「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第八章

夏虫~新選組異聞~ 第八章 第二十三話・王政復古の大号令・其の参

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 醒ヶ井にある近藤の妾宅で寝込んでいた沖田のもとに、二条城で警備に当たっているはずの原田がやってきた。

「どうやら少しは顔色が良くなってきたようだな。労咳なんざさっさと治しちまえよ。ほら、これがお前の分の分前だ」

 かなり乱暴な物言いをしつつ、原田は袱紗に包んだ金子を沖田に差し出す。それを受け取りながら沖田は小首をかしげた。

「一体どうしたんですか、このお金」

 手触りからすると二分銀が五、六枚程度というところか。茶屋でちょっとした宴を開けばすぐに消えてなくなる程度の金子だが、何故この時期に渡されるのか理解できない。

「土方さんが有り金全部分配したんだ。ま、小遣い程度だけどよ。平の奴らはかなり喜んでいたぜ」

 あっけらかんと言ってのける原田だったが、沖田は更に疑い深く眉を顰めた。

「給金が出る日でもないのに臨時になんて・・・・・・そんなに新選組を取り巻く状況は悪くなっているんですか?」

「そりゃ考えすぎだって。そもそも年末のクソ忙しい時に出陣なんだし、煤払い後の宴会だってお流れになっちまったんだ。呑めなかった酒の分だろ、きっと」

 あくまでも楽天的な原田だが、沖田はそこまで気楽には考えられなかった。

「そうでしょうか・・・・・・すみません。ちょっと私も二条城に顔を出します。寝ていろと言われていますがやはり気になりますんで。あと、これは原田さんに差し上げます。もうすぐ二人目が産まれるんでしょ?前祝いということで」

 沖田はそう言って袱紗のまま金子を原田に戻す。すると原田は何故かしょっぱそうに顔をしかめた。

「おいおい、おめぇも他の奴ら同様安く済ませようってクチかよ」

「え?そうなんですか?」

 思わぬ原田の反応に沖田は目を丸くする。

「おうよ。永倉や斉藤、山崎や尾形も『少し早めの出産祝いだ』って分配されたものを俺に押し付けてよ。せめて五両くらい寄越せってぇんだ!これで大したドンパチもなく屯所に帰還できたら、おめぇからもきっちり祝い金をふんだくるからな!」

 そう言いながら原田は戻された袱紗を懐にしまった。 思わぬ文句に沖田も思わず笑ってしまう。

「ええ、勿論ですよ。私に生まれたばかりの子供を抱かせてくれるのはおまささんくらいですからねぇ。楽しみにしていますよ」

「じゃあ俺はおまさのところに行ってくる。それと!二条城に顔を出してもいいが、無理はするんじゃねぇぞ!」

 原田はそそくさと立ち上がると、醒ヶ井の妾宅を後にした。やはり身重の妻が心配なのだろう。

「ではお考さん、ちょっと二条城に行ってきます。近藤先生に何か伝えておくことはありますか?」

 原田がいる間、部屋の外に控えていたお考に沖田は声をかける。するとお考は少し考えた後、口を開いた。

「では旦那様にお伝え下さい。今回の出陣の件は、江戸にお知らせしておいたほうが宜しいのでしょうか?と」

 その声は沖田の予想以上に重く、沈んでいた。どうやらお考にも今回の出陣は何か感じるところがあるらしい。

「・・・・・・お考さん、あなたも何か嫌な予感がするのですか?」

 沖田は思わずお考に問いただす。するとお考は頷き、慎重に言葉を選びながら沖田に自分の考えを告げた。

「へぇ。街中の気配いいますか・・・・・・嫌な予感がするんどす。奥様にも早めにお知らせしておいたほうがええんやないかと」

 お考の最後の一言に、一言に沖田の頬は思わずほころんだ。他の妾とは違い、お考は近藤の正妻であるツネにも気を使っている。それ故に近藤もお考を頼りにしており、事あるごとに『お考、お考』と呼ばっているほどだ。そんなお考だからこそ、いざという時のためにツネに連絡をしておこうかと考えるのだろう。

「解りました。ではその旨も近藤先生に伝えておきます。何かあった場合、お考さんからの連絡ならおツネさんも安心するでしょう」

 情報が錯綜する中、近藤に一番近い妾からの情報であればツネも、そして江戸の関係者も安心するに違いない。
 沖田はお考に笑顔を向けた後、いつもはしない襟巻きで首を守り、二条城へと向かった。



 沖田が二条城へ到着した時、何やら大声で怒鳴り合う声が聞こえた。その声の一つは聞き覚えのある声だ。それを確認した瞬間、沖田の表情が青ざめる。

「こ、近藤先生?何故?」

 それは紛れも無く近藤の怒鳴り声だった。剣術の稽古中、しかもかなり熱が入った状況でしか聞くことのない近藤の怒声に、沖田は慌ててその声のする方へと向かう。
 すると近藤が別の部隊の代表者らしき人物と怒鳴り合っているではないか。それを土方と会津藩の広沢、そして相手側の兵士らが必死に止めようとしている。その状況からかなりの大喧嘩らしいと見て取れる。

「いい加減にせよ、新選組!我ら水戸藩は上様直々のご命令で二条城の警備を命じられたのだ!老中ごときの命令など屁でもないわ!」

「何を!上様直々というならばあくまでも私的なもの!我々は幕府の公的な指令系統から命令を受けているのですぞ!ここは速やかにお引取り願いたい!」

「何を小癪な!」

 どうやら相手は水戸藩の藩兵らしい。今にも殴り合いになりそうな険悪な雰囲気に、沖田も慌てて近づく。

「土方さん、一体何があったんですか!近藤先生がこんな・・・・・・ゴホゴホッ」

 急ぎ足で近づいたため喉に負担がかかり、沖田は激しく咳き込んでその場に蹲る。そんな沖田に土方は慌てて近づき、背中を撫で始めた。

「総司!何で出てきやがった!醒ヶ井で寝てろって言っただろうが!」

 土方の声に近藤も怒鳴るのをやめ、振り返る。そして小さな目を大きく見開き、驚きの声を上げた。

「総司!大丈夫か!また血を吐いたらどうするんだ!」

 近藤も慌てて沖田に近寄る。その背中に対し、水戸藩の兵士が憎々しげに吐き捨てた。

「とにかく!二条城は我ら水戸藩が警護する!新選組は速やかにここを離れ、伏見か大阪に参られよ!」

 ここは自分達の持ち場だ――――――体全体に怒りを纏わりつかせつつ、相手の兵士はその場を立ち去った。



「警備・・・・・・争い?」

 咳が収まった沖田に、広沢が事情を説明する。

「ああ。どうやら上も混乱しているようでな。水戸藩は上様から直接二条城の警備を任されたというし、我々は老中から二条城の警備を命じられた。本来老中が事態を掌握し采配を振るわなくてはならないのに、この体たらくだ」

 どうやら幕府上層部の混乱故、二条城の警備が水戸藩や新選組・会津藩に別々に任されてしまったらしい。それ故にどちらが警備を担当するか、言い争いになったというのである。
 そして沖田から少し離れた場所では土方が怒り心頭の近藤をなだめている。普段はどちらかというと逆なので極めて珍しい光景だ。

「・・・・・・久しぶりに見ました。近藤先生が激高している姿なんて」

 近藤と土方を眺めながら沖田が呟く。

「ああ。よっぽど腹に据えかねたらしいな。今までの近藤からは考えられん」

 そんな二人の会話を余所に、近藤は鬱憤を土方にぶつけていた。

「俺達は幕臣なんだぞ!確かに水戸藩は御三家だが、幕臣には幕臣の意地がある!」

 そんな近藤の物言いに、沖田は微かに引っかかるものを感じる。

(むしろ幕臣なら余計に・・・・・・御三家に頭を下げるものなのではないでしょうか?)

 幕臣になってから、否、幕臣になることが内定した頃から近藤の周囲に対する態度は僅かながら変化していた。以前は殆どなかった『立場・地位で人を判断する』ようなことが多くなってきているのである。
 町道場の道場主だった頃は、どんな出自だろうが立場だろうか懐深く受け入れていた近藤だったが、今は明らかに違う。

(そのうち・・・・・・病持ちの私も、役立たずと捨てられてしまうかもしれませんね)

 咳を押さえつつ、近藤と土方を見つめる沖田の瞳には、諦観と悲しみが滲んでいた。



 水戸藩との騒動から一刻後、若年寄・永井尚志が新選組を訪ねてきた。

「水戸藩とやらかしたようだな」

 軽口半分に注意を促す永井に、近藤は必要以上に恐縮する。

「は、はぁ・・・・・・誠に申し訳なく」

「ところでものは相談だが」

 永井の口調が突如深刻なものに変わった。

「どのみち水戸藩はここを動く気はさらさら無いらしい。そこで我らは伏見へと向かう所存だが、お前たちも行動を共にするか?」

「は!勿論でございます!」

「ならば、新遊撃隊御雇として我が支配下に就くように。異論は特に無いな?」

 永井は念を押したが、その瞬間、土方の眉が不満そうにぴくりと跳ね上がった。




UP DATE 2015.8.15

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お小遣い程度のお金を渡し、部下を一旦開放していた間に局長は何をやらかしているんだか(-_-;)
しかし、このトラブルからもいかに幕府側が混乱していたか垣間見ることが出来ます(´・ω・`)この時期、幕府側も巻き返しを図ってはいるんですけどねぇ・・・やはり時勢の流れというものはそう変えられるものでは無いようです。

その一方、『幕臣・近藤勇』の変化に沖田は違和感を感じているようでして・・・『幕臣』という鎧によって、局長はより自分が強い存在になったように感じてしまっているのかもしれません。その鎧は極めて薄く、脆いものなんですが、『幕臣』に憧れ続けていた近藤にはそれが見えないようで・・・。

次回更新は8/22、果たして近藤、土方は『新遊撃隊御雇』を受けるのか、そこから話は始まります(*^_^*)
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