「VOCALOID小説」
見返り美人

見返り美人10~借りた胸は確かに

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 大広間から飛び出し、神威家の長い廊下を逃げる芽衣子はパニックに陥っていた。

(何で、何で海斗がこんな所にいるのよ!)

 天上世界の如き貴族社会で、鮫ヶ橋での顔見知りに出会うはずなど無いと油断していた。それだけに海斗と出くわしてしまった衝撃は計り知れない。

(確かにあの物腰から良いところのお坊ちゃんだとは思っていたけど・・・・・・あいつが大蔵次官の息子だったなんて!)

 がくぽからは『今日の見合い相手は大蔵次官の息子』だと聞かされていた。そこにやって来たのが海斗だったのだから、ほぼ間違いないだろう。
 思わぬ場所で再会した驚きと、自分の過去をかなり深く知っている男が貴族社会にいる恐怖が芽衣子を苛む。

(どうしよう、どうしよう、どうしよう!)

 自分の事だけだったら構わない。また鮫ヶ橋に戻ればいいだけの話だ。だが芽衣子の過去が貴族社会に広まってしまったら、ルカやその良人であるがくぽに迷惑がかかる。
 とにかくこの場所から逃げなければ、という本能から大広間を飛び出した芽衣子だったが、履きなれないハイヒールが芽衣子の脚から自由を奪う。
 そして背後からは芽衣子を追いかけてくる海斗の気配が近づいてくる――――――それを感じた瞬間、芽衣子は背後から強く抱きしめられた。

「あっ」

 息が止まるほどの強い抱擁に、芽衣子は小さく叫ぶ。その腕を振り払い、逃げようにも海斗の力は強すぎて振りほどくことなど不可能だ。一体どうなってしまうのか――――――混乱と恐怖に芽衣子の身体は強張り、小刻みに震える。その震えを感じたのか、海斗はほんの少しだけ腕の力を緩め、低く優しい声音で芽衣子に囁いた。

「驚かせてごめん、めーちゃん。だけど・・・・・・怖がらないで」

 その声は鮫ヶ橋に居た時と変わらぬ、穏やかな海斗の声だった。その声を聞いた瞬間、芽衣子の身体から強張りが抜ける。そんな今にも崩れ落ちそうな芽衣子を支えつつ、海斗は芽衣子を振り向かせた。

「何故君がここにいるのか判らないけど―――――――俺はどんな事があっても君の味方だよ。君と、君の大事な人を傷つけたりはしないから、怖がらないで」

 どこまでも芽衣子を慈しんでくれる優しい言葉――――――その言葉を聞いた瞬間、芽衣子は海斗の胸にすがりつき、子供のように泣き出した。



 月明かりが差し込む廊下に芽衣子のくぐもぐった嗚咽が響く。泣きじゃくる芽衣子に胸を貸し、その背中を撫でながら海斗は芽衣子に語りかけた。

「良かった、生きていてくれて・・・・・・あの火事の後、ずっと君を探していたんだ。リンやレンと一緒に」

 リンとレン――――――その名前に芽衣子は反応し、涙に濡れた顔を上げる。

「・・・・・・あの子たちは、無事なの?」

「うん。今は鮫ヶ橋じゃなく俺の家に住んでもらっているけどね。二人共この春から学校に通うことになったんだ。だから三月の終わりまでに君を探さなきゃ、って一生懸命探していたんだけど、まさかこんな近くに居たとはね」

 海斗は自宅が三軒隣だということを付け加えながら、リンとレンの近況を伝えた。その報告に安堵したのか、芽衣子の顔に笑顔が広がった。

「そこまであの子達の面倒を・・・・・・ありがとう」

「ところで、何故君はこの家に?」

 今度は自分が芽衣子の近況を知る番だとばかりに海斗は尋ねる。だがその言葉には微かな嫉妬の色が含まれていた。

「もしかしてがくぽがどこかで君見初めて妾に・・・・・・?」

 その瞬間、芽衣子は思わず吹き出す。

「それは絶対にないわ。だって神威さんはルカにぞっこんだもの・・・・・・実はね、私とルカは従姉妹同士なの。母親が姉妹のね」

 そして避難所になっていた練兵所でルカに会ったこと、更にそこから強引に連れ去られ今現在に至ることも海斗に告げた。

「そうなんだ。意外な繋がりがあったものだね」

 海斗は穏やかな声で囁くと、次の瞬間、背後にずっと感じていた気配に向けて鋭い声を向けた。

「がくぽ。いつまでのぞき見をしているつもりだ?」

 その声の鋭さに芽衣子は驚くが、声をかけられた本人は特に驚いた風もなく二人に近づいてきた。

「のぞき見ではなく、堂々と見ていたつもりだったんだが」

 流石にあれ以上は近づけなかったが、とがくぽは苦笑いを浮かべる。

「どうやら君らには『過去』があるようだね」

 質問、というより確認といった方が正しい問いかけをがくぽは海斗に投げかけた。

「まぁね。多分君らより俺の方がめーちゃんの事を知っていると思うよ。色んな意味で」

 芽衣子を胸に抱きしめたまま海斗は答える。まるでがくぽから芽衣子を護るようなその態度――――――それが全てであろう。

「あの『氷華の君』がたった一人の女性にぞっこんとはね。社交界の独身女性たちの嘆きが聞こえてくるようだ」

 おどけた口調のがくぽに、ここぞとばかりに海斗は『無理難題』をふっかけた。

「解ってくれているなら話は早い。できれば、このままめーちゃんを俺の家に連れて帰りたいところだけど・・・・・・流石にそれは許されないよね?」

「ああ、神威家にもメンツというものがあるんでな。少なくともこの宴が終わるまでは『影の主役』にいてもらわないと」

 俺は構わないがルカが激怒する、と付け加えたがくぽに二人は思わず頷いてしまった。

「本当の主役は君の妻の筈なんだけど・・・・・・どうもこの三人はルカに敵わないようだ」

 海斗はそう呟くと、芽衣子を抱きしめていた腕の力を緩めた。

「宴の主の要請だ。お化粧を直してそろそろ大広間に戻ろうか、めーちゃん」

 その言葉に芽衣子は柔らかく微笑み、小さく頷いた。



 芽衣子の化粧直しを終えてから、二人は大広間に戻った。客は心持ち少なくなってきたようだが、まだまだ盛況だ。

「う~ん、まだ来ていないようだね」

 会場を見回しながら海斗が呟く。その呟きに芽衣子が小首を傾げた。

「まだ来ていない?」

「うん。君がお化粧を直している間に従者に頼んでおいたんだけど・・・・・・あ、来た!」

 嬉しげに海斗が指差す方向に芽衣子も視線をやる。すると開かれた扉の辺りで小さな騒動が起こっていた。

「ねぇ、まずいよ。お貴族様のパーティに私達なんて!」

「それに俺ら普段着だぜ?いくらなんでも失礼すぎるだろ」

 どうやら新たな『客』らしいが、二人共大広間に入るのを嫌がっている。日本人にはあるまじき金褐色の髪と青い目は、外国人だった父親の血を受け継いでおり、まるで生きたビスクドールのようだ。だがその口から吐き出される言葉は正真正銘の日本語で、しかもあまり上品ではない。
 極めて珍しいその姿を会場の客達は物珍しそうに見ているが、ただ一人芽衣子だけは二人に向かって走りだしていた。

「リン!レン!」

 その声に二人は驚きの表情を浮かべる。そして芽衣子の姿を見た瞬間、二人も従者の手を振り払って芽衣子に駆け寄った。

「めーちゃん!!」

 リンが芽衣子に飛びつき、わんわんと泣き出す。一方レンは抱きつきこそしなかったが近くまでやってきて芽衣子の顔をじっと見つめる。

「メイ姉・・・・・・生きてたんだな」

 感慨深げに呟くその姿は、心なしか大人びて見えた。きっとこの一ヶ月の生活がレンを大人びさせたのだろう。

「うん。従妹と偶然出くわしてね。あなた達も海斗の世話になっているんですってね」

「ああ、メイ姉を一緒に探すって事で鮫ヶ橋には戻れずにいる。あ、それと学校にも行くことになっちゃってさ」

 そうは言うものの決して嫌そうではない。きちんと手入れされた髪や肌、そして血色の良い頬が、如何に二人が海斗の許で大事にされているかを物語っていた。

「めーちゃん、海斗と結婚しなよ。絶対にめーちゃんも幸せになれるよ」

 芽衣子に抱きついたままのリンが、芽衣子を見上げながら訴える。そしてレンの方を見れば、レンもリンに同調するように頷いている。

「まったく・・・・・・二人して海斗に籠絡されてどうするの」

 そう言いつつも芽衣子も悪い気はしない。元々『身分』を気にして拒絶した相手だが、それは愛しさゆえからだったし、今では芽衣子も海斗と釣り合いが取れる立場にいる。そしてそれ以上にリンやレンを鮫ヶ橋の劣悪な環境に戻したくはない。

「でも・・・・・・あなた達のお願いじゃ断れないわね」

 リンとレンの頼みだから――――――だが、それが芽衣子の照れ隠しであることは誰の目からも明らかであった。



 宴が終わった後、芽衣子はがくぽの配慮で海斗の家に行くことになった。

「婚礼前にお姉さまを連れて行くなんて」

 ルカは極めて不服そうだったが、芽衣子本人やリンレン姉弟の頼みとあれば無碍に断ることも出来ない。渋々見送るルカを後に、芽衣子と海斗、そしてリン、レンの四人は海斗の屋敷へと帰っていった。

「話したいことは山ほどあるだろうけど、今日はもう遅いから二人は寝なさいね」

 明らかに芽衣子を独り占めする気満々の海斗の言葉に不満気な表情を浮かべた二人だったが、実際睡魔には勝てそうも無い。明日の朝一番に芽衣子と話す権利を主張した後、二人は手を繋いだまま寝室へと入ってゆく。

「あの二人、一緒の部屋なのね」

 部屋に入ってゆく二人の後ろ姿を見つめながら芽衣子が呟く。

「うん。やっぱり慣れない場所で一人で寝るのは不安らしくってね。姉弟だし問題ないでしょ」

 そう言いながら海斗は芽衣子を抱き寄せ、唇を軽く重ねた。

「・・・・・・じゃあ僕らもそろそろ寝室へ行こうか?」

 今までとは違う甘さを含んだ海斗の言葉に、芽衣子は恥ずかしげに頬を染め、頷いた。





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ようやく・・・ようやく二人が再会し、そして互いの思いを通じ合わせることが出来ました(/_;)
まさかここまで来るのに10話もかかるとはwww本当は5~6話で終わりにする予定だったのですが・・・本当に毎度長くなってしまって申し訳ございません(>_<)
更にリン、レンも無事めーちゃんに出会うことが出来ましたが・・・この二人がめーちゃんを独占できるのは翌朝ですかねぇ(^_^;)たぶんみなさんが予想されているようにここから以後、大人の時間になりま~す(〃∇〃)

次回更新は2/16、本編最終話となります(がっつりエロモードで行かせていただきます(๑•̀ㅂ•́)و✧というか、この流れではエロに突入するしか無いでしょうwww)
そしてpixivの方には14日~17日、カイト生誕祭期間である4日間に分けて投稿いたしますので宜しかったらそちらも覗いてやってくださいませ♪
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