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聖龍協奏曲~奏国物語

ボカロ小説 聖龍協奏曲~奏国物語 朱鷺色の花嫁5

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 奏国において皇帝だけがその背中に乗ることを許されている紫龍――――――皇帝龍に乗れとメイコはルカに命じた。それはある意味皇位への非礼にあたり、白龍隊を任されているルカとしては絶対に許されない行為である。
 それ故最初はかなり抵抗を見せたルカだった、がメイコの威嚇、自分達を取り巻く民衆の好奇の視線、そして何よりも期待の眼差しで自分を見つめる皇帝龍の眼差しにの圧力に負け、仕方なく皇帝龍の前に進み出た。

「・・・・・・皇帝龍よ。貴方様の背に乗ることが許されるのは我が陛下とその皇后のみ。私などには到底許されるものでは無いと思うのですが」

 恐る恐る尋ねるルカだったが、皇帝龍はルカの心配をあっけなく一蹴した。

《それは我が決めること。聖龍の取り決めは人間の都合や思惑とは別の次元にある》

 まるで唄うようにそう告げると、皇帝龍は長い尻尾をルカの細い腰に巻き付け、自分の背に持ち上げたのである。驚くルカだったが、皇帝龍は構わずルカをその背に乗せた。

「な、何!」

 ルカと皇帝龍のやり取りを見守っていた魔導師の一人が思わず声を上げる。何と皇帝龍も先程の白龍――――――否、黄金竜・陽炎同様の変化を見せ始めたのだ。ポロポロと落ちた紫一色の鱗の下からは紫苑色と朱鷺色、二色が交互に煌めく鱗が姿を見せる。だが驚くには早すぎた。皇帝龍は色が変化した翅を拡げると声高らかに歌い出したのである。その唄は黄金龍のそれよりも力強く、しかしどこまでも優しかった。龍の言葉は解らなくても明らかにそれは恋唄だ――――――その場に居た者達は瞬時にそれを理解し、皇帝龍の喜びの恋唄に耳を傾けた。



 突如華都上空に現れた黄金龍と、それに連れて行かれてしまった紫龍を追いかけ、カイト率いる青龍隊とメイト率いる赤龍隊が『救いの村』に向かっていた。それぞれグリフォン隊と化蛇隊という精鋭を引き連れての追跡だ。
 さすがに首都・華都に今まで見たことがない龍が出現し、しかも皇帝龍を引き連れてどこかに行ってしまったとなれば一大事である。下手をしたら帝位に関わってくるかもしれない。進軍しつつ、心の中に緊張と焦りをカイトが覚え始めたその時である。不意にスミレの耳がピン、と立ち、珍しく吠えたのだ。

「な、何があったんだ、スミレ?」

 驚くカイトに対し、スミレは耳をピンと立てたまま事情を説明し始める。

《皇帝龍と陽炎の歌が聞こえる――――――!カイト、急ぎますよ!この際兵士達は置いていきましょう。彼らの出番は無さそうですから》

 ある意味冷淡とも取れる物言いだったが、カイトはそれを気にすること無く更にスミレに尋ねる。

「どういうことだ?何か『救いの村』で起こっているのか?」

《ええ、起こっているもいいところです!新しい龍騎士と龍騎士の妻――――――皇后がいっぺんに誕生したんですからね。しかも新しい龍騎士はかなり若い・・・・・・気配だけでは正確な年齢は判りませんが、間違いなく15歳よりは年下ですよ》

「何だって!それじゃあ兵士見習いが龍騎士になったというのか?」

 正式な兵士になるには17歳まで待たねばならない奏国である。スミレの言うことが本当ならば間違いなく兵士見習いか、一般人であろう。

《でしょうね。陽炎もようやく本来の主に会えたんで、正式な兵士になるのを待ちきれなかったんじゃないでしょうか。私達からすれば2~3年なんて瞬きする間と何ら変わらないのに・・・・・・せっかちですね、陽炎も》

 陽炎に対してせっかちだと言いながらも、スミレも早く新たな龍騎士を知りたいのかどんどんスピードを上げてゆく。それについて来ているのはカイトと同じく龍騎士である、義兄のメイトだけだった。

「おい、カイト!一体どういうことだ?ローレライも落ち着きが無くなっていて堪ったもんじゃねぇ!何だ、この速さは!」

 赤龍・ローレライの制御に苦労しつつメイトがカイトに声をかける。

「スミレによると、どうやら新しい龍騎士と皇后がいっぺんに誕生したらしいですよ、義兄さん」

「どういうことだ?まぁ皇后に関しちゃあ大体検討はつくけどよ、新しい龍騎士って・・・・・・」

 その時である、二人の耳に龍の歌の合唱が聞こえてきたではないか。しかも一頭だけではない、二つの旋律が奏でるその歌声は明らかに紫龍と黄金龍の合唱であろう。

「行くぞ、カイト!」

「はい!」

 これは間違いなく大事だと判断した二人はそのまま歌の方へ向かう。そして『救いの村』上空に辿り着いたカイトとメイトが目にしたもの、それは二匹の龍が向き合い声高らかに謳っている姿だった。
 更によくよく見ると、その背中にはそれぞれ一人づつの人物が乗っていて、どちらも困惑の表情を浮かべているではないか。それを見てメイトは『やっぱり』という表情を浮かべた。

「やっぱり皇帝龍に乗っているのはルカか。まぁ以前からあの二人はデキてたからな。問題はあの金色の龍に乗っかっているガキだ。誰だ、ありゃ?」

 身も蓋もない物言いにカイトは苦笑を浮かべる。そして龍の周囲を見回した瞬間、思わず目を見開く。

「メイコ!あいつ、なんて格好を!」

 そう叫ぶと、カイトはメイトをそのままにスミレを急降下させた。



 うっとりと二匹の龍と新たな龍騎士に見入っていたところに青龍が降りてきた。そしてスミレが完全に地面に着地する前にカイトが飛び降りる。それに気がついたメイコがカイトに笑顔を向けた。

「あれ、カイト。どうしたの?」

「どうしたもこうしたもない!何だその格好は!」

 顔を真赤にして叫ぶと、カイトは自らのマントをメイコの頭から被せる。さすがに胸と腰を辛うじて覆うだけの下着姿のままで義兄の前に出すことは出来ない。

「黒曜教の導服が支給されているだろう!あれはどうした!」

 マントに視界を奪われ、もぞもぞと動いているメイコにカイトが怒りもあらわに尋ねる。

「ああ、あれね。さっきルカに破かれちゃって・・・・・・さすが龍騎士、不意を突かれるとよけきれなくって」

 ようやくマントから首を出したメイコは、怒りの表情を露わにしているカイトにヘラヘラとした笑みを見せた。その緊張感のなさが更にカイトを苛立たせる。

「・・・・・・なるほどね。本来は服ごと切り裂かれていてもおかしくないところだったと?」

 つまり真剣を手にした龍騎士と対峙するという、命知らずのことをやらかしたということだ。戦時中ならいざしらず、本来なら双方処罰に値する出来事だ。しかし目の前にいる蛮族の娘にそれを説いたところでどれだけ理解してくれるか・・・・・・そんなカイトの心中を知ってか知らずか、メイコは更にとんでもない発言をした。

「それにグリアーノじゃ男女一緒の場所で水浴びしたりするから、別に珍しいことでも・・・・・・」

「だから!蛮族の風習はここでは通用しないんだって何度も言っているだろう!」

 カイトはこめかみを押さえる。その時ようやくメイトが地面に降りてきた。カイトは慌ててメイコを背中に隠し、メイトの視線から遮る。マントを被せたとはいえ、どうしても隠し切れない部分もあるからだ。

「どうした、カイト。びっくりするじゃねーか。一体何があったんだ?」

 赤龍・ローレライから下りたメイトはカイトの背後を気にしつつカイトに尋ねる。どうやらカイトの背後にいる娘が何かをやらかしたようだが、それが何かはよく判らない。

「いえ、ちょっとこの蛮族の娘が・・・・・・はははっ」

 メイコを必死に隠しながらカイトがしどろもどろに説明する。

「ところで黄金龍に乗っているガキの正体は?」

 そもそも本来の追跡目的は黄金竜と紫龍だ。メイトがそのことについて尋ねると、カイトの背後にいたメイコが口を挟んできた。

「ああ、あの子。白龍隊の見習い兵士のリン。10日前に入隊したばかりだって」

 そんな会話をしている中、ルカは皇帝龍と触れ、心話で皇帝龍から自らの使命を伝えられていた。

《龍騎士の伴侶は魂の片割れ。どちらかが死んだらもう片方も生きながら死んでしまう―――――この世のすべてを敵に回しても、互いを守りぬく強い絆が必要だ。そなたなら我が主・皇帝がくぽとその絆を結ぶことが可能だ》

「し、しかし・・・・・・」

 皇帝龍の背中に乗りながら、ルカはまだ戸惑いを見せる。そんなルカに対し、皇帝龍はゆっくりと説き伏せ続ける。

《一方的な忠誠を受ける側は心苦しいものだ。そなたと結ばれてからというもの、がくぽはどれほどの苦悩を抱えていたか》

 それを聞いてルカは言葉に詰まった。まさか自分の忠誠が皇帝を苦しめていたとは思わなかったのである。さすがにしょげ返りながらルカは皇帝龍に尋ねた。

「・・・・・・私に、何ができるのでしょうか?」

《『龍騎士の妻』となれ――――――人間の世の『皇后』は元老院やら老獪な貴族やらがうるさくてなかなかなれぬだろうからな。だが『龍騎士の妻』ならば我とがくぽが認めればそれで済む。龍騎士ただ一人にその心を捧げる覚悟はあるか?国や民ががくぽを裏切ろうとも龍騎士・がくぽを守る覚悟が・・・・・・》

「勿論です!それが私の望みでございます!」

 思わず叫んでしまい、ルカは慌てて口を抑える。だがその声を聞いているものは誰一人居なかった。皆黄金龍と龍に認められた金髪の少女に気を取られていたからだ。

「へぇ。このガキが生まれてから14年間も待っていたんだ?聖龍も大変だよな」

「赤龍隊隊長様!ガキとは何ですか、ガキとは!あたしにだってリン、って名前があります!」

「義兄上に対してこれだけ言い返せるのですから、やはり只者じゃないんでしょう」

「いや、ただ馬鹿なだけだ、こいつは」

 メイトは黄金龍から下りたリンの髪の毛をわしゃわしゃと乱暴に撫でる。

「痛い!馬鹿とは何ですか、馬鹿とはっ!そりゃあぎりぎりで白龍隊に入りましたけど・・・・・・もうやめてってば!」

 そんな様子を見つめているルカにメイコが気が付き、近づいてきた。

「どう?覚悟はできた?ある意味白龍隊隊長より苦しい道を歩むかもしれないけど」

 メイコは魔導師である。少なくとも龍騎士の自分よりも『龍騎士の妻』の魔導的な意味を知っているだろう。でなければ『苦しい道を歩む』などという言葉は出てこないはずだ。それだけのものを皇帝龍は、そして皇帝その人も必要としているのだろう。

「・・・・・・グリアーノの魔導師よ。そなたの顔が悪魔のように見えるぞ。逃げられぬ茨の道に引きずり込んで」

 だが、それはルカの存在流でもあるのだ――――――メイコに悪態をつきつつもルカの顔は極上の笑顔に満ち溢れていた。その時である。

「隊長~~~~~!ルカ隊長~~~~~~!」

 遠くから聞き慣れた懐かしい声――――――グミの声が聞こえてきた。



 到着したグミとミクは、授業をサボったことについての説教を受けた後、ルカが皇帝龍の申し出を受けたことを聞かされ大いにはしゃいだ。

「じゃあ、ルカ隊長は皇帝陛下のお嫁さんになるんですね!やっぱり授業サボった甲斐があったぁ~!元老院のオヤジどもがうるさそうだけど、それは無視しちゃいましょうよ!」

「グミちゃん、オヤジはないんじゃ・・・・・・」

 さすがにミクはグミを窘めるが、グミは聞く耳を持たない。

「ミクちゃんはちゃんと見たことがないからそう言うんだよ。そりゃあ性格の悪い中年オヤジ共の巣窟なんだから、あそこは」

 国家中枢を司り、皇帝でさえ迂闊に圧力を掛けることが出来ない元老院でさえ、グミにかかればこのとおりである。ルカは愛おしい部下の悪態に苦笑を浮かべる。

「それより隊長!龍騎士の妻になるのなら、そんな鎧は脱いじゃってくださいよ!今皆に連絡をして花嫁衣装を持ってきてもらっていますから」

「れん・・・・・・らく?」

「ええ。魔導学校でまず最初に習うんです、遠方の仲間とのやり取りを。まさかこんなところで役に立つとは思えませんでした。魔導も意外と役に立ちますね・・・・・・うんうん、そうなの!ルカ隊長が陛下のお嫁さんになる決意をしたから、できるだけ豪華な花嫁衣装とかアクセサリーとかかき集めてきてよ!」

 まだ魔導を使い慣れていないグミはどうしても『連絡』を口に出さないと伝えられないのだろう。遠くの仲間とはしゃぐグミを見つめるルカの顔にはやわらかな笑みが浮かんでいた。




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ここに来てようやくルカも皇帝、そして皇帝龍の申し出を受けることになりました。ルカにとってはかなりの覚悟だと思うのですが、それ以上に皇帝龍から皇帝その人の重責や辛さを聞いて『更に近くで支えなければ』と思ったのでしょう。この話のルカは『守ってもらう』よりも『守ってあげたい』という気持ちのほうが強いみたいです(*´艸`*)

そして最後に出てきた学生組・・・特にグミはとんでもない子になっております(^_^;)自主的に授業はサボるわ、教えてもらった『連絡』を私用に使い、仲間にルカの花嫁衣装を持ってこさせようとするとか・・・ある意味現代の女子高生とそう変わらないですね(^_^;)
本編とは別に魔導学校の生活とか、なかなか面白そうです/(^o^)\

次回8/3は最終回、部下に準備して貰った花嫁衣装でルカが皇帝の前に出向きます♪
(なおpixivには7/31から順次UPしてゆきます。多分前後編~3話くらいに分けるかな?)
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