「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第九章

夏虫~新選組異聞~ 第九章 第二話・鳥羽・伏見の戦い・其の貳

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 夕闇迫る伏見に銃声と大砲の轟音が鳴り響く。それと同時に新年の清々しさは硝煙のいがらっぽい臭気に取って代わられた。
 敵は薩摩小銃隊が中心らしいと斥候に出向いた隊士が告げる。つまり銃や大砲で完全装備した相手なのだ。それに対し新選組が手にしている銃は小姓達が持っている三挺だけである。それだってお情けで譲ってもらったものだ。会津藩や桑名藩、そして見廻組は銃や大砲をある程度装備しているが、敵に比べると貧弱だ。

「どのみち俺達みてぇな切り込み部隊じゃ、鉄砲なんざ邪魔なだけだ」

 伏見奉行所の外、大刀を片手に薩摩本陣のある御香宮へと飛び出してゆく隊士の背中を見つめながら土方が呟く。そして飛び出していった先輩隊士を援護するように三人の小姓達はゲベール銃を打ち続けた。だが勢いが良いのも最初だけである。

「あついっ!」

 すぐに銃身が熱くなってしまい、玉置は良蔵が鉄砲を取り落とす。その手は真っ赤で火ぶくれができる直前のようだ。

「夢中になり過ぎたらあかん。手ぇ火傷したらお役に立てへんで、良ちゃん!」

 鉄之助が一つ年下の玉置を怒鳴りつけつつ、近くに準備してあった桶の水を鉄砲と玉置の手にかける。すると鉄砲からじゅっ、と音がして水蒸気が立ち上がった。

「だから予め手に晒でも手ぬぐいでも巻きつけとけ言うたやんか!わてら一人でも欠けたら先輩らがそんだけ不利になるんやで!」

 鉄之助が怒鳴りつけているその横では上田馬之丞が休むこと無く鉄砲を打ち続けている。その手には手拭いがぐるぐる巻きにされていた。どうやら鉄之助の忠告をきちんと実行していたようだ。

(元々突っ走るきらいがあったが・・・・・・玉置の扱いは少し気をつけねぇと、ってところだな。それにしてもこんなガキまで戦争に駆り出さなきゃならねぇとは)

 三人の少年のやり取りを聞きながら、土方は唇を噛み締めた。本当は近藤の下阪の際、三人に一緒に大阪に避難してもらいたかったというのが正直なところである。しかしそれに異を唱えたのが本人達なのだ。
 そこで土方は妥協案として鉄砲での参加を命じたのだが、それも熱くなる銃身に苦戦しながらの戦いだ。

「鉄!大丈夫か!」

 玉置の手当を終え、再び鉄砲を撃ち始めた鉄之助に土方が尋ねる。ともすれば大砲で声がかき消されてしまうので、隣にいてもほぼ怒鳴り声た。

「へぇ!せやさけできればこの三挺、ほんまは一人で使えたらなおありがたいです!馬はんと二人で三挺でもキツイもんがあります!」

 鉄之助も同様に大声で言い返す。手を濡らした手拭いでぐるぐる巻きにしても熱さは堪えるらしい。やはり局長付の二人は大阪の近藤の護衛を任せ、鉄之介一人に鉄砲を任せたほうが良かったのか――――――ほんの小さな読み違いなのかもしれないが、土方は何となくその『読み違い』に不吉な違和感を覚えた。

(怖気づくんじゃねぇ!いつもの巡察よりもちっとばかし派手な喧嘩ってだけじゃねぇか!)

 土方は弱気になりそうな己を鼓舞すると、銃を打ち続ける鉄之助らに声をかけた。

「幕府軍本隊は鳥羽まで来ている!もう少しだけ辛抱すりゃあ数でこっちが勝るからもう少し辛抱してくれ!」

「「「承知!」」」

 三人の小姓達は声を張り上げ、再び引き金を引き始める。だが、この一言も――――――鳥羽の幕府軍本隊がすぐにやってくるという読みも外れることになろうとは、この時の土方は思いもしなかった。



 その頃、鳥羽を進軍していた幕府軍は混乱に陥っていた。戦力的には圧倒的な優位に立っていたにもかかわらずである。
 それは総指揮官の竹中重固の不在に因るものが大きかった。ろくな指揮系統がないまま幕府軍は狭い鳥羽街道に入り込み、薩長軍の弾幕射撃によって進軍を阻まれたのだ。狭い街道に押し込まれた状態では数的優位を活かすことが出来ず、ただただ縦隊突破を図るのみだった。

 一方、幕府軍では伊勢方面から京都に向けて援軍として騎兵一個中隊と砲兵一個大隊が発進していたが、三日夜になって大津に潜入していた斥候から既に大津には薩長軍が入っているとの報告が入った。
 これは大村藩兵五十名のことであったが、幕府軍の援軍は大津に薩長軍が結集していると誤認して大津から京都を目指す事を断念、石部宿から伊賀街道を経由して大坂に向かうことになった。この遠回りも後の幕府軍敗戦の一因となったことは否めない。
 この一連の緒戦の不手際――――――これこそが幕府の命運を左右したと言っても過言ではないが、この翌日、更なる打撃を幕府軍は被ることになる。



 他の部隊が苦戦を強いられているそんな状況の中、伏見部隊も一進一退の攻防を続けていた。永倉隊はかなり御香宮まで近づいていたが、いかんせん激しい銃撃、砲撃のためそれ以上は近づけず、撤退を余儀なくされる。

「チクショウ!まだ幕府軍本隊は到着しねぇのか!」

 傷を負い、次々に帰ってくる隊士達の姿を見て、土方が声を荒らげる。この戦いだけで二名の隊士が命を落としたのだ。銃を手にしていない新選組が一番の被害を受けているだろう。土方は声を枯らしながら部下に指示を飛ばしている高石の姿を見つけるなりにじり寄る。

「おい!幕府本隊は何してやがる!まだこねぇのか!新選組からは二名も死者が出たんだぞ!」

「そ、それはこっちが知りたいですよ!もうとっくにこっちに着いていても問題ないんですから」

 一瞬面食らいながら、高石も不服そうに愚痴をこぼす。奉行所からも怪我人が出ているらしい。

「幕府は・・・・・・俺たちを捨て駒に、って考えているんじゃねぇのか?」

 一度芽生えてしまった不信感はなかなか脱い去ることが出来ない。土方は疑わしそうに尋ねるが、高石は首を横に振る。

「先程届いた使者からの連絡ですと、鳥羽街道で立ち往生しているらしいんですよ、幕府歩兵隊。何せあそこは狭いですから・・・・・・と言うか、何故大隊であそこを通ろうと思うのか理解が出来ませんよ」

 心の底から情けないといった声を出して高石はぼやく。

「はぁ?普通は船で来るだろうが!馬鹿じゃねぇのか?一体誰が指揮を取っているんだ!」

 土方は頭を抱え、その場にしゃがみこんだ。日々の巡察、そしてたまに起こる戦以外部隊の指揮をとったことがない土方でも、鳥羽街道進軍はあまりにも稚拙な進軍だと理解できる。道幅が特に狭いところを狙えば十分の一、否それ以下の兵力で抑えることが可能だろう。

「桶狭間の戦いかよ・・・・・・やってらんねぇ」

 土方が吐き捨てたとの時である。

「やはり総指揮官の竹中の不在が大きいのだろう」

 二人に声をかけてきたのは見廻組の佐々木只三郎だった。その顔は煤で汚れ、心なしか目許疲労が滲んでいる。

「幾ら優れた武器を持っていても『頭』がなければ意味は無い。むしろ鉄砲もろくに持たない新選組の方が優れた戦いをしているじゃないか・・・・・・そうそう、俺達も引き際を見極めないとな。薩摩軍の前線が近づいてきていて奉行所の屋根に火が付き始めている。今は俺達で消火に当たっているが火が燃え広がるのは時間の問題だろう」

「逃げる、ってぇのか?」

 奉行所が燃えてしまえば後ろに引くことは敵わない。だったら前に進めばいいじゃないか――――――土方は反論したが、佐々木はそれを一蹴する。

「一旦崩れた部隊を立て直す、と言いやがれ、馬鹿野郎!縁起でもねぇ!!」

 土方の言葉に佐々木が敢えて乱暴な口調で混ぜっ返す。

「どのみちこのままじゃ薩摩隊に攻め込まれるし、武器も全然足りてねぇ。それはお前さんが一番痛感しているんじゃねぇか?」

 佐々木の指摘に土方が言葉を詰まらせた。確かにその通りだ。

「そう・・・・・・だな。済まねぇ、どうやら少し頭に血が上りすぎているようだ」

「仕方ねぇよ。直前に近藤さんがあんな事になっているんだ。お前さんはよくやっているよ。だが、新選組はもう幕府軍でもあるんだ。少しは幕府を頼れ、というより幕府を利用することを覚えろ」

「利用?」

 佐々木の言葉に土方は怪訝そうな表情を浮かべる。

「ああ。会津、桑名、そして俺達も鉄砲、大砲を持っているが新選組は殆ど火器を装備していない。お前さんたちでおよそ百挺――――――いや、その半分の五十挺の鉄砲が前線に増えればかなりの戦力になる」

「・・・・・・鉄砲も持っていないような部隊は足手まとい、ってことか?」

「そんなにひねくれるな。皆頑張ってるだろうが――――――ただ、敵の鉄砲の的にするにゃ惜しすぎる奴らだる?あんたの部下たちは」

 佐々木の言葉に土方は深く頷いた。

「淀か大阪か――――――どこまで引き返すか解らねぇが、少し落ち着いたら上の方に訴えろ。お偉いさんだって前線が頑張ってくれりゃあ自分達の無事が確保されるんだから文句は言わねぇだろうよ」

 佐々木の屈託のない笑顔に土方もつられて笑う。

「そう、だな・・・・・・緒戦で俺も昂ぶっているのかもしれねぇ。少し落ち着いたら交渉してみるよ」

「ああ。そうなったら改めて新選組と見廻組、どちらが多く敵の首を取るか競争だな!」

「佐々木さん、俺達は絶対に負けねぇぜ!」

「その気概だ!」

 佐々木は更に大声で笑う。だが、土方がこの笑顔を見るのはこの夜が最後となる。


 佐々木が予言したように、薩摩側の攻撃により伏見奉行所は出火、炎上することになる。そして伏見奉行所に陣を敷いていた部隊はそのまま淀へと向かうことになる。



UP DATE 2015.10.24

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遅れてしまって申し訳ございません(>_<)
鳥羽・伏見の戦いようやく幕が切って落とされました。しかし油断をしていたのか幕府軍は緒戦であちこちでけつまずいているんですよね~(´・ω・`)そもそも大軍を細い道で行かせちゃあダメでしょう・・・せめて水路と陸路を半々にするとか出来なかったんでしょうか。これが『総指揮』がいないということなのでしょうね。そのせいで伏見ではかなり苦戦を強いられております。いや、新選組も鉄砲がろくに無い中でよく頑張ったと思いますよ。だけど敵の鉄砲&大砲の数が半端なかった・・・そりゃあ江戸に帰還後、歳が『刀の時代は終わった』的なことを言いますよ(T_T)

緒戦で二人の隊士を失った新選組、翌日、さらにその後でも多くの隊士達が亡くなってゆきます。そんな中、微妙な読み違いを起こしている歳の勘はどう動くのか・・・次回をお待ちくださいませ(*^_^*)
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