「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第九章

夏虫~新選組異聞~ 第九章 第一話・鳥羽・伏見の戦い・其の壹

 ←烏のがらくた箱~その二百九十一・理想のキッチンは遥か彼方・・・(´・ω・`) →鉄ヲタ夫と歴女妻の鉄道オタク旅~江差ヲタ主婦一人旅編3
 年が明けて慶応四年、大阪城は元日から騒然としていた。徳川慶喜が討薩表を発したのである。王政復古の大号令によって一旦は撤退を余儀なくされた幕府側だが、年末に来て徐々に盛り返しを見せていた。その勢いに乗じて一気に薩摩を叩き潰そうというのである。
 この発表に幕府方は早速上洛準備を開始した。『慶喜公上京の御先供』という名目ではあったが、事実上京都封鎖を目的とした出兵である。

「これで、決まりだな」

 着々と準備を整える臣下達を目の当たりにして、慶喜は勝利を確信した。戦力的にはまだまだ幕府側の方が充実しているし兵士の数も多い。こんな有利な条件で負けるはずがないのだ――――――この数日後、軍艦に乗って江戸に逃げ帰ることになろうとは露ほども思わず、慶喜は幕府の、そして己の明るい未来に思いを馳せていた。



 松本良順が近藤と沖田の許にやってきたのは元旦の午後だった。

「松本法眼、明けましておめでとうございます」

 近藤を看ていた沖田が松本に頭を下げる。

「おう、堅苦しい挨拶は抜きだ。そもそもそんな悠長に新年の挨拶をしてきた奴はオメェくらいだしな」

「え・・・・・・どういう、ことですか?新春の挨拶くらい・・・・・・」

「今日朝一番で京都出兵が決定した。明日には出陣が始まる。そんな中、新年の挨拶をしている悠長なやつなんざいねぇよ」

「そ、それは真ですかっ!」

 松本の言葉に、近藤が驚愕し起き上がる。だが、傷の痛みに呻き、再び床に倒れこむ。

「近藤先生!」

「無茶するんじゃねぇ!」

 松本は近藤を叱責すると、道具箱を開き始めた。

「勤めが果たせねぇのは悔しいだろうが、今回はオメェの出る幕はねぇ。どうせ土方あたりが部下を率いて伏見あたりに陣取っているんだろ?だったらあいつに全部任せておめぇは高みの見物と洒落こみやがれ」

 松本は焦りを露わにする近藤に釘を刺すと、傷の手入れを始めた。こちらに運ばれてきた時よりはだいぶ落ち着いてきたが、銃弾を取り出すために行った切開手術の後はまだまだ塞がりそうにない。まともに動けるようになるまではひと月以上は見ておかなくてはならないだろう。

「そうですよ、近藤先生。薩摩や長州に比べて幕府軍は格段に数が多いですし、兵器も充実しています。きっと土方さんが大活躍をしてくれて、近藤先生の名を挙げてくれますよ」

 沖田の慰めに、近藤はようやく落ち着きを取り戻し、まぶたを閉じる。

「そう、だな・・・・・・あとは歳に任せようか」

 松本の手当を受けながら呟く近藤の言葉には、隠し切れない無念さが滲んでいた。



 翌一月二日、幕府軍主力の幕府歩兵隊は鳥羽街道を進み、会津藩、桑名藩の藩兵、新選組は伏見奉行所を中心に陣を敷いた。
 その幕府軍出兵の報告を受け、朝廷は二日に橋本実梁を総督として柳原前光を補佐につけて京都の東側の要所である近江国大津に派遣することを決定する。これは幕府軍の援軍が東側から京都に進軍する事態を想定してのことである。
 それと同時に京都に部隊を置く複数の藩と彦根藩に対して大津への出兵を命じたが、どの藩も出兵に躊躇し、命令に応えたのは大村藩のみであった。因みに渡辺清左衛門率いる大村藩兵は三日未明には大津に到着しているが、揃えられた兵力はわずか五十名であったと伝えられる。
 圧倒的な不利が予想される中、一月三日、朝廷では緊急会議が召集された。強硬派である大久保利通は、錦旗と徳川征討の布告が必要と主張したが、春嶽は薩摩藩と幕府勢力の勝手な私闘であり政府は無関係を決め込むべきと反対を主張する。会議は紛糾したが、議定の岩倉が徳川征討に賛成したことで会議の大勢は決し、北上する幕府軍を迎え撃つことになった。



 伏見奉行所に朝廷側の使者がやってきたのはその日の午後のことであった。

「速やかにこの場から退去せよ。でなければ朝廷命令違反として討伐する」

 肥後藩士の池辺と名乗る男が居丈高に言い放つ。その横にいる桜田と名乗った男はただ黙って周囲を見回している。だがその勧告をすんなり聞くものはこの場にはいなかった。

「池辺殿、桜田殿。そのお言葉、そのままお返ししたします」

 高力忠良は使者に対してきっぱりと言い放つ。

「既に幕府歩兵隊が鳥羽街道を北上しております。そちらこそ早々に京都から撤退なされたほうがよかろう」

 それに続き、高石の背後に立っていた土方が追い打ちをかけるように続ける。

「幕府軍に比べ、そちらの軍勢はだいぶ少ねぇみてぇじゃねぇか。京都に居座っていたら間違いなくやられるのはお前さん達だぜ。そもそも薩摩や長州が直接使者を送ってこねぇ、ってところからして弱腰じゃねぇか」

 土方の指摘に池辺の顔が怒りに染まる。それを確認しつつ、高石が更に言葉を続けた。

「悪いことは言わない、何も肥後が矢面に立つことはないだろう。早々に京都から退陣なされたほうが肥後の為だ」

 どのみち薩摩や長州、土佐は軍を引かないだろう。ならば付随している藩から切り崩していくべきだ。使者が肥後藩の藩士だということで高石も土方も脅し半分の撤退を勧める。それに反応したのか使者の二人の表情にも徐々に同様の色が見え隠れし始める。かといってこのまま逃げ出すことは不可能なのだ。

「・・・・・・あい解った!痴者めが、あとで後悔しても拙者は知らぬぞ!」

 精一杯の虚勢を張りながら、池辺は立ち上がり、桜田もそれに続く。そしてくるりと土方らに背を向けると、そのまま伏見奉行所を後にした。

「土方さん、彼らが京都から撤退すると思いますか?」

「いいや、絶対にそれはねぇだろう」

 高石の問いかけに土方は即答する。

「・・・・・・そしてほぼ間違いなく露払いは薩長土以外の藩だろう。そこんところは新選組と一緒さ。下っ端が一番危険な場所を押し付けられる」

 土方は自嘲気味に笑うと、天井を見上げた。

「高石さん、奉行所の兵士に鉄砲を持たせたとしたら、余る鉄砲はどれくらいだ?」

「・・・・・・申し訳ありませんが、三、四挺しか」

「となると、小姓のガキどもに持たせるしか無さそうだな」

 腕組みをしつつ、ぽつりと呟いた土方のその一言に、高石は目を丸くする。

「土方さん?新選組の小姓達って、十三、四歳の子供ですよね?まさか彼らも戦に参加させるというのですか!」

 高石は気色ばむが、土方は顔色一つ変えずに返事をした。

「たとえガキでも新選組隊士だ。その覚悟ができねぇ奴だったらとっくの昔に追い出している。安心しろ、さすがに後方支援だから」

「当然です!まったくあなたという人が・・・・・・そもそも子供に銃が扱えるんですか?」

 疑わしそうに土方を睨む高石に、土方はこともなげに言い放つ。

「勿論。特に俺直属の市村は、新選組一の鉄砲の名手だ。何せ国友村仕込みで、その中でも一、二を争う腕前だからな」

 余裕さえ感じさせる土方の一言に、高石は呆れ果てたように溜息を吐いた。

「あなたという人は・・・・・・とんでもない事をしでかしますな。なるほど、池田屋事変を成功させただけはある」

 その一言に土方は少し不服そうに眉を跳ね上げた。

「・・・・・・あれから四年、未だに池田屋のみが褒めそやされるのも飽きてきましたんでね。そろそろ新しい武勇伝を作るつもりですよ」

「ははは、失礼いたしました。そうなると我々も負けていられませんね。お互い、幕府を驚かせるような武功を立てましょう」

 高石の言葉に、土方は再び笑みを見せた。



 朝廷側の使者が伏見奉行所を後にしたその日の夕方、それは起こった。一発の銃声が鳥羽の、そして伏見の静寂を引き裂いたのである。



 それは下鳥羽や小枝橋付近で街道を封鎖する薩摩藩兵と大目付の滝川具挙の問答から始まった。双方の話し合いは不調に終わり、軍事的衝突が起こったのである。その銃声は伏見にまで届き、戦闘準備をしていた伏見奉行所内は騒然とスツ。

「とうとう始まりやがったか!」

 土方はにやりと笑うと、軍装に身を固めた隊士達に号令をかける。

「おめぇら!奉行所の奴らに遅れを取るな!近藤さんの分まで戦うぞ!!」

 その号令に隊士達はいきり立つ。

「おう、任せておけ!」

「局長の為に武功を!」

「薩長の奴らを潰すぞ!」

 それを見つめながら土方は横に控えている鉄之助に声をかける。

「いいな、鉄。おめぇ達は後方支援だ。無理をするんじゃねぇぞ」

 土方のその一言に、鉄之助は無言のまま頷いた。



UP DATE 2015.10.17

Back   Next


にほんブログ村 小説ブログ 歴史・時代小説へ
INランキング参加中。
お気に召しましたら拍手代わりに是非ひとポチをv


  
こちらは画像表示型ランキングです。押さなくてもランキングに反映されます。
(双方バナーのリンク先には素敵小説が多数ございます。お口直しに是非v)


 



第九章本編始まりました♪ここからは戊辰戦争編になりますね(*^_^*)
これからなかなか出てくる機会が無いであろう総司&近藤局長も無理やり出しちゃいました♪やっぱり鳥羽・伏見は歳を中心とした新選組本隊がメインになってしまいますからねぇ(-_-;)総司が主役なのに・・・まぁ、この後九章の後編ではがっつり総司をメインに出したいと思っていますのでご容赦を(^_^;)
これから戦いの日々が始まりますが、お付き合いのほどよろしくお願いしますm(_ _)m

次回更新は10/24、鳥羽・伏見の戦い本番になります(๑•̀ㅂ•́)و✧
関連記事
スポンサーサイト

 関連もくじ一覧 ▼ 
総もくじ 3kaku_s_L.png vague~道場主・作間駿次郎顛末記
総もくじ 3kaku_s_L.png 夏虫~新選組異聞~
総もくじ 3kaku_s_L.png 紅柊(R-15~大人向け)
総もくじ 3kaku_s_L.png 葵と杏葉
総もくじ 3kaku_s_L.png 横浜慕情(大人向け)
総もくじ 3kaku_s_L.png 短編小説
総もくじ 3kaku_s_L.png VOCALOID小説
総もくじ 3kaku_s_L.png 雑  記
総もくじ  3kaku_s_L.png vague~道場主・作間駿次郎顛末記
総もくじ  3kaku_s_L.png 夏虫~新選組異聞~
総もくじ  3kaku_s_L.png 紅柊(R-15~大人向け)
総もくじ  3kaku_s_L.png 葵と杏葉
総もくじ  3kaku_s_L.png 横浜慕情(大人向け)
総もくじ  3kaku_s_L.png 短編小説
総もくじ  3kaku_s_L.png VOCALOID小説
総もくじ  3kaku_s_L.png 雑  記
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
【烏のがらくた箱~その二百九十一・理想のキッチンは遥か彼方・・・(´・ω・`)】へ  【鉄ヲタ夫と歴女妻の鉄道オタク旅~江差ヲタ主婦一人旅編3】へ

~ Comment ~

承認待ちコメント 

このコメントは管理者の承認待ちです

S様、コメントありがとうございます(*^^*) 

とうとう戊辰戦争が始まり、舞台が京都から離れます。
疾風怒濤の運命に翻弄される総司ですが、これからも応援よろしくお願いしますm(_ _)m
管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【烏のがらくた箱~その二百九十一・理想のキッチンは遥か彼方・・・(´・ω・`)】へ
  • 【鉄ヲタ夫と歴女妻の鉄道オタク旅~江差ヲタ主婦一人旅編3】へ