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聖龍協奏曲~奏国物語

ボカロ小説 聖龍協奏曲~奏国物語 虹色の未来2

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 気を失ったままのメイコを抱え、皇宮の隣にある自らの屋敷に帰ってきたカイトは、メイコを寝台に横たえた。その顔色は先程よりは心なしか良くなっている気がする。

「こうやって眠っていると本当に美人なんだけどなぁ」

 修行の為、各国を巡り歩く『白の魔道士』は他国の人間と結ばれることも多く、その子供は混血故の美形が少なくない。メイコもその例に漏れず、整った顔立ちをしている。ただ起きている時は性格の奔放さ、そして気の強さが前面に出てしまい、顔立ちの美しさが台無しになっている。
 カイトはそんなメイコの顔を覗き込んでいると、メイコは微かな呻き声を挙げて目を開けた。

「・・・・・・ん?あれ、ここ、は?私、確か魔導省の執務室に向かっていたはずだけど」

 どうやら魔導省執務室に戻る前から記憶があやふやらしい。あたりをキョロキョロ見回しながら、メイコはカイトに尋ねる。

「ここは俺の屋敷。魔導省の執務室に戻った途端、メイコは倒れたらしくてね。すぐに俺のところに知らせが来たんだ。体調が戻るまで出仕しなくてもいいって約束も取り付けてきたし、少しゆっくりすると良いよ」

 暫く大人しく休んでいろと告げるその言葉にメイコはふぅ、と大きく息を吐いた。

「情けないなぁ。せっかく怪我が治って出仕出来たと思ったのに」

「諦めなさい。少し休めばすぐに体調は戻るよし、魔導省にもこき使われるよ。だけど・・・・・・」

 カイトはメイコの顔を真顔で覗き込む。

「レンには近づかない方がいい。魔導的に『鈍い』君が共鳴してしまうなんて尋常じゃない。キヨテルもいつ復帰できるか判らない今、君に何かあったら魔導省から文句を言われるし、それに・・・・・・」

 カイトは顔を赤らめて言いよどむ。

「それに?」

 カイトの様子が変わったことに気がついたメイコが怪訝そうに尋ねた。

「君に何か当たら俺が耐えられない。それこそレンを・・・・・・この手で殺めてしまうだろう」

「ちょっ・・・・・・いくら何でもそれは大げさすぎでしょう!」

 カイトの物騒な発言にメイコは慌てて身体を起こすが、目眩を覚えて再び寝台に倒れる。

「ほら、まだ奪われた体力が戻っていないんだから、無理をするんじゃない」

 レンとの感情の共鳴によって受けたダメージはかなり根が深いようだ。カイトは無茶をするメイコを優しく叱りつつ、メイコの額にかかる前髪をかきあげた。

「今は大人しく体力回復に集中すること。いいね?」

 カイトはそう言って、メイコの唇に己の唇を軽く重ねる。それに驚いたメイコは大きく目を見開いた。

「ちょっ・・・・・・か、カイト!いきなり何を!」

 挨拶程度の軽い接吻だったが、奥手なメイコにとっては刺激が強すぎた。頬を林檎のように赤らめて不埒な行為に抗議する。だがカイトは爽やかな笑顔とともにシレッ、と言い放った。

「生命力のおすそ分け。前は裸で抱き合って生命力を流しこんだけど・・・・・・その方が良かった?」

「カイトのスケベ!出ていけっ、バカっ!!」

 メイコは顔を真赤にして枕をカイトに投げつける。それを受け止めつつカイトは笑った。

「それだけ元気があれば大丈夫そうだね。じゃあ俺は皇宮に一旦戻るから。すぐに帰ってくるからね」

「帰ってくるな!バカイト!!」

 恥ずかしさのあまり頬だけでなく、耳や首筋まで真っ赤になりながらメイコは怒鳴る。その声を背にしつつ、カイトは名残惜しそうに部屋から出て行った。



 自分の屋敷から皇宮に戻ったカイトが向かった先は皇宮修繕の工事現場だった。そこでは十代の若者から七十代の熟練工まで多くの人間が働いている。どの男達も懸命に働いていたが、その中に見覚えのある金色の髪が見えた。慣れない手つきで煉瓦を運ぶその姿は、紛れも無くレンである。カイトはそれを確認すると、指示を飛ばしている現場監督へと近づいた。

「カイト中将!ご足労ありがとうございます!」

 素早くカイトに気がついた現場監督は、反射的に頭を下げる。他の貴族と違い龍騎士は庶民にも顔が知れ渡っている。この現場監督もそんな一人なのだ。カイトの存在にしゃちほこばる現場監督だったが、カイトは楽にしていいと彼を宥める。

「ここでは気を使わなくても良い。俺はこの場では単なる邪魔者でしかないからな。ところで・・・・・・レンはいつ休憩に入る?」

 レンに視線を投げかけながら、カイトは現場監督に尋ねた。すると現場監督は何かを考えるように顎に指を当てた。

「う~ん、さっき昼の休憩がありましたが・・・・・・あいつに何か用でも?」

「ああ。魔道士絡みの騒動についてちょっと、な」

 その瞬間、現場監督の顔が強張った。

「先程の!!!あの・・・・・・何か処罰でも?」

 龍騎士自ら足を運んでこのような工事現場に来ることは尋常ではない。現場監督の顔色がみるみる青ざめるが、カイトは『これは私用だ』と付け加えた。

「噂には聞いているだろうけど、あいつと俺には色々あってね・・・・・・ただ互いに近づかないほうが良いだろうと忠告をしに来たんだ」

 そう言ってカイトは現場監督に金貨を数枚掴ませる。これ以上は詮索するな、ということだ。それに素早く気がついた現場監督はニヤリ、と笑いレンに声をかけた。

「判りました・・・・・・・おい、レン!カイト中将がお前に用があるそうだ!」

 その瞬間、いたたまれないほどの好奇の視線がカイトとレンに集中した。




 大した話ではなかったが、周囲のあまりの好奇の目に耐えられず、カイトは人目を避けるようにレンを現場から少し離れた場所に連れ込んだ。

「久し振りだな、レン」

 できるだけ優しい声音で語りかけたカイトだったが、レンは不貞腐れたままそっぽを向く。やはり色々面白くないのだろう。カイトは根気強くレンに語りかけた。

「宮廷歌手の仕事をほっぽり出して何でこんなところにいるんだ?そもそも力仕事なんてお前らしくも・・・・・・」

「・・・・・・仕方ねぇじゃねぇか。こんな声じゃ、歌うなんて無理だろ!」

  血を吐くような叫びのその声は、変声初期独特の掠れを伴っていた。それを耳にしたカイトは微かに眉をひそめる。

「なるほどね。その声だと暫くは無理か」

「暫くじゃねぇよ!パトロンがいない宮廷歌手なんて・・・・・・去勢歌手じゃない、成人歌手なんてよっぽど協力はパトロンと強運が無けりゃ無理だろ!」

 カイトに食って掛かるその目には涙が浮かんでいる。癇癪そのものは昔よく経験したが、涙まで見せるのは初めてだ。カイトはレンの癇癪が収まるまでじっと耐え、ようやくレンの気持ちが収まったのを見計らい口を開いた。

「・・・・・・ならば俺がレンの後見になろう。必要経費も申告してくれればいい。ただし条件が二つある」

 カイトの声が不意に低くなる。

「条件のその一は・・・・・・後見の期間はレンが20歳になるまでだ。その頃までにある程度の地位を確立していなければ、どのみち歌手としてやっていくことは困難だろう」

「ああ、確かにそうだな」

「そしてもう一つ。今後一切メイコに近づくな」

 その声に含まれた殺気に、レンは凍りついた。

「20歳までどんな金の使い方をしようが多少は大目に見よう。だけどメイコに近づき、傷つけるような真似をしたら――――――命はないと思ってくれ」

 声を荒らげているわけでもない。むしろ静かな口調と言った方が良いだろう。だが、その声音はレンを竦ませるのに充分すぎる迫力を持っていた。そしてカイトの心は既にメイコに奪われているという紛れも無い事実――――――それを突きつけられ、レンの心は軋む。

「あ、ああ・・・・・・別に金さえもらえりゃあ文句はねぇ!」

 精一杯の虚勢を張り、レンはカイトに背を向ける。

「取り敢えず5000華圓!それを毎月だ!」

 それは少年一人が暮らすにはかなり法外な金額だった。1000華圓もあれば、下町で家族五~六人が余裕で暮らすことができる。だが、カイトは眉一つ動かさずそれを承諾する。それがレンにとって面白くない。

「さすが龍騎士様だな!この程度の金は何とも無い、ってことか!」

「・・・・・・少々高い買い物だけどね。メイコの安全には変えられない」

 カイトは腰に吊るした剣の鯉口を切る仕草をする。

「解っているよね?金輪際皇宮・魔導省及び俺の屋敷に近づかないこと。それを犯してメイコに危害を加えようとしたら、その首は切り離すから」

 その一言にレンはフン、と不満そうに鼻を鳴らし、カイトに背を向けるとその場から立ち去った。

「・・・・・・あの程度の脅しで素直に言うことを聞いてくれればいいんだけど」

 単なる私怨だけで終わってくれればいいが、レンの嫉妬が狄国の諜報に利用されてしまうと厄介だ。それでなくても奏国の魔導軍はかなりのダメージを受けている。せめてキヨテルが復帰するまでは何事も無く終わって欲しい――――――カイトはレンが去っていった方を見つめ続けた。



「・・・・・・チクショウ!カイトなんて、大っ嫌いだっ!」

 悔しさにレンの目から涙が次から次へと溢れてくる。自分が欲しかったのは金でも成人歌手としての地位でもなく、カイトの気持ちだったのだ――――――今更ながらレンはその事実に叩きのめされる。だが、カイトの気持ちは既にメイコに傾いている。自分の入り込む余地など残っていなかったのだ。

「あいつさえ・・・・・・あいつさえ華都に来なかったら!」

 レンは悔し紛れに道端に転がっていた石を蹴飛ばす。すると小石は壁にあたりあらぬ方向へ跳ね返った。その刹那である。

「ぴゃああ!」

 若い娘の素っ頓狂な声が石が飛んでいった方から聞こえたのだ。

「やべぇ!人に当てちまったか!」

 どうやら今日はとことん厄日らしい。レンは舌打ちを一つして、声の方へ走りだした。





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とうとうカイトはレンに対して決別を宣言してしまいました(´;ω;`)リツと付き合っていた頃は精神をリツに支配されていましたから、きっと自然消滅的な別れ方をしたのでしょう。それ故、まだ見込があるかもしれないとレンは思っていたかもしれません。しかし歌手になるための後見、それまでの生活費などと引き換えにメイコに近づかないこと―――そしてカイトがメイコを取ることを突きつけられてしまいました。物理的に欲しいものは手に入れたけど、一番欲しかったカイトの気持ちを貰えなかったレン(-_-;)ちょっと気の毒かもしれません。

ただし!次回、レンにとっての『虹色の未来』が待ち受けていますので、よろしかったらお付き合いくださいませm(_ _)m
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