「短編小説」
幕末明治つまべに草紙

幕末明治つまべに草紙・其の玖~教育者・花蹊

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「・・・こちらが紹介状になります。それと、他の書類も不備は無いと思いますが」

 東京専門学校の学生・青木富太郎は額の汗を拭きながら目の前にいる壮年の女性に書類一式を差し出した。
 二十歳で父親から引き継いだ私塾を引き継いで三十年、彼女が運営する跡見女学校は帝都でも一、二を争う有名女学校である。そんな学校に青木は歴史教師として雇ってもらおうというのだ。
 厳しい残暑と緊張のせいで止まらぬ汗をハンケチで拭い続ける青木とは対照的に、目の前の女性――――――学長の跡見花蹊はひとつひとつ丁寧に書類を確認してゆく。そしてひと通り書類を見終わった後、花蹊は青木に対して心配するなと微笑みかけた。

「そんなに緊張なさらないで。書類に不備はございませんでしたよ」

 書類に目を通していた時の凛然とした雰囲気が嘘のように、柔らかな笑みを浮かべる花蹊に青木は頬を赤らめる。

「あ、安心いたしました・・・・・・では、授業はいつから」

 相変わらずしゃちほこ張ったまま尋ねる青木に、花蹊は思わず噴出す。

「ほほっ、そんなに焦らなくても宜しゅうございますよ。我が校の新年度は九月からですし、新学年における説明会やら何やらで本格的に講義を行ってもらうのは九月の半ばくらいからになるでしょうから」

 そう事務的な事をひと通り語った次の瞬間、花蹊は不意に挑むような不敵な笑みを口の端に浮かべた。その表情の変貌ぶりはまるで十代の小娘のようだ。

「授業内容に関しては心配しておりませんの。ですけど、うちの学生たちは一筋縄では行かないことだけはお覚悟を」

「え?」

 思いもしなかった花蹊の言葉に、青木は思わず怯む。

「我が跡見女学校は古来の風俗を重視してはおりますが、新たな時代を生き抜く力も身につけさせております。青木さんに受け持ってもらう歴史もその一つ・・・・・・そんな教える側の気概を感じるからでしょうか。華族女学校と違ってうちに入ってくる子たちはやたら元気で元気で」

 軽やかに笑う花蹊に、青木は顔を青ざめさせた。

「そ、そんなに元気な女生徒さんが?」

「ええ、勿論ですわ。我が校の『紫衛門』は並の女性じゃありませんよ」

 『紫衛門』――――――それは華族女学校の『海老茶式部』と対をなす、跡見女学校の女学生に付けられたあだ名である。そんな軽口を交えつつ、花蹊は穏やかに語りだした。

「もしかしたら政府高官や世界を相手にする貿易省に嫁ぐかもしれない娘達です。守られるだけのか弱い女では夫を支えることなんて出来やしないでしょう?しゃしゃり出る必要は一切ありませんが、それだからといって愚かであったり守ってもらうだけのか弱い存在であることはこれからの時代、許されないのです」

 厳しくも、愛情のこもったその一言一言に花蹊の想いが詰まっている。決して若くもなく、美人でもない花蹊だが、青木の目には神々しい女神に見えた。

「確かに・・・・・・仰るとおりです」

 青木はいつの間にか花蹊の教育理念に引き込まれていた。否、出会ってから僅かな時間で既に花蹊の教育理念に染まってしまったと言って良いだろう。

「僕に、そのお手伝いができるよう気を引き締めて努めさせて頂きます!」

 新たな時代の女子教育、その気概に頬を紅潮させる青年を、花蹊はまるで我が子を見るような慈しみの目で見つめた。



UP DATE 2015.8.26 

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女性を美しくするもの第9弾、今回はすっかり忘れていた『教育』を取り上げさせて頂きましたヽ(=´▽`=)ノ
資料本によると、明治初年度には既に『女学校』ができていたようなのですが、実際は明治三年~から女学校創立ラッシュがあったようです。これも欧米に追いつけ追い越せの『文明開化』の賜物なのでしょう。不思議なことに日本の女性というのは動乱の時代の直後にやたら元気になるようです(戦後の選挙権取得の時とか・・・あの時代の女性議員の割合には未だ追い付いていないはず(^_^;))
そんな中、花蹊が創立した跡見女学校は、女学校の中でも特に名の知れた学校だったようです。『ハイカラさんが通る』も跡見女学校がモデルだとか・・・きちんと昔の文化、風習を踏襲しつつ、新たな時代の女性を育てるといった事に長けていたように思います。
(尤も当時はそのビジョンが見えやすかったというのもありますが・・・いろんな価値観がある現代では迷走しがちです^^;)

因みに今回出てきた青木青年は、たま~に出している原三渓の若き日の姿です(^_^;)いつかはきちんとまとめたい・・・(-_-;)


次回更新は9/30、さてどんなものを取り上げようか・・・このシリーズ、ネタ探しに苦労します(^_^;)
(その分もう少し拾ったネタを有効活用したい、とのことで来年度は『横浜芸者とヒモ』で一年間やるつもりですwww)
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