「短編小説」
幕末明治つまべに草紙

幕末明治つまべに草紙・其の拾一~洋服仕立職人の仙太郎

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 木枯らしが吹き始めたその日、洋服仕立職人・仙太郎は注文の品を届けに東京に出向いていた。『依頼』を受けた頃は緑が生い茂っていた街路樹も、既に半分ほど葉を落として寂しげだ。だがそんな街中のうら寂しさとは正反対に、仙太郎の顔は晴れ晴れとしていた。何せ自分にとっても、店にとっても初めての『仕事』が無事終わりを迎えようとしているのである。あとは依頼人に品物を見せるだけ――――――依頼人の屋敷へ向かう仙太郎の足取りも軽くなるというものだ。
 だが、さすがに一抱えもある『品物』を持って依頼人の屋敷に行くのは大変だ。仙太郎は駅前で客待ちをしていた俥を一台捕まえ、依頼人の屋敷がある麹町方面へと向かわせた。



 依頼人の屋敷に到着すると、仙太郎は慣れた風に門をくぐり、声を上げる。

「塩見洋装店でございます。ご注文のドレスが出来上がりましたのでお届けに上がりました!」

 すると中から女中頭らしい中年の女性が現れ、仙太郎に笑顔を向けた。

「お待ちしておりました、仙太郎さん。中で旦那様と奥様がお待ちです」

 女中頭の言葉に仙太郎は怪訝そうな表情を浮かべる。

「おや、平日なのに珍しいですね・・・・・・承知しました。では失礼します」

 どのみち支払い等の話もしなければならないので、むしろ主人が居てくれたほうが手間が省ける――――――仙太郎は軽く考えながら、女中頭に続いて屋敷の中へ入っていった。



 仙太郎は横浜・代官坂に店を構える塩見洋装店の職人である。店の場所柄、西洋人を相手にした婦人服の制作、販売をしているのだが、今回は珍しく――――――仙太郎にとっては初めて日本人婦人のドレスの制作を任されたのである。
 しかし、その過程はなかなか大変なものだった。細かな採寸をしなけれなならない西洋風ドレスであるにも拘らず、依頼人の奥方は仙太郎の採寸を嫌がった。仕方なしに彼女の良人がいる日曜日、彼に奥方を宥めすかしてもらいつつ、女中頭に指示して採寸を終えたのである。それだけでも大変だったのに、仮縫いの際の微調整でも彼女は仙太郎の手が触れるのも嫌がった。こればかりは主人が妻を窘めたが、夫以外の男の手が触れるのを嫌がる人妻は決して珍しくない。
 この時ばかりは『日本人の婦人服は広まらないだろうな』と仙太郎は諦めの境地に達し、親方である塩見にも紳士服への鞍替えを進言したほどだ。だがその苦労も今日で終わる――――――仙太郎は女中頭に続いて依頼人夫婦が待つ部屋へと入っていった。



 部屋の中には三十歳前後の主人と、彼に寄り添うように――――――と言うよりは、彼の陰に隠れるように座っている妻がいた。

「やぁ、仙太郎さん。久し振りだね」

 愛想よく笑いかける主人に仙太郎も笑顔を浮かべる。

「はい。しかし旦那様が立ち会われるのでしたら日曜日のほうが宜しかったですね」

 仙太郎は詫びながら手にしていた依頼品の箱を二人の目の前に置き、蓋を開く。

「こちらが依頼品のドレスになります。着脱は女中さんにお願いすることになりますので、後でお教えいたします」

 そこには目の覚めるような真紅のドレスが横たわっていた。それを依頼人の二人、特にこれを着る妻が食い入るように見つめている。

「仮縫いの時に一度は見ているけど、やはり仕上がりは違うものだね。これでようやく妻を鹿鳴館に連れ出すことができるよ」

 その一言に仙太郎は驚きの表情を浮かべた。

「あの・・・・・・失礼ですが、まだご参加は・・・・・・?」

「していないんだ。何せ政府の命令だから早めに出向きたいと思っているんだけど、妻がこのような人見知りだろ?ごねてなかなか参加してくれ無さそうなので、いっそドレスを先に作ってしまえば舞踏会に行かざるをえないだろうって」

 どうやら彼女の正確に苦労させられているのは仙太郎だけではなかったらしい。少しだけほっとして仙太郎は主人に語りかけた。

「鹿鳴館もなかなか大変みたいですね。まだダンスを踊ることができる方も少ないようで」

「そうなんだよ。それなのにダンスを習得している妻が出たがらないんだから。世の中というのはうまくいかないものだよ」

 主人の言葉に仙太郎も思わず笑みをこぼす。いつの間にか木枯らしは吹き止み、硝子窓からは柔らかな小春日和の陽射しが差し込み始めていた。



UP DATE 2015.10.28 

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寒くなると多くなるのがパーティだったりします。おしゃれをして人の注目を集めるのが大好きな、積極的な子にとっては最高の季節かもしれませんが、引きこもり寸前の控えめな子にとっては苦行以外何者でもないでしょう(-_-;)カボチャの馬車にガラスの靴、素敵なドレスにきらめくティアラを用意されたって、その場に出向く勇気がなければシンデレラだって王子様と出会うチャンスは掴めないのです/(^o^)\
なので既に素敵な王子様の庇護のもとにいる今回のヒロインは、鹿鳴館なんて絶対に嫌!と思っているに違いありません。ただ、出会いの場というよりは西洋に追いつけ追い越せの国家命令でしょうからねぇ・・・(-_-;)
そんな彼女にかける『魔法』として彼女の良人は西洋風ドレスをプレゼントしたのでしょうが、これもなかなか大変で・・・当時のある程度身分の高い日本人女性は、今現在のイスラム教圏の女性並みに男性との接触は少なかったですから採寸一つにも苦労したに違いありません。
(鹿鳴館参加女性の名前を見ると、旦那さんも女性教育や女性の社会進出に積極的な政治家の名前が並んでいたりします。それだけ女性が表に出るって大変なんだなぁ・・・と)

次回つまべに草子は11/25、今年の拍手文最終回になります♪
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