「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第九章

夏虫~新選組異聞~ 第九章 第五話・建寅月の逃避行・其の壹

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 一月九日、天保山付近は大阪城から逃げ出してきた幕府軍の兵士達でごった返していた。順動丸、富士山丸に乗船し、江戸に対比するためである。勿論これは開陽丸艦長だった榎本武揚の独断であるが、そうでもしなければ目前にまで進軍をしている薩長軍の攻撃に晒されてしまう。徳川慶喜の逃亡で戦意を喪失してしまった今の幕府軍では、その攻撃に耐えられるはずもない。

「桑名、会津のものはいるか!こっちへ回れ!」

「動けるものは順動丸だ!怪我人は医者が乗船する富士山丸に乗船するように!」

「早くしろ!風が強くなる前に出航しないと敵に追いつかれるぞ!」

 混乱する幕府軍兵士達だったが、それを榎本武揚ら軍艦の乗組員が中心となってさばいてゆく。そして兵士達はその指示に従い、十数人ずつ艀と呼ばれる小舟に乗って天保山沖に停泊している順動丸と富士山丸に乗船していった。

「まだるっこしいな」

 新選組隊士達を仕分けし、順動丸に乗船する可動隊士から艀へ向かわせていた土方が、傍に居た永倉と原田にぼやく。天保山の眼前に広がる海には何十隻もの艀が行き交っているが、陸で待機している兵士達はなかなか減らない。一部の噂によると官軍となった薩長軍は既に大阪城まで到着していると言われている。果たして自分達は敵が来るまでに軍艦に乗り込めるのか――――――土方に焦りが見え始める。

「仕方ねぇさ。あんだけでかい軍艦が、港に入るなんて無理だもんな。だけど、もう少しどうにかなれねぇのか、ってぇ気はする」

 永倉の言葉に原田も頷いた。

「こっちに停泊できりゃそのまま乗り込めたのによ。特に怪我人は大丈夫なのか、土方さん?」

「大丈夫、とは言い難いな」

 土方は瀕死の重傷を負い、戸板に乗せられている山崎を遠目に見ながら呟く。

「だけど、大阪で誰かに匿ってもらうってことは更に無理だろう。家族にだって迷惑がかかる」

 その言葉に二人は俯いた。彼らも京都に妻を置き去りにしている。もし新政府軍にそのことがバレてしまえば何をされるか判らない。それ故に山崎を大阪の家族に引き渡すことができないでいるのだ。

「とにかく運を天に任せるよかしょうがねぇだろ。それと・・・・・・」

 土方は更に小声になる。

「俺は近藤さんと共に富士山丸に乗船する。おめぇ達は順動丸に乗ってくれ。で、もし富士山丸に何かあったら・・・・・・新選組を頼む」

 重々しい土方の言葉に、永倉と原田が気色ばみ、今にも掴みかからんばかりに土方に迫った。

「おい、土方さん縁起でもねぇ事を言うんじゃねぇ!」

「そもそも軍艦に乗って江戸に帰るんだ!三日もすりゃあ到着するってぇのに」

 だが土方は、表情を変えずに二人に説明した。

「さっき小耳に挟んだんだが、富士山丸はしんがりを務めるらしい、って話だ。動ける兵士達を先に逃し、最悪富士山丸は囮になると・・・・・・非情だが、これからの戦いのことを考えると、動ける兵士に少しでも生きてもらわねぇと困るしな」

「だったら土方さんも順動丸に!」

「近藤さんを見捨てて置けるか!冗談じゃねぇ」

 原田の訴えに土方は声を荒らげると、二人の肩に手を置く。

「もしかしたらこれが今生の別れかもしれねぇ。だがどんなことになっても――――――新選組という組織が無くなっても絶対に生き残れ。そして部下達を一人でも多く生き残らせろ。少なくとも・・・・・・家臣を置き去りにケツまくってとんずらしやがった豚一のために死ぬなんて真似だけは絶対にしてくれるなよ」

 その瞬間、永倉と原田は思わず吹き出した。

「確かにそうだ!あんな腰抜けのためにゃ死ねねぇな!」

「解った。じゃあ俺達は順動丸で先に帰っているから!江戸でまた会おうぜ、土方さん!」

 その時、ちょうど永倉と原田の番がやってきた、二人は艀に乗り込み、手を振りながら沖に停泊している順動丸へと向かっていった。それを確認したあと、土方はまるで幽霊のように気配を殺して隣に立ち尽くしている斎藤に声をかける。

「斎藤、おめぇは会津に戻ら・・・・・・」

「俺の仕事はまだ終わっちゃあいません」

 斎藤は低い声で言い放つ。

「新選組が会津を裏切らないかどうか――――――確認させていただきます」

「そりゃあ会津公次第だな。薩長の野郎どもに徹底抗戦するなら俺達は賛同するぜ。だけど、もし軍門に降るならば・・・・・・」

「ああ、それだけは絶対にありませんのでご安心を。というかそれで薩長が許してくれるとも思えません」

「確かにな」

 土方は喉の奥で笑うと、斎藤に告げた。

「万が一、俺に何かあったら永倉と原田を導いてやってくれ。もしそれが無理なら新選組をおめぇ任せる。部下達を・・・・・・犬死させねぇでくれ」

「承知」

 その声は心なしか微かに揺らいでいるように聞こえた。



 可動隊士達を全員順動丸に送り出したあと、土方は怪我人、病人達がいる場所へ向かった。そこには近藤、沖田らを含む怪我人、病人達が待機していた。

「あれ、土方さん、順動丸に乗らなかったんですか?」

 土方が自分達のところにやってきたのを不思議に思った沖田が土方に尋ねる。すると土方は少し怒ったように沖田に言い返す。

「じゃあおめぇは怪我をしている近藤さんをほったらかして別の船に乗れるのか?」

「・・・・・・いいえ、無理です」

「だろうが。万が一の時は永倉、原田、斉藤らが何とかしてくれるだろう。一応その旨も言い含めておいた」

「・・・・・・そうですか。ところで斎藤さん、は?」

 含んだような沖田の言葉に、斎藤との会話の中身を語ろうとした土方だったが、そこは口をつぐむ。何せ寝込んでいるとはいえ近藤が同席しているのだ。迂闊なことは口に出せない。

「それよりおめぇは大丈夫なのか?顔色が悪いぞ」

「そうですか。少し風邪気味だからでしょうか・・・・・・・ねぇ。でも大丈夫だと思いますよ。船に乗り込んでしまえば一歩も歩かずに江戸に連れて行ってくれるんですから」

 そう言う沖田だったが、風が吹き抜ける港だからなのか、かなり顔色が悪い。唇も紫色で咳も止まらないようだ。時折出てくる、喉を傷つけるような激しい咳にはひやりとさせられるが、かろうじて吐血はしていない。

「まぁ、そりゃあそうだけどよ」

 その時である、土方の背後から元気な声がした。

「土方副長!可動隊士は全員順動丸に乗り込みました!あとは怪我人だけです!」

 それは近藤の局長、玉置の声だった。その声に土方が振り向くとそこには上田、玉置、そして鉄之助の三人の小姓達がいるではないか。 てっきり三人は順動丸に乗り込んでいると思っていた土方は驚きを露わにする。

「おい、おめぇらも順動丸に乗りやがれ!」

 しかし三人は首を横に振った。

「冗談じゃありません!近藤局長をほったらかして自分達だけ順動丸になるなんて!」

「だったら土方副長だって同じじゃないですか!むしろこれから新選組を率いなくてはならない土方副長こそ順動丸にお乗りになるべきです!」

 近藤の小姓二人が土方に食い下がる。その一方、鉄之助は比較的冷静な理由を口にした。

「わてらが三人が富士山丸に乗れば、軽傷の兵士二人、余計に順動丸に乗れます」

 その一言に土方は言葉をつまらせた。鉄砲が使えるとはいえ、少年の三人よりは大人の兵士の方が戦力として使える。だが、未来のある少年たちをより危険な船に乗せることにはやはり抵抗があった。

「おう、ここにいたか新選組!」

 潮焼けした声、とでも言うべきだろうか。独特のクセのある太い声が投げかけられた。その声に全員がそちらを向く。すると西洋風の軍服を着た男がこちらに向かってやってきていた。その顔には何故か安堵の色が見える。

「叔父貴殿から知らせがあったのに、なかなか俺のところにやってこねぇから心配したぞ!こんな非常時に遠慮なんかしてるんじゃねぇよ」

「叔父貴・・・・・・もしかして松本先生の!」

「おうよ。榎本釜次郎だ。鳥羽伏見で大打撃を被った新選組を頼むって早飛脚がきたものの、待てど暮らせど来る気配がねぇ。そんな遠慮ばかりしていたら割りを食うぞ!もっと図々しくなれよ」

 豪快に笑うと、少年たちの頭をわしゃわしゃと撫で回した。

「おめぇ達は順動丸か?富士山丸か?」

「ふ、富士山丸です!そんなぐしゃぐしゃに撫で回さないでください!曲げが崩れます!!」

 一番年下の玉置が榎本に抵抗する。

「そうか!じゃあ俺が動かす方に乗るんだな!安心しろ、薩長の輩に指一本触れさせずに江戸に連れて行ってやるからよ!」

 力強いその物言いに一人を除き、その場の全員は笑顔を見せた。だが残りの一人――――――土方が食って掛かる。

「だけど富士山丸はしんがりなんだろ?どうして言い切れるんだ?」

「この強風さ。薩長の奴らの技術じゃ船を操るのが精一杯で攻撃は無理だろ」

 榎本の不敵な物言いに少年たちが大笑いをする。しかし榎本は笑顔のままこちらに不利な情報も提示した。

「だが、それは俺達も同様だ。薩長の奴らは適当にあしらえるがお天道様には敵わねぇ。だから、もし何かあるとしたら荒れた海に船がひっくり返される時だな。勿論その時は敵艦三、四隻も道連れだけどよ」

 つまり生きるも死ぬも天候次第、敵に負けることだけは絶対にない――――――あまりにも力強い榎本の言葉に土方も納得する。

「それだったら悪かねぇな。万が一死んだとしても格好がつく」

 土方がようやく笑みを見せつつ、松本良順から預かった紹介状を榎本に手渡す。これが新選組と榎本釜次郎こと榎本武揚との出会いだった。




UP DATE 2015.11.14

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官軍となった薩長軍に追われるように浪速の港にやってきた幕府軍です(>_<)もう敵が目前に迫っていますからねぇ。一刻の猶予も無いわけですよ。そんな中、まだ動ける兵士達を先に逃し、負傷兵&金品武器その他の什器などなどを富士山丸に手際よく分けて乗せた榎本さんはさすがです。ある意味火事場の馬鹿力だったのかもしれませんが・・・そんな中、土方は敢えて富士山丸に乗り込みました。やっぱり近藤が心配だったのでしょうが、もしかしたら榎本という人物の人となりを知りたかったのかも・・・と勝手に妄想しております(*^_^*)もしかしたら幕府軍を率いるかも知れない人ですからねぇ。混乱の中、少しでも情報を得ようとしていたのかもしれません。

次回更新は11/21、富士山丸に乗船した新選組隊士達の様子になります(山崎さんとの別れもあります(;_;))
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