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聖龍協奏曲~奏国物語

ボカロ小説 聖龍協奏曲~奏国物語 玉虫色の暗殺者5

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 リツが作り上げた禍々しい玉虫色の光球は、皇宮にぶつかるや否や大きな破壊音と共に皇宮の壁を破壊した。その衝撃波に婚礼の儀に立ち会っていた貴族たちは床に這いつくばり、中には葉ってその場から逃げ出すものも現れる。
 だが本当の被害は皇宮の外、皇宮前広場で起こっていた。破壊された皇宮の壁がバラバラと広場に落下し、見物に来ていた民衆に襲いかかったのである。小石程度の破片でも流血の怪我をし、一抱えもある城壁に押しつぶされてしまった不運な警備員もいる。辺りは落下し続ける破片が巻き起こす粉塵と阿鼻叫喚の悲鳴に満ち溢れる。

「キヨテル魔道師団長!テイとミコト、ストラが壁際から落下しました!」

 部下のりおんの悲鳴がキヨテルの耳に届く。その報告を聞いた瞬間、キヨテルは唇を噛み締め、残った部下に命じた。

「陣の立て直しだ!半月の陣から三日月の陣へ!絶対にこの場は死守する!」

 だがリツの攻撃は容赦無い。陣を立て直す前に更に攻撃が加えられ、キヨテルも左足を折る大怪我を負ってしまう。瞬く間に無傷の黒曜部隊魔道士はいなくなり、残っているのは背後に下がらせたメイコとミクのみだ。

「このままじゃ・・・・・・皇宮が破壊される」

 だがそんな状況に陥りながらメイコとミクは動かず、リツの次の行動を注意深く観察している。

「ねぇ、ミク。私でもはっきりオーラが見える、ってことはもう少しだけ頑張ればこっちに勝機が転がり込んでくる、ってことよね」

 妹に対し、メイコは歌うように囁く。それほどまでにはっきりと――――――魔道士としては極めて鈍感なメイコでさえ判るほど、リツの疲弊がオーラとしてはっきりと出ていたのである。



(玉蟲玉が使えるのはあと3回・・・・・・)

 既に皇宮の三分の一を破壊しながら、リツは己の限界と向き合っていた。破壊力のある玉蟲玉は己の命を削りとって作るものである。一度作った後、十日ほどの間を置けば体力、生命力は元に戻るが、連続して作り続ければ命に関わってくる。特に今回の皇宮のように巨大な建物は、リツの命全てを賭けたとしても半分も破壊できないだろう。 だが、奏国の皇帝権威の失墜及び財政へのダメージは与えられるはずだ。

「ほら、どうしたの?奏国のヘッポコ魔道士は僕一人抑えこむことが出来ないんだ!」

 リツはうそぶき、更に玉蟲玉を皇宮に叩きつける。すると皇宮中央、謁見バルコニーが完全に破壊され、大広間の半分が顕になった。婚礼に来ていた貴族たちは我先に逃げ惑うが、ごく僅かに残っている人間もいる。

「あれ?あんた達まだ逃げていなかったの?てっきり真っ先に逃げるかと思っていたけど」

 半分抉られた大広間、その奥には正装のまま屹立している皇帝と皇后が残っていた。二人目は一切の怯えを見せること無くリツを睨みつけている。
 そして皇帝、皇后の前に護衛として立ちはだかるのは刀を抜いたカイトとメイト、更に防御魔法で皇帝と皇后を守っているメイコとミクだ。

「二人共、もう少し辛抱してね。あの魔法、あと数回しか使えないはずだから」

 カイトとメイトにかけたメイコの言葉だったが、それをミクがあっさり否定する。

「お姉ちゃん。それじゃあ、あの魔道士を買いかぶり過ぎだよ。あの大きさの魔法だったらあと2回で命を落とすよ。逃げたいと思うんだったらあと1回かな。どちらにしても・・・・・・」

「あと1回の攻撃に耐えたら龍を出しても構わねぇ、ってことだろ?俺、苦手なんだよなぁ。こういう待ちの戦術って」

 メイトのぼやきにカイトも頷く。

「スミレやローレライだったら攻撃を避けることができるよ。なのにどうしてここまで待つ必要があるの?」

「あなた達がちょろちょろ動き回ったら皇宮の破壊が更に進むでしょ?できるだけ一箇所で済ませろっていうのが皇后陛下のお達しよ」

 メイコの一言にメイトがちっ、と舌打ちをした。

「ちっ。変なところで算盤弾きやがって」

 メイトが愚痴をこぼしながら後ろを振り返ったその瞬間、目を見張る。

「おい、ルカ!何で『五龍の剣』を抜いているんだよ・・・・・・って陛下まで!」

「何を言っている、メイト。我々も『龍騎士』なのだぞ?奏国の危機に剣を抜くのは当然であろう」

 不敵に笑う皇帝に、カイトも呆れ果てる。

「変なところで意地を張らないでくださいよ・・・・・・ミクちゃん、大変だろうけど防御を頼むよ。そしてメイコ」

「解っているわよ。次の攻撃で防御壁を外せ、でしょ?スミレとローレライもウズウズしているみたいだしね」

 その声を聞きとがめ、リツははっ、と上空を見上げる。

「五龍が・・・・・・!!」

 どこまでも青いその空を、優雅に飛んでいる五龍がいる。そのうち騎士が乗っているのは黄金龍・陽炎のみだ。そしてかなり殺気立っているのは主が怪我を負った黒龍・アゲハである。今にもリツに襲いかかろうとするのを他の龍に止められているようだ。

「・・・・・・我が君。どうやら私は、生きてあなたの許へ帰れなさそうです」

 空に泳ぐ龍達を見つめながら小さくつぶやくと、リツは両手を前へ突き出し、今まで以上に大きな玉蟲玉を作り始めた。



 リツは狄国王家の一つ、>彩鞠の王子である。しかしリツが生まれた頃、百年以上に渡って王を輩出していなかった彩鞠家は惨憺たるものだった。しかもリツは妾腹で、王子としての教育どころか僅かな相続の権利さえ認められない立場だったのだ。
 それを救ってくれたのは現国王でリツの腹違いの弟・えそらだった。えそらは生まれ持った魔導の力を最大限に利用し、狄国・魔導部隊を掌握、魔導による暗殺で前国王及び、王位継承権上位者を次々と殺していく。その暗殺部隊の一人にリツも名前を連ねていた。
 自分などただの捨て駒――――――そう割り切っていたリツだったが、あろうことにえそらはリツを玉蟲部隊隊長に抜擢、魔導省長官にも任命したのである。

「陛下、玉蟲部隊は陛下の直属にするべきではございませんか?」

 妾腹とはいえ一応彩鞠家の血を引いているリツだ。変な権力を付けてしまえばリツを担ぎ上げ王に仕立てあげようとする痴者が出てくるかもしれない。だったら自分は玉蟲部隊の一員でいいのでは?とリツはえそらに進言したが、それはあっさりと却下された。

「そういう事をきちんと自覚しているから、あなたに玉蟲部隊を預けるんですよ、リツ。いいえ、ふたりきりの時は兄上と呼ばせて頂きましょうか」

 えそらはぞくり、とする笑みを浮かべながらリツに語りかける。

「あなたはうんざりするほど義理堅いですからね。僕が押し付けた面倒くさい役職でも義理や責任を感じているんでしょ?それが鎖となってあなたを縛り付ける――――――僕は狡猾な魔道士を直接相手にしなくてもいいし、あなたの裏切りも阻止できる。一石二鳥の人事ですよ」

 唖然とするリツにえそらは更に続ける。

「だからこの役職を放棄して、戦の場で死ぬことは絶対に許しません。必ず僕の許に帰ってきて平伏すこと――――――それが妾腹に生まれたあなたの宿命なのですから」

 王位簒奪者になりかねないからと同腹の幼い弟まで手に掛けたえそらの、歪んだ愛情にリツは言葉を失うが、ふと思い直す。

(私がこの役目を引き受けている内は陛下の手を血で汚すことは無いはずだ)

 後にリツのこの考えが正しかったことは歴史が証明するが、この時のリツはそこまでは思い至らなかった。



 リツが作る玉蟲玉は先程よりも更に大きくなってゆく。それに気がついたメイコはミクに囁く。

「あの大きさ、やばくない?」

「うん・・・・・・耐えられるかな、私」

 不安げな言葉を吐くミクに、メイコがはっぱをかける。

「大丈夫。最初の衝撃波は私の防御壁で守るから。絶対に陛下達を守ってよ!」

 そしてカイトとメイトに告げる。

「龍達に伝えて。リツが攻撃を仕掛けた瞬間にこっちに降りてくるようにって。ただし、攻撃の矛先がこっちだったら、ね」

「龍たちに行くことになるかも、ってことか?」

「もしかしたらね。だけど皇帝の暗殺が第一の目的でしょうからそれはないと思うんだよね。それと」

 メイコが更に付け加える。

「私の防御壁、ミクのよりも薄いから、向こうの攻撃で破られちゃう可能性もあるからね。苦手なのよね~護りの魔法って」

 その瞬間、カイトとメイトの顔が青ざめる。

「冗談はよせ!」

「冗談じゃないわよ。部隊ひとつ分を防御するのとは訳が違うんだから」

「・・・・・・ということは、あの攻撃の威力は青龍隊一個師団よりも強力だと?」

「勿論。だって青龍隊はこんな短い時間で皇宮を破壊することは出来ないでしょ?」

 その一言にカイトとメイトは納得した。かなり強力な防御魔法を誇るメイコとミクが二重に防御壁を張ってようやく皇帝を護ることができるか否かの威力なのだ。それを感じたカイトは口の中で小さく呪文を唱える。

「おい、カイト?」

「義兄さん。一応俺も小さな防御魔法をかけておきました。勿論義兄さんにも。とは言っても彼女達の防御魔法に比べたらおまじない程度ですけどね。ないよりはマシでしょう。なので攻撃は・・・・・・」

「俺が先ってことだな?だったら誉れをかっさらうぜ」

 メイトが言ったその時。不意に大きな爆音と衝撃波が彼らを襲った。



 後日、上からその光景を見ていたリンはこう証言し、メイトに拳骨で頭を殴られた。

「太陽が落っこちて爆発したみたいだった!とってもきれいだったよ!」

 それほどまでに光り輝いた玉蟲玉は玉虫色を保持することさえできず、光そのものとなる。そしてエレルギーの保持に耐え切れなくなった玉蟲玉は大爆発を起こし、皇宮の前面を粉砕したのだ。その面積は皇宮の三分の一に当たる。
 そしてその衝撃に耐えられずメイコの作った防御壁は破られ、衝撃波がカイトトメイト、そしてメイコを襲う。

「きゃぁぁぁ!」

 カイトの背後からメイコの悲鳴が襲いかかる。カイトのささやかすぎる防御魔法はメイコを守っていなかったのだ。

「メイコ!」

 カイトは振り向きざま、倒れているメイコを抱きかかえた。




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あまりにも激しいリツの攻撃ですが、それは彼の命を削り、奪う諸刃の剣でした(´・ω・`)弟である狄国王・えそらの命令を遂行するため命がけで奏国に乗り込み、攻撃を仕掛けたのでしょう。しかし、その攻撃もあと1~2回しか持たないとメイコやミクに見ぬかれ、窮地に陥ってしまいました。果たしてリツの最後の攻撃はどのような結果をもたらしたのでしょうか?
そして防御壁が破られてしまったメイコですが、彼女は無事なのか?次回更新は9/22、『玉虫色の暗殺者』の章最終話となります(*^_^*)
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