「VOCALOID小説」
聖龍協奏曲~奏国物語

ボカロ小説 聖龍協奏曲~奏国物語 虹色の未来3

 ←烏のおぼえ書き~其の百十七・火附盗賊改 →秋草濡れる・其の貳~天保七年十月の淫遊戯(★)
――――――恋に落ちる、音がした


 それは皇帝とルカの婚礼の為に作られ、少年宮廷歌手らが歌った曲の一楽句である。交響曲仕立ての華やかな曲だったが、レン自身は変声が始まっていたこともあり、その舞台に参加することができなかった。
 それ故、その甘ったるい歌詞を『下らない』とずっと馬鹿にしていたレンだったが、今この瞬間、レンは自分の内側で『恋に落ちる音』を聞いたのだ。

(か、かわいい・・・・・・)

 皇宮内で美男美女を見慣れているレンでさえ思わず息を呑んでしまうほど、目の前に現れた少女は愛らしかった。
 金色の髪を短く切ったその少女の年の頃は、レンと同じくらいだろうか。どちらかというと小柄なその少女は、娘子軍の稽古着を身に着けていた。レンと同じくらい、すなわち15歳前後ということは騎士見習いだろう。
 びっくりしたように大きく見開かれている目は明るい空色で、レンと同じ色だ。ただその目は涙に濡れており、鼻の頭も真っ赤に染まっている。もしかしたら石が変なところに当たってしまい、彼女は泣いているのだろうか――――――レンは慌ててその少女に詫びる。

「ごめん!さっきの石、どこかに当たっちゃった?痛かった?」

 すると少女は違う、と首をブンブンと横に振った。

「いきなり飛んできたからびっくりしたけど、あれはなんとか避けたよ。でないとルカ様に『動きが鈍い!』ってまた・・・・・・怒られる」

 ルカ様――――――その一言を口にした途端、少女の目にじわり、と新たな涙が溢れだす。それと同時にレンは少女が口にしたその名前に驚きを露わにした。

「ルカ様って・・・・・・皇后陛下になられたルカ様か!お前、皇后陛下に稽古を付けてもらっているのか?」

 レンは思わず身を乗り出し、少女の顔を覗き込む。ぱっと見それほど優れた戦士には見えない少女だが、特別な才能でも持っているのだろうか。すると少女は目にいっぱい涙を溜めながら、レンに事情を説明し始めた。

「うん。ルカ様は結婚を期に引退なされたんだけど、私は特別に、ってことで稽古を付けてもらっているの。だけど全く稽古についていけなくて・・・・・・ふぇぇ」

 何かを思い出したのか、少女はポロポロと涙をこぼし始めた。傷一つ無い白磁のように滑らかな頬を伝う水晶の欠片のような涙――――――それを目の当たりにしてレンはただオロオロすることしか出来ない。

「お、おい、泣き止んでくれよ。っていうか皇后陛下に特別に稽古付けてもらっているってさぁ、お前一体何者・・・・・・!」

 その時レンは少女の胸元に付いている紋章に気がついた。四本指の龍を簡略化したその紋章は、ごく限られた人間しか――――――奏国にたった四人しか付けることが許されていない紋章である。そしてその紋章をつけた別の人間に、レンは先程振られたばかりだ。

「お前、じゃねぇ。貴方様は、龍騎士の・・・・・・」

 軍において皇帝に準じる権限を持つ龍騎士は、日常でもそれなりの権力を持ち合わせる。愛人であったカイトに対しては強気に出ていたレンだが、さすがに他の龍騎士に対しては礼儀を失するような真似はしない。慌てて姿勢を正し、少女に向き合ったレンだったが、少女は露骨に不機嫌な表情を露わにする。

「龍騎士だからってそういう態度するの、やめてよ!あたしは・・・・・・龍騎士にふさわしくないのにっ!」

 少女は大声で叫ぶと、更に大声で泣き始めた。その泣き声に驚いた通行人がこちらを見つめ、ヒソヒソ声で喋っている。明らかにレンが泣かしたと思われている風だ。

「おい、こんなところで泣くなよ」

 レンは泣きじゃくる少女の背中を撫で擦る。

「色々訳ありみたいだけどさ・・・・・・ここじゃ何だから、取り敢えず場所を変えないか?愚痴りたかったらそこで吐き出せばいいからさ」

 人目を気にしつつ提案するレンの言葉に、リンは泣きじゃくりながら頷いた。



 カイトが自らの屋敷に帰り、メイコが休んでいる部屋に入ったその時、メイコは入ってきたカイトの方ではなく、窓の外をじっと見つめていた。屋敷の外で何か騒ぎがあるわけでも無いのになぜメイコは外に集中しているのか――――――カイトはメイコの背中に声をかける。

「ただいま、メイコ。どうしたの?」

 その声にメイコははっ、と我に返りカイトの方へ振り向いた。そして微かに頬を紅潮させながら、柔らかな笑みを見せる。

「今ね、外からすごく綺麗な音が聞こえてきたの。あの方向は市場か飲食店街の方だと思うんだけど・・・・・・その瞬間、今まで重だるかった身体がフッ、と軽くなってね。あの音、何だったんだろう?」

 そう言うと、メイコは再び窓の外を見つめ始めた。よっぽど美しい音色だったのだろうか。ただ、目の前にいる自分より、どこから聞こえたとも判らないその音にメイコの気が向いていることがカイトには面白くない。少しばかり脅かしてやれとカイトは足音を忍ばせてメイコの背後に近づき、そのまま強く抱きしめた。

「ちょっ、カイト!」

 その腕の力の強さに慌てるメイコだが、カイトはそれを気にするでもなくメイコの髪に己の顔を埋める。

「帰ってきたのに俺にかまってくれないメイコが悪い。それよりも、聞いた音って具体的に言うとどんな音に近かった?」

 どんなに腕のなかで暴れても、カイトの腕の力は緩みそうもない。メイコは諦め、カイトの質問に答えた。

「一番近いのは『龍の歌』――――――特に陽炎の声に近かったかも。鈴の音に近いんだけどもっと繊細で綺麗で」

 どんなに美しい声の持ち主でも、優れた楽器でも再現できない美しい音、それが何なのか皆目検討がつかないとメイコはカイトに訴える。するとカイとはメイコの耳許に唇を近づけ、甘く優しい声で囁いた。

「もしかしたら誰かが恋に落ちる音だったのかもしれないよ。皇帝の婚礼式で合唱隊が歌っていたでしょう?あの曲の歌詞みたいに」

 睦言に近い響きのカイトの声に、メイコは先程聞いた美しい音色と共通する何かを感じた。だけどやはり何かが決定的に違う気がする。

「そうかしら?ただでさえ『鈍い』私にそんな繊細なものが聞こえるとは思えないけど・・・・・・ああ、でももしかしたらミクのものだったら聞こえるかもね、姉妹だから」

「それは自分を卑下しすぎでしょう、第二十七代魔道士長様」

 ふざけ半分にそう言いながら、カイトは腕の力を緩め、メイコの手を握った。

「今度は・・・・・・一緒に聞きたいな、その音を」

「そうね。もしかしたらカイトにも・・・・・・聞こえるかもしれない」

 いつにない甘い声でメイコが返事をすると、そのままカイトの方へ振り返る。

「あのね、カイト。約束していた期間より少し早いんだけど・・・・・・」

 メイコの唇が動く。それは、カイトから受けていたプロポーズの返事だった。その声はカイトの耳にしか届かない小さなものだったが、カイトにはそれで充分である。

「ありがとう、メイコ――――――絶対に、君を幸せにするから」

 カイトは微笑み、その唇に己の唇を重ねた。



 華都の下町にある安酒場で、レンと龍騎士の少女――――――リンは軽い食事を取っていた。カイトからふんだくった金は腐るほどあるが、そんな金でリンに食事を奢りたくはない。そうなるとレンが連れていける店は限られてしまい、結局下町の安酒場に落ち着いたのである。

「チクチョー!やってられるかっ!みんなで寄ってたかって人を小馬鹿にしてっ!!」

 リンは声を荒らげ、手にした陶製のジョッキをバン、とテーブルに叩きつける。唇を手の甲で拭うその姿は、呑んだくれの中年オヤジそのものだ。

「まぁまぁ、落ち着いて」

 宥め役に回るのは目の前にいるレンだ。この店に入って既に半刻近くこの状況だ。

「これが落ち着いていられると思うの!ルカ様だけじゃなく、カイト中将やメイトのクソ野郎から龍騎士としての技量、教養を無理やり叩き込まれるわ、出来ないとメイトのクソ親父から鉄拳が飛んでくるし、他の娘子軍の隊員には『特別扱いされて』っていじめられるし・・・・・・もうやだ!こんな生活!!」

 そう言って今度はテーブルに突っ伏して泣きじゃくる。そしてひとしきり泣きわめくと、今度はカウンターの中にいる店の主人に向かってジョッキを差し出した。

「ますたー、おかわり!!」

 すると、露骨に渋い表情を浮かべた店の主が、低い声でリンに忠告する。

「・・・・・・お嬢ちゃん、悪いことは言わねぇ。もうやめてさっさと帰りな」

「やだ!あと一杯くらいいいじゃない!ケチ!!!」

 この様子だとテーブルをひっくり返し店内で暴れかねない。レンは店の主に目配せをしてもう一杯だけ、と頼み込む。

「・・・・・・仕方ねぇな。これで終いだぞ!まったく・・・・・・今日の料理に使う予定だった牛乳が無くなっちまったじゃねぇか。腹壊して寝込んでも俺は知らねぇからな!」

 呆れ果てつつ言うと、店の主人はジョッキになみなみとついだ牛乳をリンに渡した。

「坊主、おめぇも大変だな。兄妹か恋人か知らねぇが、酒が飲めるようになったら、とんでもねぇ大酒飲みになるぞ、ありゃ」

 同情の目でレンを見つめる店の主に、レンは苦笑いを浮かべて頭を下げた。

「・・・・・・覚悟しておきます」

 レンはそういったものの、リンを見つめる視線には柔らかなものが含まれていた。

(だけど、こんな姿を見せてくれるのは俺の前だけなんだよな、たぶん)

 『龍騎士』になってしまったせいで友達さえ作ることが出来ないとリンは嘆いている。ということは軍に所属していないレンにもチャンスが有るかもしれない。

(リンが落ち着いたら・・・・・・友達になってもらえるか聞いてみよう)

 目の前にいる天使のような少女を汚すことなど考えられない。欲望さえも昇華する募る想い――――――それが真実の恋だと知るには、レンはまだまだ未熟だった。





Back   Next


にほんブログ村 小説ブログへ
INランキング参加中v
こちらはブログ村の小説ランキングにリンクしております。



こちらは画像表示型ランキングですv




今回のテーマは『メルト』ですね❤たまには激甘も良いでしょうということで・・・というかここまで甘いのは『奏国物語』では初めてじゃないかと(^_^;)一時はどうなることかと思っていたレンくんもなんとか無事新たな恋と出会えたようです(*^_^*)

それぞれのCPがそれぞれ結びつき、奏でられていくであろう虹色の未来、次回はそのまとめに、最終話になる予定です(*^_^*)カイメイ、がくルカ、リンレン、そしてミクたち魔導学校に通っている少女達の未来は・・・次回をお楽しみ下さいませ(#^.^#)
関連記事
スポンサーサイト

 関連もくじ一覧 ▼ 
総もくじ 3kaku_s_L.png vague~道場主・作間駿次郎顛末記
総もくじ 3kaku_s_L.png 夏虫~新選組異聞~
総もくじ 3kaku_s_L.png 紅柊(R-15~大人向け)
総もくじ 3kaku_s_L.png 葵と杏葉
総もくじ 3kaku_s_L.png 横浜慕情(大人向け)
総もくじ 3kaku_s_L.png 短編小説
総もくじ 3kaku_s_L.png VOCALOID小説
総もくじ 3kaku_s_L.png 雑  記
総もくじ  3kaku_s_L.png vague~道場主・作間駿次郎顛末記
総もくじ  3kaku_s_L.png 夏虫~新選組異聞~
総もくじ  3kaku_s_L.png 紅柊(R-15~大人向け)
総もくじ  3kaku_s_L.png 葵と杏葉
総もくじ  3kaku_s_L.png 横浜慕情(大人向け)
総もくじ  3kaku_s_L.png 短編小説
総もくじ  3kaku_s_L.png VOCALOID小説
総もくじ  3kaku_s_L.png 雑  記
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
【烏のおぼえ書き~其の百十七・火附盗賊改】へ  【秋草濡れる・其の貳~天保七年十月の淫遊戯(★)】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【烏のおぼえ書き~其の百十七・火附盗賊改】へ
  • 【秋草濡れる・其の貳~天保七年十月の淫遊戯(★)】へ