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聖龍協奏曲~奏国物語

ボカロ小説 聖龍協奏曲~奏国物語外伝 颯月宮決戦3

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 ひんやりとした隠し廊下に緊迫した熱気が満ち溢れる。冷ややかな笑みを浮かべた狄国王・えそらを前に、リンは肩を怒らせ剣を構える。
 リンが率いる金龍隊兵士30人に対し、えそらの周囲には3人の兵士と2人の魔道士のみだ。それなのにリンと兵士達はえそらの放つ気迫に呑まれ、なかなか攻めこむことが出来ないでいた。

(なに、こいつ・・・・・・全然隙がないじゃない!)

 魔導を使うのならば、呪文を唱える際にほんの僅かな隙ができるもの、だからそこを狙えばいい――――――カイトにそう教えられ、今まで剣ひとつで多くの敵魔道士を倒してきたリンだが、今回ばかりは勝手が違う。えそらを睨みつけ、ほんの僅かな隙はないかと狙いを定めるが、残念ながらその隙は皆無だ。魔導と剣の双方を使いこなせるリンの部下達もまた同様で、リンを守るのが精一杯だ。

「どうした?怖気づいたか黄金の龍騎士よ。どうやら奏国の兵士は臆病者ばかりと見受けられるな」

 えそらの言葉に周囲の側近たちも耳障りな笑い声を上げる。それでさえも彼らは付け入る隙を見せなかった。その態度に苛立ちを覚えるが、ここでえそらの煽りに乗ってしまえば相手の思うつぼだ。リンは侮蔑に耐えながら徐々に間合いを縮めてゆく。

「ネイビ、まだ動ける?」

 リンは先程えそらが放った毒矢に当たった部下の名前を呼ぶ。

「動けりゅなら一気に攻めきょみゅ・・・・・・・ありぇ?」

 一気に攻めこむ――――――そう叫んだつもりだった。だが、リンの言葉の後半はろれつが回らない。舌だけではない。手足にも痺れが回り始め、リンは思わず片膝を付いてしまった。

「リン様!大丈夫ですか!」

「貴様!リン様に何をしやがった!!」

 金龍隊の兵士達が騒然とし、リンの周囲に盾のように取り囲む。だが次の瞬間、えそらを護る二人の魔道士の両手から大量の黒鈍妖糸が放たれ、金龍隊兵士達を雁字搦めにしたのである。あるものは地面に押さえつけられ、ある者は天井に叩きつけられる。首に巻き付いた黒鈍妖糸によって呪文を唱えることも叶わず、攻撃の手を封じられてしまった。残るは片膝を付いたリンだけである。

「意外と毒の周りが遅かったな。さすが龍騎士、と言うべきか。普通なら掠った瞬間に倒れるのだがな」

 えそらがにやりと笑いながらリンに一歩近づく。それは今までずっと狙っていたリンの間合いだ。だが手足に痺れが回り片膝を付いている今、えそらを仕留めることは出来ない。

「我が彩鞠家にはある言い伝えがあってな」

 更に一歩、えそらはリンに近づく。その手には短剣が握られていた。否、短剣というには少々長めだが、その身幅が異様に狭く変に曲がっている。まっすぐ貫くには不向きな形だが、何かを抉るには適した短刀だ――――――リンがそう思った瞬間、えそらは身の毛もよだつ言葉を口にした。

「生きたままの乙女の心臓を抉り、その生き血をすすれば更に魔力が強くなる、と。さて、うら若き龍騎士の生き血はどんな味がするかな?」

 えそらはヒステリックに笑い、リンの心臓に向かってその短刀の先端をリンの心臓に向ける。鎧も身につけず、晒一枚のリンならばそのまま心臓を抉ることが可能だろう。

「これを使うのは一年ぶりか。お前より若い奏国の娘で、さんざん命乞いをしたものだが・・・・・・流石に貴様は命乞いはしないな。そのほうがこちらとしてもいたぶり甲斐があるというものよ!!」

 耳を聾するほど大声で叫ぶと、えそらは何の躊躇いも見せずにリンの晒の下にある心臓めがけて鋭い短刀を突き立てた。



パキン!



 えそらの短刀がリンの心臓を抉るかと思われた瞬間、軽やかな金属音と共に細身の刀は真っ二つに折れ、床に転がった。そして破れた胸の晒の隙間から何かが顔を覗かせる。

「か、鏡?」

 リンは反射的に晒に挟んでおいた鏡に触れる。それは出陣前、レンが防具代わりにと渡してくれたものだ。これがなければリンの心臓は間違いなくえそらに抉られていただろう。

「レン・・・・・・あなたが私を守ってくれたの?」

 鏡に触れると暖かい何かがリンの指先に伝わってくる。その鏡自体に魔法がかかっているわけではない。だがそれに触れると力が漲ってくるのだ。

(もう一度――――――生きてレンに会いたい!!)

 それはリンの命の叫びだった。リンは声にならない声を上げ、痺れる手足をものともせず驚愕の表情を浮かべたままのえそらに襲いかかる。
 既に動ける状態では無い筈のリンだ。もしかしたら毒の周りが早くなり命を落とすかもしれない。だが、そんな怯えさえ振り切り、リンはえそらに向かって剣を突いた。

「うぉぉぉぉ!」

 耳障りな雄叫びと共にえそらの口から、そして剣に貫かれた腹から大量の血がこぼれ出す。そしてそれと同時にえそらを守っていた兵士と魔道士の陰も薄くなっていくではないか。どうやら彼らはえそらが創りだした『式神』のようである。となれば使役者がいなくなれば彼らも消滅する宿命にある。

「た、助かった・・・・・・のか、な?」

 えそらが死んでも、玉蟲玉によって作られた毒は残るらしい。薄れゆく意識の中、リンは遠くにカイコの声を聞いたような気がした。



「・・・・・・ン、起きなさい、リン!」

 聞き覚えのある声に、リンは重いまぶたを開く。すると飛び込んできたのは馴染み深い二人の女性の顔だった。

「ここ、ふぁ?」

 どうやら『ここは?』と聞きたかったらしい。まだろれつの回らないリンの唇を軽く指で塞ぎながら、青い髪の女戦士――――――カイコは泣き笑いの表情をリンに見せた。

「大丈夫ですか、リン?あなた、えそらの心臓を貫いたまま気を失っていたのですよ」

 少し怒ったようにカイコが告げる。

「あの腐れ魔道士に直接剣を突き立てるなんて・・・・・・彩鞠家の魔道士は時々爆発しちゃうんですよ!皆が爆発しちゃったらどうするんですか!」

 そんなカイコをまぁまぁと宥めつつ、赤毛の魔道士――――――メイコがリンに語りかけてきた。

「それだけ奴も不意を突かれたんでしょうけどね。あ、まだ動いちゃダメよ。私やキヨテルだけじゃ毒抜きが完全にできないから、ミクに頼もうかと思って。今、カイトが迎えに行ってくれているわ」

「え・・・・・?まどうしちょうでもらめなんれすか?」

 まだろれつが回らない舌でリンが尋ねる。キヨテルもメイコも歴代魔道士長の中ではずば抜けて魔力が強いと評判だ。そんな二人でも不可能なリンの毒抜き――――――よく自分は死ななかったものだとリンは今更ながらゾッとする。

「ええ。生命の根源に関わってくるからね、あいつの魔導は。習得できる魔導じゃ手におえないのよ。だからミクは最後の頼みの綱、ってところかな。治らない可能性もあるから覚悟しておいてね」

 メイコのその言葉にリンはちょっと泣き出しそうな表情を浮かべる。その時である。上空に龍の羽音が聞こえると同時に、美しいソプラノも空から降ってきた。

「おねぇちゃ~ん!!お待たせ~!!」

 カイコとメイコが上空を見上げると、青龍と大柄なグリフォンが弧を描いて徐々に降りてくるところだった。青龍にはカイト、グリフォンにはミクとクオが乗っている。人出がいくらでも欲しい戦後処理都のことで、夫婦で駆けつけたのだろう。

「お疲れ様!中央平原でのお仕事だったから、ここまで遠かったでしょう?」

 地面に降り立った妹にメイコが問いかける。

「うん。でも途中までスミレがグリフォンを引っ張ってくれたから早かったよ」

 へへっ、と笑いながらミクは横たわっているリンの傍にしゃがみこんだ。

「う~ん、かなりひどいね」

 リンの手を取りながら、ミクは眉をひそめる。

「これは・・・・・・私の声じゃない方がいいかな」

「ふぇ?」

 ミクが何を言っているのか理解できず、リンは奇妙な声を上げるが、次の瞬間ミクの唇から零れた声を聞いて納得した。

「レン・・・・・・の、こえ」

 他人の声を写しとる魔術――――――これは元々ミクが習得していた白の魔術ではなく、奏国の黒曜魔術に属するものである。諜報活動をする際、他人の声音を使って活動することがままあるため、魔導学校の必須科目になっているのだが、ミクはそれを応用してリンが今一番聞きたい声――――――レンの声で癒やしの歌を歌い始めたのである。

「ちょっとミク、あなたますます『声替の術』がうまくなっているじゃない」

 呆れたようなメイコのツッコミに、クオが代わりに答える。

「いきなり中央から来た小娘が『癒やしの歌を歌います♪』なんて言ってもなかなか聞いてもらえないからさ。その土地土地の馴染みの歌手や領主の声を借りて歌うことが多いんだ。たぶんうちの国の魔道士の中じゃ一番うまいと思うぜ、『声替の術』」

 戦争に参加していなくてもミクはミクで苦労をしているのだ。年貢に苦しむ領民や土地を癒やし、収穫を増やす役割を一人背負っているミクにメイコは感謝する。

「・・・・・・これで痺れは無くなったかな」

 一曲歌い終えたミクは、レンの声のままリンに尋ねる。するとリンはゆっくりと起き上がり、掌を開いたり握ったりし始めた。

「うん・・・・・・大丈夫みたい。ありがとう!」

 ろれつも元に戻っている。その様子にリンを取り囲んでいた皆はホッとした表情を浮かべた。





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際どい戦いの末、かろうじてリンは生きて仲間の元へ帰ることが出来ましたε-(´∀`*)ホッ
何せ勢いのまま飛び込んだ先にラスボスが・・・って感じでしたからね(^_^;)レンがくれた鏡が無ければリンはほぼ間違いなく殺されていたでしょう。しかし、何故魔法の力も何もないレンの鏡が、魔導の極みのようなえそらの刀を折ることが出来たのか・・・それは次回のお楽しみということで(*^_^*)『愛の力』でもいいかな~とも思うのですが、それじゃあ面白くありませんしね(*´艸`*)

そして次回はこの外伝及び『奏国物語』の本当の最終回となります。一年近くに渡って連載してきた話ですが、もう一話だけお付き合いお願いいたしますm(_ _)m
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