「VOCALOID小説」
見返り美人

見返り美人7~夜毎離れ消える女

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 海斗の屋敷でぐっすり眠った翌日、三人は再び避難民が集まっている練兵所へと向かった。燦々と降り注ぐ日差しは冬にしては少々強めだったが、人探しをするには丁度良い気候だ。
 そして昨日の薄暮の光では判らなかった人の顔が今日ははっきりと見える。三人は勢いのまま、隅から隅まで――――――人々が座り込んでいる場所はもちろん、炊き出しの裏側から亡骸が運び込まれている遺体安置所まで――――――避難所を探したが、芽衣子らしき人物は見つからなかった。

「めーちゃん、今日も見つからなかったね」

 馴染みの小料理屋で昼飯を食べながらリンが寂しげに呟く。その呟きにレンも同調した。流石に昨日今日と芽衣子を探し続けて疲れてしまったのだろう。重苦しい沈黙が三人の間に漂い、本来美味なはずの小料理屋の惣菜も味気なく感じる。

「これ、食べ終わったら・・・・・・先に鮫ヶ橋の焼け跡から行こうか」

 食欲が無いのか、茶碗に半分以上飯を残したまま箸を置いた海斗が二人に語りかけてきた。

「あまり考えたくないけど、最悪の場合も考えておかないと」

 静かな、しかし心を抉るその言葉にリンはポロポロと涙を流し始める。だが、今にも食って掛かるかのように海斗を睨みつけながらも、リンは唇を噛み締めたまま黙りこくっていた。
 ここまで探して芽衣子を見つけられなかったという事実がリンにも重くのしかかっているのだろう。何かを言いたそうに目で訴えるが、口を開いたら大声で泣き出してしまう自分を理解しているのだろう。リンはなかなか口を開こうとはしない。

「おい、海斗。先に、ってどういうことだよ」

 見るに見かねたのか、普段はどちらかと言うと無口なレンがリンの代わりに尋ねる。すると海斗は口の端に僅かな微笑みを浮かべながら口を開いた。

「さすがにレンは鋭いね。鮫ヶ橋の現場に先に赴いて、そこでめーちゃんを見つけられなかったら・・・・・・警察の死体安置所に行くつもりだ。だけど、鮫ヶ橋でも警察でもめーちゃんを見つけられない可能性もあるからそのつもりでね」

「それ、どういうことよ!」

 とうとう我慢しきれなくなったのか、リンが大声で海斗に食って掛かる。すると海斗はある意味『希望』とも取れる可能性を口にした。

「避難所にもいない。かと言って仏にもなっていないとなると・・・・・・火事場の拐かしにあった可能性もある。または怪我をして病院に入っているか誰かに救助されているか。少なくとも君ら二人の許に帰って来れない状況に置かれているのは間違いない。そうなると、東京市中を探さないといけなくなるから」

「うわぁ・・・・・・ゾッとしねぇな」

 海斗の推測にレンが鼻の上に皺を寄せる。拐かし犯次第によっては死ぬよりもひどい目に遭わせられる可能性だってあるのだ。しかも捜索範囲は鮫ヶ橋近辺の何十倍にもなる。果たして自分達の力だけで芽衣子を見つけ出し、状況によっては助けだすことができるのかレンは不安に陥る。だが、リンの捉え方はその逆だった。

「でも死体安置所や鮫ヶ橋にめーちゃんがいなかったら生きている可能性はあるんでしょ?あたしはソッチのほうがいいな」

 芽衣子が生きている可能性を示されたリンは、今までの泣き顔が嘘だったかのような笑みを浮かべる。その幸せそうな笑みにレンも思わずつられてしまった。それは海斗も同様である。

「もちろん俺だって生きためーちゃんに逢いたいよ。じゃあまずは鮫ヶ橋に。その後警察署に行こう。もしかしたら警官の横っ面を引っ叩いて留置所に放り込まれているかもしれないし」

 俺みたいにね、と冗談めかして海斗が言うと、リンとレンが大声で笑う。

「海斗じゃあるまいし、そんなマヌケな警官が何人もいるわけないじゃん」

 やっと元気を取り戻した三人は、もう一頑張りをと鮫ヶ橋へとむかった。



 燃える前の鮫ヶ橋も地獄のようだと形容されていたが、焼け跡の鮫ヶ橋はそれ以上の惨状――――――まさに地獄そのものだった。
 火事場特有のいがらっぽい焦げ臭さに加え、髪の毛が焦げたような独特の臭気や腐敗臭が漂い吐き気さえ催す。よくよく見ると逃げ遅れた者達の亡骸がいくつか転がっているが、性別さえ定かではない。困惑と諦観を浮かべる海斗だったが、以外にもここではリンとレンが活躍した。

「これって、松蔵さんだよね。確か避難所におヨネさんがいたから教えてあげないと。子供三人抱えて寡婦だと大変だよね」

「こっちはおキネ婆さんだ。脚が悪かったから逃げ遅れちゃったのかな。佐太郎さん、心配していたのにこんなことになっちゃって」

 海斗にはどれも黒焦げで判別がつかない亡骸だったが、ここで暮らしていたリンとレンには誰だか判別できるらしい。警察の捜査顔負けの観察力を駆使し次々と身元を判明させてゆく。だが殆どの亡骸を判別できた二人でも、芽衣子の亡骸らしきものを見つけることは出来なかった。

「どうやら、ここにはいないようだね・・・・・・少しは期待が持てるかな。あとは警察の遺体安置所か。どこに設置されているか番所に聞かないとね」

 そこで三人は最寄りの交番に立ち寄ったが、今回は練兵所の隅に設置された遺体安置所のみで、警察署には設置していないと告げられた。

「今回は被害が大きかったですからね。警察には入りきらないんですよ」

 海斗の警察手帳を見た交番の巡査は直立不動の姿勢で海斗に事情を説明する。

「確かに。ここまで被害が甚大だと警察じゃ手狭、か」

 だが、既に練兵所の遺体安置所はくまなく探し終わった後だ。

「となると、めーちゃんどこかで生きているのかな」

 希望を得たリンの声が生気を帯びる。

「そうだね。だけど探す範囲はもっと広くなるよ」

「大丈夫!門付けで東京中歩きまわっているから!」

 海斗のささやかな脅しもリンには効果が無いようだ。生きているかもしれない芽衣子を東京中、もしかしたら日本中を捜索すること、それは今まで以上に大変な作業になるだろう。だが生きている芽衣子に会える可能性が出てきたことで三人の気持ちは高揚する。

「そっか。それは頼もしいね。でも今日はこの辺にしよう。ほら、もう月が出てきちゃってる」

 西の空はまだ茜色が残っていたが、東の空はすっかり藍色に染まり上弦の月が顔をのぞかせている。

「あ、もうそんな時間なんだ。じゃあ帰ろ!早くお風呂に入りた~い!」

 リンはすっかり海斗の屋敷の風呂を当てにしているらしい。そんな姉の物言いにレンは苦笑いを浮かべ、小さく海斗に頭を下げた。



 藍色の東の空に上弦の月が昇り始める。それを見つめながら女は小さく溜息を吐いた。肩のあたりで切りそろえられた髪に月光が反射し、艶やかに輝く。そして火の粉でも被ったのだろうか、その滑らかな頬にはいくつかの火傷の痕があった。だが跡が残るようなものでは無さそうだ。山茶花模様のモスリンの着物を着た女は月を見つめながら小さな声で呟く。

「リン、レン・・・・・・あの子たち、無事かしら」

 それは芽衣子だった。鮫ヶ橋の娼妓とは思えぬ出で立ちで佇むのは重厚な洋室で、これも今までの芽衣子の生活からは縁遠いものである。だが芽衣子はおどおどするどころか、やけに落ち着いた態度で踵を返すと、部屋の中央にある椅子に腰掛けた。

「・・・・・・だけど、まさかあんな再会があるなんてね。本当にびっくりしたな」

 芽衣子は瞼を伏せ、昨日の出来事を思い出していた。



 火の手が上がったのは、芽衣子達が住んでいる部屋より更に奥からだった。そもそも自炊などするような人間など鮫ヶ橋にいるはずはない。それなのに火の手が上がったというのはほぼ間違いなく放火であろう。
 だがそんなことを考えている暇は無い。早い火の手に追われるように芽衣子は仲間たちと共に逃げた。そして救助に飛び出してきた軍人の誘導にしたがって芽衣子は練兵所の避難地域へと移動したのである。
 芽衣子たちはかなり早い避難民だったらしく、避難場所として開放された練兵所にはまだまだ人は少なかった。そして暫く待っているとかなり早い段階で炊き出しが始まったのである。

「うわっ、あれって華族の慈善活動かな」

 炊き出しをしている、やけに優雅な女性たちに視線をやりながら芽衣子はちょっと出向くのを躊躇う。華族貴婦人の一部はなかなか強引な遣手が揃っていると、古新聞に書かれていたのを思い出したのだ。帝国・日本の中枢を担う男達の妻や娘、そして母達はそれ以上に強いのだ。

「確か、慈善バザーで四円のものを五円札で買わせて、おつりをふんだくったってあったよね・・・・・・でもさすがに焼け出された貧乏人からは金は取らないか」

 炊き出しの味噌汁と握り飯を受け取っている避難民は金を払っている様子はない。これならたぶんぼったくられることはないだろうと芽衣子も恐る恐る炊き出しの列に並んだ。そして芽衣子の順番が来たその時である。

「お姉さま?もしかして・・・・・・芽衣子お姉さまじゃありませんこと!」

 避難民に握り飯を渡していた若い貴婦人が突如叫んだのだ。その声に芽衣子だけでなく周囲の貴婦人、そして避難民たちも驚く。

「え、あの~確かに私の名前は芽衣子だけど、妹なんていない・・・・・・」

「妹じゃございませんわ!従妹のルカです!最後にお会いしたのは十五年も昔のことですけど、忘れもいたしませんわ!・・・・・・芽衣子お姉さま、お久しゅうごさいます!!」

 そう言ってルカと名乗った貴婦人は芽衣子の手首を強く掴んだ。その瞬間、芽衣子も昔のことを思い出す。

「ルカ・・・・・・もしかして華叔母さまのところの?」

「思い出してくださったのですね!嬉しい!!」

 そう叫ぶと、ルカは服が汚れるのも構わずに芽衣子に強く抱きついた。ただでさえ汚れが目立つ芽衣子の服だが、今は更に火事で付いてしまった煤などで汚れがひどくなっている。確実にルカの服も汚れてしまうだろう。

「ちょ、ル、ルカ!服が汚れるでしょ・・・・・・それに、くるし・・・・・・」

 ぎゅうぎゅうと締め付けてくるうルカの抱擁に、芽衣子は悲鳴を上げる。だが、ルカは芽衣子を逃がしてなるものかと更に腕に力を込めた。そこに幼き日の可愛らしいルカの姿はない。

「御労しや。本来なら先音家の跡取り娘として蝶よ花よと大事にされていなくてはならないはずのお姉さまが、こんなボロを着て・・・・・・とにかく私の屋敷で着替えてくださいませ!皆様、申し訳ございませんけど後のことはよろしくお願い致します!」

 半ば強引に話を進めながら、ルカは炊き出しの現場から離れる。そして芽衣子を強制的に自分の自宅へ――――――嫁ぎ先である神威家の屋敷へ連れ込み、着替えさせたのである。 流石に使用人たちは芽衣子の姿に眉をひそめ、執事らしき男がルカを窘めていたがルカはそれを一蹴してしまった。

「何も言えないうちにここまで連れてこられちゃったけど・・・・・・旦那様もいるのに、私なんて連れ込んじゃって大丈夫なのかしら、あの子」

 幾ら女性で、しかも妻と血縁関係があると言っても自分の留守中に見知らぬ人間が入り込んでいたらあまりよい気分はしないだろう。芽衣子はその辺を心配するが、ルカはあっけらかんとしている。

(さっきの執事さんとの件といい、こんな強引で大丈夫なのかしら?・・・・・・そう言えば、昔から意外と強引なところがあったわよね、ルカは)

 なお、ルカの良人は泊まりがけの仕事で昨晩は帰宅しなかった。どうやら帰ってくるのは今夜らしい。取り敢えずルカの良人が帰ってきて何か聞かれたらその時に事情を説明すれば良いだろう――――――芽衣子が腹をくくったその時である。どうやらルカの良人が帰宅したらしく、玄関方面が賑やかになる。その声を聞きながら、芽衣子は深く息を吸い込んだ。





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海斗たちは見つけることは出来ませんでしたが、芽衣子は無事助けられておりましたヽ(=´▽`=)ノ
しかもその相手は従妹のルカ・・・15年近くぶりの再会でしたが、かなり強引に芽衣子はルカの自宅に連行されてしまったようです。しかし従姉とはいえ、旦那の留守中に連れ込んじゃっても大丈夫なんでしょうか・・・(-_-;)その辺の詳細は次週26日の更新にて書かせていただきますね~(^_^)/~
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