「短編小説」
幕末明治つまべに草紙

幕末明治つまべに草紙・其の漆~鹿鳴館の慈善バザー

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「西郷伯爵、ここに来たからには覚悟はお有りなのでしょう?素通りは許しませんよ」

 意味深な含み笑いを浮かべつつ西郷従道に近づいてきたのは、井上馨の娘・千代子であった。まるで道を塞ぐように立ち塞がったその迫力に気圧され、西郷は反射的に後退ってしまう。

「え、ええ。勿論ですよ。婦人会の慈善バザーなるものがあると伺ってやってきたのですが・・・・・・かなり盛況ですね」

 鹿鳴館で初めて行われている婦人会のバザーは、ここに入る為の入場料だけでも二十銭取られている。そして売っているものといえば三円から四円という、下々の一日から数日の賃金並みの高級品ばかりだる。おどおどと売り場を盗み見る西郷に千代子はきっぱり言い放った。

「当たり前ですわ。日本に看護学校を作るためですもの!その為にはなりふりかまっていられませんわ」

 父親・井上馨譲りの世話焼きがこんなところに現れるのか。華やかな笑みを見せ千代子は西郷の手を引っ張った。



 そもそもの始まりは大日本婦人教育会の面々が慈善病院を見学したことだった。日本国内でも最先端の部類に入る西洋式病院にも拘わらず、そこには未だ看護婦がいなかったのである。その代わり男の小使いが病人を看護しており、見学した華族夫人達は呆れ果てた。

「高木先生?貴方様は外国の事情をご存知ですよね?それなのに何故未だに看護婦ではなく男の小使いを使っていらっしゃるのですか?」

 外国の諸事情に詳しい大山捨松夫人が院長である高木兼寛を問い詰めると、『看護婦の養成をしたくても費用が無い』と逆に訴えられた。そこで婦人教育会が一肌脱ごうと、鹿鳴館でのバザーが行われることになったのである。



 大日本婦人教育会の総裁・有栖川宮妃殿下を始め皇族の姫君や華族の若い夫人や娘達が売り子となる慈善バザー――――――その物珍しさからか、バザー当日は馬車や俥がひっきりなしに出入りした。
 ただ慈善会という事と、売り子が売り子なだけに一度会場に入ると絶対に断れないということだけが難点である。中には旧藩主の奥方につかまり、品物を強引に買わされコソコソ逃げてゆく官僚も少なからずいた。そして西郷従道も御多分に洩れず、婦人会の餌食となりつつあったのだ。

「で、ではこちらの茶器をいただきましょうか」

 千代子の迫力に気圧される形で西郷は四円のティーセットを指さし、五円札を千代子に手渡す。

「ありがとうございます!伊藤様!こちら、西郷伯がお買い上げになりました!」

 嬉しげな声を上げながら千代子は五円を受け取り、会計をしている伊藤博文夫人に五円札を渡した。そして早速風呂敷に茶器を包み、西郷に手渡す。だが品物は渡されたものの、お釣りの一円がなかなか返ってこない。

「あの、釣り銭は・・・・・・」

「何を仰っているんですか?バザーはあくまでも慈善事業。お釣りなんてありませんことよ」

 艶然と微笑む千代子の笑顔が般若のように見えてくる。陸軍卿を勤め、戦の庭では怖いものなしの西郷だが、どうも千代子を相手にしては勝手が違う。

(これだったら、純粋な寄付のほうが良かったかもなぁ)

 特に欲しくもない茶器を押し付けられ、五円を奪い取られた中途半端な敗北感を噛み締めつつ、釣り銭を諦めた西郷は早々に鹿鳴館を後にした。



UP DATE 2015.7.1 

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つまべに草紙も今回で折り返しです(*^_^*)
今回の『女性を美しくするもの』はちょっとわかりにくいのですが、『看護師という職業を作り出そうとする志』といったところでお願いしたいと(^_^;)
西洋式の病院を作りながら、中身は旧態依然の日本の医療事情・・・西洋に追いつけ追い越せの中、華族のご婦人方も我慢できなかったのでしょう。現代に比べるとかなり強引な慈善バザーですが、ある意味この強引さは現代の女性も見習うべきかもしれません。お釣りまでふんだくるって・・・(^_^;)

それにしても誰だよ、昔の女性は大人しかったと言った奴(-_-;)男性以上に新しい情報には敏感だし、行動力もあるし・・・。
そして昔のお金持ちは『自分が正しい』と思ったことは私的に大量の資金を投入していたこともこの時代、というか太平洋戦争前の特色だと思います。きっと代々続いた身分社会の中、『資本の分配方法』というものも伝えられていたんだろうなぁ。そういった意味では身分差はあっても社会がうまく回ってたのかもしれない・・・現代のシステムも100年、200年と続かないと成熟は難しいのかもしれません。

次回拍手文更新は7/29、日本製石鹸を作り出した堤磯右衛門を中心にした話にしたいと思っております♪
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