「短編小説」
幕末明治つまべに草紙

幕末明治つまべに草紙・其の拾~ランプ職人の志也

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 彼岸を過ぎ、柔らかくなった日差しが西の窓から差し込む。その柔らかな日差しを受けながらランプ職人の志也は注文の品を天井に取り付けていた。

「それにしても古風ですね、お末さん。西洋ランプまで亥の月、亥の日に合わせて入れるなんて」

 天井から外れないことを確認した志也は振り向きざま、依頼人に声をかける。その視線の先にいるのは若い女だ。お末と呼ばれたその女は地味な万縞を隙無く着こなし、落ち着き払っている。その姿は年増のようだが、肌艶や潰し島田に結い上げた髪型からするともう少し若いかもしれない。

「今じゃすっかり西洋の暦も浸透して、亥の日の風習なんて忘れられているのに」

 感心しきりにそう言うと、志也は踏み台から降りた。六尺近くある志也なら踏み台など無くても取り付けられそうだが、こればかりは癖となっているらしくどんなに低い天井であっても踏み台に乗っかり、作業をするのが志也のやり方だ。

「ふふっ、確かにそうかもしれませんね。でも父母から受け継いだ風習がどうしても抜けなくって」

 お末は肩を竦めつつ懐かしそうに目を細めた。旧暦では、月にも日にも十二支が割り振られており、十月は亥の月である。そして陰陽五行説では、亥は『水性の陰』としてとらえられるため亥の日の亥は火難を免れるという信仰があった。
 そこから亥の月の亥の日に火を使い始めれば、その冬は火事にならないと信じられていたのだが、お末はそれを西洋ランプにも当てはめたのである。

「でも一の亥の日、ということはお武家様、ってことですよね」

 亥の日は大抵ひと月に二度か三度あるものだが、お末は一の亥の日にこだわって注文をしてきた。徳川が治世をした頃、武家の炉開きは一の亥、町家は二の亥と定められていたので、もしかしたらお末の家は武家だったのではないかと志也は思ったのだ。そして案の定お末は少し驚きに目を見開きつつ頷いた。

「ええ。すっかり落ちぶれておりますけど・・・・・・これでも父は旗本だったんですよ」

 小さな声でお末は呟く。どうやら曰くがあるらしく、お末以外誰一人住んでいるように見えなかった。父母にも先立たれてしまったのかもしれない。

「そうですか。しかし・・・・・・お武家様で新しい物がお好きという方も珍しい」

 客の事情には首を突っ込むな――――――親方に言い含められているが、志也は思わず口にしてしまう。すると女は嫌な顔をするどころかにこり、と笑みを浮かべながら事情を語り始めた。

「ええ。ここ最近この近辺を怪しい者がうろつくようになりまして。少しでも明るければ家の中に押し入られることは無いかな、と。父母が生きていた頃はいざしらず、女の一人暮らしは何かと物騒で」

「押し入られるですって!そんな物騒な輩がいるんですか!」

 作業道具をすっかり片付けた志也が素っ頓狂な声を上げる。

「ええ。この辺りは治安がいいからと引っ越してきたんですけど」

「それはいけませんね。この辺りだと政府の番屋も少し遠いですし。勿論大家さんにもこの件は?」

「はい。訴えたんですけど取り合ってもらえなくって、困っているんです」

「そうですか・・・・・・余計なお節介かもしれませんが、暫くの間俺が見張りをしましょうか?このランプの手入れも必要ですし。も、勿論変なことはしませんから!」

 とんでもない事を口走ってしまったと顔を真赤にする志也に、お末は微笑む。

「頼りになりますわ。ではお言葉に甘えてしまってよろしいでしょうか」

「は、はい!・・・・・・あ、そろそろ暗くなってきましたね。ラ、ランプはこうやって付けてください。一晩でホヤが煤けてしまいますので掃除が面倒かもしれませんが、明るさは行灯とはまるで違いますから、無頼者を近寄らせない役には立つかも」

 そう言いながら志也はランプの火をつける。決して強くはないが行灯よりも遥かに明るい光が部屋を、そしてお末を照らした。その頬は心なしか紅色に染まっているように志也には見え、志也は照れくささを隠すようにお末の顔から視線を逸らした。



UP DATE 2015.9.30 

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今回の『女を美しく見せるもの』は西洋ランプとさせて頂きました(*^_^*)行灯に比べたらかなり明るい西洋ランプですが、やはりあの陰影は女性を美しく見せてくれますよね~(人´∀`).☆.。.:*・゚あれくらいなら多少化粧が濃くてもバレやしない(おいっ)明るすぎるといろいろ不都合があったりするんです、女って(^_^;)

文明開化を謳っていた明治時代ですが、照明も例外ではなく明治10年には既にランプの国産化が始まっていたそうです。全国的に普及するにはこの後10年ほどかかるのですが、それでも日本は広まり方が早いほうだと思います。因みにこの話は大体明治12~3年頃のイメージですかね。まだまだ江戸の気風は残っているけど、新しい物もそれほど抵抗なく受け入れるようになった頃、と思っていただけるとありがたいかもです(*^_^*)
(大した調べ物をしていないので突っ込みどころ満載ですがwww)

次回の『つまべに草紙』は10/28、女性を美しくして、なおかつ何かぬくぬくするものを書きたいなぁ、と思っております(*^_^*)
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