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聖龍協奏曲~奏国物語

ボカロ小説 聖龍協奏曲~奏国物語外伝 颯月宮決戦2

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 それは三日前の出陣壮行会での事だった。勝利を確信した、華やかな宴において士気を鼓舞する歌を歌うのは、力強い歌声が特徴の青年合唱団だ。その中央でソロパートを歌っているのはレンだった。
 伸びやかなテノールは会場に響き渡り人々はそれに聞き惚れる。そんな人々を誇らしげに見つめているのは彼のパトロンで最愛の恋人でもあるリンだ。

(皆レンの声に聞き惚れちゃって・・・・・・当たり前でしょ。歌でレンに敵う相手なんて居ないんだから!)

 まるで自分自身の名誉のように誇らしげに会場を見回したリンは舞台上にいるレンに視線をやる。するとそれに気がついたレンは目だけでリンに微笑みかけた。
 恋人同士となって既に10年、身分に煩い元老院をリンは力技の『戦歴』で黙らせてきた。レンという恋人がいるからこそ、ここまで頑張れる。でなければ奏国は更なる損害を受けるだろう――――――半ば脅迫とも思える訴えにより、リンとレンの関係はその身分差にも拘らず公認されていた。
 だからこそのあと一歩――――――正式な夫婦となる為には更に大きな『手柄』が必要となる。それが今回の颯月宮への最終攻撃なのだ。そこで狄国王・えそらの首でも取ればほぼ間違いなく元老院やその他勢力にレンとの結婚を認めさせることができるだろう。

(レン。もうちょっとだけ待っていてね)

 歌い続ける恋人を見つめながらリンは決意を新たにした。



 合唱団の演奏が終わった直後、リンは早々に宴の会場を抜け出し、レンがいる控室へと向かった。

「レン!お疲れ様!今日の歌も素敵だったよ!」

 レンの姿を見るやいなや、リンは人目もはばからずにレンに飛びついた。周囲の歌手仲間は慣れたもので、そんな二人を放っている。
 出会った頃は同じくらいの背の高さだった二人だが、十年の歳月が頭ひとつ分の背の差を生み出していた。リンも女性としては決して背が低い方ではない。むしろ高いほうだがレンの身長は更に伸びている。大柄なメイト程ではないが、カイトと同じくらいはあるだろう。
 さすがに見た目は細身だが、体全体を『楽器』にする宮廷歌手である。その体躯は引き締まり、服を脱いだら騎兵隊と見紛う程だ。それ故、女性としては背が高いリンが飛びついたところでびくともしない。

「おい、リン。いいのか?宴の主役がこんな楽屋裏に来て」

「大丈夫!今回の主役はこの前の千尋大河の水軍戦で大勝を果たしたカイコ様だから。でね、私今度の最終決戦でカイコ様と先陣争いすることになったの!」

「はぁ?メイトとカイトならいざしらず・・・・・・世も末だな」

 レンはリンを抱き止めたままがっくりと肩を落とす。よりによって女性戦士が二人、先陣争いを繰り広げるとは・・・・・・間違いなく周辺各国からは『奏国は女性のほうが強い』と確信されるだろう。否、既に『奏国人の妻』という言葉はかかぁ天下の代名詞になっている。

「俺も尻に敷かれるんだろうな」

「何か言った?レン?」

「いいや、こっちのこと」

 レンは言葉を濁しつつ、リンを開放した。

「それより先陣争いってことは・・・・・・また危険な目に遭うんだろ?ちゃんと鎧はつけるんだろうな?」

 疑いの眼差しに、今度はリンが気まずそうにははっ、と乾いた笑いを浮かべる。

「だって、鎧重いんだもん」

「やっぱりそんな事だろうと思ったよ」

 そう言いながらレンが衣装の裏から何かを取り出した。

「これ、は?」

「普段持ち歩いている鏡。だけど結構頑丈な作りだから胸当て代わりにはなるだろ」

 レンはそれをリンに手渡しながら説明する。それは真鍮で作られた折りたたみ式の鏡だった。舞台に上る直前、身だしなみを確かめるために歌手や舞台俳優らが持ち歩くものだが、かなりの分厚さがあり、剣で叩き割るのも極めて難しい。

「先陣争い・・・・・・元老院に俺達の関係をとやかく言われないためだろ?別に俺は気にしないぜ。別に今のままでも」

「あたしが嫌なの!元老院のジジィ共、レンのこと何て言ったと思っているの?男妾よ、男妾!!失礼しちゃうったら!!」

 頬を膨らませ、怒りを露わにするリンの表情に、レンは思わず吹き出した。

「ちょっと、レン!笑うってどういうことよ!!」

「ごめんごめん。でもかわいいなって」

 レンはリンを宥めるように唇に軽くキスをする。

「頭の硬いオヤジ共にはそう見えるんだろ。勝手に羨ましがらせておけばいい。それよりも・・・・・・絶対に、生きて帰ってこいよ。でなけりゃ俺との関係云々も言えなくなるんだから」

「うん、ありがと。絶対にこれを返しに・・・・・・生きて華都に戻ってくるからね!」

 リンの元気の良い言葉に、レンは頬を桜色の染め、はにかんだ笑みを浮かべた。



(レンにこの鏡を返すためにも・・・・・・この戦い、絶対に負けるわけにはいかない!)

 飛んでくる巨石や矢を避けながら、リンは陽炎に騎乗したままカイコよりも一瞬先に颯月宮へと突っ込む。すると突如どす黒い蜘蛛の糸のようなものがリンと陽炎に絡まり、身動きが取れなくなった。

「な、何よこれっ!!」

 もがけばもがくほどどす黒い蜘蛛の糸はリンに絡まってゆく。

「リン様!ここは我らにお任せを!!」

 誰かがそう叫ぶなり、ビリビリとした魔導の痺れがリンを襲った。それと同時に蜘蛛の糸は消えてなくなり、リンは自由の身となる。

「黒鈍妖糸は玉蟲部隊の得意技です。迂闊に突っ込むと首に巻き付いて窒息しますのでお気をつけを!」

「解った!ではこの刀に魔法をかけてくれ」

 リンは魔道士に魔法をかけてもらい、魔導の罠が切れるようにしてもらう。

「これでカイコ様に勝てる・・・・・・」

「カイコ様なら既に奥へと入られました。我らにリン様を助けるよう命じられて」

「何ですって!それ早く言ってよ!」

 リンは慌ててカイコの後を追いかける。『夫の不甲斐なさを挽回したい』と戦場に復帰したカイコは、リンにとって侮れないライバルだ。10年以上のブランクを感じさせない個人技の冴えと兵士を率いる才能は正に天才と言っても良い。
 実際良人のメイトや弟のカイトが本気でカイコと手合わせをしても勝率は5割――――――つまりほぼ互角なのである。因みにリンが手合わせした場合、リンは10本のうち2,3本取れれば良いほうで、時には全敗で手合わせが終わるということもザラである。

(才能じゃカイコ様に勝てないけど――――――根性じゃ負けない!!)

 リンが気合を入れ直すため剣の柄を握り直したその時である。

《リン、向かって右側に隠し通路の気配がします。どうしますか?》

 陽炎が話しかけてきたのである。

「怪しいわね・・・・・・どのみちまっすぐの通路はカイコ様に先越されちゃったから、隠し通路の方に行ってみようか。陽炎、扉を破壊して!」

 すると黄金龍は爪をキラリと光らせると壁の一部を引っ掻いた。その次の瞬間、その壁はまるでビスケットのようにボロボロともろく崩れていく。

「へぇ、かなり大きな通路だけど、陽炎はちょっと無理かな」

 人間なら二人ほど通れる広さだが、流石に聖龍が通るには狭すぎる。

「じゃあ陽炎、あなたはここで私の気配を追っていて。後で合流しましょう。

《承知。くれぐれもご無理をなさらぬよう。レン様に泣きつかれても私も困りますので》

 冗談とも本気とも付かない陽炎の言葉に、リンは苦笑いを浮かべる。そして長い髪を掻き上げると、部下の魔導戦士たちに命じた。

「皆、私に続け!」

「おう!!!」

 魔導戦士達の雄叫びが石造りの廊下に響き、狭い隠し通路に一気になだれ込んだ。

「リン様!さすがに先頭は危のうございます!誰か盾になるものを」

「だったら魔導で盾を作ってよ!」

「それは既にやっております。問題は魔導が効かない武器でございます!シールドを突き破り敵の心臓を狙う毒矢を『玉蟲玉』が作り出しますので」

「だったら大丈夫でしょ!確か『玉蟲玉』は彩鞠家の血を引く王族だけしか作れないって聞いたことがあるわ!」

 リンは部下に笑いかけながら軽やかに走り続ける。

「確か彩鞠家の生き残りって現国王のえそらだけでしょ?そう簡単に出くわす訳無い・・・・・・きゃあ!」

 不意に何かが飛んできてリンの頬を掠める。慌てて振り向くとリンの背後で部下の一人がうずくまっていた。

「ちょっと、大丈夫?」

「リ、リン様お気をつけを・・・・・・」

「フン、龍騎士を仕留め損ねたか」

 冷ややかな声にリンは振り向く。するとそこには白銀の鎧をつけた、端正な顔立ちの男がいた。年齢はリンよりやや年上だろうか。まだ三十路には到達していない、若い男だ。だが、その目はまるで百年も生きた魔道士のように濁り、邪悪な光を放っている。

「この隠し通路を見つけ出すとは、さすが歴代龍騎士最強と名高い黄金龍騎士だけはあるか」

「そういうあんたは誰よ!名乗ったらどうなの!」

 正体不明の敵に内心慄きながらも、リンは精一杯の虚勢を張る。すると目の前の青年は笑顔の形に顔を歪めた。

「我が名は彩鞠えそら。この国の支配者だ」

 どこまでも冷ややかな声が、底冷えのする隠し通路に響き渡った。





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とうとう颯月宮へ突入したリンとカイコです(*^_^*)それぞれ先陣を争うには『相方』の問題があるらしいのですが・・・(^_^;)
まぁ、リンの方は比較的まともですよね。レンとの結婚を元老院に認めさせるってことで。しかしカイコの『亭主が不甲斐ない』って・・・めーくんの名誉のために申しておきますが、彼は決して無能じゃありません。むしろ元々外国人なのに奏国の水軍を一手に任されるほど優秀な男です。だけど嫁から見たらそれでさえ物足りないのかも・・・とんでもない嫁に引っかかったものですwww
(なおめーくんは育児は勿論、炊事、洗濯などの家事に関しては極めて優秀です。っていうか全部押し付けられているんじゃないかという噂が・・・でもそれを嫌がっていないので、元々好きなのか、惚れた弱みかがあるのかもしれません(*^_^*))

閑話休題、先陣争いで隠し扉を見つけたはいいものの、そこでえそらと出くわしてしまったリン。果たして彼女は無事レンの許へ帰ることができるのでしょうか・・・次回をお楽しみ下さいませ(*^_^*)
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