「短編小説」
幕末明治つまべに草紙

幕末明治つまべに草紙・其の拾二~競馬とクリノリン・スタイル

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 年末も押し迫ったある日、黒部政之助は少し苛立ちながら執事に手渡されたフロック・コートを手にとった。

「おい、知代!準備はまだかい?いくら初めての洋装でも時間がかかりすぎだぞ」

 政之助は玄関から大声で、早く着替えをするようにと妻に催促する。これから根岸の競馬場に出向くのだが、英人の主催レースなのでそれなりの格式が求められる。なので政之助はフロック・コート、知代はクリノリン・スタイルのドレスで出かける事になったのだが、初めての洋装に手こずっているらしく妻はなかなか出てこない。

「こんなことならジョージに着物でもいいか聞いておくべきだったな」

 政之助は今回の競馬に誘ってくれた友人の顔を思い出しながら溜息を吐く。その瞬間、ようやく扉が開かれ、中から妻の知代が中年の女中に手を引かれながら出てきた。

「お待たせしました、旦那様」

 そこには今まで見たことのない妻が居た。化粧や髪型の所為もあるのだろうが、着物姿に比べドレス姿はだいぶ若く見える。まるで嫁いできたばかりの知代が現れたような気がして、政之助は今までの苛立ちもどこへやら、柔和な笑みを知代に向けた。

「ご苦労様。だいぶ手間取っていたようだね」

「はい。ペティコートを見目良く形作るのが意外と難しくって。おえんとお咲にも手伝ってもらってようやく着ることが出来ました。遅くなってしまって申し訳ございません」

 頬を赤らめながら知代は政之助に詫びる。その姿は十年連れ添ったと思えぬほど新鮮だ。

(馬子にも衣装というが、古女房も身につけるもの一つでこうも変わるのだな)

 政之助は心のなかで呟きながら、玄関に降りてきた知代に手を差し出した。

「じゃあ行こうか。西洋ではこうやって男性が女性を導くらしい」

 慣れないハイヒールに手こずっている知代を見るに見かねた政之助は苦笑いを浮かべつつ知代の細い指を取る。すると知代はホッとした表情を浮かべて良人にその手を預けた。

「なるほど。西洋人はよく人前でおなごと手を繋げるものだと呆れてたが、これならば手を繋がざるを得ないな」

「や、やめてくださいませ旦那様。そう言われると恥ずかしいではありませんか」

 知代は慌てて手を引っ込めようとするが、政之助にしっかり握りしめられてしまい離すことができなくなる。

「気にするな。今日は西洋競馬を見に行くんだぞ。日本人の目なんて殆ど無いんだし、行き帰りは馬車だ。日本人の知り合いに出くわすことなんて無いんだから、恥ずかしがることなんて無い」

 少々強引な政之助の言い分に、知代は耳まで真っ赤にしながら小さく頷く。それを承諾と取ったのか、政之助は知代の手を取ったまま、彼女の歩幅に合わせてゆっくりと歩き出した。




UP DATE 2015.11.25 

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拍手文、このシリーズも今回が最後となりますヽ(=´▽`=)ノ実はこのシリーズ、なかなかネタを探すのが難しくって本当に苦労させられました(^_^;)しょっぱな女髪結いに引っ張られたのがまずかった・・・以後ちゃんと12ヶ月続けられるか見極めてから拍手文のシリーズを決めようと心に誓いました(๑•̀ㅂ•́)و✧

そして今回の主人公の政之助・知代夫妻ですが、先月の風のようでもあり無いようでもあり・・・時間が無かったため、先月分を確認しないで話を造り上げたのですが、何だか続き物でも問題ないかな?というような感じになってしまいました(^_^;)私個人としては全く別物の夫婦のつもりなのですが、これは読む方それぞれに妄想をかきたててもらうのも悪くないかも、と思っております(*^_^*)
(なお、続き物とした場合、鹿鳴館に行く前に競馬見学で服に慣れようとしたという考え方もできるかな、と^^;)

一年間のお付き合い、誠にありがとうございましたm(_ _)m
来年の拍手分はつまべに草紙に出てきたCPのひとつ、横浜芸者とそのヒモののんべんだらりとした一年を書き綴っていく予定です♪
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