「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第八章

夏虫~新選組異聞~ 第八章 第二十二話・王政復古の大号令・其の貳

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 王政復古が反幕派諸侯によって決定された翌十二月十日、徳川慶喜は自らの呼称を『上様』とすると宣言した。征夷大将軍が廃止されても『上様』自らが江戸幕府の機構を生かし、現状の支配体制を継続する意向を仄めかしたのである。
 更に薩長及び反幕派公卿らのあまりにも強引なやり方に、在京の諸藩代表に動揺が広がった。その隙を突いて土佐藩ら公議政体派が巻き返しを図り、十二日には肥後藩・筑前藩・阿波藩などの代表が薩長側に御所からの軍隊引揚を要求した。
 ただこの時点でまだ『王政復古の大号令』は正式には公表されておらず、新選組もただぼんやりと『幕府側に都合の悪い取り決めがなされた』という認識しか持つことができていなかった。



「・・・・・・やっぱり一軒あたり四百両は無理だったか」

 大阪・加嶋屋からの返事と、それに添えられた百両の包みを前に土方は軽く舌打ちをした。九日の反幕派諸侯の動向を知った直後、本格的な戦いになった場合を鑑みて大阪の豪商十軒に各四百両、合計四千両の軍資金提供を申し込んだのだが、どの店も示し合わせたように百両ずつの提供しか無かった。否、実際示し合わせたのだろう。でなければここまで綺麗に十軒とも百両ずつなどあり得ない。

「何だか・・・・・・壬生で生活し始めた頃みたいですね。借金を申し込んでもなかなか首を縦に振ってもらえなかったじゃないですか」

 その声は沖田のものだった。だが声は掠れ、弱々しい。

「・・・・・・総司、寝てろって言っただろう」

「無茶言わないでくださいよ・・・・・・ごほっ、こんな非常時に」

 そう言いながらも沖田は柱により掛かるように座り込んだ。

「何か、ここ数日咳が続くんですよねぇ。労咳が進んだのかも・・・・・・」

「縁起でもねえ事を言うんじゃねぇ!」

 土方は沖田を一喝するが、それは沖田の言っている事が真実かもしれないという恐怖を振り払うためだった。
 油小路の変の後、恋敵の藤堂平助が死んだことによって少しは気鬱の病が持ち直してくれるかと思っていたのだが、土方の予想に反して症状は相変わらずだった。そこへ来てここ数日、湿った咳が断続的に出ている。自分や家族が患った労咳の咳とは違うような気がするが、やはり心配だ。

「とにかく!いつ出陣するか判らねぇんだから、少しでも体力を温存しておけ!風邪ひきだからって容赦しねぇぞ!」

 あくまでもお前は風邪を引いているんだ――――――土方はまるで自分に言い聞かせるように沖田に言い放つ。その強引すぎる一言に、沖田は微かな笑みを浮かべた。

「そうですね。じゃあ早く風邪を治すようにしないと・・・・・・ゴホッゴホッ!」

 不意に沖田が激しく咳き込む。そして次の瞬間、自らの手で塞いだその口から鮮血が零れ落ちたのだ。

「おい、総司!誰か、南部先生を呼んできてくれ!総司が血を吐いた!」

 こんな時に限って鉄之助は使いに出てしまっている。土方は沖田の背を撫でながら、南部医師を呼ぶよう再び叫んだ。



 一刻後、ようやく新選組屯所に到着した南部医師は挨拶もそこそこに早速沖田の診察を始めた。暫くは険しい表情のまま胸に聴診器を当てていたが、時間が経過するほどの徐々にその表情は緩んでゆく。

 「・・・・・・心配なさらないでください。今回の吐血は喉の血管が切れてしまったせいで起こったものです。労咳特有の喀血とは違いますよ」

 ぐったりと寝込んでいる沖田の診察を終えた南部医師は近藤と土方に穏やかな笑みを見せた。

「おおかた咳のし過ぎ、というところでしょうか。喉が弱い子供とかに多いのですが、大人でも起きることがあるんです」

「そうなんですか・・・・・・いやはや驚きました」

 近藤は胃のあたりを撫でさすりながら安堵の表情を浮かべる。そんな近藤を横目で見ながら土方は南部に声をかける。

「南部先生、ついでに近藤の胃の腑も診て頂けませんでしょうか。弟子の心配をしすぎて胃がやられたら元も子もありません」

 土方のその一言に南部も思わず笑い出す。

「まぁ、沖田さんの所為ばかりとも言えないでしょうが・・・・・・そう言えば明日十二日、上様が大阪に下阪されるのはお聞きになりましたか?」

 南部の一言に、近藤と土方の顔から笑顔が消えた。

「いや、公議政体派と反幕派がせめぎあいをしているというのは知っているが、上様の動向まではなかなかこちらまで・・・・・・」

「本当に幕府内の連絡ってぇのはまどっろこしくていけねぇ!むしろ会津藩預かりの時のほうが会津藩経由で早くて正確な情報が手に入っていた」

 不服そうな二人の表情に、南部が頷く。

「でしたら私から公用方の広沢さんにこの状況を言伝てさせていただきます。もしかしたら新選組にも何らかの勤めを回していただけるのではないかと」

「そうですか!ではよろしくお願いします!」

 やはり幕府のために働いてこその幕臣だ。近藤は深々と頭を下げて南部の気遣いにに礼を述べた。



 翌十二日、その知らせは会津藩ではなく、老中からの使者によって新選組にもたらされた。

『上様留守中の二条城警備の任に就け』

 どうやら会津藩から老中に口利きをしてもらったらしい。思いもよらなかった老中からの命令に、近藤ははしゃぐ。

「よし!皆、これから二条城に警備に行くぞ!」

「「「「おう!!!」」」」

 近藤の激に応える若い隊士達を尻目に、土方は勘定方の隊士を呼び出した。

「おい、今すぐに集められる金はどれくらいある?」

「先日大阪商人から提供を受けた千両と、元々ある二千五百両、合計三千五百両ですかね。おおまかな計算ですが」

「そのうち鉄砲やら大砲やらを注文したらどれくらい残りそうか?」

「う~ん、全部新品だとこれでも足りないのですが・・・・・・中古や今まで使っていたものを利用すれば、二百両くらいはぎりぎり工面できるかと」

「だったらその二百両とこいつを全部二分銀に替えてきてくれ」

 土方は自らの行李を開け、切餅を二つ勘定方の隊士に渡した。

「手数料で消えちまうかもしれねぇがな」

「しかし、何故?」

「ちょいと嫌な予感がするんだよ。そもそも上様が大阪に引っ込んじまったということさえ俺にゃ腹立たしいんだが・・・・・・負けるかもしれねぇ戦、やる気を出させるのは金か女だろう」

 だが、この状況では金を分け与えるのがせいぜいだ。二百両を百人ばかりの隊士で分ければ大した金額にはならないが、たとえ小遣い程度でも無いよりはましだろう。
 そんな土方の要請を受けて、勘定方の隊士はすぐさま両替商へと向かった。

「おい、鉄」

 勘定方の隊士が退出した後、傍に控えていた鉄之助に声をかける。

「国友村に銃百丁を注文したら、出来上がるのはいつになる?」

 すると鉄之助は困ったように眉を下げた。

「普通でも一ヶ月以上は・・・・・・しかもこんな情勢やし、注文も増えてると思いますから、下手をすると春の終わりになるかもしれまへん」

 そして、一瞬躊躇した後、鉄之助は思い切って口を開く。

「ほんまはこんなこと口が裂けても言いたくは無いんやけど・・・・・・いち早く銃を手に入れるんやったら外国製のほうがええと思います」

 国友村で育ち、恩義を感じている少年が国友村の製品ではなく外国製品を勧める――――――その事の意味を土方は痛感する。

「鉄、おめぇも・・・・・・事は切羽詰まっていると感じているんだな?」

 土方の言葉に鉄之助は深く頷く。事態は一日ごとに刻々と変化している。そんな中、悠長に鉄砲鍛冶が丁寧に作る鉄砲を待っていることなど不可能なのだ。そしてその事実を目の前にいる聡い少年は肌身で感じているのだろう。

「判った。となると、少しは金銭的に余裕ができるな――――――尤も使わねぇことに越したことはねぇが」

 思わず出てしまった本音に、鉄之助も思わず笑ってしまった。



 老中の知らせから一刻半、新選組は隊列を作って二条城へと入っていった。既に徳川慶喜は大阪に下った後で、そこには会津藩と桑名藩の藩兵が先に警備にあたっていた。どちらも新選組とは顔なじみであるだけに、新選組内にはほっとした空気が漂う。

「おい近藤!土方!久しいな!」

 その声は会津藩の広沢のものだった。二人も広沢の顔を見て破顔する。

「広沢さんもお元気そうで!会津のお陰で我々も二条城の警備に就くことができました!」

 からからと機嫌よく笑う近藤だったが、不意に広沢の顔が曇った。

「おい、沖田はどうした?この場所には居ないようだが・・・・・・昨日もうちの南部が呼ばれたそうだし、あいつは大丈夫なのか?」

「え、ええ、まぁ・・・・・・ちょっと病で倒れまして」

 広沢の問に近藤はしどろもどろになり、土方に助けを求める。

「実は咳で喉の血管を切ってしまい、吐血したんです。さすがに出動は無理なので、近藤さんの妾宅で見張りをつけて寝かせています」

 さすがに部下を自分の妾宅で寝かせているというのが気が恥ずかしかったのだろう。特に恥じらう必要もないのに何故か近藤は耳まで真っ赤にしている。その赤さに気がついた広沢は反射的に吹き出した。

「意外と初心なんだなぁ・・・・・・ま、吐血の翌日とあっちゃあ出動は愚か、誰かが様子を見ておかないと大変なことになるしな。血を喉につまらせて死んだとあっては武士の名折れだ」

 さり気なく物騒なことを言う広沢に目を丸くしながらも、それ以外は特に変わったことも無さそうなので、二人は広沢と別れ持ち場に付いた。

「近藤さん、例の金の件だが・・・・・・」

「どうやら暫くはこのままみたいだし、明日にでもみんなに配ってしまおうか」

 近藤の言葉に土方が頷く。だが、この金子分配の直後、近藤と土方はとんでもない相手と大げんかをすることになる。




UP DATE 2015.8.8

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今まで『労咳=心労によるうつ病』のスタンスを取ってきた拙作ですが、ここへ来てようやく吐血シーンを盛り込むことが出来ました(^_^;)とは言っても咳のし過ぎで喉の血管が切れた、っていうものですが、これ、本人はもとより周囲もかなり驚くんですよね~(>_<)実弟が子供の頃2度ほどやらかしまして生きた心地がしませんでした・・・(伯父もやっているので遺伝的にどの度が弱いんでしょう)
今までの延長だと総司もそのまま出陣してしまいそうでしたのでねぇ・・・そうなるとちょっと困ったことになるのですよ。高台寺党の残党が絡む『あの事件』の際、総司は局長の妾宅にいるものだと敵に思わせなければならないので(-_-;)ということで今回総司には派手に吐血してもらいましたが、結核ではありませんので命に別状はございません。ただ暫く安政にしてもらわないと/(^o^)\

次回更新は8/15 ,局長と某藩との大げんかが中心となりそうです(#^^#)
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