「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第五章
夏虫~新選組異聞~ 第五章 第十三話 名医来たる・其の壹
将軍下阪の日から降り続いた雨が三日ぶりに止み、洗われたような美しい夏空が空いっぱいに広がった日の事である。地味だが仕立ての良い着物を身に付けた僧形の男が、供の者と共に西本願寺の新選組屯所にやってきた。
「あれ?あのお方は・・・・・・?」
巡察に出る準備をしていた沖田がその人物に気が付いたその時、向こうから声がかかって来たのである。
「おう、沖田。久しぶりだな」
それは何と松本良順その人であった。本来、弟子を引き連れ、駕籠でやって来なければならない身分の筈なのに、あまりにも身軽すぎるその出で立ちに沖田はあんぐりと口を開ける。
「ま、松本先生!駕籠はどうしたんですか!それに久しぶりって・・・三日前にお会いしたばかりですよ?」
「俺は江戸者なんでな。翌日じゃなけりゃ久しぶりなんだよ」
とんでもない屁理屈を吐き出すと、松本はそのまま屯所へ上がりこもうとした。さすがに慌てた沖田は松本の前に立ちはだかり、松本の動きをけん制する。
「じ、実はですね、近藤先生が今、他出中なんですよ。で、こちらに帰ってくるのは午後になるんです」
沖田としては暗に『今日は勘弁してくれ』と告げたつもりだった。しかしそんな回りくどい物言いでは、松本には全く通じない。
「ああ、全然構わねぇ。むしろその方が好都合だ」
そう言い捨てると、松本は遠慮ぜず屯所に上がり込み、さっそくあちらこちらを覗きこみ始めた。
「蟻通さん、大至急土方さんを呼んできてください。松本法眼がいらっしゃったと。このままでは何処を覗きこまれるか分かったもんじゃありません」
沖田が焦りを滲ませつつ告げたその瞬間、蟻通の顔が強張った。
「ま、松本法眼って、あの奥医師の・・・・・・!」
「怯えることはありませんよ。少なくとも鬼の副長よりは優しいですから」
冗談とも本気とも付かない一言を沖田は告げる。その瞬間土方の雷を思い出したのだろう、蟻通は急いで奥にある副長室へと走っていった。
「しかしひでぇな。越してきてたった二ヶ月でここまで散らかせるか?まともなのは玄関横の武器庫だけじゃねぇか」
松本の苦言に沖田も苦笑いを浮かべるしか出来ない。
「武器だけはいつでも戦えるように、って皆きちんと手入れをしますし片付けもするんですよ。だけどそれ以外は・・・・・・男ばかりなんでついつい乱雑になるんですよねぇ」
そんな会話を交わしながら沖田が時間を稼いでいたその時、ようやく蟻通と共に土方が血相を変えて玄関にやってきた。
「松本法眼!迎えもせず申し訳ございません!近藤に変わりまして某が・・・・」
さすがに初対面の奥医師に迂闊な対応はできない。土方は深々と頭を下げて非礼を詫びる。だが、松本は一向に気にした様子も無かった。
「気にするな。それに構えられて迎えられたんじゃ改善点が見つけられねぇ。おっと、茶なんか後々!」
松本を奥の客間に案内しようとした土方を、松本は慌てて遮る。
「おめぇ、不逞浪士が暴れているって知らせが入った時、呑気に茶なんぞ飲んでいられるか?」
松本が土方の顔を覗き込みながら尋ねる。
「・・・・・・いいえ、おっとり刀で出動しますね」
「だろ?とにかく現状把握だ。その為にわざわざ上様から許可をもらって京都に戻ってきたんだ。茶なんぞ飲んでる暇はねぇんだよ」
冗談めかしながらそう言うものの、松本の目は笑っていなかった。
「いざという時、その身を盾にして大樹公を守ってもらわなきゃいけねぇんだ。それが病や怪我で使い物にならないんじゃ困るんだよ、土方」
松本の言葉に土方は少し驚いた表情を浮かべる。
「何故俺の・・・もとい、某の名を?」
「さっきこいつが言ったさ『土方さんを呼んでこい』ってな」
沖田を顎で指し示しながら松本は言う。それには沖田も吃驚した。決して大声で土方の名前を告げた訳ではないし、そもそもその時松本は玄関横の武器庫を覗き込んでいたはずだ。それなのにいつの間に土方の名前を聞きつけているとは――――――沖田は内心舌を巻く。
蘭方医で奥医師になるほどの人物だ。その観察力、注意力は尋常なものではないのだろう。これから行われる土方と松本のやり取りに俄然興味が出てきた沖田だったが、如何せん巡察に出なければならない。
「土方さん、私たちは巡察に行ってきます」
「ああ、行ってこい。あ、それと・・・・・・」
土方は沖田に何かを耳打ちをする。その言葉に沖田は頷き、屯所を後にした。
一番隊が巡察に出たあと、土方自ら松本良順に屯所内内部を案内し始めた。
「こちらが賄いです。こちらの五人が隊士の食事を作っております」
松本の希望に従い、まずは賄い所を案内する。ちょうど昼餉の準備をしていた賄方の隊士達が土方とその横にいる松本の顔を見て頭を下げるが、手を休める様子はない。腹を減らして帰ってくる隊士達を待たせるわけにいかないのだ。
だが、松本はそんな彼らを咎め立てする事なく賄い所へ入り込むと、ぐるりと部屋を一周りする。そして土方の許へ戻ってくるなり一言呟いた。
「・・・・・・随分と残飯が多いな」
賄い処の端に積み上げられている残飯に目をやり松本が眉を顰める。その視線の先には複数の樽に入れられた残飯は腐敗臭を漂わせていた。
「身体が資本の新選組です。足りなくなるよりは、といつも多めに作らせているのですが時には余ってしまって・・・・・・幹部の家族にも食べさせているのですがそれでも残飯は出てしまいます。裏に埋めてもいいのですが、肥やしになるからと壬生の知人に引き取ってはもらっているのですが・・・・・・」
土方にしては珍しく、奥歯にものが詰まったような物言いをする。それを察したのか松本はさらにたたみかけるように質問を続ける。
「それは毎日の事なのか?」
「いいえ。五日に一度まとめて持って行って貰っています。できれば毎日処分したいところなのですが、さすがに壬生村から毎日通ってもらうわけにも行きませんし」
実のところ、土方も残飯の処理には頭を悩ませていた。八木の厚意に甘え、残飯を持って行ってもらっていたが、いつまでも甘えているわけにもいかない。
「それもそうだな。だが、これから口に入れるもんとゴミを一緒にするのはいただけねぇ・・・・・・そうだ!」
不意に何かを思いついたのか、松本がぽん、と手を打つ。そしてぎょろりとした目を輝かせながら土方に尋ねた。
「おい土方、身体が資本というのなら、隊士達に豚肉を食べさせる気は有るか?」
「豚、ですか?」
あまりに唐突な申し出に、土方は面食らう。
「ああ、残飯を喰わせておけば勝手に肥え太る。解体は南部の弟子あたりににやらせりゃいいだろう。外国人は普段から肉を食っているし、日々戦いに臨んでいるおめぇさん達が喰わない理由はねぇだろう。」
江戸時代でも『薬食い』と称して猪や鹿の肉を食うことはあるが、あくまでも病人のものである。それを健康な人間が食べるなんて・・・・・・と並の人間、例えば近藤だったら躊躇するかもしれない。だが、土方はむしろ乗り気で松本から話を聞き出そうとした。
「となると、豚を飼育する家畜小屋が必要になりますね」
いつの間にか取り出した懐紙に土方は書きつける。それもそうだろう、不衛生な残飯が無くなり、それが滋味豊かな豚肉に変わるのだ。これほど魅力的な話はない。松本もそれを感じたのか具体的に話をし始める。
「ああ、隊士百人くれぇなら一日一頭か二頭・・・・・さすがに毎日じゃ飽きるだろうから常時四、五頭くらい飼える広さの小屋を用意しろ」
「承知しました」
「あと飯は別個に洗って乾かしてから鶏の餌だ。卵を産ませてそれも隊士達に食わせろ」
その瞬間、土方は筆を一旦止め、松本に質問をする。
「鶏小屋は豚小屋とは別個のほうが宜しいのでしょうか?某の田舎では鶏は軒下で飼育していましたが」
「それで構わねぇが、お西の方に逃げ出すと色々苦情が来るぞ」」
「だったら構いませんよ。大砲の砲術訓練よりは遥かにましでしょうから」
とんでもない事をしれっ、と土方が言い放ったその時であった、不意に玄関方面が騒がしくなる。そしてより大きく響く声が賄い所まで届く。
「松本先生!どちらに居らっしゃいますか!留守にしていて申し訳ございません!」
それは紛れもなく近藤の声であった。
「・・・・・・おめぇさんだな、近藤を呼びにやらせたのは。余計なことをしやがって」
松本はぎろり、と土方を睨みつける。
「ええ。ここまで細かい指導を受けられるとは思ってもみませんでしたので。近藤が帰還する頃には松本法眼の見立ても終了しているかと思っておりました」
どうやらそれは本当の事らしい。土方の顔にも微かな困惑の表情が微かに浮かんでいる。
「局長がいない時の様子も見たかったんだが・・・・・・隊士達がしゃちほこばっちまうのは仕方ねぇか」
できることなら上司が見ていない場所での平隊士達の生活態度も見ておきたかったと松本は唇を噛み締める。だがこればかりは仕方がない。取り敢えずこの屯所の主である近藤に挨拶してから再び屯所内の点検をしようと松本と土方は局長室へと向かった。
だが松本のそんな杞憂は呆気無く裏切られ、むしろ松本の激怒を呼び起こすことになる。
UP DATE 2013.8.10
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松本良順、とんでもなく早くやって来ましたvしかも弟子を一人付けただけの身軽すぎる格好で(^_^;)
江戸の駕籠と違い、京都の駕籠はしずしずとゆっくり歩くので、江戸の駕籠に慣れたせっかちな松本先生にはまだるっこしくてしょうがないのかもしれませんv
そして近藤局長が留守なのを良い事に、あっちこっち家探し宜しくチェックを入れております。史実では近藤局長もこの場面に立ち会っているのですが、話の展開上あえてこの場面は歳と二人で、とさせて頂きました。その方が遠慮なく歳も質問をぶつけやすいと思いましたし(*^_^*)
次回更新予定は8/17、近藤との歓談のあと隊士部屋を見るのですが・・・・・・ここで松本法眼の激怒がございますvお楽しみに(^^)
「あれ?あのお方は・・・・・・?」
巡察に出る準備をしていた沖田がその人物に気が付いたその時、向こうから声がかかって来たのである。
「おう、沖田。久しぶりだな」
それは何と松本良順その人であった。本来、弟子を引き連れ、駕籠でやって来なければならない身分の筈なのに、あまりにも身軽すぎるその出で立ちに沖田はあんぐりと口を開ける。
「ま、松本先生!駕籠はどうしたんですか!それに久しぶりって・・・三日前にお会いしたばかりですよ?」
「俺は江戸者なんでな。翌日じゃなけりゃ久しぶりなんだよ」
とんでもない屁理屈を吐き出すと、松本はそのまま屯所へ上がりこもうとした。さすがに慌てた沖田は松本の前に立ちはだかり、松本の動きをけん制する。
「じ、実はですね、近藤先生が今、他出中なんですよ。で、こちらに帰ってくるのは午後になるんです」
沖田としては暗に『今日は勘弁してくれ』と告げたつもりだった。しかしそんな回りくどい物言いでは、松本には全く通じない。
「ああ、全然構わねぇ。むしろその方が好都合だ」
そう言い捨てると、松本は遠慮ぜず屯所に上がり込み、さっそくあちらこちらを覗きこみ始めた。
「蟻通さん、大至急土方さんを呼んできてください。松本法眼がいらっしゃったと。このままでは何処を覗きこまれるか分かったもんじゃありません」
沖田が焦りを滲ませつつ告げたその瞬間、蟻通の顔が強張った。
「ま、松本法眼って、あの奥医師の・・・・・・!」
「怯えることはありませんよ。少なくとも鬼の副長よりは優しいですから」
冗談とも本気とも付かない一言を沖田は告げる。その瞬間土方の雷を思い出したのだろう、蟻通は急いで奥にある副長室へと走っていった。
「しかしひでぇな。越してきてたった二ヶ月でここまで散らかせるか?まともなのは玄関横の武器庫だけじゃねぇか」
松本の苦言に沖田も苦笑いを浮かべるしか出来ない。
「武器だけはいつでも戦えるように、って皆きちんと手入れをしますし片付けもするんですよ。だけどそれ以外は・・・・・・男ばかりなんでついつい乱雑になるんですよねぇ」
そんな会話を交わしながら沖田が時間を稼いでいたその時、ようやく蟻通と共に土方が血相を変えて玄関にやってきた。
「松本法眼!迎えもせず申し訳ございません!近藤に変わりまして某が・・・・」
さすがに初対面の奥医師に迂闊な対応はできない。土方は深々と頭を下げて非礼を詫びる。だが、松本は一向に気にした様子も無かった。
「気にするな。それに構えられて迎えられたんじゃ改善点が見つけられねぇ。おっと、茶なんか後々!」
松本を奥の客間に案内しようとした土方を、松本は慌てて遮る。
「おめぇ、不逞浪士が暴れているって知らせが入った時、呑気に茶なんぞ飲んでいられるか?」
松本が土方の顔を覗き込みながら尋ねる。
「・・・・・・いいえ、おっとり刀で出動しますね」
「だろ?とにかく現状把握だ。その為にわざわざ上様から許可をもらって京都に戻ってきたんだ。茶なんぞ飲んでる暇はねぇんだよ」
冗談めかしながらそう言うものの、松本の目は笑っていなかった。
「いざという時、その身を盾にして大樹公を守ってもらわなきゃいけねぇんだ。それが病や怪我で使い物にならないんじゃ困るんだよ、土方」
松本の言葉に土方は少し驚いた表情を浮かべる。
「何故俺の・・・もとい、某の名を?」
「さっきこいつが言ったさ『土方さんを呼んでこい』ってな」
沖田を顎で指し示しながら松本は言う。それには沖田も吃驚した。決して大声で土方の名前を告げた訳ではないし、そもそもその時松本は玄関横の武器庫を覗き込んでいたはずだ。それなのにいつの間に土方の名前を聞きつけているとは――――――沖田は内心舌を巻く。
蘭方医で奥医師になるほどの人物だ。その観察力、注意力は尋常なものではないのだろう。これから行われる土方と松本のやり取りに俄然興味が出てきた沖田だったが、如何せん巡察に出なければならない。
「土方さん、私たちは巡察に行ってきます」
「ああ、行ってこい。あ、それと・・・・・・」
土方は沖田に何かを耳打ちをする。その言葉に沖田は頷き、屯所を後にした。
一番隊が巡察に出たあと、土方自ら松本良順に屯所内内部を案内し始めた。
「こちらが賄いです。こちらの五人が隊士の食事を作っております」
松本の希望に従い、まずは賄い所を案内する。ちょうど昼餉の準備をしていた賄方の隊士達が土方とその横にいる松本の顔を見て頭を下げるが、手を休める様子はない。腹を減らして帰ってくる隊士達を待たせるわけにいかないのだ。
だが、松本はそんな彼らを咎め立てする事なく賄い所へ入り込むと、ぐるりと部屋を一周りする。そして土方の許へ戻ってくるなり一言呟いた。
「・・・・・・随分と残飯が多いな」
賄い処の端に積み上げられている残飯に目をやり松本が眉を顰める。その視線の先には複数の樽に入れられた残飯は腐敗臭を漂わせていた。
「身体が資本の新選組です。足りなくなるよりは、といつも多めに作らせているのですが時には余ってしまって・・・・・・幹部の家族にも食べさせているのですがそれでも残飯は出てしまいます。裏に埋めてもいいのですが、肥やしになるからと壬生の知人に引き取ってはもらっているのですが・・・・・・」
土方にしては珍しく、奥歯にものが詰まったような物言いをする。それを察したのか松本はさらにたたみかけるように質問を続ける。
「それは毎日の事なのか?」
「いいえ。五日に一度まとめて持って行って貰っています。できれば毎日処分したいところなのですが、さすがに壬生村から毎日通ってもらうわけにも行きませんし」
実のところ、土方も残飯の処理には頭を悩ませていた。八木の厚意に甘え、残飯を持って行ってもらっていたが、いつまでも甘えているわけにもいかない。
「それもそうだな。だが、これから口に入れるもんとゴミを一緒にするのはいただけねぇ・・・・・・そうだ!」
不意に何かを思いついたのか、松本がぽん、と手を打つ。そしてぎょろりとした目を輝かせながら土方に尋ねた。
「おい土方、身体が資本というのなら、隊士達に豚肉を食べさせる気は有るか?」
「豚、ですか?」
あまりに唐突な申し出に、土方は面食らう。
「ああ、残飯を喰わせておけば勝手に肥え太る。解体は南部の弟子あたりににやらせりゃいいだろう。外国人は普段から肉を食っているし、日々戦いに臨んでいるおめぇさん達が喰わない理由はねぇだろう。」
江戸時代でも『薬食い』と称して猪や鹿の肉を食うことはあるが、あくまでも病人のものである。それを健康な人間が食べるなんて・・・・・・と並の人間、例えば近藤だったら躊躇するかもしれない。だが、土方はむしろ乗り気で松本から話を聞き出そうとした。
「となると、豚を飼育する家畜小屋が必要になりますね」
いつの間にか取り出した懐紙に土方は書きつける。それもそうだろう、不衛生な残飯が無くなり、それが滋味豊かな豚肉に変わるのだ。これほど魅力的な話はない。松本もそれを感じたのか具体的に話をし始める。
「ああ、隊士百人くれぇなら一日一頭か二頭・・・・・さすがに毎日じゃ飽きるだろうから常時四、五頭くらい飼える広さの小屋を用意しろ」
「承知しました」
「あと飯は別個に洗って乾かしてから鶏の餌だ。卵を産ませてそれも隊士達に食わせろ」
その瞬間、土方は筆を一旦止め、松本に質問をする。
「鶏小屋は豚小屋とは別個のほうが宜しいのでしょうか?某の田舎では鶏は軒下で飼育していましたが」
「それで構わねぇが、お西の方に逃げ出すと色々苦情が来るぞ」」
「だったら構いませんよ。大砲の砲術訓練よりは遥かにましでしょうから」
とんでもない事をしれっ、と土方が言い放ったその時であった、不意に玄関方面が騒がしくなる。そしてより大きく響く声が賄い所まで届く。
「松本先生!どちらに居らっしゃいますか!留守にしていて申し訳ございません!」
それは紛れもなく近藤の声であった。
「・・・・・・おめぇさんだな、近藤を呼びにやらせたのは。余計なことをしやがって」
松本はぎろり、と土方を睨みつける。
「ええ。ここまで細かい指導を受けられるとは思ってもみませんでしたので。近藤が帰還する頃には松本法眼の見立ても終了しているかと思っておりました」
どうやらそれは本当の事らしい。土方の顔にも微かな困惑の表情が微かに浮かんでいる。
「局長がいない時の様子も見たかったんだが・・・・・・隊士達がしゃちほこばっちまうのは仕方ねぇか」
できることなら上司が見ていない場所での平隊士達の生活態度も見ておきたかったと松本は唇を噛み締める。だがこればかりは仕方がない。取り敢えずこの屯所の主である近藤に挨拶してから再び屯所内の点検をしようと松本と土方は局長室へと向かった。
だが松本のそんな杞憂は呆気無く裏切られ、むしろ松本の激怒を呼び起こすことになる。
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そして近藤局長が留守なのを良い事に、あっちこっち家探し宜しくチェックを入れております。史実では近藤局長もこの場面に立ち会っているのですが、話の展開上あえてこの場面は歳と二人で、とさせて頂きました。その方が遠慮なく歳も質問をぶつけやすいと思いましたし(*^_^*)
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