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聖龍協奏曲~奏国物語

ボカロ小説 聖龍協奏曲~奏国物語 玉虫色の暗殺者3

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 キヨテルが玉虫色の玉を破壊したその瞬間、その気配に気がついたリツは眦をきっ、と吊り上げ、しわがれた呻き声を上げた。

「・・・・・・腐れ魔導師が!私の邪魔をするとは笑止千万!」

 完璧に事を運びながら、最後の最後でしくじる――――――今回の作戦はそんなことの連続だった。
 青龍隊隊長;カイトに近づき、愛人の立場になったまでは良かったが、事が終われば別室へ追い出される。それならばと頭で考える事の欠片を吸い取る『玉蟲玉』を作り出して、屋敷の隅へと置いたが、それさえもカイトの屋敷を訪ねてきた魔導師に壊されてしまったらしい。
 だが、『玉蟲玉』と接触したのであれば、黒曜魔術の魔導師も無事ではいられないはずだ。下手をすれば半身が焼けただれるだろうし、良くても玉蟲玉に触れた掌がやけどで使い物にならなくなるはずだ。

「・・・・・・ま、当日の警備状況くらいは手に入れることができたけどね。あとはカイトの体力を削りとったことくらいかな」

 閨での手練手管、そして強力すぎる玉蟲玉の吸収力で強靭な龍騎士の体力、精神力を少しずつ削り取っている自負はある。奏国側にほんの毛筋ほどの気の緩みさえあれば、リツが攻撃を仕掛けるのには充分だ。

「ふふっ、楽しみだな。明日の婚礼・・・・・・いや、奏国皇帝、新皇后揃っての命日か。我が君にも良い報告ができそうで嬉しいよ」

 リツは唇をいびつに歪めると、赤葡萄酒を瓶ごと飲み干す。口の端からこぼれ落ちる葡萄酒はまるで血のようだ。

「・・・・・・狄国のお酒は強いばかりで美味しくないからね。奏国を倒した暁にはこれが飲み放題、というのが嬉しいじゃないか!いっその事、ご褒美に奏国をのものを我が君から貰う、っていうのもありかもね」

 明日の成功を妄想し、女性の姿をした少年の癇性な笑いは止まらない。美しい肢体をベッドに投げ出し、ただひたすら笑い続けた。



「なるほど。男の子の中でも女性を連想させるようなきれいな子が好みなんだ、カイトって。そう言えばレンくん、って子もきれいな子だったもんね・・・・・・で、ほいほいと騙されちゃったわけね」

 カイトの顔を覗き込みながら、メイコはごきげんよろしくケラケラと笑う。その手には赤葡萄酒が並々と注がれた盃が握られていた。今回の件でのお詫びということで出されたカイト秘蔵の赤葡萄酒は、その殆どがメイコの胃の腑に収められている。

「悪かったな!ここ最近仕事続きで参っていたところにあの誘いだ。俺だって気が緩むことくらいある。さすがに今回はかなりまずかったけど・・・・・・」

 そう言いながらも、久しぶりにメイコとゆっくり喋ることができて嬉しいのか、かなりカイトの機嫌は良さそうだ。そんな二人の間にいるミクは二人の顔を見比べていた。

(この二人、いつ一緒になるんだろ)

 皇帝とルカのオーラが全く同じ色だったのとは少し違うが、カイトとメイコのオーラの色も互いに共鳴し、美しい色に染まっている。二人が近づくとそれが更に強くなるようだ。 ただ姉のメイコは恋愛に関してかなり奥手だし、カイトもメイコに対しては無理強いをすることは無いだけに、かなり時間が掛かりそうである。

(3年位はかかるのかなぁ・・・・・・私、カイトさんだったらお兄ちゃんになってもらっていいんだよ)

 ミクにとってもカイトとメイコの間に挟まれているこの場所はかなり心地よい。いつの日か、この場所が日常になる事を願いつつ、ミクはハクに作ってもらった蜂蜜入りの赤葡萄酒炭酸水割りをちびちびと飲み続けた。



 魔導警備がてらカイトの屋敷にそのまま宿泊したメイコとミクの二人は、起きた直後、窓の外を見て驚きの声を上げた。

「何、この人だかり!もうこんなに来てるの!」

 皇宮のほど近くにあるカイトの屋敷の客用寝室からは皇宮前広場がよく見える。そこには朝早くにも拘わらず大勢の人だかりができていた。既に広場の三分の一は埋まっているだろうか。これから続々と人が集まることを考えると、もしかしたら皇宮前広場だけでは見物客は収まらないかもしれない。

「ああ、あれね。地方からやってきた者とルカの追っかけ達だろう、たぶん」

 朝食の際、メイコやミクにその話を聞いたカイトが事も無げに言い放つ。

「婚礼の後の皇后お披露目が目当てさ。何せ皇后が第一礼装で一般人の目に触れるなんてそう滅多に無いからね。しかも今回は元・白龍騎士のルカが皇后になるんだ。元々ルカの容姿の美しさは下々にも有名だったし、熱心な追っかけもいるからそんな奴らだろ」

「でも婚礼はお昼からよね?」

 そう、婚礼儀礼まではまだ半日もあるし、お披露目はその後だ。それなのに彼らは広場でただひたすら待っているのだろうか。そんな疑問に、カイトは半ば呆れながら答えた。

「ルカの追っかけ達はできるだけ近くで見たい、っていう欲望から広場で野宿したんだろう。それと地方から出てきたものは宿が取れなかった可能性がある。一応一般の家庭にも部屋を提供するようにお触れは出したんだが、足りなかったようだ。それよりも」

 朝食を食べ終えたカイトは立ち上がり、メイコとミクの肩に手をかける。

「少し早いけど、二人共一緒に皇宮へ来てくれ。警備に関して、君たちにも手伝ってもらいたいことがあるから」

 本来なら見物客としてゆっくり婚礼を見てもらいたいところなんだけど、と付け加えつつカイトは二人を促した。



 皇宮へ入り、魔導省の執務室へ出向いたメイコとミク、そして付き添いのカイトは、そこの主であるキヨテルから驚きの提案を受けた。

「私とミクが、魔導防御に参加、ですって?」

 思わぬ提案にメイコが驚きの声を上げる。

「正しくは黒曜魔術の防御壁と、白の魔導師による防御壁の二重の守り、ってところです。幾ら優秀な玉蟲部隊の暗殺者でも、系統が違う二重の防御壁を崩すには時間がかかるでしょう。相手がまともな暗殺者ならそれでかなりの時間が稼げます」

 黒曜魔術と白の魔導師が使う魔法は、根本は一緒だが発展の仕方がだいぶ違っている。それ故、二つの魔導による防御壁を作れば、魔法同士がより複雑に絡み合い、破壊も突破も二乗、三乗に難しくなるのだ。

「確かに、力技じゃ限度があるしね。皇宮そのものを壊されない限り、その防御壁はかなり有効だと・・・・・・」

「あ、メイコさんもそう思いましたか」

 キヨテルは渋い表情を浮かべる。

「え?」

 キヨテルが何を言いたいのか、一瞬判断に迷ったメイコだったが、それに気がついたキヨテルは丁寧に説明をし始めた。

「敵が城ごと防御壁を破壊する、ってことですよ。昨日の怪しげな玉のことが気になって徹夜で調べたんですけどね・・・・・・あれを作ることができるのは、相当ヤバイ魔導師らしいんです」

「どういうことですか、キヨテル魔導師長?」

 今まで黙って話を聞いていたミクが心細げに尋ねる。

「私が叩き壊した怪しげな玉なんですけど・・・・・・どうやら『玉蟲玉』というものらしいです。狄国でも彩鞠家の血筋を引く魔導師のみが『玉蟲玉』を作ることができるらしくって・・・・・・今現在、彩鞠家の血筋の魔導師と言ったら、現国王・えそらとその異母兄弟達、つまり男性王族のみですね」

「男性だけなの?」

「ええ。何故か女性は引き継がないようです。そしてその玉蟲玉を作り出したということになると、リツは・・・・・・間違いなく狄国の王族、それも王位継承権を持つ王子と思われます」

「道理で物腰に品があるなと・・・・・・いや、何でもない」

  思わず溢してしまったカイトの呟きに、メイコ達姉妹とキヨテル、それと周囲で忙しく動きまわっていた魔導師達の冷たい視線が突き刺さる。それに気がついたカイトは肩を竦め唇を閉ざした。

「ま、それはさておき――――――この玉蟲玉、その気になれば山一つ破壊することができるらしいんです。それには玉蟲玉を作り出す人物の命を全て注ぎ込まなければならないようですが・・・・・・我々はそれを防がなければなりません」

 キヨテルの重々しい一言に、その場に居た全員が深く頷いた。



 太陽が中点に差し掛かる頃、ようやく式が始まった。正装の皇帝の前に現れたのは、生まれ故郷の民族衣装に季節の花々をあしらった花嫁姿のルカだ。透き通る紗のヴェールにふわりとした膨らみをもったパンツ姿は西国・亜拉毘亜を彷彿とさせる。これははるか昔、ルカの故郷が彼の地の領土であったことの名残だ。
 そしてその背後には急遽介添え役となったメイコとミクがいた。これは魔導攻撃への防御の為に他ならない。因みに二人の姿は黒曜教第一礼装である緑色に金の縁取りを施した導服だ。
 そして独特な民族衣装のルカに手を差し伸べたのは、良人になる皇帝だった。その顔には柔らかな微笑みが満ちている。二人の間に熱を帯びた気配が流れ、視線が強く交わったその時である。

「では婚礼の儀を執り行います。皇帝陛下、そしてトルク領郷士の娘・ルカ、前へ」

 キヨテルの朗々と響く声が祭祀の間に響く。その声と同時に奏国国教・黒曜教による宣誓の儀が執り行われ始めた。



 婚礼における一番重要な宣誓の儀が終わった後、ルカは奏国皇后の衣装に着替える為に一旦退席した。その際、部屋の中までつき従うのはミクのみで、メイコとキヨテルは万が一を考慮して部屋の外で魔導警備に当たっていた。何せ相手は女装の少年、顔を知らなければお付の女官になりすます可能性もあるのだ。

「それにしてもルカの衣装、綺麗だったわよね・・・・・あれってルカの地方の民族衣装なんでしょ?あれでも十分素敵だと思うけど、何で着替えなきゃならないの?」

 今までルカが着ていた衣装も金蚕の糸で作られた、かなり豪華なものだった。それだけでは駄目だという奏国の婚礼のやり方に疑問を持ったメイコの呟きに、隣に居たキヨテルが応える。

「それが奏国のやり方なんですよ。一種の略奪婚の名残とでもいいますか・・・・・・昔は敗戦国の主の娘を人質代わりに妻に迎えていたんです。さすがに今はそんなことはありませんが、今回はルカが――――――いえ、もう皇后陛下ですけどトルク地方出身で、独自の民族衣装を持っていたので古式に則ったというわけです」

 その時、部屋の中からルカの着替えが終わったという声が聞こえてきた。とうとうこれからお披露目の儀、皇帝と皇后が一番危険に晒される儀式が始まるのだ。

「メイコさん、気をつけてくださいよ。敵はどこからやってくるか判りませんから」

 その言葉にメイコは頷く。近衛軍の紫龍隊を中心に物理的な防御は完璧だ。後は自分達魔導の防御――――――メイコは気を引き締める。
 そしてミクに手を引かれ部屋から出てきた皇后の正装をしたルカの姿を目の当たりにして、メイコは思わず感嘆の声を漏らした。




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怪しげな暗殺者の影がちらほらするものの、何とか結婚の儀までこぎつけることが出来ました♪とは言っても今回はあくまでも『結婚します!』の宣誓だけ。皇后のお披露目は次回に持ち越しとなります( ̄ー ̄)ニヤリ
因みに今回ルカの衣装のイメージはアラブのお姫様のようなパンツスタイルです。私の中ではエキゾチックなイメージが有るんですよねぇ。帝国に新たな風を吹き込むという点でもいいかな、と今回ルカにアラブのお姫様風の格好をしてもらいました(*´艸`*)
そして皇后の衣装は、さすがにもう少し重たいものになりそうかなぁ・・・次回はゴージャスさを前面に出せるよう努力します(^_^;)

次回更新は9/8、皇后のお披露目、そして後に『奏国皇宮半壊事件』として歴史に残るリツの攻撃が始まります(>_<)
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