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聖龍協奏曲~奏国物語

ボカロ小説 聖龍協奏曲~奏国物語外伝 颯月宮決戦1

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 冷たく、乾いた風が黄耆山から吹き抜ける。農作物の刈入れが終わり、次の芽吹きの季節がやってくるまでの間は血腥い戦の季節だ。少なくともここ10年、奏国と狄国ではそうだった。だが、それも今年で終わるだろう。
 奏狄戦争開戦から10年の月日が経過し、ここへ来てようやく最終決戦の日を迎えていた。途中膠着状態に陥った時期もあるが徐々に奏国がその勢力を増し、この日とうとう狄国首都・煌仙にまで進軍したのだ。
 皇帝の御座船を取り囲むように4隻の巨大な軍艦が配置され、その周囲には数えきれないほどの小型戦闘船が千尋大河を埋め尽くしていた。既に皇帝・皇后率いる近衛軍と、軍艦でここまでやってきた赤龍隊・黄龍隊・黒龍隊は船から降りて、颯月宮へと向かっている。カイトが率いる青龍隊大隊も陸路で煌仙までやってきて、既に黄耆山に布陣している。だが、そんな中、何故か赤龍隊の隊長であるメイトは軍艦に残っていた。

「・・・・・・しっかし、面白くねぇよな」

 遥か彼方、黒々とそびえ立つ颯月宮に向かう奏国軍の背中見つめつつ、メイトは不服そうに唇を尖らせる。

「何で俺が留守番なんだ?そりゃあ赤龍隊本隊は水軍だからしょうがねぇっちゃあしょうがねぇけどよ」

 メイトがうんざりした表情もあらわに前髪を掻き上げたその時、メイトの鎧の裾を誰かが引っ張った。その控えめな引っ張り方から、メイトは誰が自分の鎧の裾を引っ張っているか理解する。

「ん?どうしたルキ?リントとレンカがまた喧嘩でもしているんなら、そんなもん放っておけよ。とーちゃんは見た目ほどは暇じゃねぇんからな」

 実際はかなり暇なのだが、それでは父親のメンツが立たない。メイトは振り返りながら自分の鎧の裾を引っ張る少年――――――長男・ルキに向かってそう告げた。だがルキはメイトの裾を握ったまま首を横に振る。

「いいえお父様、二人は至って大人しくしています。でも、お母様が赤龍に乗ってどこかに行ってしまったと、ぐずぐず泣き続けているんです」

 メイトの息子とは思えぬ、美しい敬語でルキは訴えた。幼いながら端正な顔立ちと相まって、いかにも貴族然としたその物腰は母親の血を色濃く受け継いでいる。だが、吐き出す言葉は幼いながら――――――否、幼さゆえの容赦の無さに満ち溢れている。

「リントとレンカは従兄妹たちが慰めてくれています。けど・・・・・・お父様、お母様と喧嘩でもしたのですか?お母様はお父様を見捨てて出て行かれたのですか?」

 ルキの言葉を聞いた瞬間、メイトはこれ以上は無理だと思われるほど大きく目を見開いた。

「なっ・・・・・ど~ゆ~発想だ、ルキ!一体誰がお前にそんなことを吹き込みやがった!」

 するとルキは表情一つ変えずに、父親の問に答える。

「キヨテル魔道士長様がそう仰っておりました。お母様はお父様に見切りをつけて戦場に飛び出してしまわれたのだと。それを聞いていた魔道士達も深く頷いておりましたが」

 ルキの暴露に、メイトは舌打ちを一つする。

「あいつ、いい加減な事を言いやがって・・・・・・いいか、ルキ!おめぇのかーちゃんは別に俺やお前たちに愛想を尽かして出て行ったわけじゃねぇ!皇帝命令で出陣しているだけだ!尤も・・・・・・」

 メイトの声が不意に小さくなる。

「赤龍・ローレライと華佗隊を持って行かれちまうとは思わなかったけどな。ま、お前ももう12歳だからいい機会だ。もしかしたらおめぇが引き継ぐかもしれねぇ赤龍と華佗隊の戦い方を見ておけ。あんまり参考にはならねぇかもしれねぇが」

「参考に・・・・・・ならない?」

 ルキは怪訝そうに小首を傾げる。その優美な姿は皇子と言われても誰もが納得するだろう。そんな息子の頭をワシャワシャと撫でながら、メイトは告げる。

「そりゃそうだ。何せ奏国の『夜叉姫』と『ロードローラー』が先陣争いをするんだ。俺ら龍騎士だってドン引きするさ。少なくともおめぇはかーちゃんよりは冷静な戦士になれよ」

 自分のことは棚に上げつつ、メイトは遠くに見える赤い龍と、その上に騎乗している小さな陰から目を離さなかった。



 メイトがルキと会話をしていたその時、煌仙を見下ろす黄耆山山頂にはカイト率いる青龍隊と精鋭・グリフォン隊が待機していた。本隊は黄耆山を迂回し、既に麓で待機している。皇帝率いる主力部隊と連携して颯月宮への攻撃をすることになっているのだ。
 今にも飛び出して行きそうな部下達を率いつつ、カイトは自分の背後にいる人物に声をかける。

「メイコ、体調は大丈夫?」

 するとカイトの背中に寄り添っていたその人物――――――メイコは穏やかな声で答えた。

「ええ、大丈夫よ。私も、お腹の中の子供も」

 メイコはニッコリと微笑みつつ、自らの腹を撫でた。

「だけど上の四人をメイトが預かってくれて助かったわ。おかげで久し振りにゆっくりできるもの」

 普段は身重の身体で四人の子供の相手をしなければならない。幾ら養育係が付いているからといっても母親でなければ出来ない子育てもあるのだ。それを考えたらむしろ戦場のほうがゆっくり身体を休めることができるというのは皮肉である。

「義兄さんに関しては・・・・・・カイコ姉さんに子供を押し付けられたついでにうちの子も、って感じだったけどね」

 カイトは笑いながらふと眼下を見下ろした。既に布陣は終わっている。あとは攻撃の機会を待つだけだ。

「それにしてもカイコ姉さんがリンと先陣争いするとはね。なかなか終わらない戦争に苛ついていたのは確かだけど・・・・・・『奏国の夜叉姫』今だ健在、ってところかな」

 カイトが見下ろしたそこには皇帝軍本隊、そしてその本隊を守るようにカイコの赤龍隊とリンの白龍隊改め金龍隊が布陣している。

「よっぽどのことが無い限り僕らの出番は無いけどね。最悪の場合は頼んだよ、メイコ」

「ええ、解っているわ。どの精霊達も――――――ブレイジングもブルークリスタルもいつでも出陣できる」

 メイコは優しい笑みを口の端に乗せながら空中に視線をやる。そこには多くの精霊達が部隊を取り囲むように飛び交っていた。
 不思議な事に妊娠すると、その間メイコの魔力は二倍から三倍に膨れ上がる。もしかしたら胎内の子供達の力が加わっているのかもしれない。特に今回の妊娠中はそれが顕著で、意識して魔力を押さえていないと物が飛び交う騒霊現象が起こってしまう。

「できれば幻視の精霊のほうがいいかな。庶民に罪はないんだし」

 精霊達を宥めるメイコの気配を背中に感じつつ、カイトは眼下の軍隊の動きを凝視した。



 煌仙全体を取り囲む城壁を破壊し、皇帝軍は颯月宮の正面にまで進軍した。既に城下町には人影はなく、颯月宮の各所に投石器が配備されているのが確認出来るだけだ。
 一方の皇帝軍は皇帝直属の近衛隊、そして皇后直属のユニコーン隊を守るように赤龍隊全軍の半数と黄龍隊が配備されていた。兵の数としては決して多くないが、市街戦ならばむしろ少数精鋭のほうが都合が良い。今回も布陣も市街戦ということで機動力のある部隊が皇帝軍に付き従っていた。

「いよいよ始まるのですね」

 朱鷺色の鎧に身を固めた皇后・ルカが呟く。

「ああ、10年もかかってしまったがな。いい加減終わらせなければならないだろう」

 濃紫色の鎧に身を固めた皇帝は目の前に、そびえ立つ颯月宮を睨みつけた。その時である。

「陛下!出陣命令はまだなのですか!もういい加減待ちくたびれたのです!」

 皇帝軍の左側から愛らしい声が響く。そこには赤龍・ローレライに乗った小柄な女騎士・カイコだ。ルキを筆頭に3人の子供を産み育てているにも拘らず、その姿はまるで10代の少女のように愛らしい。その見た目から、彼女の二つ名『奏国の夜叉姫』を連想するものはまずいない。

「カイコ、落ち着け!可能な限り敵の戦力を調べあげてからでも遅くはないだろう。今、黒龍隊の魔道士達に調査をさせているから暫し待て」

 皇帝は急かすカイコをたしなめる。そんな皇帝に、カイコは不服そうに頬を膨らませた。カイコがそのような表情をするとますます子供じみてくる。
 辛うじて頭を守る軽そうなヘッドギア型兜と、見習い兵のような胸当て、手甲脚絆――――――これがカイコの今の姿だ。これから敵陣へ突入するとは到底思えない軽装だが、小柄なカイコにとって普通の鎧は重すぎる。カイコの身軽さ、機動力を最大限に活かすにはこの姿が最適なのだ。防御は攻撃速度で補えば良い――――――これがカイコの持論である。

「皇帝はいちいち悠長すぎるです!リンだって私と同感でありますよ!」

 そう言ってカイコはリンに同意を求める。すると皇帝軍の右側からもカイコと同じくらい元気な声が響いた。

「カイコ先輩に激しく同感でぇ~す!とっとと出陣しちゃいましょう、陛下!」

 そこには黄金龍に乗ったリンがいた。短かった金色の髪は腰まで伸び、十年前とは違った女性らしい美しさに満ちあふれている。だが、その言動は十年前と全く変わらなかった。
 無鉄砲に戦場に飛び出し、敵をなぎ倒してゆく。更にカイコからの影響か、カイコの復帰と共に戦闘服もガラリと変わってしまっている。今までルカに倣って重たい鎧をきっちり付けていたが、カイコの軽戦闘装備を見た翌日にはリンもヘッドギア型の軽い兜に、諸肌脱ぎに胸に晒しという、目のやり場に困るような姿になったのだ。さすがにルカに激怒されたが『剣を振るうのに袖が邪魔』とリンはその姿をやめながった。
 しかしその格好が功を奏したのか、軽装での出陣を始めた途端にリンの敵軍撃退スコアは急激に伸びた。魔導戦士軍という特殊部隊ということもあるだろうが、兵士一人あたりの敵撃退数は青龍隊、赤龍隊を抜いてトップだ。

「抑えておくのも厄介になってきたな」

 両側からの出撃圧力に負けたのか、皇帝はフッ、と軽く笑うと右手を上げる。

「赤龍隊!金龍隊!颯月宮へ!千尋大河と黄耆山の待機組は後方支援を!」

「御意!!!」

 その声と同時にカイコとリンは自らの龍を駆り我先にと突進し始め、連絡役の魔道士は待機組へ皇帝の命令を伝達する。

(レン、待っていてね。この戦いが終わったら・・・・・・)

 リンは胸の晒に忍ばせた小さな板に左手を当てる。

(絶対に、あたしからプロポーズするからね!)

 肩で風を切りながら颯月宮へ突進しながら、リンは最後にレンに会った三日前のことを思い出していた。





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外伝『颯月宮決戦』、ようやくここまでたどり着きました(∩´∀`)∩ワーイそしてMさん、皇后の呪いに関するエピソードは拾えなさそうです・・・orz(伏線ボロボロ落としまくりっす/(^o^)\)


時代は本編から10年後、リンちゃんもすっかり大人の女性になっておりますが、色気は殆ど皆無という・・・先輩が先輩なので仕方ありませんかね(^_^;)次回書かせていただく回想シーンでレンとのほんわかラブラブシーンくらいは書けるんじゃないかと思います/(^o^)\
なおリンちゃんの戦闘服は『いろは歌』のリンちゃんで。諸肌脱ぎで胸に晒、ヘッドギアはリボンを模した物、って感じでイメージしております♪
そして復帰したカイコ姫&子供を押し付けられたイクメン・メイトwww性転換組も含めた大人組の中では一番子育てがうまいです、拙宅では。なので自分の子供だけじゃなく、カイト達の四人の子供(うち一人は襁褓も取れていないはず^^;)の世話も押し付けられております。華都の屋敷で留守番をさせておいても良いのですが、この時点ではほぼ勝ち戦は決まっているようなもの。半分観光気分で子供らの引率&世話を引き受けている筈です。(跡継ぎのルキに関しては龍騎士の戦い方を見せようとしていたのかもしれません)

次回更新は11/17、リンちゃんのレンくんとの回想&颯月宮への突撃シーンになる予定です(*^_^*)
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