「紅柊(R-15~大人向け)」
乙未・秋冬の章
桑都の織姫・其の貳~天保六年七月の手仕事
内藤新宿に宿をとった翌朝、日の出前の暁七ツ半に起きた荘三郎達は宿で出された朝飯を掻きこむと、早々に八王子へと向かった。
新宿から八王子まで約九里、日の出前に出立しても到着するのは日没だ。参勤交代などでは八王子の一つ手前、本陣がある日野で宿を取るのが一般的だが、勿論荘三郎は日野で宿を取る気などさらさらなかった。
「太助、佐次郎。早くしろ。でねぇと今日中に八王子に着けねぇぞ!」
冗談半分の荘三郎の脅しに、二人はぶるり、と震え上がる。
「冗談は止めてくださいよ、荘三郎さん!地周りでここ一ヶ月女房の顔を拝んでねぇっていうのに・・・・・・お末の奴、首を長くして待っているだろうなぁ」
二ヶ月前に祝言をあげたばかりの佐次郎が泣き出しそうな顔をする。
「そいつは同感だ!俺のところだって生まれたばかりのややを置き去りにドサ回りだったからよぉ。チビ助、俺の顔を覚えているかなぁ」
「忘れているかも知れねぇな。おめぇの顔を見た途端、泣き出すかも知れねぇぞ」
太助の呟きに佐次郎がちゃちゃを入れ、思わず笑いが起こった。だが、その速度が緩むことはない。甲州街道をのんびり歩く旅人たちを追い越しながら、三人は八王子へと歩を早めた。
かなり急いだにも拘らず、三人が八王子に到着したのはすっかり日も暮れ、上弦の月が天頂を照らす頃だった。縞買の元締めである荘三郎の兄・兼太郎に帰還の挨拶をし、その場で夕飯を食べたあと太助と佐次郎は自らの家へ帰っていった。
「おい、荘三郎」
二人が帰った後、荘三郎が差し出した売上金を確認していた兼太郎が荘三郎に語りかける。
「何でしょうか?」
兼太郎に問いかけられ、荘三郎は背筋を正す。綸に渡す金子は既に兼太郎に申告してあるし、帳簿にも間違いはないはずだ。緊張の面持ちで兼太郎の顔を覗き込む荘三郎だが、兼太郎の口から出てきた言葉は意外なものだった。
「お前、お綸とはどうなっているんだ?」
「え?あ、その事ですか・・・・・・」
まさか綸との関係を尋ねられるとは思っていなかった荘三郎は言葉に詰まる。その様子から何かを察したのか、兼太郎は小さく首を横に振った。
「まだ口説き落とせてないのか?」
本気の色恋に対して不甲斐ない弟に、兼太郎は呆れ果てたように肩を竦める。
「向こうの親父さんもこっちも歓迎しているっていうのに・・・・・・お前がお綸を説得するまで待っていてくれ、なんて悠長なことを言っているから、とうとうお綸も鉄漿を着ける時期になっちまったじゃないか」
「それは反省してます。ですが・・・・・・」
こちらにはこちらの言い分がある――――――そう反論しようとした荘三郎だったが、それさえも兼太郎に遮られた。
「大方『仕事が忙しいから、一緒になるのはもう少し先にしてくれ!』って断れれているんだろう?」
向こうっ気の強い綸の口調そのままの兄の物真似に苦笑いを浮かべつつ、荘三郎は何も言い返すことが出来ない。まさに兄の指摘する通り、その話を匂わせるだけでいつもぴしゃり、と撥ね付けられてしまうのだ。
身体の弱い両親を抱えているだとか、荘三郎が婿養子になるという後ろめたさも綸の中にはあるのだろうが、荘三郎を撥ね付けている理由の殆どは仕事であることに他ならない。ここニ、三年、機織りの奥深さ、面白さに目覚めただけでなくようやく自分の織った反物が高く評価され高値で取引されるようになっている。そんな状況で良人を迎えては今まで培ってきたものがおじゃんになると思い込んでいるらしい。
「荘三郎の世話までする必要は無い、人でが欲しいならば使用人の一人や二人付けてやる、って俺が言っていたとお綸にも伝えておけ―――――村中からいい加減所帯を持たせろと煩いんだ。お綸とのことは今年中には片をつけちまえ、いいな」
兄に喝を入れられ、荘三郎はしゅん、と肩を落とす。江戸に比べて結婚が早い八王子では、十四、五歳で嫁ぐのが普通だ。そんな中、いつまでも結婚しないでいる荘三郎と綸は極めて珍しい存在なのである。
仕事は人並み以上にできるのに、肝心なところでおっとりしている末の弟にひと通り説教をし終えると、兼太郎は何かを思い出したようにぽん、と膝を叩いた。
「あ、そうだ。お綸のところに行くついでに中元の素麺も一緒に持って行ってくれ」
「はい、解りました。では明日、朝餉の後であちらに行って来ます」
これ以上この場にいたら説教されるか使い走りを押し付けられるかのどちらかである。荘三郎は兄に一礼すると、そそくさと部屋を後にした。
翌日、兄に頼まれた素麺を包んだ風呂敷を手に荘三郎は綸の家に向かった。とは言っても同じ村の中である。青々と広がる桑畑を挟んだ向かい側、そこに綸の家はあった。
「お~い、お綸!いるか~?」
まるで自分の家のように、否、縞買の元締めである兄がいる自宅よりも遥かに気安く荘三郎は家に入り込む。すると二階からかさかさと蚕が桑を食む微かな音と、誰かが歩いている床がきしむ音が聞こえてきた。どうやら綸の両親が二階で蚕の世話をしているらしい。
そして耳を澄まさなければ聞こえない、それらの音と重なるように、南の方からパターン、パターンと 筬を打ち込む大きな音が聞こえてきた。その音に誘われるように荘三郎は勝手に家に上がり込むと、筬を打ち込む音がする方へと向かう。
すると南に面した機織り部屋で、綸が新たな反物を織っていた。白地に朝顔をあしらった涼し気な浴衣を膝までたくし上げたその姿は色気より逞しさを感じてしまうのが悲しいところである。
「おう、朝から精が出るな、お綸」
綸の白い脛に目が行きそうになるのを必死にこらえつつ、荘三郎は綸に近づく。そんな荘三郎に対し、視線を反物に落としたまま、綸は返事をした。
「ずいぶんとお早いお帰りだね。あたしらからかき集めた反物はもう売れたのかい?」
「ああ、今年は御様御用があるからって、山田様のところで三十本も引き取ってもらえたからな。越後屋には『品物が少ない!』って文句を言われた上に買い叩かれたけど、まぁこんなもんかなって」
そう言って荘三郎は綸が座っている床几の横に、風呂敷に包んだ素麺と懐紙で包んだ金子を置く。
「特に将軍家御様御用の山田家のお嬢さんがおめぇの反物を気に入ってくれてよ。いつも多めに支払いを・・・・・・」
「ねぇ、荘三郎さん」
荘三郎に話を遮るように、不意に綸が呼びかける。
「あんた・・・・・・その山田家のお嬢さんとやらに惚れているのかい?」
「へ?」
思いもしなかった事を綸に聞かれ、荘三郎は素っ頓狂な声を上げる。
「な、何で俺が山田家のお嬢さんに惚れなきゃならねぇんだよ!」
「だって・・・・・・」
綸は一瞬逡巡したあと、反物を織る手を止めた。息をするように反物を織る綸としては極めて異例だ。一体綸は何を言い出すのか――――――荘三郎が身構える。すると綸は拗ねた口調でぶっきらぼうに言い放った。
「江戸に出るたんびに山田家のお嬢さんが・・・・・・って。毎回毎回聞かされる身にもなってよ!」
自分で言っておいて恥ずかしくなったのか、綸は言い捨てると同時にそっぽを向いてしまう。今まで見たことがない、綸の女らしい拗ねた仕草に荘三郎は一瞬呆けるが、あることに気が付いてニヤリと笑う。
「おい、お綸。おめぇ、もしかして・・・・・・」
荘三郎はそっぽを向いてしまった綸の耳朶を軽く引っ張ると、その耳許で囁いた。
「山田家のお嬢さんに焼きもち焼いてんのか?」
その瞬間、綸の耳朶から首筋にかけて一瞬にして真っ赤になる。
「ば、ばかっ!や、焼きもちなんか焼くもんかい!」
「そう言いながら耳まで真っ赤だぜ。図星だろ?」
クスクスと笑いながら荘三郎は指摘すると、綸を自分の方に振り向かせた。その目は恥ずかしさからか、それとも悔しさからか涙がうっすら滲んでいる。その涙を人差し指でそっと拭いながら、荘三郎は口説くように訴えた。
「確かに山田家のお嬢さんは俺のお気に入りだ。だがよ、それは女としてじゃねえ。おめぇの――――――俺が惚れた、たった一人の女が織った反物を江戸で一番評価してくれるからさ」
その囁きを聞いた瞬間、綸は目を丸くする。
「う、そ・・・・・・・」
「嘘じゃねぇよ」
荘三郎は蕩けそうな甘い笑顔を綸に見せると、次の瞬間軽く綸の唇を啄んだ。
「・・・・・・今夜宵五ツ半にまた来るから、勝手口でも開けておいてくれ」
軽い接吻の後で小さく囁くと、荘三郎は綸から身体を離す。
「ちょいと上の親父さん達にも声をかけてくらぁ。その後で茶を淹れてやるるからおめぇはもう少し機でも織っていてくれ」
そう言い残すと、荘三郎は機織り部屋から出て行った。
「人ん家で茶を淹れるって・・・・・・馬鹿じゃないの、あいつ!」
荘三郎が階段を昇っていく音を聞きながら綸が毒づく。だが、その声に微かに含まれる甘さに、当の本人は気がついていなかった。
UP DATE 2014.7.9
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会話にしか出てこなかったお綸ちゃん、ようやく登場です(*^_^*)どうやら彼女は不器用なツンデレさんのようでして(^_^;)彼女も荘三郎のことが好きでしょうがないのに素直になれないようです。
それでも荘三郎の話に出てくる『山田家のお嬢さん』に焼き餅を焼いてしまったり・・・素直じゃないけど結構可愛い子なのかもしれません。
そんなツンデレお綸ちゃんに夜這いの約束をちゃっかり取り付けた荘三郎♡成功してくれることを願います♪
次回更新は7/16 、荘三郎の夜這い(★付き)になりま~すヽ(=´▽`=)ノ
新宿から八王子まで約九里、日の出前に出立しても到着するのは日没だ。参勤交代などでは八王子の一つ手前、本陣がある日野で宿を取るのが一般的だが、勿論荘三郎は日野で宿を取る気などさらさらなかった。
「太助、佐次郎。早くしろ。でねぇと今日中に八王子に着けねぇぞ!」
冗談半分の荘三郎の脅しに、二人はぶるり、と震え上がる。
「冗談は止めてくださいよ、荘三郎さん!地周りでここ一ヶ月女房の顔を拝んでねぇっていうのに・・・・・・お末の奴、首を長くして待っているだろうなぁ」
二ヶ月前に祝言をあげたばかりの佐次郎が泣き出しそうな顔をする。
「そいつは同感だ!俺のところだって生まれたばかりのややを置き去りにドサ回りだったからよぉ。チビ助、俺の顔を覚えているかなぁ」
「忘れているかも知れねぇな。おめぇの顔を見た途端、泣き出すかも知れねぇぞ」
太助の呟きに佐次郎がちゃちゃを入れ、思わず笑いが起こった。だが、その速度が緩むことはない。甲州街道をのんびり歩く旅人たちを追い越しながら、三人は八王子へと歩を早めた。
かなり急いだにも拘らず、三人が八王子に到着したのはすっかり日も暮れ、上弦の月が天頂を照らす頃だった。縞買の元締めである荘三郎の兄・兼太郎に帰還の挨拶をし、その場で夕飯を食べたあと太助と佐次郎は自らの家へ帰っていった。
「おい、荘三郎」
二人が帰った後、荘三郎が差し出した売上金を確認していた兼太郎が荘三郎に語りかける。
「何でしょうか?」
兼太郎に問いかけられ、荘三郎は背筋を正す。綸に渡す金子は既に兼太郎に申告してあるし、帳簿にも間違いはないはずだ。緊張の面持ちで兼太郎の顔を覗き込む荘三郎だが、兼太郎の口から出てきた言葉は意外なものだった。
「お前、お綸とはどうなっているんだ?」
「え?あ、その事ですか・・・・・・」
まさか綸との関係を尋ねられるとは思っていなかった荘三郎は言葉に詰まる。その様子から何かを察したのか、兼太郎は小さく首を横に振った。
「まだ口説き落とせてないのか?」
本気の色恋に対して不甲斐ない弟に、兼太郎は呆れ果てたように肩を竦める。
「向こうの親父さんもこっちも歓迎しているっていうのに・・・・・・お前がお綸を説得するまで待っていてくれ、なんて悠長なことを言っているから、とうとうお綸も鉄漿を着ける時期になっちまったじゃないか」
「それは反省してます。ですが・・・・・・」
こちらにはこちらの言い分がある――――――そう反論しようとした荘三郎だったが、それさえも兼太郎に遮られた。
「大方『仕事が忙しいから、一緒になるのはもう少し先にしてくれ!』って断れれているんだろう?」
向こうっ気の強い綸の口調そのままの兄の物真似に苦笑いを浮かべつつ、荘三郎は何も言い返すことが出来ない。まさに兄の指摘する通り、その話を匂わせるだけでいつもぴしゃり、と撥ね付けられてしまうのだ。
身体の弱い両親を抱えているだとか、荘三郎が婿養子になるという後ろめたさも綸の中にはあるのだろうが、荘三郎を撥ね付けている理由の殆どは仕事であることに他ならない。ここニ、三年、機織りの奥深さ、面白さに目覚めただけでなくようやく自分の織った反物が高く評価され高値で取引されるようになっている。そんな状況で良人を迎えては今まで培ってきたものがおじゃんになると思い込んでいるらしい。
「荘三郎の世話までする必要は無い、人でが欲しいならば使用人の一人や二人付けてやる、って俺が言っていたとお綸にも伝えておけ―――――村中からいい加減所帯を持たせろと煩いんだ。お綸とのことは今年中には片をつけちまえ、いいな」
兄に喝を入れられ、荘三郎はしゅん、と肩を落とす。江戸に比べて結婚が早い八王子では、十四、五歳で嫁ぐのが普通だ。そんな中、いつまでも結婚しないでいる荘三郎と綸は極めて珍しい存在なのである。
仕事は人並み以上にできるのに、肝心なところでおっとりしている末の弟にひと通り説教をし終えると、兼太郎は何かを思い出したようにぽん、と膝を叩いた。
「あ、そうだ。お綸のところに行くついでに中元の素麺も一緒に持って行ってくれ」
「はい、解りました。では明日、朝餉の後であちらに行って来ます」
これ以上この場にいたら説教されるか使い走りを押し付けられるかのどちらかである。荘三郎は兄に一礼すると、そそくさと部屋を後にした。
翌日、兄に頼まれた素麺を包んだ風呂敷を手に荘三郎は綸の家に向かった。とは言っても同じ村の中である。青々と広がる桑畑を挟んだ向かい側、そこに綸の家はあった。
「お~い、お綸!いるか~?」
まるで自分の家のように、否、縞買の元締めである兄がいる自宅よりも遥かに気安く荘三郎は家に入り込む。すると二階からかさかさと蚕が桑を食む微かな音と、誰かが歩いている床がきしむ音が聞こえてきた。どうやら綸の両親が二階で蚕の世話をしているらしい。
そして耳を澄まさなければ聞こえない、それらの音と重なるように、南の方からパターン、パターンと 筬を打ち込む大きな音が聞こえてきた。その音に誘われるように荘三郎は勝手に家に上がり込むと、筬を打ち込む音がする方へと向かう。
すると南に面した機織り部屋で、綸が新たな反物を織っていた。白地に朝顔をあしらった涼し気な浴衣を膝までたくし上げたその姿は色気より逞しさを感じてしまうのが悲しいところである。
「おう、朝から精が出るな、お綸」
綸の白い脛に目が行きそうになるのを必死にこらえつつ、荘三郎は綸に近づく。そんな荘三郎に対し、視線を反物に落としたまま、綸は返事をした。
「ずいぶんとお早いお帰りだね。あたしらからかき集めた反物はもう売れたのかい?」
「ああ、今年は御様御用があるからって、山田様のところで三十本も引き取ってもらえたからな。越後屋には『品物が少ない!』って文句を言われた上に買い叩かれたけど、まぁこんなもんかなって」
そう言って荘三郎は綸が座っている床几の横に、風呂敷に包んだ素麺と懐紙で包んだ金子を置く。
「特に将軍家御様御用の山田家のお嬢さんがおめぇの反物を気に入ってくれてよ。いつも多めに支払いを・・・・・・」
「ねぇ、荘三郎さん」
荘三郎に話を遮るように、不意に綸が呼びかける。
「あんた・・・・・・その山田家のお嬢さんとやらに惚れているのかい?」
「へ?」
思いもしなかった事を綸に聞かれ、荘三郎は素っ頓狂な声を上げる。
「な、何で俺が山田家のお嬢さんに惚れなきゃならねぇんだよ!」
「だって・・・・・・」
綸は一瞬逡巡したあと、反物を織る手を止めた。息をするように反物を織る綸としては極めて異例だ。一体綸は何を言い出すのか――――――荘三郎が身構える。すると綸は拗ねた口調でぶっきらぼうに言い放った。
「江戸に出るたんびに山田家のお嬢さんが・・・・・・って。毎回毎回聞かされる身にもなってよ!」
自分で言っておいて恥ずかしくなったのか、綸は言い捨てると同時にそっぽを向いてしまう。今まで見たことがない、綸の女らしい拗ねた仕草に荘三郎は一瞬呆けるが、あることに気が付いてニヤリと笑う。
「おい、お綸。おめぇ、もしかして・・・・・・」
荘三郎はそっぽを向いてしまった綸の耳朶を軽く引っ張ると、その耳許で囁いた。
「山田家のお嬢さんに焼きもち焼いてんのか?」
その瞬間、綸の耳朶から首筋にかけて一瞬にして真っ赤になる。
「ば、ばかっ!や、焼きもちなんか焼くもんかい!」
「そう言いながら耳まで真っ赤だぜ。図星だろ?」
クスクスと笑いながら荘三郎は指摘すると、綸を自分の方に振り向かせた。その目は恥ずかしさからか、それとも悔しさからか涙がうっすら滲んでいる。その涙を人差し指でそっと拭いながら、荘三郎は口説くように訴えた。
「確かに山田家のお嬢さんは俺のお気に入りだ。だがよ、それは女としてじゃねえ。おめぇの――――――俺が惚れた、たった一人の女が織った反物を江戸で一番評価してくれるからさ」
その囁きを聞いた瞬間、綸は目を丸くする。
「う、そ・・・・・・・」
「嘘じゃねぇよ」
荘三郎は蕩けそうな甘い笑顔を綸に見せると、次の瞬間軽く綸の唇を啄んだ。
「・・・・・・今夜宵五ツ半にまた来るから、勝手口でも開けておいてくれ」
軽い接吻の後で小さく囁くと、荘三郎は綸から身体を離す。
「ちょいと上の親父さん達にも声をかけてくらぁ。その後で茶を淹れてやるるからおめぇはもう少し機でも織っていてくれ」
そう言い残すと、荘三郎は機織り部屋から出て行った。
「人ん家で茶を淹れるって・・・・・・馬鹿じゃないの、あいつ!」
荘三郎が階段を昇っていく音を聞きながら綸が毒づく。だが、その声に微かに含まれる甘さに、当の本人は気がついていなかった。
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それでも荘三郎の話に出てくる『山田家のお嬢さん』に焼き餅を焼いてしまったり・・・素直じゃないけど結構可愛い子なのかもしれません。
そんなツンデレお綸ちゃんに夜這いの約束をちゃっかり取り付けた荘三郎♡成功してくれることを願います♪
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