暁光碧烏~gyoko-hekiu~

夏虫『二股口の戦い・其の貳』UPしました♪双方の銃弾が飛び交う激戦の結果は・・・?宜しかったら覗いてやってくださいませm(_ _)m

夏虫~新選組異聞~ 第十一章第二十二話 二股口の戦い・其の貳 

夏虫・第十一章

 乙部に上陸した官軍先発隊はそれぞれの進路を突き進んでいた。その一つである二股口は箱館へ至る最短路で、から二股を抜けて大野村に至る峠越えの道だ。
 その二股を抜けるためには、谷を穿つ大野川沿いの道を進み、川が二又に分かれる地点で渡河、そしてその正面の台場山を越えるか、迂回するかしなければならなかった。官軍は、軍監・駒井政五郎が松前・長州藩兵などからなる五百名の兵を率いてこの道を進軍していた。
 そしてそれを迎撃するため、幕府軍は陸軍奉行並・土方歳三が衝鋒隊二個小隊と伝習歩兵隊二個小隊などからなる三百名の兵を率いて二股の台場山に本陣を置いた。土方軍は、天狗山を前衛として台場山周辺の要地に二日がかりで十六箇所の胸壁を構築、官軍を待ち構えた。

「何とか・・・・・・間に合ったようですね」

 泥だらけの頬を手の甲で拭いながら沖田は隣りにいた島田に話しかける。

「ええ、本当に。江差の戦況からするともう少し早く進軍してきてもおかしくない筈なんですけどね」

 官軍が進軍してくるはずの道を見下ろしながら島田は怪訝そうな表情を浮かべた。峠越しの道とは言えそれなりに整備されている道である。乙部、江差に到着した日から鑑みたら、本隊はともかく偵察隊の影くらい見えていてもおかしくない頃合いだ。しかし今のところその気配は感じられない。

「進軍準備に手間取っているのか、それともこちらを警戒して探りながらの進軍なのか・・・・・・」

 沖田が珍しく眉間に皺を寄せ、考え込んだその時である。

「敵先発隊が中山峠を超えたとのこと!明日昼頃には天狗岳に到着するぞ!」

 斥候らの声が胸壁が連なる台場山に響く。その一報にその場に緊張が走った。

「判った!今のうちに休めるやつは休んで・・・・・・」

「ちょっと待ってください!」

 土方の命令を鉄之助が止める。

「銃を冷やす水がこれじゃあ足りまへん!戦闘が始まったらいくら水場が近くても汲みにいけまへんし。それにこの天気・・・・・・弾薬が濡れへんようにせぇへんと」

 鉄之助のその言葉に土方は空を見上げた。確かに今にも雨が振りそうなほどどんよりと重く雲が立ち込めているし、頬を撫でる風も湿気を帯びている。だが、弾薬を守るような建物を作っている時間も無いし、胸壁作りで疲れ果てた兵士を少しでも長く休ませたい。土方は少し考えた後、ぶっきらぼうに言い放つ。

「んなもん、てめぇの上着でも掛けときゃいいだろう。どうせ湿気る前に撃ちまくっちまうんだから」

「はぁ?何ですか、それ!。幾ら何てもひどすぎ・・・・・・」

「そんな暇があったらこいつらを休ませた方がいい。弾薬を撃つ人間が疲れでやられちまったら湿気るも何もあったもんじゃねぇ」

 土方のその言葉に、鉄之助は不満げな表情を浮かべつつも黙る。確かに今は胸壁作りで疲れ切った兵士を休ませることが先決だ。土方の命令は守衛新選組を通じて各部隊へと伝わってゆく。そしてその命を受けた兵士達は仕事が終わると順次休息に入っていった。



 翌日十三日昼過ぎ、斥候の報告どおり官軍部隊が天狗山に到着、そのまま台場山本陣に対して攻撃が開始された。

「弾切れなんざ気にするな!撃って撃って撃ちまくれ!!」

 ガラの悪い土方の命令と共に台場山からも銃撃音が鳴り響く。数では劣る幕府軍だが、予め作っておいた胸壁が官軍からの銃撃を防いでくれるので守りは完璧に近い。更に狭い道のため官軍はあまり数的有利を活かし切ることができずにいる。次々と兵を入れ替え銃撃を繰り返すが、攻撃力そのものは二小隊ずつ交代で銃撃を行っている幕府軍と同等だ。

「何をしている!敵は少数なんだぞ!」

 指揮官の駒井政五郎が檄を飛ばすが、銃撃戦は膠着状態だ。双方ただひたすら銃撃を続ける中、日が暮れ始め、空からぽつり、ぽつりと雨が降ってきた。

「雨だ!そろそろ弾薬に上着を掛けておけ!湿気った雷管は懐にでも入れて乾かせよ!」

 そんな土方の命令を待つこともなく兵士らは自発的に上着を予備の弾薬に掛け、戦闘を続ける。

「何時頃に終わりますかね!」

 沖田はエンピール銃の引き金から手を離し、声を張り上げて土方に尋ねた。辺りに鳴り響く銃撃音と、その音から耳を守るための詰め物で声が聞きにくいため、ついつい大声になってしまう。勿論それは土方も同じだ。冬を超え、すっかり色白になってしまった顔を真っ赤に染めつつ、怒鳴り声で言い返す。

「俺が知ったことか!死にたくなけりゃあっちが引くまで撃ち続けるしかねぇだろ!つべこべ言ってる暇があったら撃ちやがれ!でねぇとてめぇの嫁が蝦夷を脱出する前に敵に追いつかれるぞ!」

 冗談とも本気ともつかない土方の脅しに、沖田はブルリ、と身震いすると熱を帯びてきた銃に新たな銃弾を詰める。まだ銃身を水で冷やすほどではないが、戦いが深夜に及んだらその必要が出てくるかもしれない。

「ある意味、雨が降ってくれていることで多少は銃身が冷えているんでしょうかね」

 沖田は耳の詰め物を直した後、改めて銃の引き金に指をかけ、銃撃を再開した。



 幕府軍、官軍双方による銃撃戦は結局一晩中続いた。ここまで幕府軍が粘るとは予想していなかった官軍は銃弾をすべて撃ち尽くしたため稲倉石まで撤退、疲労困憊のまま改めての進軍に備えることとなった。
 一方幕府軍も三万五千発の銃弾を消費、残っているものは殆ど無かった。

「援軍要請と銃弾補給に行ってくる」

 土方は自ら馬にまたがり、鉄之助と共に五稜郭へと向かおうとする。

「何もわざわざ土方さん自ら行かなくても・・・・・・もしかして情報収集も?」

 沖田の不安げな問いかけに、土方は小さく頷いた。

「ああ、それもある。海側や大鳥隊がどんな状況なのか心配だ。もしかしたらここを撤退して他に援軍に向かわなきゃならねぇ可能性もある」

 確かにこの細い道での戦いにさえ援軍を要請しなければならない状況だ。他の戦地は更に援軍を欲しているかもしれない。そうなると使者を通じてより指揮者本人が出向いたほうが早く行動できる。

「承知。その間の指揮は」

「おめぇに任せる――――――とはいえ敵に鉄砲玉ぶち込むだけだがな」

 それだけ言い残すと、土方は瞬く間に沖田の前から去っていった。



 馬を走らせ、五稜郭に戻った土方を待ち受けていたのは各地の苦しい戦況だった。

「遊撃隊と陸軍隊、これでも一応は頑張ったんだぜ」

 偶然こちらも五稜郭に報告に上っていた伊庭八郎が唇を尖らせながらぼやく。

「両軍合わせて五百名、根武田付近で敵の斥候を蹴散らして、翌日には一気に茂草まで進したんだ。一時は奴らを江差まで退却させたのに、敵が木古内に回り込んでいるって情報が入って結局松前へ撤退さ」

 よっぽど『撤退』の二文字が嫌いらしい。まるで駄々っ子のように頬を膨らませる伊庭に土方が慰めの言葉をかける。

「仕方ねぇさ。別におめぇさんらが負けたわけじゃねぇんだからよ」

「そりゃあそうだけどよ。木古内隊の分が思っていたより悪くてよ」

 今まで子供のような表情を浮かべていた伊庭が不意に真剣な表情を見せた。

「俺達の他、大鳥さんが率いていた伝習隊、額兵隊、そして彰義隊が合流して小競り合いを繰り返している状況なんだが、あっちには背後に軍艦がついている。補給に関しては圧倒的にこちらが不利だし、艦砲射撃が有効な距離まで海側に近づいちまうと挟み撃ちにされる――――――厄介な戦いを強いられているよ」

「なるほど・・・・・・となると、こちらに援軍を寄越してもらうのは難しそうだな」

 土方は腕組みをして唸る。

「ああ、せいぜい二個小隊くらいかな」

 土方と伊庭の会話に入ってきた榎本が土方に告げた。

「その代わり小銃の銃弾はそちらに多く回す。それでなんとか頑張って欲しい」

「承知。あと大鳥さんにできるだけ頑張ってくれと伝えておいてくれよ」

 冗談めかしつつ土方は伊庭に告げると、早速銃弾と援軍手配のため動き始めた。




UP DATE 2017.6.24

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烏のがらくた箱~その三百七十九・Like a ”Virgin Queen” 

烏のがらくた箱

タイトルの元ネタは勿論マドンナのあの名曲です\(^o^)/

ようやく都議選の告示、されましたね~( ̄ー ̄)やはり注目するのは小池新党&小池支持政党がどこまで表を伸ばすか、そこにかかっているかと思われます。
そんな都議選でも話題の中心となっている小池知事ですが、そのやり方が『Virgin Queen』―――エリザベス一世によく似ているような気がしてなりません。
エリザベス一世は即位した際、両親に先立たれ政治的な後ろ盾がない中での出発だったらしいのですが、小池さんも議会は自民党郵政&小池さん自身は自民党を離党し少ない仲間と共に戦っている状況・・・まずそこがよく似ております。
そして一番の共通点が『中道路線』ですよ!良く言えばバランスの取れた政策、悪く言えばどっち付かずのやり方なのですが、実践力として使える味方が少ない場合、こうでもしないとやっていけないのもまた事実(-_-;)一歩間違えば双方から総スカンを食らうやり方なのですが(市場問題がこうなりつつある・・・)、ここまでのギャンブルをしないと『東京都』というモンスターを動かすことは出来ないのでしょう。
ただ、今回の選挙を通じて議会に小池勢力が増せば、そのやり方も変わってくるかもしれません。弱小君主からのし上がり、スペインの無敵艦隊を撃破、大英帝国の礎を作ったエリザベス一世のように、自民党を飛び出した一匹狼が『自民党』という無敵艦隊を撃破するのか、はたまた返り討ちにあってしまうのか・・・隣県民は高みの見物をさせていただきます(๑•̀ㅂ•́)و✧
(選挙結果によっては国政に影響が出て来るでしょうが、その時はその時で(#^.^#)こちらも市長選があるのでそちらを真剣に選ばなければですw)

今週もご来訪&拍手、ランキングへのご協力ありがとうございますm(_ _)m
将棋の藤井四段の快進撃、すごいですよね~(@@)まるで漫画のストーリーのような勝ち方で、とうとう竜王戦の決勝トーナメントまで進んでしまいましたよ((o(´∀`)o))流石にここまで来ると強敵ばかりで、今までのようには行かないでしょうが、出来る限りのところまで勝ち進んで欲しいものです(≧∇≦)/




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烏のまかない処~其の三百十二・ローソンの炙り帆立貝ひも 

烏のまかない処


つい最近、お酒のおつまみを切らしてしまったため『取り敢えずこれでいいか』と何の気なしに購入した帆立の貝ひも、これが思った以上に『当たり』だったので紹介させていただきます(*´艸`*)
そもそも昔は『貝柱』ばかり売られていて、貝ひもなんて見かけなかったんですけどねぇ(-_-;)私も子供の頃は貝柱のみ、貝ひもを初めて食べたのは結婚後、旦那に連れて行ってもらったちょっと敷居の高いお寿司屋さんのコース料理の一品で頂いのが初めてでした。20年前はそれくらい貝ひもは珍しいものだったんです・・・。
それがホタテの高騰を受け、貝ひもも捨てずに使うようになったんでしょうねぇ(^_^;)どんなものなのかチャレンジとばかりに購入してみたら意外とふっくらしていて(もっと乾燥しているかと思った)旨味も凝縮、程よい噛みごたえでどんなお酒にも合うのです(*´艸`*)
因みにファミマにも同じような貝ひものおつまみがあったのですが、こちらはローソンのものよりも乾燥度合いが強く、辛めの味付けがしてありました。辛いのが得意で噛みごたえを求める場合はファミマの貝ひもがオススメなのですが、我々夫婦にはファミマの味付けはちょっと辛すぎた/(^o^)\どちらも帆立貝ひもの旨味はたっぷりなんですけど、好みは別れますね(^_^;)
しかし今は辛うじておつまみパックで販売できる貝ひもですが、これもそのうち高騰して庶民の口には入らなくなるのかなぁ(´・ω・`)せめて貝ひもくらいは気楽に食したいものです・・・。

次回更新は6/29、これからネタ探しです(^_^;)




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vague~岩亀楼の天女・其の貳 

港崎遊郭連続誘拐事件の章

 作間様はどちらの流派の剣術を嗜まれるのですか――――――その一言に、作間は呆気にとられ、何とも言い難い微妙な空気が二人の間に流れる。まるで天女の如き白萩の口から剣術云々の言葉が飛び出してくる意外さに、作間は思わず尋ねてしまった。

「な、何故そのように思われたのですか?」

 すると白萩は作間の左手をそっと取り、たおやかに微笑みながらそれに答える。

「こちらのお手にできております剣だこです。仕事柄、お武家様のお手は幾人か拝見したことがございますけど、ここまで分厚いものは初めて見ましたので。もしかしたら優れた剣術家の先生ではございませぬか?」

 まるで小鳥のように小首を傾げて尋ねる白萩に、作間は思わず吹き出してしまった。

「ははは、そこまで見ぬかれてしまうとは!一張羅を着てきたんですが、馬子にも衣装とはいかなかったようですね」

 頭を掻きながら作間は内心舌を巻く。白萩は手の剣だこのみを例に挙げたが、間違いなく佐久間の背中をさすっていた時、肩や背中の筋肉の付き方を確認していたはずだ。瞬時に客の素性を見極めるその目は見事という他無い。
 娼妓という職業柄、あまり好ましくない客も相手にしなければならない時もあるだろう。そんな危険を極力避けるために鍛えられた観察眼に違いない。思わぬ白萩の一面に、作間は興味をそそられた。

「実は四谷大木戸近くで小さな道場を開いております。なので『優れた』というのはお恥ずかしい限りなのですが、一応去年まで練兵館で師範代を務めておりました」

 嘘を言ってもきっと白萩には見抜かれてしまうだろう。そんな確信を持ってしまった作間は正直に経歴を明かす。すると今度は白萩が驚きに大きく目を見開いた。

「練兵館の師範代!あの江戸三大道場の練兵館ですよね?その師範代でいらっしゃったなんて!となりますと流派は神道無念流でございますか?」

 キラキラと瞳を輝かせながら剣術の話をする白萩は、まるで玩具に夢中になる子供のようだ。それにしてもやけに剣術に詳しすぎる――――――作間は怪訝に思って白萩に尋ねる。

「やけに・・・・・・剣術にお詳しいんですね」

「あ、す、すみません」

 作間の指摘に白萩は自分の失態に気が付き、赤面して俯いてしまった。

「あの、私・・・・・・実は八王子の出なんです」

 消え入りそうなほど小さな声で白萩は自分の出身地を告げる。それを聞いて作間は合点がいった。

「ああ、八王子千人同心の!確かにあそこに生まれたなら、嫌でも剣術の耳年増になりますよね」

 八王子千人同心は郷士身分の幕臣集団で、甲州口の警備と治安維持を任務としている。
そのような土地柄故か、江戸近隣でも特に剣術が盛んな場所だ。作間が四谷大木戸近くに道場を開いたのも、甲州街道沿いの剣術熱の高さを見込んだ為である。そんな土地出身の白萩ならば子供の頃から剣術の話を聞かされているだろう。案の定白萩は作間の言葉に深く頷き、剣術に詳しい理由を語り出した。

「ええ、そうなんです。亡くなった父が剣術好きだったもので」

 白萩は昔を懐かしむように遠い目をする。

「うちは女の子ばかり四人姉妹だったのですが、お転婆だった私に父はあれやこれや剣術のを話して無聊を慰めていたんです」

「なるほど。お父上も剣術家だったのですか?」

 作間の問いかけに、白萩は恥ずかしげに頬を染めた。

「作間様を前にして剣術家、なんてあまりにもおこがましいのですが・・・・・・田舎流派の天然理心流を少々嗜んでおりました」

「ああ、勇さんのところですね。塾頭の渡辺さんとよく行ったものですよ」

 今度は作間が懐かしそうな表情を浮かべた。文久元年まで練兵館の塾頭だった渡辺昇は天然理心流を継承している試衛館の道場主・近藤勇と親交があった。試衛館に道場破りが現れると押取り刀で駆けつけたほどだ。
 そんな時、作間も渡辺と共に助太刀に駆けつけたものである。現在、渡辺は尊皇攘夷に傾倒してしまってどこに居るかも定かでないが、作間にとってはやんちゃ盛りの懐かしい思い出である。

「しかし、あなたのお父上が勇さんとご縁があったとは。世の中というものは広いようで意外と狭いものですね」

 剣術という共通の話題を見つけた作間は、今までと打って変わって饒舌に語り出した。それは白萩も同様らしい。今まで接客用の澄ました表情だったものが、いつの間にか剣術好きの八王子の田舎娘の顔になっている。さらに話をしていくと、天然理心流絡みで共通の知人が数人いることも判明した。
 若い二人はこの場所が遊郭だということも忘れ、ただひとすら喋り、笑い続ける。それ故、禿の小萩が口直しの日本酒を持ってきた事も、若い者が豪勢な台の物を持ってきた事にも全く気が付かなかった。
 客と娼妓が情事に臨み始めれば禿は部屋を抜け出し、自由な時間を持てるのだが、作間と白萩は全くその様な気配を見せない。これでは自分が遊ぶ時間が無くなってしまう―――焦った小萩は二人の会話の隙を突いて口を挟んだ。

「花魁ぅ・・・・・・もう部屋を出てもいいですかぁ」

 退屈極まりないと言った口調で小萩が口を尖らせる。その瞬間、白萩は柳眉を顰めた。

「別に構わないけど、もう遅いから妓楼の中だけにしておきなさい」

 禿の躾の為だけとは思えない、白萩の強い口調に作間は微かな違和感を感じる。

「欲しいものがあるのなら若い者の進五郎さんにきちんと頼むのよ。ここ最近の拐かしの事はあなたも知っているでしょう?」

「でも、それだったら妓楼の中だって・・・・・・」

「小萩!」

 今までにない鋭い白萩の声に小萩は勿論、作間も思わず背筋を伸ばしてしまう。だが、それと同時に作間はある事に気が付いた。

(ん?妓楼の中、だって?)

 まさか妓楼内部でも拐かしがあったのだろうか。借金を抱えている娼妓や禿が多いだけに、妓楼内部の人間が外に出向く際、特に神経質になる筈である。それにも拘わらず拐かしがあったというのだろうか。作間は小萩が部屋の外に出て行ったのを確認してから、さり気なく白萩に尋ねた。

「最近横浜では拐かしが多いんですか?江戸にはそんな噂は届いていないんですが」

 すると白萩は暫し躊躇した後で重々しく口を開く。

「ええ・・・・・・近隣の村々で十七歳より年若の子が拐かされて」

 その整った顔に憂いが漂う。それさえも美しいと内心感嘆しつつ、作間はさらに突っ込んだ質問を投げかける。

「そうなんですか。でも、港崎も他所者が流れ込んできますから油断はできませんよね」

 すると白萩は顔を強ばらせ、黙りこくってしまった。

(しまった、警戒心を抱かせたか)

 作間は自分の拙速さを悔やんだが、白萩は作間に対して警戒感を抱いたわけでは無かった。

「あの・・・・・・今から話すことはここだけの話にして頂けますか?」

 黒目がちの瞳で訴える白萩に、作間は反射的に深く頷いていた。



 潮騒の音に混じり、外から大引けの拍子木の音が聞こえてくる。部屋の隅の行灯が柔らかく部屋を灯す中、白萩は声を潜めて作間に告げた。

「作間様が一流の剣術家だと見込んで話させていただきますが――――――実はここひと月で禿が二人、行方不明になっているんです」

 一人だけではなく二人も禿が行方不明になっているとは・・・・・・しかもその話は神奈川奉行所に届いてはいない。知らせが入っていれば作間に妓楼の中を調べて欲しい、などというまだるっこしい真似はしないだろう。

「行方知れずになっているのは、二人共岩亀楼の禿ですか?」

 作間は詰問口調にならぬよう、できるだけ穏やかな声音で白萩に尋ねる。

「いいえ」

 白萩は瞼を伏せて首を横に振った。

「一人はうちの禿ですが、もう一人は五十鈴楼の禿です。うちの楼主と五十鈴楼の楼主が懇意にしているので、知ることが出来たのですが」

 白萩は解りやすく説明しようと、言葉を選びながら訥々と語る。

「他の見世の事は存じ上げません。だけど他の見世が黙っているだけで、実際はもっと行方知れずの子がいるんじゃないかと」

 そこまで語ると白萩はぶるっ、と華奢な肩を震わせた。

「親の許に帰った、という訳では無いのですね?」

 妓楼が最初に調べるのはまず親許だろうと作間は思ったが、念のため聞いてみる。

「ええ、勿論です。むしろ親許に逃げ込んだのであれば良かったのですが」

 作間の問いかけに白萩の表情が更に曇ってゆく。

「特にうちから拐かされたのが、外国語の手習いをさせていた秘蔵っ子の引込禿だったんです。なので女将は心労で寝込んでしまって」

「何か手がかりは?」

「全く掴めていません。時間があればうちと五十鈴楼さんの若い者が手分けして探しているんですが見かけたという人も現れないんです。ちょっと考えたくは無いんですけど」

 白萩は更に声を潜める。

「もしかして内部の者が手引きしたか、お客様の誰かが連れて行ってしまったのかと。でなければ店の者が気づく筈です。」

「確かにそうですよね。普通ならあり得ない」

 目敏い人間が集まっている廓内部から、誰にも見つからず人ひとり消えているのだ。まるで神隠しの様な拐かしに作間もどう解決していいのか解らず、腕を組んで唸ってしまう。

「うちのようなお店で育った子は仕草や言葉ですぐに身元が判明します。でもどこを探しても見つからない・・・・・・だから外国に連れて行かれてしまったのではないかと皆で心配しているんです」

 白萩は伏せていた瞼を上げ、じっと作間の瞳を見つめた。その瞬間、作間の胸はどきり、と高鳴る。

(こんな時に不謹慎だが、見れば見るほど美しい娘だ)

 そんな作間の心の機微を知ってか知らずか、白萩は大きな目からぽろり、と大粒の涙を零した。

「何故、年端も行かない幼い子ばかり・・・・・・」

 その涙を見た瞬間、作間は思わず白萩の身体を強く抱きしめていた。

「作間・・・・・・様?」

 いきなり抱きしめられ、白萩は驚きの声を上げる。

「大丈夫。きっと皆、無事に見つかりますよ」

 得体の知れぬ存在に怯え、拐かされた幼い禿達の身を案じる白萩を慰める言葉が見つからない。そんな作間にできるのは、ただ白萩を抱きしめる事だけだった。その力強さ、暖かい優しさにほっとしたのか、白萩はただひたすら声を押し殺して泣き続ける。

(ずっと――――――感情を押し殺して我慢していたんだろうな)

 白萩が欲しくないと云えば嘘になる。だが、自分を信頼して腕の中で泣いている白萩に己の欲望を吐き出す気にはなれない。
 ならば白萩の気が済むまでとことん泣かせてやろう――――――白々と夜が明けてゆく中、作間は自らの痩せ我慢を自覚しつつ、白萩の背中を撫で続けていた。




UP DATE 2017.06.21

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烏のおぼえ書き~其の二百一四・昭和初期のブローカー~取りあえず紹介編 

烏のおぼえ書き

ブローカー、いわゆる仲介業ですね。現代にももちろんある、というか現代のほうがむしろ種類が多いんじゃないかと思われるこの職業ですが、昭和初期にはこの時代ならではのブローカーも存在しました。今回はそれらを含めた羅列、そして次回からはめぼしいブローカーを一つ一つ紹介してゆきたいと思います(*^_^*)
まずは不動産ブローカー。ブローカーの中でも最も古いものらしいですね。更にこちらに関しては今和次郎先生が千三つ屋から進化したとひどい物言いを(^_^;)因みに千三つ屋=1000の中に3つしか真実を言わない人、虚言家という意味らしいです/(^o^)\
その他に当時幅を利かせていたのが電話ブローカー、ビル・ブローカー、為替ブローカーとのこと。電話にも仲介者が?と驚いてしまうのですが、昔は電話そのものが貴重でしたからねぇ・・・その辺は後日詳細を(#^.^#)
更にこの時代でも『昔の語り草』と言われていたのが船&船腹(スペ―ス)ブローカー、昭和2年の金融恐慌時に盛んだった整理ブローカー、政党・政治家の間を泳ぐ政治ブローカーなる職業もあったとか。

これらの職業に共通するのは身軽さ&口達者ということでしょうか。電話、ビルのブローカーはちゃんとした店構えが必要だったそうなのですが、他は身体一つ、舌と足だけあれば仕事ができたとか(^_^;)それ故土地ブローカーが整理業務や金融、果ては結婚のブローカーまでやったという事例もあるそうですwww
ただ、この時代には既に有力な信託会社が不動産仲介を始めつつあったとのこと。どんなに優秀な不動産ブローカーでも企業の力に対抗するのはなかなか難しかったようで(´・ω・`)昭和3年のデータですが、廃業116名に対し新規はたった13人だったとか・・・どのブローカーも専門知識がないと出来ないもの、たった一人で戦うよりは企業形態で戦うほうが有利ですからね。そう考えるといかがわしいブローカーという商売も、ちょっとかわいそうに思えてきてしまうのが不思議なとこです(^_^;)




【創作関連】
今回は総論みたいな感じなので『ネタ』を書くのもちょっと難しいものがあるのですが、書くとしたら『何でも屋ブローカー』ですかねぇ(●´ω`●)土地から金融、果ては政治家までガンガン仲介してしまう優秀な若手ブローカーでありながら、何故か自分の結婚だけは仲介できない、恋愛オクテ君とか(^_^;)
でもここまでの能力がある設定だと、出身校は自ずと東大とかになりそうだし、恋愛ベタはありかな・・・不景気だったら東大でも就職できない、ってこともありえそう(゜レ゜)
ただ、これを書くとなると自分自身が昭和初期の政治や土地取引、金融の勉強を死ぬほどやらなきゃならなくなりそうなのでガッツリスルーさせていただきますwwwどれか一つでも大変ですからねぇ(^_^;)でも複数のジャンルに渡って仕事をこなす天才、一度は主人公として書いてみたいなぁ(ノ´∀`*)



【参考・引用文献】
新板 大東京案内 下(今和次郎 編纂 ちくま学芸文庫)


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拍手お返事&Twitterのアイコン、何かビミョ~に使いづらい(-_-;) 

拍手お返事&おまけ

先日、ツイッターのアイコンがいきなりリニューアルしましたよね(゚∀゚)全体的に線画&丸っこくなり、プロフ画像に至っては完全な円形/(^o^)\私は幸い被害を受けておりませんが、四角アイコンに合わせていた方々はかなりの被害を受けていたようで・・・運営はこういった被害が起こるって考えていたんでしょうか(-_-;)
あと、いい加減もとに戻してもらいたいと思っている『♥』マーク・・・以前の☆マークだったら『共感しているよ~☆』といった感じで愚痴ツイにも付けやすかったんですが、♥はなんか違う・・・(私はやっていないのですが)フェイスブックなどでも『悲しい、辛い』の記事に『いいね!』は押しづらいですものね。そういった記事への『心だけは寄り添っているよ』的なボタン、欲しいのですが・・・この時代、難しいんですかねぇ(´・ω・`)それとも『共感』とかそういった感情は日本人独自のものなのか・・・そうは思えないんですけど(-_-;)
どのSNSでも良いので、共感ボタン、ぜひとも作っていただきたいです(๑•̀ㅂ•́)و✧

拍手コメントありがとうございますm(_ _)mお返事以下に書かせていただきますね~(^.^)/~~~

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鉄ヲタ夫と歴女妻の鉄道オタク旅~質実剛健、旧本間邸1 

鉄ヲタ夫と歴女妻の鉄道オタク旅

舞娘の踊りを堪能した私達は相馬樓を後にし、次の見学場所である旧本間邸へと自転車を走らせた。踊りを見ていた分時間的余裕が無くなってしまったのだが、帰り道の途中にある施設なので何とか帰りの電車までには間に合うだろうと、必死に自転車を漕ぎ続ける。

「あそこみたいだけど、何かあんまり商家っぽくないね」

ようやく見え始めたそれらしい建物を見つけた私は、旦那に語りかける。その建物はまるで武家屋敷のような重厚な作りで、商家らしい華やかさ、人当たりの良さはあまり感じられないものだった。
この建物は本間家三代目・光丘が幕府巡見使一行の宿として明和5年に作り、庄内藩主の酒井家に献上したものである。通りから見える重厚な表側は武士の宿として使われた場所であり、書院造の建築様式だとの事だ。通りで表側からは重厚さだけしか感じられないはずである。
しかし本間家の人々が生活していた、奥まった部分は商家造りになっていて、武家屋敷部分と一つになっているという、国内でも珍しい様式の建築物らしい。武家屋敷の部分と商家造りの部分では使用している木の材質や壁の仕上げ、欄間や梁の塗りなどが全く異なっているのだ。
一例を挙げるならば武家屋敷の縁側は滑って転ぶことが無いよう板が横張りにされているのに対し、商家造りは掃除をする際に楽なように縦張りにされている。また武家屋敷側は訪問客が飽きないよう様々な障子を使用したり襖の配置を工夫したりと細やかな気配りが見られる。
しかし細かな部分の違いはあれど、武家造の部分でも商家造りの部分でも根底に流れていたのは『地に足がついた落ち着き』である。大商人ならではの華やかさは現在美術館にもなっている別邸に任せているらしい。普段暮らしていた本邸はあまりにも質素だ。
その中でも屋敷北西にある部屋はその質素さが際立ったものだった。武家造り、商家造りのどの部屋の中で最も小さく日当たりの悪い3畳ほどの部屋―――その部屋の説明書きを読んだ瞬間、私と旦那の目は丸くなり、思わずその部屋を2度見してしまった。



(6/12~6/18 twitterにて掲載)

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夏虫~新選組異聞~ 第十一章第二十一話 二股口の戦い・其の壹 

夏虫・第十一章

 ようやく白み始めた空の下、蒸気船の汽笛が鳴り響く。官軍旗艦・甲鉄を中心とした七隻からなる艦隊が江差沖を航行、うち二隻の兵輸送船が乙部まで進むと、そこで官軍陸軍兵千五百名が上陸したのである。
 勿論幕府軍も手をこまねいていた訳ではない。江差で官軍艦隊に気がついた幕府軍は陸を阻止すべく一聯隊百五十名を乙部に派遣したが、彼らが乙部に到着した時には既に官軍は上陸を果たしていた。それだけではなく官軍先鋒の松前兵によって撃退されてしまったのである。
 それだけではない。陸兵が乙部で小競り合いを続けている間に『春日』を中心とする官軍艦隊五隻が江差砲撃を開始したのである。勿論江差の砲台も反撃を試みたが砲弾の飛距離が違いすぎた。江差の砲台からの砲撃は敵艦隊には届かず、江差奉行・松岡四郎次郎ら幕府軍は松前方面への後退を余儀なくされた。

「江差の次は函館だ!」

 江差上陸を果たした官軍陸軍参謀・黒田清隆が気炎を上げる。乙部に上陸した千五百名に加え江差に上陸した官軍兵二千八百名、更に四月十六日にも増援部隊が江差へ上陸したのを機に、函館攻略計画を発表したのだ。

「まずは海岸沿いに松前に向かう松前口、次に山越えで木古内に向かう木古内口、更に乙部から鶉・中山峠を抜け大野に向かう二股口と同じく乙部から内浦湾に面する落部に向かう安野呂口、四方面からの函館攻略だ!この攻撃で幕府軍の息の根を止めるぞ!」

 黒田の激に兵士達が雄叫びを上げる。上陸の勢いそのままに、函館上陸最終決戦の幕が切って落とされた。



『官軍が乙部及び江差に上陸。それにより幕府軍は松前まで撤退』

 その一報が各地を守備していた幕府軍にもたらされたのは、官軍上陸の翌日、四月十日の事だった。

「既に松前で守備に当たっていた遊撃隊と陸軍隊が江差奪還に向けて出陣していると思うけど・・・・・・」

 緊急会議の場で大鳥の表情が曇る。

「双方合わせて兵の数は五百足らず。血の気が多い部隊とは言え、敵兵は千五百近いとの報告もある――――――三倍近い敵を相手には圧倒的不利だ」

「しかし、それだけ敵兵が多けりゃ全部を江差~松前に投入するとも思えないが」

 土方の発言に海軍奉行の荒井も同意する。

「可能性があるとすれば木古内方面からの攻撃かな。山越えはかなりきつそうだが」

「あと、乙部から鶉・中山峠を抜ける二股口があるね。そちらも守らないと」

 副総裁の松平太郎が意見を述べる。

「三方面か――――――兵を割かれるのは苦しいものがあるが、道が狭まっているところに兵を配置すれば多少の勝機はあるか」

 参加者の発言を全て聞いた後、議長でもある榎本が重々しく口を開く。

「松前方面は伊庭くんと春日くん、松岡くんに任せよう。海岸沿いは艦隊からの援護射撃も考えられる。撤退するにも身軽な方がいいし、他の方面の守備を考えるとこれ以上兵を投入することは出来ない」

 榎本の考えを受け、陸軍奉行である大鳥が頷き、具体的な提言をする。

「じゃあ僕は木古内を。あわよくば松前軍と敵を挟み撃ちにできるかもしれないしね。ということで土方くんは二股口を頼まれてくれないか?」

「承知」

 土方もそのつもりだったのだろう。何の質問もすること無く大鳥の提言を受け入れた。

「兵は好きなだけ連れて行っていいよ。こちらは松前と合流するだろうから、それほど多くなくても・・・・・・」

「衝鋒隊と伝習隊の三百名――――――それだけ預けてもらえば充分だ。二股口は他の道に比べて細い。むしろあまり多いと身動きが取れねぇ」

「敢えて新選組を連れて行かない理由は?」

 何故か愉快そうに目を細めつつ、大鳥が土方に尋ねる。

「山中の遊撃戦となると鉄砲隊が必要だ。残念ながら新選組は鉄砲が苦手ときている。更に云わせてもらえば新選組は市街戦なら無敵だが、山中遊撃戦では間違いなく後手に回るだろう」

「なるほどね。ならば新選組は函館の守備に残しておこうか。万が一僕らが全滅しても、函館だけは守れるように」

「そうしてもらえるとありがてぇ」

「じゃあ決まりだな。即座に準備をして夕方には出陣できるようにしてくれ」

 会議の終了を榎本が告げ、そこで会議は解散となった。



 会議が終わった直後、土方は鉄之助を小夜を自らの部屋に呼び出した。それを相馬から聞いた沖田は急いで五稜郭へ向かう。

(鉄之助くんと小夜を呼び出すなんて――――――一体何があったんでしょうか?)

 そして五稜郭の土方の部屋の前に到着すると、丁度二人が部屋から出てくる所であった。その姿に沖田は驚きに目を丸くする。

「どうしたんですか、小夜?泣きはらして・・・・・・」

 沖田の声を聞いて小夜は驚いたように顔を上げる、そして人目もはばからず沖田にしがみつき泣きじゃくり始めたのである。その一方、鉄之助は今まで見たことのないような怒りの表情である。

「て、鉄くん?一体何が・・・・・・」

「最終決戦が近いから、女子供は函館から出て行け言われました!元服したのに子供扱いやなんてふざけてると思いまへんか?これでもず~~~~~っと新選組隊士として戦ってきた自負はありますし、鉄砲の腕は隊内一やと思っております!」

「・・・・・・函館も、危険やから逃げろと・・・・・・土方センセに言われました・・・・・・総司はんとも、二度と会えへんかもしれないと・・・・・・」

 小夜が沖田に訴えたまさにその時、土方は部屋から出てきた。

「総司、お前からも説得してくれ。鉄に関しては諦めたが、お小夜は女だ。捕まったら男以上に悲惨なことになる。近々仙台藩を脱藩した兵士らが外国船に乗って来ることになっているから、その船に乗って函館から脱出してもらいたい。多分それが最後の機会だ」

 そして土方は胸ポケットから何やら包みを取り出し、沖田に手渡した。

「お小夜が函館を脱出する際に持たせてくれ。逃走資金と――――――俺のポトガラヒーだ。これをお琴に届けて欲しい」

「――――――承知」

「総司はん?」

「お小夜、ここでは何ですからちょっと別室に行きましょう」

 そう言って沖田は小夜の肩を抱きかかえたまま土方と鉄之助の前から立ちさった。



 沖田は小夜を連れて別室へ入ると、小夜を座らせ向き合った。

「小夜――――――ここまで付いてきてくれて本当にありがとう。だけど、幕府軍は多分この戦いで敵に降参することになるでしょう」

 その言葉に小夜の目から新たな涙が零れ落ちる。

「敵に捕まり、私が新選組の沖田総司だと敵に知られれば間違いなく斬首でしょう。もしかしたらその前に戦死するかもしれませんが――――――だからこそ小夜には生き続けて欲しいのです。敵に汚されること無く」

 その言葉に小夜ははっ、と我に返った表情を浮かべる。

「ここに残っていたら、土方さんの言うとおり女性は悲惨な目に遭うでしょう。ましてや私の妻と知られれば――――――だからこそ小夜にはここから逃げて生き残って欲しいのです。佳世のこともありますし・・・・・・」

「総司はん・・・・・・」

「もし逃げおおせることが出来たら、ほとぼりが覚めるまで横浜か神戸辺りで身を潜めていていてください。外国人居留地ならば官軍もそう安々と手を出すことは出来ないでしょうし、多少の仏蘭西語がわかるあなたなら生活にもそれほど困らないでしょう。それに・・・・・・」

 ほんの少しだけ言い淀んでから、沖田は意を決したように口を開く。

「万が・・・・・・万が一、私が函館から逃げおおせることが出来たら、狭い外国人居留地の方が小夜を見つけ出しやすいですからね」

「ほな、約束してください。嘘でもええから・・・・・・必ずうちを探し出してくれると」

「それだったら・・・・・・たとえ幽霊になっても絶対に小夜を探し出しますよ」

 沖田は小夜に微笑みかけ、そっと抱きしめる。その腕の名家で小夜は肩を震わせ、いつまでも泣き続けた。



 四月十四日、仙台藩を脱藩した二関源治率いる見国隊四百名が英吉利船で鷲ノ木近くの砂原に到着した。その部隊と入れ替わるように小夜と重傷者数名は仏蘭西人軍事顧問の口利きで英吉利船に乗船することが許された。

「取り敢えず横浜までは無事辿り着ける筈です」

 小夜と重傷者を鷲の木まで送り届けた仏蘭西人顧問の一人、ブッフィエがわざわざ出陣先の二股にやってきて土方と沖田に告げる。

「マダムは幕府軍の医者であり、幹部の妻だと告げたら船長室に次ぐ一等船室に案内されました。内側から鍵もかけられますし、英吉利にもプライドがあるでしょうから問題ないでしょう」

 勿論それだけの支払いもしているのだろうが、『医師で幹部の妻』であればそれなりの対応をしなければ国の恥にもなろう。

「これで、小夜は・・・・・・助かりますよね」

 二度と会えなくなる可能性が極めて高いが、少なくとも愛しい人は生き延びてくれる――――――その事実に沖田は安堵し、更に力が漲るような感覚を覚えた。




UP DATE 2017.6.17

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烏のがらくた箱~その三百七十八・町村総会こそ特区を利用するべきだと思う(๑•̀ㅂ•́)و✧ 

烏のがらくた箱

数日前、高知県大川村で議会に代わって有権者が直接、議案を審議する「町村総会」を設置するかどうか検討を始めるというニュースが取り上げられていましたよね。私が住んでいるマンションの戸数よりも少ない(1/3以下)の400世帯の村、しかも議会の高齢化も進んでいるとなると致し方がないのでしょう(´・ω・`)
しかし総会をするにも人数が揃わないといけないとか色々厄介な条件があるようで・・・ちらっとNHKのサイトを覗かせてもらった所、『総務省によりますと、通常の議会と同じく町村総会も半数以上の有権者が参加しなければ会が成立しないと考えられるということで、参加する有権者を確保するための仕組みや、総会の運営の方法など細かい制度設計が必要になります』とのこと(-_-;)
400世帯の半分、単純計算で200人の人間を集めるだけでもかなり大変ですよね。しかもそれだけの人間を集めて会議なり何なりができる施設も用意しなければならないし・・・ぱっと浮かぶだけでも問題は山積みです(>_<)
それこそ特区制度をこういう場所に使って、柔軟な自治会運営をするべきじゃないでしょうか。会議の日数を可能な限り削ぎ落とす(日本人は何故か会議が好きだからなぁ)、時間帯を会社勤めが終わった6~7時からにする、総会では株主総会みたいに出席できなくても議決行使権を使って参加するとか・・・。
このような自治体は決して少なくありませんし、今回のこの事例がテストケースとなって全国に広がっていくと思うんですよね~。それこそ県や国も手助けをしつつ、地域の人が無理なく自治体運営をしていくにはどうしたらいいのか、真剣に考える時期に来ているんじゃないかと思います。っていうか首都圏でも(島嶼地域とか山奥の集落とか)他人事じゃないぞ、これ(-_-;)

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これもちょっと前の話になりますが某部活の体罰映像、若い方にはかなりショッキングだったようで『あれは体罰、絶対に許せん!』という意見が多く見受けられましたね。その一方昭和の体育会系を経験してきたオッサンオバハン(自分を含む)は『顔面はアカンけど平手だしな~。自分もやられてたわw』という意見がチラホラと(^_^;)
なお私が中学生・高校生の時分では『平手は体罰に入らず。拳骨から体罰』という認定でした。先生激おこだとバスケットボールやパイプ椅子、果ては机が飛んできましたしね~wwwあと平手はやられる方よりやる方が結構痛い(打たれた生徒はけろりとしていたけど、先生は後で手を冷やしていたという目撃情報多数)
勿論体罰は絶対にいけませんが、今回に関してはこの前後の状況が判らないとちょっとな~と思うところがあるのですよ(-_-;)特に接触プレーが多いスポーツの部活動はちょっとの油断で自分が大怪我を負ったり加害者になることも少なくありません。私が部活をしていたときも脳震盪で記憶が一部無くなったりとか怪我で一ヶ月通院とか・・・。聞いた話だと受け身が取れず、半身不随になったり寝たきりになる場合もあるとのこと((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル
あくまでも私個人の意見ですが(私に子供が居ないというのもあるかもですが)よその子に大怪我を負わせてしまう前に平手の一発で防げたなら・・・とちょっと思ってしまったり(^_^;)一番良いのはコーチが口頭注意をした際キチンと言うことを聞くのが一番なんですけどね~。なかなか中学生、高校生じゃ難しいかもです(^_^;)




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烏のまかない処~其の三百十一・雪見だいふく愛媛みかん味 

烏のまかない処


『雪見だいふく』は冬のアイス―――そんなイメージを払拭する、夏の雪見だいふくが登場しました(≧∇≦)
冬場はこってりミルク味アイスの部分がさっぱりヨーグルト味に変わり、中央部分に酸味が強い愛媛みかんソースが入っているというだけで暑い時期にも食べやすい雪見だいふくがっっっ!!!
冬場だけの楽しみというのも良いものですが、美味しいものは季節を問わずに食べたくなるもの(๑´ڡ`๑)特に夏場にしか出さない限定味というのもそそられるじゃないですか((o(´∀`)o))
今回はみかんでしたが、他の味のものも食べてみたいなぁ・・・例えばマンゴーとかぶどうとか(もしかしたら過去に作っているかもしれませんが^^;)
『カール』のように定番商品でさえいつ無くなるかわからない熾烈なお菓子業界、BBAとしてはどんなアレンジを駆使してもいいので雪見だいふくには生き残って貰いたいものですo(*'▽'*)/☆゚’

次回更新は6/22、只今ネタを探し中です(^_^;)
(近所のたいやき屋さんで『チョコミントたい焼き』なるものが販売されていたのですが、チョコミントの清涼感とたい焼き生地のホッコリ感が見事に喧嘩してネタに出来なかった/(^o^)\温かいたい焼きじゃなく、冷やしたい焼きであの味だったら夏場は良いかもしれない。または最中生地+チョコミントあんにするとか・・・チョコミントあん自体は美味しかったです。ただ温かいたい焼きの生地との相性はイマイチだった←こんなのとの戦いです、毎週www)




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乾小路烏魅

Author:乾小路烏魅
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角川twitter小説大賞優秀賞受賞

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