「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第八章

夏虫~新選組異聞~ 第八章 第二十六話・伏見布陣と局長狙撃・其の貳

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 底冷えのする年の瀬のある日、御所警備という名の布陣を理由に薩摩藩邸を体よく追い出された高台寺党の残党は、善立寺の一室で車座になっていた。ここは月眞院の前に伊東派が屯所にしていた寺院である。

「・・・・・・という訳だ。小林からの知らせでは明日十八日に近藤が二条城に向かうらしい。たぶん一日がかりの出仕になるだろうな」

 篠原の予測に、篠原の前に居た三樹三郎と内海が頷いた。伏見から二条城までそこその距離がある。本人は馬に乗るとしても供は徒歩だ。そうなると行って帰ってくるだけで丸一日かかってしまうだろう。更に近藤の身分では供揃えは三人から四人しか許されていない。つまりその間は近藤の守りがどうしても薄くなってしまうということで、暗殺にはもってこいの状況になるのだ。

「なるほど。手薄な守りで近藤がのこのこ現れてくれる、って機会も早々無いですからね!」

 阿部が嬉しそうに篠原に言う。色々鬱憤が溜まっているのだろうか、阿部はやけにやる気に満ちている。

「ああ。だが街中ではやはりそいつを使うのは無理だろう」

 阿部の言葉を受けて佐原がちらりと視線をやったのは、内海らが用意した銃だった。白刃戦では多勢に無勢の高台寺党は勝ち目はない。しかし鉄砲なら距離が離れている分、こちらにも勝機はあるのだ。

「やるとしたら伏見、できるだけ周囲に邪魔なものが無い場所となるとやはり丹波橋の上あたりになりそうだな。特に馬に乗っている人物は狙いが定めやすい」

 内海の言葉に全員が納得の表情を浮かべる。

「それに丹波橋は伏見奉行所の目と鼻の先、もうすぐ伏見奉行所となれば気も緩みますでしょうしね。これで薩摩へ合流するための『手土産』ができます!」

 弾む声の三樹三郎に、待ったをかけるものがいた。

「いや、『手土産』だったら近藤だけでは心許ない。もう一つくらい『首』が欲しいところだろう」

 そんな物騒な発言の主は、案の定やる気満々の阿部だった。

「篠原さんが得た情報によると、沖田は醒ヶ井の妾宅で臥せっているそうじゃないか。何なら師弟ともども血祭りにあげて、薩摩への土産にと言うのは?」

 鼻息も荒い阿部に篠原は呆れる。

「おいおい、幾ら沖田に恨みがあるからって気負い過ぎだぞ、阿部。向こうはお前を叱り飛ばしたことさえ忘れているだろうに」

 篠原の一言にその場は笑いに包まれる。唯一笑っていなかったのは阿部だけだ。それに気がついた篠原は、阿部の肩をぽん、と叩く。

「ま、大きな首は一つでも二つでも迷惑がられることはないからな。だったら近藤の帰還を待っている間に沖田の首も取ってこい」

 その言葉に、阿部は嬉しげな笑顔を浮かべた。



 翌十二月十八日、二条城での会合にも拘わらず、羽織袴の略装で出かけようとする近藤に、土方は本日十回目になる言葉を投げかけていた。

「近藤さん、本当に気をつけてくれよ!」

 文字通り耳にタコができるほど口うるさく言い続ける土方に、近藤は苦笑いを浮かべる。

「心配症だな、歳は。今までだってこんな事は数多くあっただろうに。身分的に許されているとはいえ、手練れ四人を供に付けているんだ。大丈夫だよ」

 確かに近藤に言うとおりである。だが土方は嫌な胸騒ぎを覚えていた。そもそも伏見に来るまで間者の存在にさえ気が付かなかった。小夜が拾った手紙を送り届けてくれなければ今も高台寺党の残党のことなど眼中に無かっただろう。
 それだけに未だに主導権を向こうに取られているような気がしてならない。

「近藤さん・・・・・・無事に帰ってきてくれよ」

 恨めしそうに呟く土方に、近藤は無邪気な笑みを浮かべて屯所を後にした。



 近藤が伏見を出発した頃、醒ヶ井の近藤の妾宅には静寂が漂っていた。その中の小さな部屋ではお考が書き終えた手紙を包み、しっかり封をしている。

「これでよし、と。無事おツネ様に届いてくれたらええんやけど」

 それは近藤の妻、ツネ宛の手紙だった。近藤からの連絡で、ツネに手紙を認めても良いとの許しを得ることが出来た。だがこの情勢で、無事江戸のツネにその手紙が届くか甚だ心許ない。
 更にお考も子供と共に京都から離れるように命じられた。いつ戦が起こってもおかしくないのだ。布陣からすると京都そのものが戦場になることは無さそうだが、いつこちらへ戦線が流れてくるか判らない、逃れてきた兵士達が乱暴を働くことだってありうるのだ。
 既にお考は手甲、脚絆さえつければいつでも旅立てる姿になっていた。白粉どころか紅さえつけていない。

「ほな、そろそろ・・・・・・」

 と、立ち上がりかけたその時である。玄関の引き戸が乱暴に開けられ、男の怒鳴り声が飛び込んできたのだ。

「沖田総司!出てこい!ここにいることは解っているんだぞ!」

「誰か居るのであればさっさと出てこい!殺されたいのか!」

 どうやら声や気配からすると三人前後の男がいるらしい。怒鳴り散らす言葉の内容からすると、沖田を狙ってやってきたのだろう。お考は体の底から湧き上がる震えを押さえつつ、玄関へと向かう。

「す、すんまへん。沖田センセはもうここには・・・・・・」

 お考が玄関に顔を覗かせたその時である。お考に気がついた三人――――――内海、佐原、そして阿部の三人はいきなり土足でズカズカと部屋に上がり込んできた。

「何だと!隠したって無駄だぞ!片っ端から探せ!」

 内海の号令を皮切りに、三人は部屋を片っ端から開け始める。子供が寝ている部屋も開けられてしまい、火が付いたように子供が泣き始める。周囲にある玩具が女の子用のものだから子供が殺されるということはないだろうが、やはり恐怖は抑えられない。

「ふん!本当に居ないようだな!」

「女!沖田をどこに隠した!」

 部屋を一通り探し終えた阿部が、お考の襟を掴んで凄む。その迫力に気圧されつつも、お考は必死に言い返した。

「や、やめておくんなはれ!沖田センセは先日ここを出て行かはって、新選組と合流・・・・・・」

「おい、阿部。女に手を挙げるな」

 内海がいきり立つ阿部を窘める。無駄に時間をかけてしまっては伏見での暗殺準備に間に合わなくなる。沖田の件はあくまでも『ついで』なのだ。

「ここは欲をかかずに近藤一人を狙い撃て、ってことだろう。いくぞ!」

 すると阿部は渋々お考から手を離し、立ち上がった。

「ふん!今日のところは見逃してやる。だが絶対に沖田を、そして近藤をこの手で始末してやるからな!」

 阿部がそう言い捨てると同時に、三人はお考の前から立ち去った。



 二条城での会合を終えた近藤は馬に乗り、伏見へと向かっていた。己の妾宅で起こった出来事など知る由もなく、のんびりしたものだ。美しい茜色に染まった京都の町並みはどこまでも美しく、いつ戦争が起こるか判らない緊迫感とは無縁である。

「馬を許されてはいたものの、こうやって実際に乗るのは久しぶりだな」

 乗馬とはいえ、京都の街中での速度は厳しく決められている。しかも京都の動きはのんびりしていて、馬もそれに合わせなければならない。その速さは近藤が歩く速度よりも遅く、急ぎの用件が多かった最近ではついつい自分で歩いて出向いてしまうことが多かった。それだけに今回のようにきちんとした会合に、身分相応の供揃えで出向くことは久しぶりだったのである。
 そうこうしているうちに家並みは徐々に少なくなり、遠くに橋が見えてきた。

「局長。丹波橋が見えてまいりました。伏見奉行所まであともう少しですね!」

 島田の弾む声が近藤に語りかけ、それに近藤が頷いた。

「そうだな。歳が心配するようなこともなかったし・・・・・・早く帰って安心させてやらないとな」

 その一言に連れ立っていた四人も大声で笑い声を上げた。



 だが、近藤も、他の四人も気が付かなかった。自分達をじっと見つめる目があることに――――――そしてその目とは別に、冷たい銃口が自分達を狙い定めていることに。
 そして近藤と供の四人が丹波橋を渡り始めたその時である。


パァ~~~~~~ン!!

 乾いた銃口が丹波橋周辺に響き、近藤の身体が衝撃で強く跳ね上がった。




UP DATE 2015.9.5

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歳の嫌な予感が当たってしまいました(><)きっと高台寺党の残党たちはだいぶ前から準備していたのでしょうね。昨日今日間者の存在に気がついた新選組に手の施しようがありませんでした。鉄砲まで用意していたんですからねぇ・・・(薩摩の横長しか(-_-;))

銃声とともに跳ね上がった局長の身体、果たして命に問題はないのでしょうか?そして5人はうまく逃げおおせることができるのか・・・次回をお楽しみ下さいませ_(._.)_
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