そんな中、土方は更にそれらを飛び越えて会津へ向かおうとしております。離脱した二人への対抗心もあったのかもしれませんが、それ以上に流れが会津決戦に向いていること、そしてそこに行くのに無駄に兵力を消耗したくないというのがあったのかも・・・。

しかし、そこまで行くのに武器が心許ない・・・ということでほんの少し弾薬を調達した後、会津へ向かおうと画策しております。その詳細は次回、その次で書くことになりますが(^_^;)今回はそのさわりだけということでご容赦を(>_<)

次回更新は2/27、硝酸&硫黄の原料である鶏糞&人糞調達のため、五兵衛新田へと向かいます♪
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