「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第八章

夏虫~新選組異聞~ 第八章 第二十一話・王政復古の大号令・其の壹

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 鈍く輝く冬の夕日が、障子を血の色に染める。どこか禍々しさを感じるその色を浴びながら、新選組幹部達は黙ったまま中央にいる人物を見つめていた。その視線の先には土佐藩邸から帰ってきたばかりの井上源三郎が座っている。

「・・・・・・で、源さん。一体どんな話を聞いてきたんだ?」

 全員が揃ったところで、近藤が身を乗り出して井上に尋ねた。すると井上はいつにない厳しい表情で土佐藩邸で聞いたことを話しだす。

「儂もそう詳しい話を聞けたわけではないが、容堂公を始め、先代の尾張殿、越前殿が小御所に招集されたそうだ。ただ招集されているのは公議政体派だけではないらしい」

「つまり反幕派も――――――薩摩あたりも参加している、とか?」

 土方の探るような声音に井上は深く頷く。

「勿論じゃ。朝廷からも少々厄介な顔ぶれが出てくると、土佐の公用方が嘆いておった」

 厳しい表情を崩さないまま井上が更に続ける。

「やはり上様が締め出されていること――――――それが一番の問題じゃな。どんな決定がなされても後手に回る」

「・・・・・・確かに。どんなに頭の切れる奴だろうが、その場に居なけりゃ話にならねぇ」

 少々乱暴すぎる土方の言葉だったが、それは紛れもない事実だ。

「一晩で何かが決定するかもしれないし、数日かかるかもしれない。我々としてはどんな話し合いがなされようが、今までと変わらぬ働きをすれば良いだけだ」

 近藤の一言に全員が頷く。情報が殆ど無い今、起こるか起こらないか判らぬことにやきもきしていても始まらないのだ。ようやくまとまりかけた会議だったが、最後の最後に土方のとんでもない命令が飛び出す。

「じゃあ、いきなり何かとんでもねぇ事が起こっても大丈夫なように、十三日の煤払いを明日に前倒ししなけりゃな」

「え~~~!そりゃあ無いぜ、土方さん!」

 原田が駄々っ子のように異議を唱えるが、土方は勿論それを撥ねつけた。

「うるせぇ!たった三日の前倒しにギャンギャン喚くな!別に俺は煤払いがその後の酒盛りと一緒に吹っ飛んじまっても構わねぇが」

「うっ・・・・・・それがあったか」

 煤払い後の宴会は、正月の宴と違って肩肘張らずに済む数少ないものである。それだけにその楽しみが吹っ飛んでしまう事だけは極力避けたい。原田、永倉らは渋々頷き、他の幹部達の笑いを誘った。

「じゃあ源さん、明日天満屋の交渉がてら容堂公の動きにも探りを入れてくれ」

「承知」

 その一言で場は本当の解散となった。だが井上の偵察を待つこと無く、思わぬ知らせが翌朝届いたのである。



「大変だ!御所が・・・・・・御所が封鎖されてます!」

 そう叫びながら飛び込んできたのは、早朝の巡察当番に当たっていた平隊士だった。慌てふためきながら転がり込む彼とは対照的に、後から入ってきた尾形は妙に落ち着いている。だが、その報告はかなり深刻なものだった。

「兵が御所九門全てを封鎖してます。あれでは誰も入ることは出来ますまい」

 入るどころか自分達は近づくことさえ出来なかったと、尾形は嘆く。近づこうとしたら鉄砲で威嚇されたというのだ。そんな尾形の報告に土方は眉間に深い皺を刻む。

「中からの許可がねぇと、ってところか。畜生、思ったより早く動いているな・・・・・・おい、尾形。すぐにでも戦闘は起こりそうな気配だったか?」

「いいえ。御所への立ち入りこそ厳しく制限されていましたけど、まだ本格的な居戦闘という感じでは」

 尾形も何とも言えない表情を浮かべつつ、更に報告を続ける。

「早ければ午前中には何らかの動きがあるかもしれません。巡察は最低限にし、いつでも出動できるよう屯所で待機しているべきだと」

「・・・・・・だな。源さんと山崎に偵察に行ってもらって、残りは待機、ってところか」

 昨晩は冗談めかして言っていた煤払いの前倒しだが、御所に兵士が配置されているとなると冗談では済まなくなりそうである。今日は徹底的に武器の手入れと、いつ長期戦線に駆り出されても大丈夫なよう準備をしておくべきだろう。

「鉄、聞いていたな!」

 土方は背後に控えている気配に声をかける。

「へぇ!」

「朝餉が終わったら幹部たちに副長室に集まるよう伝えろ!戦準備が洒落じゃ無くなったと!」

 すると軽い足音が土方の背後から離れてゆく。

「尾形、おめぇもさっさと朝餉を食って副長室に来てくれ!」

「承知。何なら副長室で朝餉を頂きましょうか?」

 冗談めかしながらそう言うと、尾形は風呂にも入らず朝餉が出される大広間へと向かった。



 御所九門を護る兵士達の話は瞬く間に屯所内に広まった。そしてそれだけでなく関係各所から続々と情報が入ってきたのである。
 門を守っているのは薩摩・土佐・安芸・尾張・越前五藩の藩兵だということ。そしてそれは昨晩小御所に呼ばれた関係者のものだということ―――――-やはり大きな動きがあるのだろう。それが徳川にとって、否、新選組にとってどのような方向に転ぶのか皆目検討がつかないが、どんな事になっても対応できるようにしておくべきだ。

「源さんは土佐藩邸に。山崎は監察を連れて御所並びに関係各所に偵察に行ってくれ。その他の者は煤払いがてらの戦支度だ。禁門の変と同じくらいの戦は覚悟しておけ」

 下手をしたら数日中にも―――――――否、数刻後にも動きがあるかもしれない。また、そのままひと月以上屯所に帰還できない可能性もあるのだ。
 その瞬間に絶対に後れを取ってはいけない。土方の指示に幹部たちは即座に行動を開始する。そして土方の読み通り、動きはすぐにあった。



「近藤局長!土方副長!岩倉具視ら反幕派の公卿達が・・・・・・続々と参内してます!」

 大声を挙げなから転がり込んできたのは、山崎と共に偵察に出向いた平隊士の一人だった。その知らせに煤払いと戦準備をしていた隊士達はすぐさま反応し、続々と玄関に集まってくる。

「何だって?そもそも御所の門は封鎖されているんじゃねぇのか?」

「ああ、封鎖されてる・・・・・・二条摂政や朝彦親王ら親幕府的な朝廷首脳も参内を禁止されているってことだ。それなのに!」

 反幕派は御所内に入ることができるというのだ。つまり反幕派が主導権を握っているということに他ならない。

「畜生、してやられたか」

 永倉はぎりぎりと奥歯を噛みしめる。

「幕府側の動きは?何か無いのか?」

 斉藤は根掘り葉掘り知らせを届けに来た平隊士に尋ねるが、平隊士は困ったように首を横に振った

「いえ、まだ俺がこっちに来る頃には動きはなかったんですが・・・・・・」

「あのやり手の男のことだ。きっとなにか手を打ってくるだろう」

 斉藤と平隊士の話に割って入ってきたのは何と土方だった。その声に隊士達は驚く。

「ふ、副長!」

「そもそも幕府の動きが遅すぎる――――――少なくとも尾形がこっちに知らせる前に状況を知っていたはずだ。それなのに何ら命令が下らない、ってぇことは様子見なのか、それとも何らかの手を打とうとしているのか」

 土方は言葉を飲み込む。

「・・・・・・どうやらこの戦支度、本当にそのまま使うことになりそうだな」

 せわしなく聞こえる武具の手入れの音を背後に聞きながら、土方は唇を噛み締める。幕府が反撃に打って出るのはいつなのか――――――短気な土方にとってこの持久戦はかなり辛いが、下手な動きをすることも出来ない。今はただ爪を研ぎ、攻撃開始を待つだけである。部下にそれを嗅ぎ取られぬよう己の焦りを押し殺し、土方はただひたすら準備を待機を命じた。


 だが、土方の予想を覆し、徳川慶喜の反撃はこの翌日に始まることになる。




UP DATE 2015.8.1

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大政奉還以降微妙な綱引きが続いていた幕府側と反幕派ですが、ここへ来てようやく反幕派が動き始めました。小御所会議を経て王政復古の大号令を発表するのですが、この時点ではまだ公には発表していないんですよねぇ・・・更に水面下の綱引きを経て数日後に庶民に発表されることになります(大名には12日だったような気が・・・^^;)

次回からは幕府派の巻き返し、そしてようやく新選組にも王政復古の大号令の内容が入ってくる・・・ハズ?何せ時系列でちょっと苦慮しておりますのでどこまで話が進んでくれるか\(^o^)/できれば伏見出動直前までは進めたいのですが・・・頑張ります∩(*・∀・*)∩ファイト♪
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