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聖龍協奏曲~奏国物語

ボカロ小説 聖龍協奏曲~奏国物語 玉虫色の暗殺者6

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 リツの強力すぎる攻撃は、魔道士としてそれなりに力を持つメイコの防御壁さえあっさりを破壊した。リツの攻撃をまともに受けてしまったメイコは弾き飛ばされ床にたたきつけられる。

「メイコ!」

 カイトはすぐさまメイコに駆け寄り抱き上げた。魔導服はずたずたに引き裂かれ、かいま見える白い肌も傷だらけだ。それでもメイコは気丈にカイトに訴える。

「な、何してるのよ・・・・・・私なんかより、陛下達を・・・・・・」

「安心しろ!陛下を護っている防御壁は問題ない――――――ミクちゃんが無事なうちは大丈夫だ」

 カイトはそう叫び、皇帝とルカの方を指示すが、本当の危険はカイトとメイコの二人に迫っていた。

「おい、カイト!早く逃げろ!床が崩れる!!」

 メイトの叫びにカイトは我に返る。そして反射的にメイコを両腕に抱きかかえ大広間の奥へ向かって走りだした。その直後、今まで二人が居た場所の床が崩れ去る。

「何・・・・・・この破壊力。あの子、本当に人間なの?」

 未だ空中に浮かび、光を放ち続けるリツを見つめながらメイコは恐れおののく。明らかに疲弊のオーラを――――――否、既に死相とも言える灰色のオーラを漂わせながらも、その生命を全て燃やし尽くすかのようにリツは玉蟲玉に全ての力を注ぎ込んでいた。普通の人間であればまず耐えることさえ不可能だ。

「間違いなく彩鞠王家の王子、だな。あの少年は」

 ぽつり、と呟いた皇帝の言葉に全員が振り向く。

「彩鞠・・・・・・王家?」

 聞き慣れない狄国王家の名前に、メイトが怪訝そうな表情を浮かべる。

「狄国七王家のひとつだ。現国王・えそらを輩出した家でもあるが、その血筋を引く男子は極めて大きな魔導力を持つ。黒曜魔術や白の魔導と違って血筋による魔導力ゆえ、その出方は不安定だと聞いているが・・・・・・時には人間離れした力を持つこともあるらしい」

 皇帝は唇を噛みしめる。

「現国王とあの少年、二人揃って極めて大きな魔導を持ったがゆえに狄国の玉座を簒奪することが出来たのだろう。奏国の諜報も詳細を調べることが出来なかった理由がこれだったのだろうな。魔導の諜報防御は魔導師の力の大きさそのものにかかっているし」

「でも!」

 不意に皇帝の言葉を遮るものがいた。今までおとなしくしていたミクだ。

「彼はかなり疲弊しています!もう少しだけ攻撃に耐えれば・・・・・・私、頑張りますから!」

 相手の自滅を待てばいい―――――そう言いかけたミクだが、それをある人物があっさり否定する。

「いいえ、その必要はありませんわ」

 そう言い出したのはルカだった。抜身のままの五龍の剣を差し出すと、メイコに向かって命じる。

「この剣に炎の魔法を。あの者を焼きつくします!あなたならできるでしょう?」

 それを聞いた瞬間、皇帝がルカの行動を止めるように、その華奢な肩を強く握りしめた。

「ルカ!そなたは皇后なのだぞ!無茶は許さぬ!」

 だがルカも引き下がらない。むしろ皇后という立場になったからこその強さを表に出し、皇帝に食い下がる。

「陛下!私は皇后である前に陛下の騎士でございます。聖なる剣を汚すことだけお許しを」

「――――――ならば氷の魔法を」

 皇帝と皇后の水掛け論を止めるように、メイコが進言する。

「皇后陛下の持つのは陰の剣、炎の陽とは相容れませぬ。その力を最大限に発揮するには水か氷――――――幸い敵も陰の気には弱いようですので」

 つまりルカの剣が敵にとって一番有効な手段である――――――そう進言したメイコに、皇帝も諦めたのか、ルカの肩から手を離した。

「ならば朕が皇帝龍を操ろう。ルカ、そなたは朕の後ろへ。メイト、カイトの二名は我らの援護を」

「御意!」

 そして皇帝が手を上げた瞬間、五龍全てが降りてくる。龍たちもかなり待ちくたびれていたらしい。
 降りてきた龍に龍騎士や皇帝が次々飛び乗るが、そんな中、黒龍・アゲハがメイコとミクに語りかけてきたではないか。

《あなた達も私に乗ってください。我が主、キヨテルの仇を打ちたいのです》

 主がしてやられたのがよっぽど悔しいのか、本来主でないメイコとミクに騎乗を持ちかけるアゲハに、メイコは呆れ果てる。

「あんた、龍のくせに律儀ねぇ」

《ええ。キヨテル以前の魔道士長にはひどい目に遭わされていましたからね、私は。キヨテルのおかげでようやく他の龍と肩を並べることができたんです》

 やけに人間臭いアゲハの一言に笑いながらも、メイコとミクも龍に乗る。そして五龍は連隊を組み、一気に玉蟲玉中央のリツに迫った。

『――――――雪と氷の精霊・ノエル・ルージュよ!五龍の剣に凍結の力を!民人を襲う悪しき輩を永久に封じよ!』

 メイコとミク、二人の呪言が美しい旋律を奏でる。その呪言と同時にルカの剣が朱鷺色に光り輝く。そしてルカは皇帝龍の背中に立ち上がると、そのまま飛び降り、一気にリツの上に剣を振りかざした。

「お覚悟!!」

 ルカの剣が玉蟲玉に触れたと同時に玉蟲玉は凍りつき、粉々に砕け散る。それと同時に驚愕の表情のリツも一瞬にして凍りつき、地面へと墜ちてゆく。
 だがルカもそれは同様である。皇帝龍から飛び降りた勢いのまま地面へと墜ちてゆく。そして美しい皇后の正装のまま地面に叩きつけられると思ったその瞬間、皇帝龍がルカの下に潜り込み、ルカを拾い上げたのである。

「・・・・・・まったく君は、皇后になっても無茶をする!」

 怒りながらも皇帝の声には安堵が滲んでいる。ルカを強く抱きしめ、人目をはばからず何度も接吻を繰り返した。

「申し訳ございません・・・・・・」

 皇帝の接吻を抵抗せずに受け入れながら、ルカは素直に謝る。

「その罰だ。暫くの間は皇宮で暮らすことは諦めよ。あれを直すには数年はかかるだろう」

 皇帝が指し示したその先には壊された皇宮があった。豊かな奏国とはいえ、職人の手を必要とする皇宮は数年かかるだろう。そして皇帝の言葉通り、皇宮が完全に直るのに五年の歳月を要することになる。



「リツの気配が――――――無くなった」

 少年とは思えぬ、低い声でえそらが呟く。その憎悪に満ちた声に、周囲の魔道士や貴族たちも恐れおののく。

「奏国の下衆どもが!!」

 えそらにとってリツは同じ力を持つ、唯一の兄弟だった。喩え母親は違えども一番近しい間柄と言っても良い。その力故か、リツはえそらの気持ちを十二分に汲みとってくれる心地良い存在でもあった。
 だからこそ魔導省長官にも就任させ、そのうち宰相も任せようと思っていたのだ。それなのにリツは単身奏国に乗り込み、若い命を散らしたのだ。その背景には魔道省内部での抗争があったとリツの直属の部下がえそらに漏らしている。

「・・・・・・まずは魔導省内の『粛清』からだな。誰がリツを奏国に行けとけしかけたのか、じっくり探さねば」

 えそらの呟きに覚えの気配が滲む。

「それからだな、奏国への攻撃は。喩え何年かかろうとも・・・・・・奏国のすべてを焼きつくし、血祭りに上げてやる!」

 国境における小競り合いなどでは許さない。懐奥に踏み込み、全てを蹂躙し尽くしてやる――――――その決意は、えそらが戦場で命を落とす10年後まで続くことになる。後に奏狄十年戦争と言われる、長きに渡る戦争が今、始まろうとしていた。



 騒動から十日後、メイコはカイトの屋敷にいた。傷が治るまでは屋敷で大人しくさせておくべきだろうと言うカイトの強い進言の為である。しかし元々元気の良いメイコである。10日もするとさすがに退屈を持て余し始めた。

「ねぇ、そろそろ魔導省に出仕してもいいでしょ?怪我も治ったんだし」

 手足を動かしながらメイコはカイトに尋ねる。

「・・・・・・まぁ、あちらからも要請が来ているしね。キヨテルはまだまだ完治に時間がかかりそうだしね。でもあまり無理をしないでくれよ、第27代奏国筆頭魔導師」

「その言い方、やめてよ。キヨテル魔道士長が言っていたように体のいい雑用係よ、あれは。だって魔導倉庫に入ることができる鈍い人間が私しかいないんだもの」

 メイコは苦笑いをする。

「とりあえずキヨテルが復職するまでの辛抱だよ。ま、きちんと黒曜魔術をマスターしたら本当の意味でキヨテルの跡を継ぎそうだけどね」

 冗談半分で言ったカイトだったが、後にこの言葉は本当になる。結局キヨテルは復職したものの、狄国の宣戦布告を受け宰相への就任を余儀なくされる。それ故メイコは第27代奏国筆頭魔導師の地位に留まることとなったのだ。
 普通なら反対運動が起こってもおかしくないところだが、いかんせん魔導倉庫に入ることができる魔道士がメイコ一人しか居ないということで、若手が成長するまではという条件でメイコは第27代奏国筆頭魔導師を続けることとなる。
 だが、そんなこととは思いもしないメイコはクスッ、と笑って首を横に振る。

「それは遠慮したいな。今はともかく、グリアーノが復興したら戻ってがっつり魔導の勉強がしたいもの。黒曜魔術も奥が深くって・・・・・・本気で研究するには静かな環境が欲しいってところかな」

「なるほどね・・・・・・じゃあ」

 カイトはメイコに近づき、その肩に手をおいた。

「俺がグリアーノ領を引き受けることになったら・・・・・・一緒に来てくれる気はある?」

「え?」

「君が思うほど平和な理由じゃないんだけどね。リツの件で狄国のえそら国王がかなり激怒しているという噂が流れてきているんだ。そうなると奏国とグリアーノ、両方から狄国を挟み撃ちにしたほうが効果があるだろうって話が持ち上がってね。まぁ、今はまだ冗談半分だけど」

「そんな話が・・・・・・下手をしたらグリアーノも戦場に?」

「それはどうだろうね。何せあそこは山に囲まれているから、狄国の軍勢は攻め込みにくいし、入ってきたら断然不利だ・・・・・・シャンジェまでは攻めこまれないと思うよ」

 カイトはじっとメイコの目を見つめながら訴える。

「返事はすぐじゃなくていい。そもそも布陣は行わないかもしれないしね。でも・・・・・・君がグリアーノに戻りたいというなら俺も一緒に行きたい」

 真剣なカイトの口説きにメイコは戸惑いつつも頬を赤らめる。カイトのことは嫌いじゃない。むしろ他の男性よりも好意的にさえ思っている。だがこの提案はまるでプロポーズのようではないか――――――戸惑いを見せつつも、メイコは口を開く。

「もう少しだけ・・・・・・一ヶ月、時間を頂戴。それまでには絶対に決めるから」

「うん、解った」

 窓から吹き抜ける風が秋の気配をはらむ。実りの季節はもう少し――――――カイトはメイコからの良い返事を期待しつつ、深く頷いた。




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ふぇぇ、辛うじて『玉虫色の暗殺者』編、まとめることが出来ましたヽ(=´▽`=)ノ
しかしまさかまさかの皇后・ルカがとどめを刺すことになろうとは・・・一応プロットというか予定ではカイトかメイトにとどめを刺させようと思っていたのですが・・・どうやら奏国の皇后さまは皇帝を守ることに関しては誰にも任せることが出来ないようです(^_^;)

そして事件の後、ようやくカイトもプロポーズ?をする事ができました(#^.^#)というか、これがプロポーズなのか甚だ怪しいのですが・・・まぁ、本人達が総認識しているようですので大目に見てやってくださいませ/(^o^)\
果たしてメイコはカイトの申し出にどう応えるのか・・・来週からの『虹色の祖国(仮)』編にてお楽しみ下さいませ(*^_^*)

なおpixivへのこの章の投稿は木曜日になりますm(_ _)m

(たぶんこれが本編最終話になるかと・・・そのあとMEIKO生誕祭用にR-18の初夜編&鏡音生誕祭&V4記念の奏狄十年戦争終戦話をお送りすることとなります。本当はめーちゃん生誕祭に『見返り美人』をベースにした話を書こうと思っていたのですが・・・KAITO生誕祭に回しますwww)
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