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聖龍協奏曲~奏国物語

ボカロ小説 聖龍協奏曲~奏国物語 朱鷺色の花嫁2

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「メイコとやら。ルカに代わって白龍隊の隊長をやってみる気は無いか?」

 皇帝の口から飛び出したその一言は、場の空気を一瞬にして凍りつかせた。皇帝の背後にいるルカの押し殺した怒りのオーラはメイコ、ミク姉妹は元より同じ龍騎士であるカイトでさえも慄かせるのに十分すぎる程だ。

「・・・・・・陛下、お戯れも大概にして頂けませんでしょうか」

 とにかく、自分達に降りかかった火の粉を払いのけなければ大惨事になる――――――瞬時にそう判断したカイトは、頬を引きつらせつつ皇帝に苦言を呈する。

「一戦士としてのメイコの能力は認めましょう。ですが、奏国四軍の隊長はいざという時皇帝の代理もしなければならないのですよ?いくら何でも奏国に来たばかりのメイコにその任務は重すぎます」

 早口の奏国語でカイトが語ったその内容を、メイコは半分ほどしか聞き取れなかった。しかし少なくとも自分が白龍隊隊長に不向きだと言っている事だけは理解できる。ここはカイトに任せたほうがいいと感じたメイコは、カイトの背に隠れるように一歩下がった。
すると皇帝は少し残念そうは表情を浮かべる。

「確かにそちの言うとおりだな、カイト。となると、暫くの間は仕方がないか」

 暫くの間――――――つまりメイコがここでの生活に慣れたら白龍隊隊長を任せようという気持ちがあるらしい。カイトは苦笑いを浮かべつつ、やんわりと皇帝に釘を刺す。

「陛下、麗しき現・白龍隊隊長を常に側に侍らせたいお気持ちは解らぬではありませぬが・・・・・・メイコを白龍隊隊長にする前に、陛下の背後にいるお方の機嫌を損ねられては本末転倒ですよ」

 カイトのその一言に皇帝は表情を強張らせ、背後にいるルカの方を振り返る。その直前にルカは険しい表情を引っ込めたが、怒りを滲ませたその雰囲気だけは隠しきれなかった。否、むしろ怒りを表情に出していない分、漂わせる怒りの気配が余計に恐ろしいものに感じる。

「ル、ルカ。これには理由が・・・・・・」

 さすがにまずいと思ったのか、皇帝はルカに言い訳を始める。だがそれを最後までルカが聞くことは無かった。

「私では白龍隊隊長は力不足だと・・・・・・そういうことでございますね、陛下?」

 そもそも皇帝の発言を遮るという非礼は、奏国人が絶対に行っては行けない行為である。それを敢えて行うという事にルカの本気の怒りを感じずにはいられない。その低い声音は皇帝どころかカイトやメイコ、ミクでさえ恐怖を感じるほどだ。

(怖い・・・・・・この場から早く逃げたい!)

 カイトの背後に隠れながらメイコとミクは互いの顔を見合わせて頷く。そしてその気配をカイトも感じたらしい。

「では陛下。メイコへの白龍隊隊長要請の件は酒の席での戯言ということで。では我々はこれにて失礼致します!」

 切り口上で言い切ると、カイトはまるで脱兎の如くメイコとミクを連れてさっさとその場を後にした。



「ふぇ~っ、怖かったぁ!あんなどす黒いオーラ、初めて見た・・・・・・」

 人混みをかき分け、宴が行われていた宮廷大広間を出た瞬間、ミクがあからさまに安堵の溜息を吐いてその場にしゃがみこんだ。田舎育ちの蛮族の娘にとって、奏国貴族のドロドロとした怒りは毒気が強すぎたようである。自らの肩を抱いたままなかなか立ち上がれない。

「いきなり何を言われるかと思ったら、白龍隊隊長の要請なんて・・・・・・てか、受ける受けない以前の問題よね。私、変な恨みは買いたくないからね!それよりミク、大丈夫?」

 妹の背中をさすりつつ、自らも目に涙を浮かべながらメイコはカイトに訴える。青龍隊を蹴散らした勇敢な『紅の魔導戦士』とは思えない。それほどまでにルカの静かな剣幕がこの二人の姉妹にとって恐ろしかったのだろう。
 そんな魔導師見習い姉妹に対し、さすがに申し訳ないと思ったのか、カイトが謝る。

「済まないね。まさか陛下があんなことを言い出すなんて俺も思わなかったから。知っていたら君らをここに連れて来なかったんだけど・・・・・・暫くは皇宮への出入りは避けて、魔導省と俺の屋敷だけに行動を限っておいた方がいいかもしれないね」

 その瞬間、メイコとミクは不意に泣き出しそうな表情を露わにした。

「そんな~っ!『救いの村』にも行けないの?グリアーノの皆の様子を知りたいのに!」

 せっかく宰相に『会いに行っても問題ない』とのお墨付きを貰ったのに、とメイコが文句を言うと、カイトは『皇宮から離れる分には問題ない』と付け加えた。

「だったら明日にでも行こうか。グリフォンやユニコーンに乗っていけば一刻もかからない」

 下手に皇宮近辺をうろつくよりは遠出をしたほうが安全だ。カイトはそう判断して姉妹に早々の『救いの村』行きを提案する。

「やったぁ!しかもグリフォンかユニコーンに乗っていけるなんて!」

 道さえ教えてもらえれば歩いてでも行くつもりだったが、乗り物を貸してもらえるならそれに越したことはない。二人は思わず歓声を上げ、喜びを爆発させる。ただ、この事が二人を多忙へと導くことになろうとは、この時の三人は知る由もなかった。



 翌日、グリフォンに乗った三人は華都の北にある『救いの村』に出向き、グリアーノの民との再会を果たした。皆故郷を離れた時よりも血色よく、衣類も継ぎ接ぎのない、奏国風のものを身に付けている。そして何よりも驚いたのがグリアーノには無かった『湯浴み』の習慣を皆が受け入れていた事だった。水での沐浴が当たり前だったグリアーノの民がこうもあっさり異国の習慣を受け入れるとは――――――驚くメイコに世話係の魔導省役人が種明かしをする。

「湯浴みをした後に夕飯の配給をしているんです。ここまで習慣づけさせるのに10日もかかったんですよ」

 半分ぼやきに近い役人の言葉だったが、カイトがメイコを横目でチラリと見ながら反論した。

「10日で仕込んだのならかなり優秀だぞ。こいつなんか未だに水浴びしかしないから準備がいちいち大変だ」

「悪かったわね!だってお湯なんて気持ち悪いじゃない。やっぱり冷たい水でスッキリしたほうが気持ちいいわよ」

「・・・・・・こんな感じだ。さすがキヨテルの部下は指導が上手いな」

 自分はメイコ一人を未だ湯に入れさせることが出来ないが、キヨテルの部下達は数千人のグリアーノ人を湯に入れさせることに成功している。そんな要領の良さにカイトは羨ましさを覚えたが、魔導省の役人たちは『まだまだ問題はある』と告白した。

「湯浴みや食事などの単純な行為なら大して言葉が解らなくても何とかなるんです。しかし細かな事象になりますと・・・・・・特に病人などの診察には手を焼いてます」

 そしてメイコの方にちらりと視線をよこしながら、魔導省の役人は恐る恐るカイトに尋ねる。

「あの・・・・・・暫くの間、紅の魔導師殿に助けをお願いすることは出来ないでしょうか。通訳の仕事だけでもかなり助かるのですが」

「ああ、構わないよ」

 予想以上のあっさりとした快諾の返事に、魔導省の役人は驚きの表情を浮かべる。

「本当に・・・・・・宜しいのですか?」

「勿論だ。昨日ちょっと厄介な出来事があって、暫くの間華都からメイコを離しておきたいという事情もあるし。メイコも構わないだろ?」

「ええ。むしろ身体を動かせる方が気分的に楽だし・・・・・・ついでに簡単な黒曜魔術も教えてもらおうかしら。誰かさんに遅れを取らないように」

 どうやらカイトとの戦いで防御魔法を使われたのを根に持っているらしい。それに対し、カイトも負けじと言い返す。

「だったら湯浴みの習慣も教えてもらえ。いつまでも水浴びだなんて奏国じゃ無理だからな」

 相変わらずの二人のやり取りに周囲も思わず笑い出す。そんな流れでメイコは暫くの間『救いの村』で働くことになった。しかしその一方、ミクは『人質』として皇立魔導学校へ編入する事を告げられる。

「そもそもミクちゃんはまだ学生の年齢だ。奏国内の魔導師は二十歳まで学業優先、大きな災害や領地内での戦争以外は仕事なんかしている暇は無い」

「でも・・・・・・」

 メイコは心配そうな表情を浮かべる。てっきりミク一人華都に連れて行かれることを心配しているのかと思ったが、そうではなかった。

「ミクは黒曜魔術なんて全く知らないわよ?『編入』なんて言ってくれているけど、初等科一年生からじゃなくて本当に大丈夫?奏国語での授業についていけるか心配だわ」

 どうやらかなり厳しいと噂される皇立魔導学校の授業にミクがついていけるか心配らしい。少なくとも奏国そのものは信用してもらっているらしい――――――そう確信したカイトはメイコに笑顔を見せつつ、ミクの学校生活について説明した。

「それに関しては心配ない。だいたい外国や他流派の魔導師は、慣れるまで初等科に編入することになっている。そしてその後に能力次第で飛び級もできるからすぐに同年代の学生に追いつくんじゃないかな」

「だったら安心かな。可能なら幾つかの流派を知っていおたほうが何かと便利だしね」

 実際メイコやミクが所属している『白の魔導師』の流派は、癒し系の魔法は得意だが破壊系は全く使えないし、黒曜魔術は防御及び破壊は得意だが、復活魔法が極めて弱い。それぞれの流派の長所、短所を克服する為、幾つかの流派を使い分ける魔導師も少なくない。できればミクには複数の流派を使えるようになってほしい。そうすればどこで暮らそうと重宝される――――――姉らしい思惑から、メイコはカイトの申し出に賛成し、ミクは魔導学校初等科へ編入することになった。



 数日後、メイコはミクの魔導学校編入を見届けた後、再び『救いの村』へやってきていた。すると早速通訳の仕事を依頼される。

「まずは病人の訴えを聞いてもらえませんか?どうしても細かな要望までは解らなくて」

 癒しの魔法を使おうにも細かな症状が解らなければ見当違いの魔法をかけてしまい、余計に症状が悪化しかねない。そして通訳の仕事は食事の細かな注文から不足している備品の請求、又は何故か備え付けられているが使い方が全く解らない奏国特有の備品への質問まで多岐にわたった。その質問の多さに、最初5日間、メイコはろくすっぽ眠れなかったほどだ。
 しかし10日も過ぎるとそれらの質問がようやく落ち着きを見せ始め、魔導師達も最低限のグリアーノ語を覚え始めてメイコに余裕が出来始めた丁度その頃である。思わぬ出来事が起こったのだ。

「大変だ!白龍隊が物資を運んできたぞ!」

 本来救いの村に物資を運ぶのは復興指導を行っている魔導省の下部組織か、黒龍隊の見習い兵士のどちらかである。それなのに本来皇族始め貴族婦女子の警護を中心として行う白龍隊が避難民の荷物運びの為『救いの村』にやってきたのである。

「黒龍隊はどうした?華都で何かあったのか?」

 救援物資を運べないほどの事件が黒龍隊に起こったのかと暫し騒然としたが、そうでは無かった。今回は隊長の意向で特別に白龍隊が荷物運びを担当していると、兵士達がぼやき半分口々に告げたのだ。
 そんな中、救援物資の荷解きをする娘子軍兵士の横に白龍・陽炎が舞い降りる。その背中に乗った美しき隊長・ルカが集まってきた集団に向けて声を張り上げた。

「グリアーノの紅の魔導師・メイコ!いるのなら我の前に出てこい!貴様とは決着を付けねばならぬ!」

 美しくも、怒りを露わにしたその声に、その場は俄に緊張に包まれた。





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一端はトラブルを避けたメイコたちですが、ルカの方はそう簡単にはいかなかったようです(-_-;)皇宮内でのニヤミスなら仕方ないとしても、わざわざ『救いの村』までやってきてメイコと勝負をつけようとは・・・きっと宴の後にも『白龍隊の隊長をやめて俺の側室になれ』と皇帝にしつこく言われ続けたに違いありません。皇帝としてはルカを危険な場所に行かせたくないという思いからの発言なのでしょうが、ルカとしては『自分の能力が認められなくなった』という焦りが生まれているはず・・・(-_-;)

次回更新は7/14,、ルカとメイコのバトルになりそうです(^_^;)
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