「VOCALOID小説」
見返り美人

見返り美人4~その次に空をなくした

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――――――お姉ちゃま。芽衣子お姉ちゃま。

 懐かしい、聞き覚えのある幼い声と同時にむわっ、とする湿気が芽衣子の肌にまとわりついた。それと共に甘く芳しい花の香が芽衣子の鼻をくすぐる。その香りは芽衣子が子供の頃、よく嗅いだ香りだ。

――――――これは、巡音の家の庭の匂いだ。

 叔母が愛した、この気品ある香は鮫ヶ橋では決して嗅ぐことはできない。どうやら自分は夢のなかにいるらしい。ぼんやりと揺蕩う意識のまま、芽衣子はじっと目を凝らす。
 すると霧が晴れるように芽衣子の前に美しく整えられた庭が現れた。どうやら季節は梅雨の前らしく艶やかな白や桃色の薔薇があたり一面に咲き誇っている。その薔薇の花を背に一人の童女が芽衣子の方を見つめ、ニコニコと笑っていた。

――――――ルカ?

 それは芽衣子が直接知っているただ一人の従妹・ルカだった。芽衣子がまだ学校に通う前、父母の仕事が忙しくなると芽衣子は母方の妹・華の嫁ぎ先である巡音子爵家へよく預けられたものである。というか、芽衣子の母・紅葉は家に出入りしていた呉服屋の手代・時雨と駆け落ちし、実家である咲音家から勘当されていたので、芽衣子を預ける先が華の嫁ぎ先である巡音の家しか無かったのだ。
 それ故芽衣子は子供の頃従妹のルカとよく遊んだものだったが、芽衣子が小学校に入ると巡音の家に行くこともなくなり、いつの間にか疎遠になってしまった。

――――――ルカは元々綺麗な子だったし、華叔母様はすごく美人だったから、きっと今頃ルカも美人になっているんだろうな。

 懐かしさに誘われ、自分に微笑みかける童女の方へ芽衣子は一歩、また一歩と近づく。だが、何故か芽衣子は前に進めない。何者かが芽衣子の動きを阻止しているのだ。

――――――めーちゃん!起きて!

 それはリンの声だった、芽衣子の右腕にしがみついている。小柄で華奢なリンとは思えぬ強い力だ。そして左腕にはレンがしがみつき、リンと同じくらい強い力で芽衣子を引っ張る。

――――――いいかげんにしろメイ姉!もう8時過ぎてるぞ!

 その声で芽衣子は夢のなかから現実へ引き戻された。



 忘れかけていた昔を夢で見たせいなのか、それとも年末の忙しさの疲れが残っているせいなのか、半ば無理やり叩き起こされた芽衣子は朝食の間もぼんやりしていた。

「大丈夫、めーちゃん?今日はお客を取るのやめたら?」

 茶碗一杯だけの、質素過ぎる朝食を瞬く間に食べ終えたリンが、心配そうに芽衣子の顔を覗き込む。

「リンに同感!昨日の晩から寝苦しそうだったし、朝もうなされていたぜ。疲れていて夢見が悪かったんじゃないの?」

 普段は芽衣子の行動に口を挟まないレンでさえリンに同調し、今日の仕事は休めと芽衣子に促す。それ程までに――――――十歳近く年下の二人に交互に諭されるほど、芽衣子の顔色は悪かった。だが、芽衣子は困惑の表情を浮かべつつも仕事はやると言い切る。

「昔良く遊んでいた従妹の夢だったから、夢見は決して悪くなかったんだけどね・・・・・・もしかしたら少しは遊ぶなり休め、ってことなのかな。でももうすぐ月のものが来るからそれまでに年が越せるだけは稼がないとまずいでしょ」

 すると二人は口々に『自分達が何とかする!』と言い出した。

「それは私達が門付けで何とかするよ!これでも最近だいぶお客さんが付いてくれるようになったんだよ!」

「そうそう!三人が年越できそうなくらいは稼げるぜ、俺達だって」

「もし心配なら海斗に言って前借りしちゃえば?あいつ、金払いいいしさ」

 芽衣子がよっぽど心配そうな顔をしていたのか、とうとうリンは海斗の名前まで出し始めた。リンにとって海斗は体の良い金蔓扱いだ。あの男ならきっと金を貸してくれると芽衣子に提案するが、芽衣子は頑なに首を横に振る。

「だ~め!必要のない借りは後で自分の首を締めることになるんだから!でもあんたたちの言うとおり、今日は客を少なめにしておこうかしら」

 そうは言っても生真面目な芽衣子のことだ。ついつい客を多くとってしまいそうだが、それでも言質を取れただけマシだろう。ようやく引っ張り出せた芽衣子の言葉に、二人は少しだけホッとした表情を浮かべた。



 どうやら今日は厄日らしい――――――自らの身体の上で蠢いている客に対し、適当な接客をしながら芽衣子は心の中で呟いた。
 よりによって今日一番最初の客は、芽衣子の客の中でも一番金払いが悪い客だった。自らを『社会主義者』だと嘯いている鈴木という男だ。
 この男は半月前から鮫ヶ橋に現れるようになったのだが、とにかくけち臭い。普通の男であれば花代30銭に5銭か10銭くらい上乗せして支払いをするものなのだが、この鈴木という男はきっかり30銭しか出さず、時間いっぱいまで粘る。否、時間内に終わってくれればまだしも、延長料金を一度踏み倒している。
 なので、できれば体よく追っ払いたいのだが、他所でも振られているらしく芽衣子にしつこく言いより部屋に上がり込んできた。それ故仕方なく相手をしているが、体調が思わしくない今、出来ることならさっさと帰って欲しい相手である。

「でかい仕事が近くあるから、その後で踏み倒した延長料金なんざ幾らでも払ってやるよ!」

 鈴木はそう嘯きながらしつこく芽衣子の体を嬲る。鈴木の一言、ひと撫で、それさえもいちいち癇に障るし煩わしい。

(さっさと終われよ、このクズ野郎!)

 心の中で毒づきながら、それなりの手管で男を刺激する。だが、こんな時に限って鈴木はなかなか果てる気配を見せなかった。そうこうしているうちにひと切りを知らせる線香は燃え尽き、延長時間に入る。

(いい加減にしやがれ!なかなか勃たないジジィじゃあるまいし、さっさとしろよウジ虫!)

 あまりの遅漏ぶりに手管を弄するどころか愛想笑いさえも浮かべられなくなった芽衣子は男の下で抜け殻のようにぐったりしている。これが海斗だったら芽衣子の様子をすぐに察して無理強いはしないのに――――――そんな埒もない思いが芽衣子の胸に浮かんでは消える。そうこうしているうちに鈴木はようやく芽衣子の膣内に汚穢を吐き出し、そそくさと芽衣子の上から降りた。
 そして素早く服を身につけると、10銭硬貨三枚を放り投げ、部屋を後にしようとするではないか。時間にしてふた切り分以上経過しているにも拘らず、である。これは流石に許せないと芽衣子は鈴木の服を掴んだ。

「ちょっと!今日は延長料金払ってもらうよ!ふた切り分もやっておいて、これで済むと思っているのかい!!」

 だが、芽衣子の相手はそんな脅し程度で素直に金を出すような男ではなかった。むしろ言うなりになるとばかり思っていた娼妓が牙を向いたことに怒りを露わにし、芽衣子の胸倉を掴んだのだ。

「カネカネってうるせえな!売女のくせに!」

 芽衣子を黙らせようと、鈴木が手を挙げる。その刹那、立て付けの悪い障子が勢い良く開き、ぱぁ~ん!と派手な音を立てた。一瞬リンが障子を開けたのかと芽衣子は思ったが、そこに立っていたのは白大島を身につけた、背の高い男――――――海斗だった。

「めーちゃん、お・ま・た・せ」

 いつもと変わらぬヘラヘラとした笑みを浮かべつつ海斗は素早く男に近づき、芽衣子を殴ろうとしていた腕を掴む。

「お兄さん、いくら金が払えないからって、妓を殴るのはみっともないでしょ?今回は俺が立て替えておいてあげるから、もう二度とめーちゃんに近寄らないでくれるかな」

 荒らげているわけではないが、海斗のその声にはいつもにはない凄みが滲んでいた。その声に本能的に危険を感じた鈴木は、海斗の手を振り払い、少しでも優位に立とうと立ち上がる。

「な、舐めるな!お、俺は社会主義運動をしているんだぞ!く、国を良くしようとしている俺に娼妓が奉仕するのは当然だろう!!」

 だが海斗は眉一つ動かさず、喚き散らす鈴木の襟を掴みその動きを封じた。

「悪いけど、この国は帝国だし、資本主義を基本としているんだよねぇ。だからそういう理不尽な道理は通らない。あんた、自分を何様だと思っているの?」

 海斗は最後の一言だけ低い声で凄むと、相手の鳩尾に素早く拳を叩きつける。そして身体を丸めて呻く鈴木をそのまま芽衣子の部屋から引きずり出すと更に一発頬を殴った。

「鈴木炸四郎!暴行未遂の現行犯及び放火の疑いで逮捕する!」

 すると、その声と同時に、どこに潜んでいたのか数人の警察官がわらわらと細い路地に入り込んできた。

「始音巡査、ご苦労!」

 海斗より十歳ほど年上らしい警察官が労いの言葉をかけ、地面に押さえつけられている鈴木に手錠をかける。階級章から鑑みるとどうやら巡査長らしい。

「いえいえ。しかし通報者の『私的な悩み』がこいつの逮捕に繋がるとは思いませんでした」

 鈴木を上司らしき巡査長に引き渡しつつ、海斗はいつもの締りのない笑みを浮かべた。レンから『芽衣子に悪い客がついて困っている』という相談を受けたのは一週間ほど前だった。

『本当にけち臭い野郎でさ。そのくせ社会主義者、ってほざいているみたいだし。頼まれた仕事とは関係無いと思うけど、どうにかならないかな』

 捜査を始めてから三ヶ月、だいぶ打ち解けてきたレンが芽衣子にまとわりつくろくでもない客を追い払ってほしいと言ってきたのは初めてだった。しかも相手は社会主義者だと自ら名乗っていると聞いて、もしかしたらと動いたのが功を奏した。あまりにも雑魚すぎてレンの嗅覚には引っかからなかったのだ。

「本当にあの子の勘には頭がさがるよ」

 警保局長ではないが、警察官として勧誘したいほどだ――――――そう思いながら振り向いた瞬間、驚きの表情を浮かべた芽衣子と目が合ってしまった。その表情には驚きと共に怒りも含まれている。まずい――――――海斗はとっさに言い訳をしようと口を開く。

「あ、あのめーちゃん・・・・・・」

「あんた、警察官だったの?」

 その声は今までにない冷ややかなものだった。完全に怒っている――――――海斗は必死に言い繕う。

「いや、その・・・・・・ちょっと話を聞いて欲しいんだけど」

「嫌よ!マッポが嫌いだってあんたにも言ったでしょ!あたしを騙してたの?」

 芽衣子は踵を返すと、自分の部屋に入り障子を閉めようとする。だが立て付けが悪い分なかなか閉まらず、その隙を突いて海斗が障子に手をかけ、部屋に入り込んできた。

「ちょっと!入ってこないでよ!」

 勝手に部屋に入り込んできた海斗を追いだそうと芽衣子は海斗の肩を押すが、海斗はぴくりとも動かない。むしろ芽衣子の手を押し返すように一歩踏み込んできた。

「めーちゃん、確かに黙っていたのは悪かったと思うし、君の警察官嫌いも承知している。だけど・・・・・・放火犯を捕まえるために必要だったんだ!」

 その瞬間、海斗は肩にかかった芽衣子の手を払いのけ、強く芽衣子を抱きしめる。

「ちょ、離してよ!」

「やだ・・・・・・君の警察嫌いも、そしてが前に務めていた妓楼を抜けだして警察に見つかったらまずいって話も承知している。だからこそ君を守ってみせる」

 腕の中で暴れる芽衣子を更に強く抱きしめて、海斗は小さな声で囁く。

「君が追いかけてくる妓楼を恐れるならば、どんな手を使ってでもその妓楼を潰してあげる。君を売った男だって叩けば埃が出てくるだろうから逮捕だって簡単だ。だから、俺を信じて」

 ようやく暴れなくなった芽衣子の顔を覗き込みながら、海斗は必死にかき口説く。

「確かに捜査のために鮫ヶ橋に入った。だけど・・・・・・君を好きになった気持ちは本当なんだ。それだけは信じて」

 その言葉と同時に海斗は芽衣子の唇に己の唇を強く押し付けた。





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捜査開始から三ヶ月、追いかけていた犯人の一人を見つけ出したまでは良かったのですが、海斗の正体が芽衣子にバレてしまいました(>_<)必死に言い訳をする海斗ですが、果たして芽衣子は海斗を許すのか、それとも突き放すのか・・・それは次回のお楽しみということで( ̄ー ̄)ニヤリ

そして夢オチではありますが、芽衣子の過去もちらりと垣間見えました。どうやら芽衣子の母方の従妹は子爵家だったようで・・・となると芽衣子(の母親)もそれと同等の家柄の娘、だったということが伺えます。ただ芽衣子の母親は呉服屋の手代と共に駆け落ちして苦労したようですが・・・その辺の事情も追々書けるかなぁ(^_^;)風呂敷広げすぎてフラグ回収できないことがままありますので、そのあたりをツッコんでいただけると助かります(おいっ)

では今年最後のボカロ小説はこの辺で。次回更新は1/5になります(#^.^#)
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